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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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北極星に背を向けて

俺達が住んでいた南十字男子修道院はその名の通り町の南に位置している。
だから、北極星に背を向ければ修道院に帰れると言っていた。

神父は子供の俺と雪男に、迷子になったときの帰り道を教えてくれた。

道に迷ったら空を見ろ。空が帰り道を教えてくれるから。

俺が帰る場所は、家族のいる場所だった。

でも、空を見上げても北極星は見えない。
俺は帰る道を見失ってしまった。





剣を深々と刺した。牛の形をした悪魔は、額から血飛沫を撒き散らしながら動かなくなった。
疲れた。剣についた血を振り払って、今しがた殺したばかりの悪魔の死体に寄りかかる。ここは虚無界と呼ばれる世界だ。
物質界と合わせ鏡のように位置する世界は、町もみんな物質界に似通っていた。俺が今根城にしているところも、住んでいた南十字修道院とそっくりだった。違うのは、いるのが人か、悪魔かの違い。
でも、植物とか空の色とかの自然物はどれも不気味な色合いをしているから、やっぱり悪魔の世界なんだと実感する。

正十字学園に通っていたことも、なんだか遠い昔のことのように思える。

突然のことだった。
悪魔の総攻撃が始まり、学園が襲われた。
祓魔師の数が少ない日本支部にとっては、対処しきれないほどの攻撃だった。
塾のクラスメイトも必死で戦ったが、称号を取り立ての祓魔師に
できることは少ない。怪我をして次々に倒れていく仲間。
きっとあれは俺に思い知らせるために行なわれたのだろう。
お前はここにいるべきではない。
悪魔側からの圧力を感じていた。それでも学園側に残る俺に、地の王アマイモンから
こう告げられた。

「君が虚無界にくるなら、攻撃をやめてもいいと父上はいっていましたよ」

雪男が悪魔に魔障を受けて、倒れた時のことだった。
その申し出もタイミングが良すぎたので、きっと俺のことを全て知った上で仕掛けてきたのだろう。




病室、目の前の白いベットの上。雪男が熱に浮かされている。
肩口を悪魔の爪で抉られているのだ。当然だろう。
「ダメな兄貴でごめんな雪男」
俺のちっぽけな手一つじゃ、皆を守ることもできなかった。
しえみも、今他の祓魔師の傷の手当に追われている。
勝呂も、前線に近い場所で戦っている。
志摩は足を怪我して、別の病院に入ってる。
子猫丸は後方で勝呂を補佐している。
神木も、悪魔を召還して戦っている。
シュラなんかはもろに前線で負傷して、今連絡が取れないらしい。
雪男も倒れた今、俺がやることはひとつしかないだろう。
青い月に照らされて、雪男がまるで冷たくなってしまったかのように感じた。
神父が死んだ時のようだ。
燐は、唇を噛み締める。そんなのは嫌だ。絶対に死なせてたまるか。
寝ている雪男の額に手をのせた。
汗をかいている。
遠い昔、雪男がまだ体が弱かった頃、よくこうしていた。
死ぬなよ。
お前まで死んじまったら、俺はきっと帰る場所を失くしてしまうから。

「じゃあな」



言いたいことがいっぱいあったけど、言ったら行けなくなるから言わないでおく。
名残惜しいが、お別れだ。
お前らは日の当たるところで生きてくれ。
俺は日陰からお前らのことを想うよ。





「覚悟は決まったようですね」
アマイモンが、学園の門の前で待っていた。
そのなんとも思ってなさそうな無表情がむかつく。
「仕向けたのはお前らだろ」
「決めたのは君でしょう」
そっけなく言って、俺の腕を取って歩き出した。
俺はそれを振り払って言い放つ。
「ちょっと待て、学園から悪魔を退けるのが先だ」
「えー、ダイジョウブダイジョウブ」
「信用できねぇんだよお前らの言うことは」
「まぁ悪魔なんて99パーセント嘘で出来てますからね」
「最後の1パーセントはなんだ」
「悪意ですけど何か」
「いいからやれよ。じゃねーといかないからな」
「うーん、でもあいつ等も殺気だってますから簡単に言うこと聞かないんですよ」



