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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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注意書き&青の祓魔師ss

ここはkonbuが運営する青の祓魔師のssネタ倉庫です。
出版社、作者様とは一切関係ありません。
腐向けやCPといったものが苦手な方は注意してください。
基本スタンスは燐中心のss。
CPで言うならば燐受け傾向。

※なお、最新、更新した記事はトップに表示されるようになっております※



●更新履歴●
4月27日 中編部屋に「亡国のプリズム11」更新
5月11日 中編部屋に「亡国のプリズム12」更新
5月25日 短編部屋に「今晩で百二十一回目です」更新
      亡国のプリズムを長編部屋に移動。
5月31日 短編部屋に「奥村燐の経験回数を答えてください」更新
8月23日 8/24インテ参加、オフライン更新
8月26日 インテ新刊書店通販開始しました。
8月31日 短編部屋に「奥村燐、ものになる」更新
9月7日 中編部屋に「トイレの神様」更新
9月10日 中編部屋に「トイレの神様2」更新
※指定が入る為、支部のみの公開となります。ご了承ください。
9月29日 中編部屋に「トイレの神様3」更新
10月5日 中編部屋に「トイレの神様4」更新
※指定が入る為、支部のみの公開となります。ご了承ください。
10月13日 中編部屋に「トイレの神様5」更新
※指定が入る為、支部のみの公開となります。ご了承ください。
10月19日 中編部屋に「トイレの神様6」更新
11月23日 中編部屋に「トイレの神様7」更新
12月2日 短編部屋に「うらぎりものめ」更新
※指定が入る為、支部のみの公開となります。ご了承ください。
12月24日 短編部屋に「うらぎりものめ2」更新
※指定が入る為、支部のみの公開となります。ご了承ください。
12月27日 短編部屋に「無理矢理、ダメ。絶対」更新
12月31日 短編部屋に「うらぎりものめ3」更新
※指定が入る為、支部のみの公開となります。ご了承ください。
1月6日 短編部屋に「うらぎりものめ4」更新
※完結編指定はありませんが、支部のみの公開となります。ご了承ください。
1月18日 短編部屋に「そんな幻にキスをする」更新
1月25日 短編部屋に「奥村雪男さんじゅうごさい」更新
※指定が入る為、支部のみの公開となります。ご了承ください。
2月1日 短編部屋に「月に一度のお便りです」更新
3月16日 短編部屋に「三枚刃の剃刀」更新
※指定が入る為、支部のみの公開となります。ご了承ください。

2016年3月12日 春コミ本新刊情報UP
2016年8月19日 インテコピー本情報UP


長編部屋
連載中のお話・完結済みのシリーズを収納しています。

中編・短編部屋
中編・短編を収納しています。

リクエスト部屋
リクエストされたものを収納しています。



よかった。と思うものがあればどうぞ。 ↓



現在お礼は8種類です。
先生のツイッターネタ注意。



●青祓の感想
SQネタバレ有り。単行本派は注意してください。
1話目 2話目 3話目 4話目 5話目 6話目



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8/21 インテ参加致します。

おひさしぶりです。8月21日のインテのエクソシストパーティに参加します~。
コピー本で、R18指定の人狼設定をお借りした雪燐モブ燐本持っていきます。
既刊は「時の果てまで」メフィ燐本と「デビルズウォッチ」雪燐本です。
当日はよろしくおねがいします!



【サンプル】
※WEB用に改行していますが実際は詰めています。

ぐしゃりという音とともに私の頭は砕かれた。
そうして私は死んだのだ。

***

この町は腐っている。生まれた時から住んでいる町だけれど、そんな感想しか沸いてこない。
理由としては簡単だ。この青士街は街を奪おうとする悪魔との戦いに明け暮れている。
悪魔は人に化け、人に混じって人を、家畜を食らっていた。
外見からすぐにわかるような悪魔はいない。夜の闇に紛れて次々と殺されていくものたち。

次は自身ではないか、隣人なのではないか。

正体のわからない悪魔に怯えて、人は疑心暗鬼になり、他者を糾弾する。
この街では、悪魔と疑われた者には裁判が行われた。
裁判と言っても、悪魔と疑われた者に潔白を訴える機会は与えられない。

連行されたが最後処刑される為に行われる裁判は大量の冤罪も生み出していた。

ただ、処刑された彼らが人間であったのか、悪魔であったのか。
処刑を執り行う騎士團は明らかにしていない。
建前として、悪魔は祓われたのだと街に公表はすれども、
現に悪魔は撲滅されることなく今も街の人間を襲い続けている。
正しく人間であった者が一体何人殺されて。
正しく悪魔であった者が何人祓われたのか。それを知るものは誰もいない。
悪魔を祓う祓魔師は、そんな終わりの見えない戦いを日々繰り広げていた。

「雪男、俺任務あるから先に行くな」
「うん気をつけてね」

そんな腐った街で生きていかなければならない人もいる。
奥村兄弟もそんな人達の一人だった。
両親は亡く、養父に育てられた二人は祓魔師として生計を立てていた。

私はいつも、仕事に出かける二人を家の中から見送っていた。
私の両親は悪魔によって殺された。
見せしめのように郊外の草むらに捨てられていた両親の姿を、私は忘れることができない。
けれどこの街にいて、大切な者を失っていない者の方が少ないだろう。
だから私も自分だけがと思わずに、ただ日々を精一杯生き抜くだけだ。

