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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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弟についていけません

「セックスと暴力って似ていますねあにうえ」
メフィストは弟の言葉を聞いて硬直した。この弟から発せられるには
あまりに生々しい言葉だった。おにいちゃんはショックだ。
「まぁ、確かに肉欲を求めている点は似ているな」
「でしょう、ということは僕は先日奥村燐を強姦したようなものなのでしょうか」
「ご…」
メフィストはうな垂れた。最近、弟のいうことについていけない。
年だろうか。

「先ほどのことを踏まえれば、そうともいえるかもしれないな。
しかし、いきなりどうしたんだ?」
「奥村燐をボコボコにしたくてしょうがないのです。でもあにうえに言われたので
我慢しています。そのせいか、ボコボコにしたい衝動が抑えられません。
先日ニュースで、性犯罪者は我慢がきかないやつだという報道をみました。
僕は性犯罪者なのでしょうか」
「いや、お前はどちらかというと暴力主義者なだけだろう」
「はい、僕は暴力大好きです」
「お前は奥村燐とセックスしたのか?」

「いいえ、まだしていません」

まだ、という単語には非常に引っかかるが、突っ込んだらややこしくなりそうなので無視する。
「なら、お前は抑えきれない暴力性を奥村燐にぶつけたいだけだろう。暴力主義者であって性犯罪者というわけではない」
「なるほど、あにうえは頭がよいですね」
アマイモンは納得したようだ
「暴力とセックスは似ているようで違う。では、暴力を振るった後、強姦することにします。
あれ?目的は暴力なのか強姦なのかわからなくなりました。それでも僕は暴力主義者なんですかね?」
「だからなんでそうなる!!」
やっぱりこの弟にはついていけそうもなかった。

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3Dカスタム少年

人間、腹がすこうとも守らなければならない一線というものがある。
腹が減ったからと言って万引きしたり、人のものを取るのはいけないことだ。
腹が減ったからと言って、決して相手に遜ってはいけない。
武士は喰わねど高楊枝。と、いう人もいる。
しかし、腹が減っては戦はできないのである。

教室内は静まり返っていた。
教室には、勝呂達と燐しかいない。女性陣がまだ来ていないことが救いかもしれない。
異常事態だ。しかし、当の本人は顔面を硬直させて至って普通ですという顔をしている。
一番最初に声をかけたヤツは勇者だ。誰か突っ込んでくれ。
教室の空気を読んだのか、勝呂が勇気ある一歩を踏み出した。
「奥村ァ!!!」
「なんだ」
「そのふざけた格好はどうした!?今はハロウィンちゃうねんぞ!」
燐の姿は、いつもの学生服ではない。
頭には大きな白いリボン、股下すぐで切れたハーフパンツ。上は黄色と黒の線が入ったセーラー服。
頭にはヘッドフォン。
(ヴォー●ロイド、しかもあれって双子の…)
インターネットが趣味の子猫丸は教室内で唯一、燐の異様なコスプレの元ネタを知っていた。
知る人ぞ知る。というかチョイスがマニアック。ある意味女装ともいえる。
「俺は至って普通です。制服じゃないだけです」
「学校来るんなら制服着ろや!」
「制服の代わりに着てるんです」
「奥村先生の方はこのことしっとるんか!?卒倒するぞ!!」
「お、俺だって、好きでこんな格好してるわけじゃねぇ!!!!」
燐が椅子から立ち上がると、ぐうーと言う腹の音が教室に響いた。
それにつられるように、燐はその場にへたり込んでしまう。
「どうしたんですか鏡●り…おっと、奥村君!」
「子猫さんあれなんのコスプレかしっとるんですか?」
「奥村、大丈夫か?」
勝呂達が駆け寄ると、燐は腹を抑えていた。
「腹、減った…でも、これで飯が食えるんなら俺は耐える」
「奥村、なにがあったんや」
勝呂達もただ事ではないと察したらしい。
志摩は自分の昼飯用に持ってきたコンビニおにぎりを燐に渡す。
「コレ食べ、そんなんじゃ話もできへんやろ?」
「うう、すまん、助かる…」
燐はおにぎりを受け取るとものすごい勢いで齧りついた。
頬袋の食料を溜めるハムスターのようだ。
おにぎりを食べて落ち着いた燐は、自分がこうなった経緯を話し始めた。