「じゃあ、あいつらまとめて俺が虚無界で相手するから来いって言え」



アマイモンは目を開いて燐のほうを見た。
そして、面白いといった表情をする。
「そういうの僕嫌いじゃないからいいですよ」
「だから絶対学園には手を出すな」
「はいはい、じゃあ行きましょうか」
アマイモンはまた燐の手を取って歩き出した。
最期に、後ろを振り返った。
青い月に照らされて学園が遠く見えた。
空には星が瞬いている。学園の後ろの空に北極星が見えた。
これが、俺が見た物質界の最後の風景。





悪魔が集まる気配がした。
少し寝てしまっていたらしい。悪魔の死体に寄りかかるのを止め、剣を抜いた。青い焔が甦る。虚無界に来て、焔は一層強くなった。
おそらく、サタンの狙いはこれだろう。俺に焔を使わせるためにここに連れてきたのだ。
サタンの最終的な狙いは今はわからない。だが、このままで終わるつもりはなかった。

アマイモンは、虚無界から物質界に来ていた。
おそらくこちらから物質界に帰る手段があるはずだ。

そのため、虚無界にきて真っ先にしたのはアマイモンから逃げ出すことだった。あいつもそれをわかっていたらしく、特に引き止めることはしなかった。俺を追う代わりに、学園にいた悪魔をこちらに差し向けている。
悪魔が来る内は学園は安全だろう。悪魔の相手をするのは大変だが、
このよりどころのない世界で唯一、物質界と繋がっていると感じる瞬間だった。

今のままじゃ、サタンにも、アマイモンにも勝てないだろう。
だから俺は悪魔を殺して、機会を伺う。
少なくともアマイモンに勝てるようになれば、物質界に帰る手段を吐かせることができるかもしれない。
剣の柄を握って、集まってきた悪魔を見据える。
こいつらを俺が殺せば、またきっとみんなに会えるよな。

悪魔の死体を蹴って、燐は走り出した。





神父は子供の俺と雪男に、迷子になったときの帰り道を教えてくれた。

道に迷ったら空を見ろ。空が帰り道を教えてくれるから。

俺が帰る場所は、帰りたい場所は、みんながいる所だった。





虚無界の空は、真っ暗で、雲は紫色をしている。
何度も空を見上げたけれど


北極星はまだ見えない。

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悪魔で魔法使い

夜、雪男に黙って寮の部屋を抜け出す。
最近悩み事があるとやる、癖みたいなものだった。
夜の街、ネオンが遠く見える。風も冷たく心地よい。
空を見上げれば星が見えたが、街の灯りが邪魔して二つくらいしか見えなかった。
それでも星は、遠く瞬いている。綺麗だった。風がまた吹いた。
前髪が風に巻き上げられて邪魔だ。髪をかき上げると、ふわふわしたものが腕にあたった。
肩にはクロが乗っており、夜風を楽しんでいる。

(りん、おいていくなんてひどいぞ)
「悪い、寝てたから起こしちゃ悪いと思ったんだ」
(きょうはあそぶのか)
「いや、今日はいいや」

クロを抱いて、膝の上に乗せた。下を見れば地面が随分遠くに見える。
星空と地面の中間地点にいるみたいだ。
落ちたら死ぬな、と他人事のように思った。下から風が巻き上げられてくる。
少しだけ肌寒かったから、クロをぎゅっと抱きしめた。

「お前なら平気なのになぁ」
(なにが?)
「なんでもねーよ」

人に触ることが怖くなった原因もわかってる。
志摩と雪男と接触してわかった。
力加減ができるようになったとはいえ、やっぱりまだ怖いという感情が抜けてない。
このままじゃダメなこともわかってるが、どうすればいいんだろう。

「練習っつっても・・・なんか複雑だ」



ハグの練習とかなんだ。外国の挨拶をするわけでもあるまいし。
そもそも相手は誰だ。勝呂か。ダメだ。あいつ怖いし。
子猫丸。身長足りないし、丈夫そうじゃないからダメ。
しえみは・・・無理。すごくしてみたいけど俺男だし。