悪魔に抵抗する術を持たない私は、明日には殺されているかもしれないのだから。
お隣である奥村兄弟は、十代でありながら立派に祓魔師の仕事をこなしているようだ。
祓魔師がいるから街は守られているのだと思うけれど、
悪魔との戦いの中最も多く命を散らしているのが祓魔師だった。
正直、他人である私から見てもこの兄弟のあり方は普通ではない。
恐らくどちらかが欠けても、この二人は成り立たないだろう。

だからこそ私は、この兄弟の幸せを願っていた。
悪魔に殺されることがないように祈っていた。

「今月に入って二人目か…惨いな」

私は燐のつぶやきを聞いて体を震わせていた。
また被害者が出たのだと思うとやるせない。
もうこんな悲惨なことが起きないようにと祈ったけれど、現実は残酷だった。
燐が任務だと家を出てすぐに、街の中で悲鳴が響き渡ったのだ。

犠牲者が出た合図だ。私はすぐに悲鳴が聞こえてきた場所に向かった。
近所の住人も家から出てきたようだ。野次馬が集まり、広場に人だかりができている。
私は人々の隙間からその光景を目撃した。夥しい量の血液、散らばる肉片。
人ではありえない力で殺されたそれらは、間違いなく悪魔に殺された者達のなれの果てだ。

燐は現場の確認作業を行っていたようだ。
青い着物に被害者の血が付着していく姿は正直吐き気を催すものだったけれど、不思議と美しい光景とも思えた。
燐は被害者の体の傷を確認すると、痛ましそうな表情で彼らの体の欠片を集めていた。
手に血が付くことを厭わず、周囲の人々から奇異の目で見られようとも、
喰い散らかされた被害者を元の形に戻してやろうというような人の心が垣間見えた。

体の欠片を拾い集めたことでわかったけれど、被害者は男性だったようだ。
血で汚れた衣服を繋ぎ合わせたことで、彼が祓魔師だったことがわかった。
恐らく知り合いだったのだろう。燐の表情が苦痛に歪んでいた。
悪魔との戦いの矢面に立たされることが仕事だとはいえ、同僚の死は彼の心にどれだけの波紋をもたらしただろうか。

ざわつく野次馬をかき分けるように、応援の祓魔師達が現場に駆けつけた。
恐らく上役であろう白い羽織を羽織った金髪の男が、燐の姿を確かめた途端に盛大に顔をしかめる。

「またお前か奥村燐、どうしてお前のいる先々で祓魔師が死んでいるのだろうな」

酷い言われようだ。けれど燐は何も言わずに押し黙っている。
応援の祓魔師達も燐が整えた同僚の遺体を黙々と遺体袋に入れて片づけていた。
その間も燐は金髪の男に尋問のようなものを受けていた。

「お前は任務でここに来たのか」
「そう…です。悲鳴が聞こえてきて急いで駆けつけた」
「被害者は昨晩、夜間巡回の当番だったようだ。彼とは面識は?」
「あるけど、一回か二回会っただけだ。仲が良かったかと言われると…」
「言い方を変えよう。昨晩、お前はどこでなにをしていた」

燐が疑われている。それは私でも理解できた。この街では疑われたら最後だ。
どんな弁解をしようとも、どんなに潔白を訴えようとも、裁判で悪魔だと判定されれば殺される。
燐が殺されてしまうのではないだろうか。
私は怯えた目でことの成り行きを見守るしかなかった。
私が燐はそんなことをしないと訴えたところで、祓魔師達は意にも介さないことを知っていたからだ。
押し黙る燐に焦れたのか、金髪の男が再度口を開こうとした。けれどその言葉は突如割り込んできた声に遮られる。

「兄の潔白は僕が証言しますよ、オーギュスト卿」

遅れながら燐の弟である雪男が現場に駆けつけた。雪男は昨晩燐は自分と共にいたのだと告げた。
そして雪男が告げた金髪の男の名前に私は驚く。
彼は祓魔師の中でも最高位に位置するアーサー=オーギュスト=エンジェル。現、聖騎士だったのか。

「ふん、親族の証言ほどアテにならないものはない」
「では親族としてではなく、祓魔師として申し上げます」
「屁理屈でこの私が納得すると思うか」
「兄が人に危害を加えることができないことは、卿もよくご存じかと思いますが」

雪男はそう言うと、印を組んで呪を唱えた。途端に隣にいた燐が悲鳴を上げてその場に倒れ込む。
被害者の血の海の中に倒れ込み、顔に血が飛び散ることにも気づかないようだった。
燐の顔は真っ青で、体に激痛が走っていることが見て取れる。
雪男が呪を唱えることをやめると、燐はぱったりと糸の切れた人形のようにその場に倒れ込んでしまう。
血だまりの中に沈む燐の姿を雪男は冷めた目で見つめながら、抱き起こした。燐は完全に気絶しているようだ。

「おわかりいただけたでしょうか」

とても実の兄に対する仕打ちとは思えないが、この場で潔白を証明するには十分な効果があったといえるだろう。
アーサーは納得していないようだったが、参謀であるライトニングがアーサーを止めた。

「やめときなよアーサー、奥村燐の拘束具は有効だ。
あれがある限り、祓魔師に害をなすことはできないよ。街で内輪揉めはよくないだろ」
「…ふん、聡明な弟に感謝することだな」