 

「ではコレ着て塾に行ってください」
メフィストは燐の目の前にヴォー●ロイド、鏡●リンの衣装を投げた。
ハーフパンツは股下すぐで切れていて、太腿丸見えだ。
しかも、このセーラー服、どう考えても腹がチラリとしてしまう。
なんだこの服。
「着れるか馬鹿!!!」
「おや、ハーフパンツの丈が気に入りませんでした?
確かにコレ男の子が着た場合、普通のトランクスじゃ見えちゃいますしねぇ」
「ちょ、ちょっと待てよ!これ女用なのか?」
「そうとも言う」
「アホかお前!!!」
燐は顔を真っ青にして訴えた。こんな格好をして塾に行けと?しかも女装?
しえみに見られたら、教室の窓から飛び降りるくらいの自信はある。
「じゃ、今月のお小遣いはなしということで☆」
「嘘だろ!証券乱用だぞそれ」
「それをいうなら職権乱用ですね」
「俺のこと玩具かなにかと思ってんだろ!」
「よくわかってるじゃないですか」
と、やり取りしたのが一昨日のこと。毎月ギリギリの生活を送っているため当然貯蓄などない。
メフィストと口論した夜から、ご飯が食べられなくなった。
雪男に頼ろうと思ったのに、丁度その夜から任務でいないというメモが机に残された。
メフィストの策略はぬかりない。
燐は頼る相手もなく、水を飲んで飢えをしのいだ。
だが、15歳の食べ盛りがそんな状況に耐えられるはずはない。
空腹は思考能力を奪っていく。糖が脳に廻らなければ判断能力も低下する。

空腹のまま朝を迎えた燐の頭にはコスプレをするか、飢えるかの選択肢しかなかった。

「コスプレしたら、お小遣い一万円にしてあげますよ☆」

このひと言で、燐は身を売ることに決めた。


「笑うがいいさ、俺は一杯の飯欲しさに悪魔に自分の身体を売ったんだ…」
目じりに涙を浮かべる燐、勝呂達は何もいえなかった。
心底燐に同情していたからだ。

(理事長、変人やと思っとったけど、外道でもあったんやな)

「奥村、まずは奥村先生に電話せぇ。話はそれからや」
「ご飯、今日くらいおごったるよ奥村君」
「奥村君、服着替えて食堂いきましょ」
クラスメイトの優しさが身にしみた。
燐は勝呂に手を引いてもらい、立った。持つべきものは人間が出来たクラスメイトだ。

「ありがとう、お前ら!」

その時、教室のドアが開いた。
しえみと、神木が教室の入り口にいる、燐を凝視していた。
神木は、燐の姿を見て言った。

「キモッ」

燐はその日、泣きながら教室の窓から飛び降りた。
女性陣の引いた視線が忘れられない。燐はメフィストに一生消えないトラウマを植えつけられた。


因みにメフィストはことの次第を知った雪男に粛清されたという。

目が覚めれば消えるけど

疲れた。本当に疲れた。
雪男はかつてない疲労を感じていた。祓魔師としての任務を始め出すと、休日出勤は当たり前。
明け方に出て、深夜に帰宅するのもざらだ。
雪男はまだ中学生なので、任務でびっちりというスケジュールではない。
どちらかというと補佐の意味合いが強いのだ。
しかし、そこはなり手の少ない職業なだけあって、ハードだ。
事務手続き、備品管理という建前はあるが、実際には悪魔のおとり役、排除までこなさなければならない。

今日も、大型の悪魔のおとり役をして、森を走り回っていた。
森で動くのにはコツが入る。蔦や雑草、唐突に現れる穴や、獣道だって足を取られる天然の罠だ。
慣れない筋肉を使ったせいで足が痛い。しかも、泥まみれだ。
「おかえり雪男首尾はどうだった?」
「…まぁまぁ、といっておくよ神父さん」
修道院に着いたのは夜中の12時を過ぎてからだった。これからまだ事務作業が残っている。
そういえば、中学の実力テストも近かったような気がする。
雪男はスケジュール帳を確認した。
明日、正確には今日の夕方までの事務作業と、英語の予習、出席番号順でいくと先生に当てられるからコレは優先的に。
あとは1週間後に控えた実力テストの範囲の確認と、今日使った弾薬の補充。明後日辺りに祓魔屋にいかなければならない。