じゃあ志摩?アイツにはバレてしまっているからやりやすそうだけど、からかわれそう。
じゃあ雪男?全部知ってるから、協力はしてくれそうだ。でも、あんまりあいつに頼りたくない。
今でも頼ってるから、これ以上頼るのも兄としてどうだろう。



燐はうーんと頭を悩ませる。
考えたって、俺の頭じゃ答えがでない。
クロの頭に顔を埋めた。耳の後ろの産毛に頬ずりする。
産毛だからか、背中の毛並みと違った柔らかさが気持ちいい。
しかし、耳の後ろというデリケートな部分なだけにクロが嫌がる所でもあ
った。

(やー、りん)
「悪い悪い」

顔を離して謝った。クロはぴょんと燐の膝から飛び降りて化けた。
クロは大きく変化するとそこらの動物園にいるライオンよりも大きい。
近くで見ると迫力ある。
クロは燐の顔に鼻を押し付けて強請った。

(なやんだときはあそんだらいいんだぞ)
「・・・はは、それもそうか」

遊んで欲しいという要求を燐は受け入れる。
先ほど嫌がることもしてしまったし。
ぐいぐい押し付けてくる、クロの鼻が唇にあたって冷たかった。
その感触を感じてふと思う。



志摩とキスしたんだな、そういえば。
あの時はなにがなんだかわからなかったけど。
キスは平気だ。口だけしか触れ合わないから、力加減なんて必要ないから。



燐は持ってきた木刀を構える。クロは遊んでもらえる喜びが全身から湧き出ていた。
クロはわかりやすい。遊びたいから遊ぶ。食べたいから食べる。悲しいから泣く。
寝たいから寝る。
人間は考え事が多くて面倒だ。
厳密に言えば人間ではないけど。


そこで気づく。



あれ、俺このままだと付き合った相手とセックスもできないんじゃなかろうか。

腕の行方と誰かの背中

「なあー奥村君」
「ん?」
塾が終わった後の廊下で、志摩に呼ばれて振り向いた。
その後の展開に体が硬直した。動けなかった。





燐が寮に着くと、雪男はすでに帰宅していた。
いつもの祓魔師の制服ではなく、普段着だ。
最近見ていなかったので珍しい。
「おかえり兄さん・・・どうしたの?」
「なんでもない」
燐は荷物を置くと、机に突っ伏した。
珍しい。ベットに直行しないなんて。
兄の不調を感じ取り、突っ伏した顔を上げさせておでこを露出させる。
そこに手を置いて、体温を測った。
「うーん熱はないみたいだけど」
「なんでもねーよ」
「兄さんのなんでもないは信用できない」
「・・・信用ねぇな」
「嫌なら話してよ。何かあったの?」
「なんでもねーよ」
「もしかして志摩君絡み?」
燐の座る椅子が動いた。図星か。昔からわかりやすい。
「・・・お前見たのか」
「見たってなにを?志摩君が兄さんを抱きしめたところなんて見てないよ」
「見てんじゃねーか!」
「え、ちょっと待ってよ。まさか本当に・・・」
雪男の顔がみるみる青くなっていった。
燐は思う。しまった。俺はなんて馬鹿なことを。
雪男がカマをかける男だと知っていたはずなのに。
寮の部屋から出ていこうとする雪男を燐は手を掴んで止めた。
どこへ行こうとしていたかは聞かないでおく。
とにかく、雪男をここに留めておかないとすごくまずい。

「手離してよ兄さん」
「いやだ」
「じゃあ話してよ」

交換条件か。昔からこういった交渉が上手い奴だった。
雪男の表情から察するに、逃れることはできないだろう。
燐は観念して話し出した。


「なあー奥村君」
「ん?」
塾が終わった後の廊下で、志摩に呼ばれて振り向いた。
目の前に志摩の体が迫ってきて。
ぎゅっと抱きしめられた。

「ちょ、待て待て待て!!」

いきなりなんだ。
燐は身体に抱きつく志摩を引き離そうと背中に手を回した。
だが、何かに気づいたのか。燐の身体は硬直してそのまま動かない。
志摩はそのまま燐を抱きしめている。
燐の鼓動が速くなる。胸の辺りから志摩の鼓動も聞こえてくる。
早く終われ。早く終われ。
燐は願った。