アーサーは部下を連れてその場を後にした。
ライトニングが血の海に沈む燐をみて、ごめんねーと口先ばかりの謝罪を雪男に告げた。

【春コミ東3ゲ01a】雪燐 DEVILS WATCH



お久しぶりです~。3/13春コミ東3ホールゲ01a CAPCOON7にて久しぶりに参戦致します。
新刊は相変わらず雪燐ですが初のオフ本R18指定の為ご注意ください。
なお、雪燐ですが雪男以外のキャラとの性描写がありますので苦手な方はご注意ください。
表紙はいつものごとく塩さんに描いて頂きました。ありがとうございます。

【あらすじ】埋葬された棺の中から目覚めた悪魔、燐は契約者の雪男とともに
優勝すれば願いが叶うというデビルズウォッチトーナメントに参加する。
悪魔との戦いの末に二人は世界の真実に辿りつく。
あらぶる燐君による捏造悪魔召喚バトルがあります。
A5、二段組み、76ページです。
※流行の●●ウォッチとは欠片も話が被っておりませんのでご注意ください。

また、雪燐ペーパーラリーにも参加致します。楽しみです。

月に一度のお便りです


「じゃあ兄さん僕行ってくるけど、
くれぐれも戸締まりには気をつけてね」
「わかってるって、平気だよ」
「心配してるんだよ」
「こっちの台詞だよ、俺の飯じゃないからって抜くんじゃねぇぞ」
「・・・わかってるよ、いってきます」

雪男はそう言うと荷物を持って玄関を出ていった。
今回は二泊三日の出張で、遠方の土地で祓魔の仕事があるようだ。
日本支部に着いてから鍵を使って移動をするらしい。

全部雪男から聞いた聞ける範囲の情報でしかないので、
燐は雪男が出張でいない、ということくらいしか知ることができない。

例えばそれがどんなに危険な任務だとか、
人手が足りないかもしれないといった情報を得ることはできない。

そんな時、まだ祓魔師試験に合格していない自分がもどかしく思う。
早く祓魔師になって、雪男と肩を並べられるようになりたい。
追い越してやりたい。
そうすれば、雪男が危険な目にあった時に飛んでいって助けてやれるだろうに。

「・・・今考えてもしょうがない、か」

燐はため息をついて、雪男がいなくなった寮の階段を上がる。
燐と雪男の二人だけが住んでいるこの寮は広く、
一人で過ごすには持て余してしまう。

課題も雪男がいるうちにと全部強制的に消化させられてしまったので、
やることといえばご飯を作ることと洗濯をすることくらいだろうか。
二人分の洗濯物といっても知れているので、手間はかからない。

まずは洗濯から取りかかるかと思い燐は廊下を歩いた。
突然、廊下の線がぐらりと揺れる。
燐は慌てて壁に手をついて体を支える。
けれどその立ちくらみは一瞬で、
なぜそんなことが起きたのかは全くわからなかった。

燐は首を傾げる。
この寮には悪魔除けの結界だったり、悪魔に害のあるものは置いていないはずだ。
あれば雪男が気づいて燐に近づかないように注意するはずだし、
感覚的にそういった類のものではないように思う。

「なんだ・・・?まぁいっか」

燐は気にせずに脱衣所に向かう。
脱衣所には洗濯機が設置されているので、
脱いだ服をそのまま洗濯機に突っ込めるのがいい。

昨晩風呂場で使用したタオルやシャツが入っていることを確認してから、燐は洗濯機を回した。
終わるまで風呂場の掃除をしようか、そう思っていると体に寒気が走った。

ぞくぞくと背筋を這うような感覚に燐は一瞬飛び跳ねる。

背中を確認してみるが、例えば天井から滴が落ちて背中を這ったような痕跡はない。
むしろ、体の中から沸き上がってきたという状態だろうか。
燐は首を傾げる。
さっきから自分に一体何が起こっているのだろうか。
考えるが、よくわからない。

生まれてこの方、燐は風邪すら引いたことがない。

悪魔という生まれが関係しているのだろうが、
そのせいで燐は自分の体調の変化に極端に気づかない。
これが俗に言う熱が出る前兆だとは全く思わなかった。
雪男がいれば自身の体験から気づいたかもしれないが、今ここに雪男はいない。

燐も雪男の看病をしているのでどういう状況で熱が出るかという順序は知っているが、
体験していない状態でそれを察するというのは無理があった。

「ま、大丈夫だろ。風呂掃除しよ」

燐は冷たい風の吹く広々とした風呂場をこれまた薄着で掃除し始めた。
風呂掃除が終わり洗濯物を干し終わる頃になると、
燐はいよいよ立っていられなくなってしまった。


寒い寒い寒い。
なんだこれ寒い。

自分の部屋に戻って、急いで布団にくるまった。
部屋は事前にストーブを焚いていたので、外よりも寒いということはあり得ない。
そのはずなのに燐の体はどんどん寒気を覚えて震えている。
布団にくるまって温まっているはずなのに、一向に体は温まる気配を見せない。
それに、意識がぼんやりとしてきている。
頭の回転がいいとはいえないが、
それにしたってまともなことが考えられなくなってきていた。

「え、ちょ・・・どう、したんだ・・・ろ」

ベッドの中でなんとか楽な姿勢はないだろうかと蠢くがどうにもならない。
ついには天井が回って見えるようになってきた。

燐はただ、いつもの日常を過ごしていただけだ。

変わったことは一切していない。
最近任務が少なくて、家にいることが多くなったなと思ったが、別に普通のことだろう。
自分に何が起きているのか、この状態をなんと呼べばいいのか。
燐には答えが見つからない。