「あー、今日4時間くらい寝ればどうにかなるかな」
雪男は眉間に皺を寄せた。そうしているととても中学生には思えない。
終業直前に残業を言い渡されたサラリーマンみたいだ。
「おい雪男、今日は風呂入って寝ろ。俺が事務作業くらいやってやる。オーバーワークなんだよ」
「でも、これも修行のうちだし」
「休むのも修行のうちだ。テスト近いんだろ?俺がやってやるからお前はさっさと風呂入ってこい。
たまには父さんに甘えろ、息子よ」
正直、父のその申し出はありがたかった。
本当は眠くてしょうがない。今日だけ、お言葉に甘えさせてもらおう。
「ありがとう神父さん」
「ゆっくり休め」

風呂場に向かうために廊下を歩いていると、兄の部屋の扉が開いていた。
暗い。寝ているのだろうか。でも、人気はなかった。
(兄さん、また朝まで帰ってこないのかな)
兄が朝帰りをするようになったのも、最近では珍しくなくなった。
きっとまた不良にからまれて喧嘩でもしてるのだろう。
でも、そのおかげで自分の祓魔師としての仕事を怪しまれなくてすんでいる。

兄が帰ってこないほうが秘密はバレない。
おかしな話だ。兄を守るためと訓練を受け始めたのに、今の自分は怪我をして帰ってくる兄の手当てしかできない。
兄を守れてなんかいない。
しかも、兄がいないことに安心している自分がいる。
嘘がばれないことに安堵している自分がいる。
雪男は脱衣所で服を脱ぐと、洗面所の鏡を見た。顔にも泥がついている。

「汚い…」

僕は兄さんに嘘をついている。
顔についた泥を手で拭った。それは頬を伝って一つの線を描く。
見ると、泥の涙を流したようで滑稽だった。

風呂から上がると、眠気はピークに達していた。
今すぐ布団に入らなければ廊下で寝てもおかしくない。
父の部屋を見れば、明かりがついていた。きっと代わりに作業をやってくれているのだろう。
今日は本当に助かった。
ふらつく足元で部屋にたどり着くと、ふわりと安心する香りがした。

(あー、なんか気持ちいい)

雪男はそのまま布団に倒れこんだ。
枕に顔を埋めて深呼吸する。安心する匂いだ。
自分が兄についている嘘も、すべてを忘れて眠れそうな気がした。
それでも、呟く。

「ごめんね…に、い…さん」

雪男は眠りに落ちる前、久しぶりに兄の顔を見た気がした。


「別に謝んなくてもいいのによ、律儀なヤツだな」
燐は雪男の寝姿を見て、一人呟いた。
喧嘩から帰ってきて父に見つからないようにこっそり部屋の窓から入ってきた。
すると、今にも寝そうな雪男が燐の部屋に現れた。
きっと夜遅くまで勉強していたのだろう。雪男は真面目で勉強家だから。

兄の自分とは違って。

燐が止める間もなく、雪男は燐の布団に倒れ、寝入ってしまう。
雪男は寝る前、謝っていた。きっと自分の部屋までたどり着けなくてここに来たのだろう。
そんな弟を追い出すほど、自分は冷酷ではない。
「俺こそごめんな、ダメな兄貴で」
雪男と自分は違う。雪男は優秀だし、成績だって学校でもトップクラスだ。
不良に悪魔と罵られる自分とは違う。