「さよならのハグとかしてみたんやけど」

志摩の体が離れた。燐はあからさまにほっとした息を吐く。

「なんか奥村君って抱かれるの嫌いなん?」
「・・・その言い方はやめろ」
「訂正。奥村君って抱きしめられるの苦手なんやな」
「ほっとけ」
「否定はせんのやね。また一つ奥村君のことわかった気がしたから、今日はこれでさいなら」

志摩はさっさと扉の向こうに消えていった。
冗談だったらしいが、こっちはたまったもんじゃない。
ちくしょう、また遊ばれた。
でも、それ以上に。





「志摩君に怪我させなくてよかった・・・って思ったわけか」
雪男は納得した。燐は納得がいかない顔をしている。

なんでいつもこいつにはわかるんだろう。
俺は雪男の事、わからないことが多いのに。

燐は机に突っ伏したまま。不平を述べる。

「なんでわかるんだよ」
「そりゃ生まれた時からの付き合いだしね」

雪男の言ったとおり。志摩に怪我をさせないでよかったと思った。
幼稚園児の頃に神父を殴って肋骨を骨折させたことがある。
成長した今では力加減ができるようになったが、それでも時々怖い。
怪我をさせないだろうか。人間は壊れやすいから。

俺は人間じゃないから、加減しないと壊してしまいそうで怖い。
だから、俺は人を抱きしめることができない。
抱きしめられた時に硬直するのは、相手を傷つけないためだ。


歯痒い。


拳を握り締める。手の平に血が滲んできた。
自分が傷つくのはいいけど、人を傷つけたくない。
神父を傷つけた時に自分に誓ったことだった。

雪男が傍に来たことが、気配でわかった。
傷ついた手の平に、雪男の手が重なる。
途端、強い力で腕を引っ張り上げられる。


雪男に、抱きしめられた。
「雪男・・・!」
燐の体が硬直する。
雪男が答えた。

「兄さん、僕は壊れないよ」

雪男は強い力で燐を抱きしめた。
逃げようとする燐の身体を強い力で引き止める。
離さない。

「兄さんより背が高いし。兄さんより体格いいし、兄さんより筋肉あるよ」
「嫌味かてめぇ!」
「だからさ、怖がらないでよ。大丈夫だよ」
「・・・」
「大丈夫だよ、兄さん」

だらりと下げられていた燐の腕が、雪男の背中を辿った。
でも、抱き返すことはなかった。

(まだ、時間がかかるのかな・・・)

身体的接触を怖がるようになった理由も何もかも雪男は知っている。
乗り越えるのは燐自身だ。だから、それまで雪男は待つつもりでいた。


(でも、志摩君のこと・・・本気で考えたほうがいいかもしれないな)




抱きしめられていた燐は気がつかなかった。
雪男の顔が見たことが無いほど冷たい顔をしていたことに。

そしてなにより

「そうやなーお馬鹿なところとか意外とかわええと思うわ。お馬鹿かと思いきや、悪魔との戦闘になると頭切れるやんな。この間屍倒した時はヒヤヒヤしたけど、すごいと思うで。
でもな、これは奥村先生も思っとることやと思うけど、無謀すぎやしません?一人で戦いに行くのはあんまりいいこととは思えんよ。怪我しても、仲間がおらんと助けれんやろ。
そこだけは心に留めといてな。坊だって、ラリアットかましたのはひとえに奥村君の心配をしてたからやで。
ちゃんとそこわかっとる?うん、わかっとるんならええわ。よしよし、ええこやね。あ、そういう素直な所とかええと思う。なに、そんな照れんでええやん。可愛いポイント。略してKP追加やなー。
あ、ごめんてからかってないよ。拗ねんといて奥村君。
そうそうコレ忘れとったわ。黒髪に青い瞳の珍しい組み合わせも高感度アップ。