「そ、そうだ。ゆきおに・・・れんらく・・・」

燐は呂律の回らない舌と頭を使って、
机の上に置いてあった携帯を手に取った。
ベッドから這い出て、机の上にある充電器に刺さった携帯を取るまでに、実に三十分かかった。
永遠ともいえる距離を移動したつもりの燐は、
息も絶え絶えに連絡を取った。

雪男に連絡をすれば、何かわかるかもしれない。

雪男が出かけてから既に六時間は経過していた。
燐の頭の中には雪男に電話するという目的しかなく、
六時間も立っていれば任務も始まっているという事実にまで頭が回らない。

何度連絡をすれども、留守電に繋がるだけだった。
ワン切りもしてみたけれど、折り返しの連絡もない。
誰に電話すれば、いいんだ。
っていうか何で俺電話してんだっけ。

気持ちが悪くなり、口を押さえる。
近くにあったコンビニの袋の中に吐いてしまう。
ご飯を食べていなかったせいか、水くらいしか吐く物はなかった。
それをゴミ箱に避難させる。
当然のことながらこれを片づける元気も体力もない。

足はがくがく震えるし、意識は朦朧としている。
けれどここで意識を失えば、最悪の事態になることだけは理解していた。

雪男は最低でも二日と半日は出張で戻らない。
連絡も通じない。普段この寮を訪れる者は皆無だ。
燐はなんとかして外部と連絡を取らなければ、
ここで丸二日倒れたまま動けないことになる可能性が高い。

「だ、だれか・・・」

腕が震える。
でも、雪男以外に誰に連絡をすれば。
燐の頭は全く回っていない。

爺はいない。修道院の皆、だめだ。忙しいよな。
塾の皆は、迷惑になるだろうし呼べない。

ここで迷惑になるかもと思ってしまうのは、
体が弱っている者特有の鬱状態と言えるだろうか。
家族ならば遠慮はしないが、全くの他人に頼るのは気が引ける。

ぐるぐるぐるぐる。

悩み続けて、熱は更に跳ね上がる。
もう寒気も感じない。これが一番まずい状態だ。
体温は測っていないけれど、
もし計れたのならば四十度を越していただろう。
このまま放置しておけば、間違いなく命の危険がある。

燐は意識を失いかけながら携帯を操作した。
ボタンを一つ押して、倒れ込む。
少ない電話帳の中から選択された連絡先は、無意識に押したものだった。
それでも画面に表示された名前に向かって必死に訴えた。
彼は、気づいてくれるだろうか。


***


「おや、奥村君から連絡とは珍しい」

メフィストは仕事中でありながら数コールの後に出た。
決済など電話をしながらでもできる。
滅多に連絡をしてこない末弟からの連絡だ。
何かおもしろいことでも起きたのだろうか。
それとも小遣いがなくなったから、追加でくれという催促だろうか。

けれど通話ボタンを押した先に出るだろう、燐の声は聞こえなかった。
頭に疑問符を浮かべながらメフィストは電話に話しかける。

もしもし、どうしたんですか。
イタ電ですか?切りますよー。

反応はなかった。
電話番号を確認してみる。
間違いなく、登録してある奥村燐の携帯からかかってきているようだ。
無言電話だと思って切ることはたやすい。
けれどそんないたずらをするようなタイプの子ではないとメフィストは知っている。

なにかあったのではないか。

メフィストは最後の書類にサインをすると、椅子から立ち上がった。
GPS機能を使うより、気配を察知する方が早い。
メフィストが燐の気配を探ろうとしたところで、
無言電話の先から音が聞こえてくる。
メフィストは耳を澄ませた。


『メフィ・・・スト・・・』
「燐くん?どうしたんですか、いったい何が」
『からだ、辛い。いたい・・・』
「痛い!?我慢強い貴方がどうしたんですか、
いきなり連絡してきて全然状況がわからないんですけど!!」
『うう・・・雪、男に連絡しても・・・繋がらなくて。
でも頭まわんないし。俺、もうどうしたらいいのか、わかんねぇよ・・・』
「わかりました!ええと、わからないんですけど
困っているのはわかりましたから、今どこにいるんですか?!」
『天井がまわるー・・・ぐすっ』
「ちょ、泣いているんですか!!」


メフィストは燐の位置を特定すると、スリーカウントで移動した。
こんなとき空間転移ができる能力があってよかったと思う。
部屋で倒れ込んで、うんうんと携帯に訴える燐の姿がそこにあった。
血みどろでも、敵に襲われて瀕死の重傷になっているとかそういう訳ではなかったらしい。
ひとまずほっとしてメフィストは燐の体を抱き起こした。

「あー、よかった命に関わるようなこと・・・
ですね!?こんな高熱出してどうしたんですか!!」

メフィストは燐の体に触れたことでようやく異常事態に気づく。
体が燃えるように熱く、燐の意識も朦朧としている。
燐は未だかつて体調を崩したことはない。
探ってみたが、祓魔の術などを受けた痕跡はなかった。
そうなると、燐の体に何かが起きたと考えるのが普通だろう。
弟の雪男は今任務でいない。
今回はそれがよかったかもしれない。
人間ではこの状態の燐を治すことなど不可能だっただろう。

メフィストは燐を抱き上げると、一瞬で自身の屋敷に戻った。
指を鳴らして屋敷に張っていた結界を更に強化する。
燐の体はどんどん熱くなっていく。

そう、まるで燃えるように。熱い。

メフィストはベリアルを呼び出すと、客用の寝室を急いで整えさせた。
ベリアルは準備を終えるとすぐに部屋を出て廊下に待機する。
寝室に足を踏み入れると同時に更に結界を厚くした。
これで足りるだろうか。