「謝るのは俺のほうだ」

迷惑をかけていると思う。父にも弟にも。そんな自分が歯痒い。
面と向かってはいえないから、寝ている雪男にしか伝えない言葉。
燐は、掛け布団を雪男にかけてやると

「最近、一緒にいる時間がなかったから言っていなかったな」

ひと言「お休み」と呟いた。

雪男はその日夢を見た。
兄と自分が一緒に朝ごはんを食べる夢。

幸せな匂いが詰まった夢。

何の変哲もない幸せがそこにはあった。
 

クロと大人の絵本

「コレはいったいなんの本ですか」
クロの目がすごく真面目だった。いつものひらがなセリフではない。
漢字を使って喋っている。
「クロ…?酒でも飲みすぎたのか?」
燐は不安になってクロに話しかけた。
ここは寮の部屋だ。朝起きたら何故かクロが絶対零度の瞳で燐を見つめて、問い詰めてきた。
クロはいったいどうしたのだろう。酒の飲みすぎでアル中を超えた向こうの世界にいってしまったのだろうか。
布団の上に正座する燐、対峙するクロ。間には本。
「コレはいったいなんの本なのですか」
「コレは、本です」
燐も何故か敬語になった。
「コレはなんの本なのか聞いているのです」
「コレは…」
「コレは?」
燐は本の表紙を見て言った。
「コレはエロ本です」
「エロ本なのですね?」
「はい、エロ本です」
「では、この表紙に書かれたタイトルを答えなさい」
有無を言わせない圧力に、燐は涙声になりながら言った。
「巨乳小悪魔系美少女ヌレヌレ特集、18禁なんて目じゃないぜ!!です」
「あなたの年齢は何歳ですか」
「じゅうごさいです」
「はっきりと言ってください。何歳で、高校何年生なのですか?」
「15歳、高校一年です」
「ではなぜ表紙に18禁とかいてあるのでしょう」
「18歳以上が読む本だからです…」
うわっ、と燐は布団に顔を押し付けて泣き出した。
ペットに自分の読んでいるエロ本について断罪されるなんて。
これなら雪男に見つかった方がましだった。いや、それも嫌だけど。
「なぜ女の子がヌレヌレになっているのですか」
「俺の、趣味だからです」
「その嗜好にあう本を購入した訳ですね」
「はいそうです」

「では、なぜこの中にあなたのクラスメイトと似たアイドルのヌレヌレ写真があるのですか」

燐は思った。いっそ殺してくれ。
中を見たのか。表紙だけでなく、中まで。
やめてくれ、これ以上俺の心を壊さないでくれ。

「このアイドルはまるで杜山し…」
「やめてくれええええええええええええええ!!!!」

起き上がると、目の前には驚いた表情の雪男の姿があった。
「夢…?」
燐は大量の汗をかいて、息も絶え絶えに呟いた。
夢か、よかった。布団を剥ぐと、燐の腹の上で寝こけるクロがいた。
道理で寝苦しいわけだ。だから悪夢を見たわけか。
「どうしたの兄さん?」
「いや、夢見が悪かっただけだ」
ここが現実でよかった。本当によかった。
燐は安堵の息をはいた。

「ところで兄さん一つ聞きたいことがあるんだけど」

雪男は手に持っていた雑誌をゆっくりと燐に見せた。
ああ、嘘だろう、そんな。
目の前には燐がベットの下に隠していた本が。
表紙にはヌレヌレの女の子の姿が。
18禁の紅い文字が。

悪夢は始まったばかりだ。

クレイジーアップルの宴3

塾が終わり寮に戻ると、雪男が薬を調合しているところだった。
ごりごりごりとすり鉢で何かを擦っているが、その様子が鬼気迫る様子だったので、なんとなく声がかけずらい。
「おかえり」
「お、おう。ただいま」
後ろを向いたままボソッと言われたので、危うく聞き逃すところだった。
そのまま荷物を床に置いて、ベットの上に座る。お互い無言だ。
髪が青くなった日から弟の反応がにぶいというか、ギスギスしている。
部屋に帰っても以前のようにくつろげない。
「あ、あのさ、この前俺が悪魔に捕まった時、助けてくれたのって雪男だろ?」
「まぁね、銃で打ち抜いたんだ」
「助かったよ、ありがとな」
「別に…仕事だし、当然だよ」
「……」
「……」
気まずい。
「ちょっと勝呂達の部屋行ってくる」
「待って兄さん」
雪男はすり鉢の中身を薄緑色の液体の入った瓶に入れる。
どうやらミストスプレーみたいだ。
それをいきなり燐の頭に吹きかけた。
「くっさ!!何コレ青汁みてぇ!!」
目に入った!とのた打ち回れば、雪男は冷たく「失敗か」と呟いてまた席に着いた。
薬学書を開いてそこにバツ印を付け加えている。
同時に開かれた悪魔辞典には、任務の時に戦った悪魔「クレイジーアップル」が記されていた。