そして何より顔がいい」






「と、志摩に言われたんだが俺どう答えるのがよかったと思う?」

燐がげっそりとした顔で勝呂に問いかけた。
授業でクラスメイト同士、他己分析をしてみようということになった。
祓魔師に必要なのはチームワークだ。お互いのことを知るために、また自分の知らない一面を知るために行なわれている分析の授業だった。
「竜騎士に向いているか」「騎士を目指す理由は」「悪魔に対してどう対処するか」
など、将来のことを見据えて目指す職と自分との間に違和感がないかなどを調べる意味もある。
燐はしえみとやろうとも思ったが、面と向かって「相手の印象や良いところ、直す所」を言うなんて耐えられない。
これでも思春期の男の子。デリケートにできている。
そこで、京都組と混ざって分析をすることになったのだが。


志摩のは分析というより、口説きに近い。


「・・・なんていうか、すまん奥村」
「いや、お前が謝ることじゃないけどさ」
「志摩さんに聞いたのは間違いでしたね奥村君。僕とやります?」
「頼むわ子猫丸」
「えー、奥村君俺の分析は?俺の印象は?」
「エロ魔人、このひと言に限るな」
「ひどい!」

他己分析は難しい。燐の頭にはそうインプットされたのだった。

むっつりとオープンスケベ

「あかんわぁ真面目すぎるで皆」

志摩がぽつりと呟いた。
合宿で朴が悪魔に襲われてから、警戒のためにグループでの行動を心がけていた矢先のことだ。
男子は勝呂達が寝室に使っている部屋に集まっていた。
雪男は神木としえみのお風呂へ護衛として同行しており、ここにはいない。部屋には二段ベットが配置されており、勝呂と志摩、子猫丸と燐が隣り合って下のベットに座って雪男の帰りを待っていた。

「真面目すぎるってどういうことや志摩」

勝呂が志摩に言う。志摩はため息をついて三人を見渡した。

「だって、折角の合宿やのにお決まりのラブイベントがひとつもないんですよ。そりゃあ寂しくもなりますし、ため息だってでますよ」
「志摩さんまだそないなこというてはるんですか?」

合宿にかこつけて女子の風呂を覗こうとしたりと志摩は自分の男としての欲に忠実だ。
エロ魔人のふたつ名は伊達ではない。

「でも坊達こそおかしいんですと僕は言いたい。だって花の15歳なのに
何故そこまで枯れているのかと、何故そこまでストイックなのかと」
「ちょっと待て、俺は枯れてなんかねーぞ!」
「おい奥村、それは俺が枯れてるといいたいんか?オイ」
志摩は食いついてきたな、と人の悪い顔をして二人に応えた。
「じゃあ坊と奥村君ってどこまで経験ある?」
燐が盛大に噴出し、勝呂は志摩の頭を張っ倒す。
「ストレートすぎるやろ!アホか!」
「ええやないですか、クラスメイト同士の親交を深めようとしただけですよ」
頭を叩かれても悪びれる様子ひとつなく、志摩は燐にどうなん?どうなん?とつついていく。
「志摩さん、いくらなんでもそれは・・・」
子猫丸の制止を志摩が手をかざして止める。
思わず引いてしまうぐらいの熱の篭った視線だった。

「そこ!そこがあかんのや!男が四人も揃って猥談もひとつもせんのは男としての義務を放棄しているのと同じですわ!合宿で恒例の女子風呂の覗きが許されへんのなら、せめて猥談くらいはしましょうよ!」
「お前・・・溜まってるんか・・・?」

勝呂は完全にドン引きしている。熱くなっていく志摩に撃沈していた燐が追撃を開始する。
やられたらやりかえせという教えは藤本神父からの直伝だ。

「俺のことはともかくだ!け、けけ経験とかお前はどうなんだよ!?」
「あ?俺?答えてええの?あれは小学校1年のときやったなぁ・・・
担任の美人の新任教師24歳と家庭科準備室でな」
「は!?小1!?」
「志摩さん止めてあげてください!志摩さんの話はなれない人にはディープすぎますから!」