「まったく、やっかいな子だとは思っていましたがここまでとはね」

ベッドに寝かせた燐の体からはベリアルですら近づけないような膨大な魔力が宿っている。
けれどそれが外に出ることはなく、燐の体の中で暴れ回っているような状態だ。
この高熱の原因は、燐の力が暴走しているからに他ならない。

メフィストはここ最近の燐の任務を思い出していた。
ゴースト退治に、バリヨンの収集。
しばらくの間燐は簡単な任務しかこなしていないことがわかる。
そう、青い炎を使うような任務をここ一ヶ月全くしていないことがわかった。

「燐くん、聞こえますか?貴方一番直近で炎を使った記憶はありますか?」
「うー、ほの、お・・・?」
「そうです、気をしっかり持って。
持って行かれてはいけませんよ。思い出してください」
「わかんない、前から使ってない・・・気が、する」

意識が朦朧としている。
メフィストは舌打ちをした。
燐は悪魔としてまだまだ赤子も同然だ。
自分で魔力や力をコントロールするような器用なことができるタイプではない。
つまり、力を使うことでガス抜きの代わりになっていたのに
力を使うような任務がなかったことで、自分の体の中に炎をため込みすぎたのだ。

通常の悪魔ならばため込んだ魔力を体の維持に回したり、
敵との戦いに使用したりもするが、燐は「人間の体」を持っている。
メフィストやアマイモン等、上級悪魔が人間の死体に憑依するような、
そんな面倒なことをする必要性がない。
生きている悪魔は、魔力を使って死体―――憑依体の維持をする必要がない。
それに気づかなかった。
当たり前に自分がしていることが、燐にも当てはまると考えてはならないのだ。

メフィストも、適度に燐が力を振るえるように気を配ってやればよかったのだが。

メフィストは燐の様子を伺った。
苦しそうに息を吐いており、意識は朦朧としている。
炎に飲み込まれそうな燐を、メフィストはこちら側に引き戻す義務がある。

「燐君、手荒な真似をしますが我慢してくださいね」

燐の着ていた服をはぎ取り、体の上に跨った。
燐の体は熱い。それこそメフィストの肌が火傷してしまいそうなほどに。
手っとり早く熱を放つには、これが一番いいだろう。
体内に宿った炎は、きっかけがあれば爆発する。
そう、例えば身の危険を感じるような何かを。
メフィストはそれを作るだけだ。
ぐい、と燐の顔を乱暴に掴むとメフィストは顔を近づける。

どう、犯してやろうか。

乱暴な思いが渦巻く中、他人の体温を感じたのか。
燐の唇がそっと動いた。



とうさん



熱に浮かされながらつぶやいた、父を呼ぶ声。
メフィストではない。もういない男を呼ぶか細い声。

この状況で、絶対に助けに来ない者の名を呼ぶなんて。
メフィストはその声をあざ笑った。


「燐君、藤本は貴方にこんなことをしましたか?」


唇を塞ぎ、呼吸を奪う。
体の線を手でなぞり、手のひらを絡めて押さえつける。
足の間に体を忍ばせて、これからする行為を悟らせた。

知るがいい。
目の前にいる男が、君を庇護する者ではないことを。


「ここにいるのは、誰ですか?」


メフィストの鋭い爪が、燐の心臓を狙う。
途端に、燐の体から爆発するように青い炎が巻き起こった。
それは幾重にも重ねた結界を次々に壊していき、
メフィストも炎の勢いに飲まれながらも炎を囲い込むように空間の力を使い、消滅させていく。
とんだじゃじゃ馬だ。メフィストは燐を押さえ込もうと更に力を出して炎を取り囲む。


爆発した炎は二晩にも渡り、メフィストの屋敷と部屋を焼き付くした。


けれどそれは決して外に漏れることはなく、町は半径数百キロに渡り消滅することを免れた。
すべてが終わった後、時計の針を巻き戻すかのように。
屋敷は何事もなかったかのように修復されていく。


***


「俺・・・どうしてこんなとこいるんだ・・・?」


燐は目を覚ました。
実に二日と半日、このベッドで寝ていたのだがそんな自覚は全くない。
隣をみればぐったりとしたメフィストが、ベッドに倒れ込むようにして寝ている。

状況的にメフィストの屋敷にいるのだろう。
男子寮にこんな天蓋付きのベッドは存在しない。

見ればピンク色のパジャマを着せられ、額には冷たいタオルが乗せられていた。
看病してくれた、のだろうか。

メフィストは心底疲れた顔をしており、如何に燐の看病が大変だったのかが伺える。

思い返せば前後不覚に陥った自分は泣きながらメフィストに助けを求めていたようで、
今更ながらに自分の行動が恥ずかしい。

体はすっきりとしており、あんな高熱にうなされていたのが嘘のようだった。

まさか、この悪魔に看病してもらうなんて想像もつかなかった。
それでも、こうして回復したということは、
助けを求める先としては間違っていなかったのだろう。


夢の中で、今は亡き父に会えたような気がしたが。
それはきっと高熱が見せた幻だ。


小さな頃、雪男が熱を出した時。
父にそばにいてほしいと言っていた理由がわかった気がする。
燐はメフィストを起こさないようにそっと顔を近づけた。


「慣れないことさせてごめんな、ありがとう」


二人の距離が少しだけ、近くなった。



その後、メフィストに高熱の原因を教えられた上で、燐はこっぴどく叱られた。

ちゃんと自分の力をコントロールできていなかったのだから、そこは反論の仕様もない。
メフィストに今回のようなことが二度とないように約束をさせられて、
燐はようやく寮に戻ることが許された。
当然、燐の高熱のことは雪男に伝わっており戻った先で更に雪男にも叱られてしまった。