強いて言うならあなた達が兄弟で双子だから

メフィストのやつ、教えてくれてもいいだろう。
こんな風になったのはすべて髪が青く染まってからだ。
だが、この魔障を受けたのだって不可抗力だ。
自分は悪くないはずなのになんでこんな目にあうのだろう。


「お前、最近変だぞ…」
目頭を押さえながら、雪男に訴えた。
雪男は変だ。深夜遅くにたたき起こされて、変な薬を飲まされたり。
風呂場にいきなり乱入してきて思いっきり頭を洗われたり。
「変なのは兄さんのほうだ」
それにそっけない。
「お前さ、何焦ってるんだよ」
それは燐の感じた正直な気持ちだった。
この一週間、雪男は何かに焦っている。
「だって…」
椅子に座ったまま、雪男はうな垂れた。


「兄さんが、兄さんじゃなくなったみたいで…」


その声は不安そのもの。
そうか、と燐は気づいた。急に他人行儀みたいになったのは。
「青い髪になったとき、兄弟じゃないみたいだって言われたからか?」
二人は性格は似ても似つかないが、外見は兄弟なのでそっくりだ。
顔が似ていないといわれたことは記憶にない。

だが、最近になって二人の間に決定的な溝ができた。
燐の悪魔としての覚醒だ。
人間と悪魔。兄弟なのに違う。双子なのに違う。家族なのに違う。
ずっと雪男は兄との違いを感じていた。

そんな中、唯一の共通点である黒髪に青い瞳という外見まで突然変わってしまった。
兄弟なのに違う。双子なのに違う。家族なのに違う。
目まぐるしく変わっていく燐の姿。変わらない自分。
だからこそ、雪男は必死に燐を元に戻す方法を探していた。

雪男はこれ以上燐と自分の間に差異を作りたくなかったのだ。

燐は雪男の頭をぽんっと撫でた。
「俺は変わってねーよ雪男、大丈夫だ」
大丈夫といって頭をなでる。小さな頃から続く燐の慰め方だ。
触れる手は暖かい。
俯いていた顔を上げれば青い髪と青い瞳。
いつもと違う、でもいつもと同じ兄の姿がそこにはあった。
「ごめんね兄さん」
視線が交差する。
自然な動作だった。謝罪と親愛が篭もった触れ合うだけのくちづけ。

その瞬間、ボフンという音と共に燐の髪が元の黒髪に戻った。
「おお!?」
「戻った!」
見て、と雪男は燐に鏡を見せる。
「よ、よかったー、これでもう食堂でにらまれなくて済む!!」
燐は嬉しそうにはしゃいだ。雪男は突然のことに驚いてずれた眼鏡を直して、考えた。

(もしかして、さっきのが魔障の治癒方法だったのか?)

悪魔の名は「クレイジーアップル」
狂った林檎。
おとぎ話で白雪姫が食べたとされる林檎だ。
白雪姫の呪いを解く方法は、物語にも記されている。

魔障を受けた時、燐は眠っていた。
本来なら、クレイジーアップルの魔障を受けた者は白雪姫のように深い眠りにつく。
しかし魔神の落胤である燐は魔障の類を受け付けにくいという性質があったため、眠りにつく
ことはなかったのだ。だが強力な魔障をすべて弾くことはできなかった。
魔障を受けているのに、完全に魔障に侵されない。
そんな変わった状態を現したのが、青い髪だった。

ヒントはあったのだ。

「なるほど、厄介な体質だね兄さん」
「何納得してんだよ」
「ううん、でも元に戻ってよかった」
目の前には自分と同じ。以前と同じ、黒髪に青い瞳の兄の姿がいた。
「やっぱりこっちのが安心するな」
「あ、でもこの魔障の解き方って皆には言いにくいね」
「……恥ずかしくなってきた」

顔を紅くする燐を見て、雪男は自分の日常が戻ってきたことを感じた。
悪魔辞典の「クレイジーアップル」の項目を開く。
口頭では言いにくいし、「クレイジーアップル」の魔障の解き方はメモだけで十分だろう。

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