子猫丸が燐の耳を塞いだところで、じゃあと志摩が会話を方向転換させた。

「奥村君って人生のうちエロビどんだけみたことある?」
真剣な眼差しに思わず口が滑った。
「さ、3本・・・だけど」

ああ、3本なんだ。と勝呂と子猫丸は聞き入ってしまう。他人のあれそれのゴシップはやはりどうしても聞きたくなる、蜜の味である。

「洋モノ?和モノ?どうやって見たん?いうてみ」

警察の取調べのごとく志摩の追及が続く。尋問中の犯人、取調べ中の被告人、いや、さながら罪人の懺悔の告白
のように燐は声を絞り出して答えていった。

「和モノ・・・親父の部屋にあったのを、いない隙を狙ってこっそりと・・・」

顔を両手で覆い隠して、燐の体は震えていた。顔が真っ赤になっているあたり罪悪感より羞恥心のほうが強そうだ。

「うん、王道やな。大丈夫やで奥村君、君の罪は男全員が犯す人生の軽犯罪やな」

燐の肩を抱いて引き寄せ、頭を撫でた。うん、やっぱこの子おもろいわぁ。
格好のおもちゃを見つけた志摩はいじりをやめない。

丁度そこで、部屋のドアが開いたことに燐と志摩は気づかなかった。
勝呂と子猫丸が会話に参加しなくなったことから、二人は察するべきだった。

「和モノってことは着物かぁ。ええ趣味してるわ。女優さんはどんなん?」
「可愛い系で、きょ・・・巨乳」
「ほほう、で?内容は?」
「緊縛でした」
「無理矢理?」
「違う、同意の上でだった」
「モザイクあった?」
「いや、カメラの角度?とかで見れなくしてたし、なかったぞ」
「じゃあよかったなー、俺なんかモザイクなしの洋モノを好奇心で見た結果、ご飯食べられへんかったことあるから」
「え!?外国のってそんなにハードなのか!?」
「えらいことなっとったわぁ。今やったらドンと来いやけど」
「お前どんたけだよ!」




「兄さんもどんだけだよ」

肩を寄せ合う二人の背後に、冷気を纏った雪男が居た。
勝呂と子猫丸は扉の横の方に避難しており、ベットに座って熱く語り合っていた二人とは対象的だ。
勝呂がにやりとした笑みを二人に向け、言った。


ご愁傷さま

「「裏切り者!!!」」
燐と志摩は叫んだが、雪男の持っていたファイルで頭を叩かれる。
「猥談するにも限度があるでしょう!慎みぐらい持ちなさい!!」
「ヒドイわぁ奥村先生!男の生理を否定せんといて下さい」
「そうだ!そうだ!むっつりのくせに!俺知ってんだぞ!雪男のカバンの・・・」
言い終わる前、片手で口を塞がれ仰向けにベットへ押し付けられた。一瞬の早業だった。
押さえ込まれた燐はなおも雪男の手をはずそうとするが、抵抗する燐の口を塞ぐことしか考えていないせいか
雪男の手が腰のホルスターにのびる。志摩が顔を青ざめて止めに入る。

「せ、先生それはやりすぎや!俺らが悪かった!奥村君許したって!!」
「麻酔弾なんで害はないです」
「そ、そないにバレたくないんですか・・・!?先生のカバンには何がはいっとるんですか!」
「むー!むー!ふぐーーー!!」
「先生あきません!奥村君が窒息してまいます!」

遅れて部屋に入ってきたしえみ達の前には、ベットの上で余計なことを言わないようにと落とされた燐と震える志摩の姿
があった。
「雪ちゃん、なにかあったの?」
「しえみさんたちは知らなくてもいいんですよ」
優しく微笑みながら何事もなかったように片付けようとする雪男に、勝呂は薄ら寒さを感じた。
そして、勝呂は見ていた。
雪男の視線はお風呂から上がったしえみのほんのり赤くなった胸の谷間をチラ見していたことを。


勝呂は悟った。雪男の方はむっつりスケベだ。

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