「体調が悪かったなら言ってくれたらよかったじゃないか!
携帯にかけても通じないし、何かあったんじゃないかってここ数日生きた心地がしなかったよ!」
「まぁ何かあったのは事実だし・・・俺もそれどころじゃなかったんだって」
「・・・ごめん、兄さんのこと。看病できなくて」
「いいよ、仕事だったんだし」

雪男はしばらくむくれていたが、燐は本題を忘れていたと説明を始めた。

「雪男。今回はよかったんだけど、
俺任務がない時は月に一回メフィストの所に行かないといけないんだって」
「どうして?今回で終わりじゃないってこと?」

今回は燐が炎をため込み過ぎたことが原因だ。
つまり定期的に炎を発散させてやらなければならない。
そうでなければ今回のようなことがまた起きてしまいかねない。

メフィストがいたからよかったようなものの、
燐は一歩間違えば町を一つ破壊しかねなかったのだ。
燐はまじめな表情で説明した。



「メフィストが俺に生理があるからだって、言ってた」


曰く。
魔力が溜まっていくのは悪魔にとっての生理現象みたいなものですから。
君は気にしなくていいんですよ。
それよりもまず自分の力をコントロールすることを覚えなさい。
困ったなら、月に一度私の所に来るといい。
私の結界内ならば例え炎が暴発しても大丈夫ですからね。

メフィストはそういっていた。
燐は全部覚えきれなかったので、かいつまんで雪男に説明をしただけだ。
高熱を出したせいで、燐の頭は更に回転が悪くなっている。


「なにそれ意味がわからない!!」


雪男がメフィストの屋敷に殴り込みをかけるまで、五秒もかからなかった。

そんな幻にキスをする


うん、そうだね。
ここからそう遠くない場所にあるんだ。
だから今回も早く終わると思うよ。


電車の中、睡魔に揺られていた男は声がした方向に視線を向けた。
今は昼間で通勤ラッシュの時刻はとうに過ぎている。

男は夜勤明けだった為、帰宅途中であった。
声を発したのもやはり男だった。
けれど全身黒ずくめで一目で普通の職には就いていない男だろうということが伺える。

電車の中で電話をするなど不謹慎な。

男はそう思ったが注意する勇気はなかった。
それでも男がどういう行動をしているのかは興味があった。
男の仕草を注視して、おかしなことに気づく。
黒ずくめの男は携帯電話を持ってはいなかった。

ならば、いったいどこに向かって話をしていたというのだろう。

男は背筋に冷たい汗をかく。
まともそうな人が一番やばいというパターンかもしれない。

男は怪しい黒ずくめの男の言動を見なかった振りをして瞼を閉じる。
夜勤明けのせいですぐにうとうと眠りの波がやってきた。

ちょうど次の駅に電車が着いたところで、黒ずくめの男は降りていった。
見送る背中には、赤い布で包まれた棒状の何かがあった。
高校時代、剣道部の友人が竹刀を入れた袋を背負っていた。
それに似ている。

剣道部の者が持つような健全な物にはとても見えなかったけれど。
その駅は寂れた、なにもない場所だ。

男はそんな物を持って、いったい何をしに降りたのだろう。

疑問は浮かぶが、赤の他人の行動に口を出すような暇人でもない。
気づいた少しの人に見送られ、黒ずくめの男は世の中の空白に消えていく。


***


「聖騎士の到着まで持ちこたえろ!なんとしてもここだけは死守するんだ!!」

祓魔師の男が叫ぶ。
深い深い森の中。悪魔との戦闘が続いていた。
魔神が祓われてから数年の後、悪魔は数を減らしてきている。

それでも祓魔師の仕事がなくなるかと言えばそうはならない。
悪魔のささやきは人をいつだって闇に落とす。

悪魔に取り憑かれた人は、祓
魔師の詠唱や攻撃を物ともせず深い森の奥から人里へと足を進めていた。
周囲の森は悪魔の放つ瘴気で腐り、枯れ落ちていく。
祓魔師達は手騎士の召還したサラマンダーで汚染された木々を燃やしていくが、
それも決定的な解決にはならない。

取り憑いている悪魔は腐の眷属のようだ。
無限に増殖する属性を持つ悪魔にはもっと、圧倒的な火力が必要となる。
部隊の指揮を取る部隊長は、無線で部下に指示を与えた。
悪魔を取り囲むようにサラマンダーの炎を敷くが、足止めは持って数分だろう。

指示を与えながら、部隊長はせき込んだ。わずかながら咳の中に血が混じり初めている。
人間にとって悪魔の瘴気は毒でしかない。

このままいけば、自分達は全滅だ。

なんとか部下だけでも逃がしてやりたいが、
一般人への被害を考えればここで引くわけにもいかない。

男が嫌な汗をかいていたところで、数十メートル先の林が一瞬で腐り落ちる光景が見えた。
悪魔がきたのだ。男は側にいた部下に後方に引くように指示を与える。
部下は部隊長を残して引くことに異を唱えたが一喝して退かせる。
火炎放射器を構えて、悪魔に向けて放つ。
悪魔はもうすぐそこまで来ていた。
ざくりと死の足音が聞こえる。だめか。部隊長が目を閉じる。


「敵を目の前にして目を閉じるなと教えたはずですよ、佐々木君」


よく通る、教師のような声が聞こえた。佐々木と呼ばれた部隊長は目を開ける。
目の前には赤い竹刀袋を背負った、祓魔師の男がいた。
涙が出る。ああ、自分はまだ生きていられるのだ。
一瞬の安堵の後に気を引き締める。


「奥村聖騎士、状況を報告致します」


佐々木は手短に悪魔の特性と作戦、部下の位置を伝える。
雪男は頷くと即座に最適な作戦を考え、銃弾を装填。
悪魔の進行を止めるように一発の弾丸を放った。
剣を背負っているが、使う武器は銃。
一見するとよくわからない戦闘スタイルだが、
聖騎士は全ての称号を取得したものがなる祓魔師の最高峰。

背中の剣も、銃が使えなくなった時の為の切り札なのだと噂されていた。
けれど、銃での戦闘で圧倒的な実力を誇っていた為、未だ剣を使うところを見た者はいない。


「これでいけるかな・・・ん?後方に気配?わかった」


雪男は独り言をつぶやくと佐々木に指示をとばし、その場から自身も離れる。
間髪入れずに悪魔の猛攻により地面が抉られ、
人間がその場に残っていればひとたまりもなかっただろう惨状が広がった。

佐々木は部下を周囲に全て集めると、雪男にそれを伝える。
よくできたと生徒を誉めるような言葉をかけると佐々木が苦笑いを浮かべた。

「いつまでも祓魔塾の生徒のような扱いはやめてくださいよ奥村先生」
「すまない、君は随分出来が悪かったからね。一人前になった今でもつい構ってしまうんだ」
「・・・もういいです、次はどうしますか」

聖騎士一人が戦闘に加わっただけで、
こんなにもモチベーションが違うものかと戦闘に加わった祓魔師は思った。

自分達は生きて帰れるのだという希望。
その希望は悪魔を祓う原動力となる。
あと一踏ん張りだ。雪男はそう声をかけると、青い銃弾を装填する。


「悪魔の位置は掴めた。
君たちには事後処理を頼むことになるから覚悟しておくように」


うげ、という言葉が思わず佐々木から漏れる。
雪男は苦笑しながらも行動にためらいはなかった。
銃口を悪魔がいる方向に向ける。
佐々木は同時に部下に声をかけた。
総員結界内に避難、自分の身を守れ。
全員が逃げたことを確認してから雪男は引き金を引く。


「兄さん、僕に力を」


銃弾が悪魔を貫いた瞬間に膨大な青い光が巻き起こる。
それは瞬く間に森の汚染された地域に広がっていった。
光は瘴気に当たると青い炎に変わっていく。
不思議なことに生きた木々に当たってもそれは燃え広がったりはしなかった。

汚染された地域には青い浄化の火を。
木々には穏やかな青い光を。

悪魔だけを燃やし分けるその力は、神の如き所行。

聖騎士の力を見たことがないもの達は、その圧倒的な力に歓喜の声を上げた。
人間である聖騎士がこのような力を持てるのか。
自分達と同じ存在がその力を持っているという事実に人は安心感を持つ。

そんな人々を雪男が冷めた瞳で見つめていることに、人は気づかない。


雪男は瘴気が消え去ったのを確認すると、挨拶もそこそこにその場を去ろうとした。
佐々木は慌てて雪男の背に声をかける。

「奥村聖騎士、お手を煩わせました」
「教え子が死ぬのは見たくないよ、
次はもっと地べたを這い蹲ってでも生き抜こうという気概を見せるように」
「すみません・・・先生、あと先生のお兄さんも。本当にありがとうございました」


深々と頭を下げる教え子は、この場にいない人の名前を呼んだ。


そうか、この子は知っていたんだった。
僕に兄がいたことを。


少しの間教え子と言葉を交わし、雪男は森を後にした。
程なくしてまた携帯に任務を告げるメールが届く。
今晩の休息の後、国外か。雪男はため息をついた。

けれどもそうも言っていられない。
今回のように聖騎士でなければ処理できない案件が山ほどあるのだ。
文句もいっていられないし、立ち止まってもいられない。
雪男には目的があるからだ。
背中の剣を背負い直すと、歩きだした。
背後から、声が聞こえてくる。


『ごめんな、雪男。俺重くないか?』


それは兄の声だった。
もう触れることもできない。
あたたかい体温を感じることもできない。
それでも雪男にそっと寄り添ってくれている、雪男のたった一人の兄。

「大丈夫だよ、むしろ軽いくらいさ」

片手では重く、背負うには軽すぎるその重さを。
雪男はいつだって背負ってきたのだから。


***


「兄さん、ねぇお願い目を開けて!」

雪男は倒れ込んだ燐を抱き起こして必死に声をかける。
燐の瞼はかろうじて開いているが、今にも閉じてしまいそうな薄さだ。
そして一度閉じてしまえばもう二度と目覚めないことも、雪男は本能でわかってしまっていた。

魔神を倒した代償に兄の命が失われる。

考えなかったわけじゃない。
でも、兄さんがあんまりにも大丈夫だって言うから。
僕はその言葉を信じてしまったんだ。
兄さんは僕との約束を破ったりしないと信じていたから。

雪男は大粒の涙を浮かべて、ぼろぼろと燐の頬に滴を落とす。
燐は雪男の涙を拭いてやろうと、頬にそっと手のひらを当てる。
冷たい手のひら。
青い炎の輝きも徐々に失われていっている。

「雪・・・男、ごめんな。最後まで泣かせちまって」
「なら、生きてよ。大丈夫だって言ってよ!」
「・・・なぁ俺がんばっただろ、神父さんの敵も討ったんだ・・・
神父さんと同じところにいけるかは、わからないけど。それでも」
「嫌だ!!いやだいやだ!行かせないよ!兄さんは絶対に、行かせない!!」

子供のように駄々をこねた。
こうやってわがままを言えば、燐はいつだって雪男の願いを叶えてくれた。

生きてよ、と訴えた。

でもその願いは叶わなかった。

燐が最期に少しだけ笑った。
お別れの挨拶にしようというのか。
瞼が閉じていく。


僕を置いていかないで。
一人にしないで。


「兄さん、僕と生きて!」


兄さんがもう会えない眠りに連れていかれてしまうくらいなら。

雪男は倶利伽羅を掴んだ。
それを本能のままに燐の胸に突き立てる。
青い炎がわき起こり、燐の体が燃えていく。

やめてくれ。

燐が叫ぶ。雪男は聞かなかった。
倶利伽羅と青い炎に苛まれる兄の体を抱いた。
抵抗を押し込めるように封印の呪文を口にして、唇を奪う。
炎の熱が、唇に伝わる。熱い。
まるで兄さんが生きているみたいだ。
身体と魂を切り離すように、雪男は呪文を続ける。
まるで、呪いのような言葉だった。


我が僕となりて、その身を封じん。
倶利伽羅よ、魂の依代となれ。


青い鬼火のような光が燐の体からそっと離れ、倶利伽羅の中に消える。
雪男はそれを見届けて、ゆっくりと鞘を閉じる。
もう二度と開かないように、厳重に札を巻いた。


燐の体はどこにもない。
あとには、ただ一人。
雪男だけが残された。


手のひらの中には、燐が最期まで握っていた倶利伽羅が残されている。


『雪男』


もういない兄の声が、倶利伽羅を通して聞こえてきた。
雪男は倶利伽羅を抱きしめる。

自分の目論見が成功したことに雪男は震えた。

本当ならこのまま見送ってやるべきだったのだ。
でもそれはできなかった。
どんな形でもいい、そばにいて欲しかった。


「ごめんね」


貴方を、見送ることはできないよ。

あきらめたように呟けば燐はもうなにも言わなかった。
言えなかったのかもしれない。
その日から、雪男の側には常に倶利伽羅がある。
青い炎を従える聖騎士として雪男は今日も戦い続けている。



***



休息の為に訪れた場所は、寂れたラブホテルだった。
森の奥深くで行われた任務の後だ。泊まれる場所は限られている。
一人で寝るには大きすぎるベッドは二人で寝ればちょうどいいサイズだ。

雪男は背負っていた倶利伽羅をそっとベッドの片側に寝かせる。
カーテンの閉められた窓を開けて、月の光を室内に入れる。
青白い月の光が倶利伽羅に宿ると、ぼんやりとした光が形をなしていった。

うっすらと透けるような肌をした燐が暗闇の中に現れる。

儚げな姿の燐はベッドにもたれ掛かるような体勢で雪男を見ていた。
現れた燐の姿に満足して、雪男は声をかける。

「シャワー浴びてくるから、ここにいて」

言われずとも燐はここから動くことができない。
それでも燐は雪男の言葉に黙って頷いた。
時間を持て余さないようにとつけられたテレビを静かに燐は見ている。
風呂場からはシャワーを浴びる音が聞こえてきた。
燐は手をリモコンに伸ばし、チャンネルを変えようと試みた。

けれどその手はするりと通り抜けて、リモコンに触れることはできない。

少しだけ悲しそうな顔をして、
燐は雪男の戻りをベッドに身を投げ出して待った。

ほどなくして部屋に戻ると、ベッドの上で瞼を閉じている燐の姿を雪男は見つける。
兄さんはここにいてくれる。
雪男はそっと燐の隣に寝そべると声をかけた。


「兄さん」


呼べば、燐は瞳をあける。
きらきらと輝く青い瞳の向こうは透けていた。
雪男はほほえむ。

「今日はありがとう」
『いいよ、お前のこと守れるなら俺のこと好きに使って』
「使うなんて言わないで、兄さんは僕に力を貸してくれているんだ。
きっといつか兄さんを元の姿に戻す方法が見つかるはずだから。僕、がんばるから」
『雪男、でも俺は・・・』
「言わないで、お願い」


雪男は透明な燐の唇に触れた。
温かい体温も、少しかさついた唇の感覚もなにもない。
あるのはただ、幻に触れた感触だけ。


そこには何もないのだと、思い知らされる。


それでも雪男は笑った。
寝かせた倶利伽羅の鞘に指を這わせる。
燐は雪男の指の感触を感じて、薄く声を漏らした。
顔がほんのりと赤い。きっと僕の指を感じたのだ。


「兄さん、かわいい」


鞘に触れただけでこれなのだ。
刀身を舐めたりしたら、いったいどんな声をあげるのだろう。

決して刀を抜いたりはしないと思いながらも、想像して身が震える。

そのまま雪男は倶利伽羅にキスをした。
冷たいはずなのに、どこか温かい。
耳をすませばどくんどくんと兄さんの心臓の音が聞こえる気がする。

片手では重く、背負うには軽すぎるその重さが悲しい。
一緒に成長した体も、触れれば恥ずかしがる肌も。
かつて背負えばしっかりとした鼓動が聞こえた貴方の体は僕が燃やした。


「好きだよ、兄さん」


そう呟けば俺も、と声を返してくれる。

僕は、そんな幻にキスをする。


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