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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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疲れた時には

パソコンの電電を落とす。
ようやく今日のまとめが終わった。
時刻は午後10時。急いでやったからご飯はまだ食べていない。
雪男はこめかみを押さえながら、椅子から立ち上がった。
部屋のドアが開く。

「おう、終わったのか雪男」
「うん、なんとかね」

燐が持ってきた皿の上にはおにぎりがあった。
夜食を作ってきてくれたらしい。
雪男の机の上にはまだ資料が散乱していたので、燐の机をテーブル代わりにする。
燐はおにぎりと、持ってきたお茶のポットを置く。
「喰えよ、腹減っただろ」
「ありがとう」
おにぎりを1つ取って、口に入れる。おいしい。
ただのおにぎりのはずなのに、兄が作ったものはどんなものでも雪男の舌を唸らせる。
「流石だね」
おにぎりを食べながら、伸びをした。
肩がばきばきと音を立てて鳴る。肩が凝っているのだろう。
15の若者が立てるような音ではないが。
「肩凝ってるのか」
「うん」
肩こりのせいか、雪男の顔色は悪い。
肩周辺の血の巡りが悪いと、頭痛や吐き気をもよおす。
ずきずきと痛む頭を抑えつつ、またおにぎりを食べた。
それでもおなかは空いている。

「俺が肩揉んでやろうか」

おにぎりを飲み込む。兄に肩を揉んで貰うなんて、なんだか老けてるみたいで嫌だなぁとは
思いつつお言葉に甘える。すごく疲れていたからだ。
「よし、じゃあベットに寝ろ」
「なんだか本格的だね」
雪男はベットに寝ころがる。ああ待ち望んでいた布団の感触。寝てしまいそうだ。

ギシリと音を立てて、燐が雪男の上に跨った。
肩に手を置いて、撫でるようにマッサージしていく。
「お前、15の肩じゃねぇぞ。どんだけ凝ってんだ」
「そんなにひどい?」
「よかったな。肩を揉んでくれる優しいお兄様がいてよ」
はいはい、と燐の言葉に応えつつ、マッサージを味わった。
疲れた身体に染みる。全身の力が抜けていった。

マッサージで揺れる体の感覚が心地よすぎて、このままベットの上で寝てしまいそう。

ふと思いついて、ちらりと背に乗る燐の姿を見る。
雪男の上でゆらゆら揺れる姿を見て、ちょっとだけ変なことを思ってしまったのは
眠気のせいかもしれない。


「ねぇ兄さん」
「なんだよ」
「・・・一緒に寝ない?」


揺れていた燐の動きが止まった。

「勝手に寝てろ」

ばしりと頭を叩かれた。
残念だ。

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天体観測

「ほら見ろ、アレが北斗七星だ。ひしゃくの形してるだろ?」
「本当だ」
「え、どこだよ」

三人で空を見上げる。屋根の上から見る星空は、地上から見るよりずっと近く感じる。
神父が燐と視線を合わせて、星空を指した。
ようやく燐も北斗七星を見つける。

「おまえら、俺がいない時は屋根の上には登るなよ。危ないから」
「うん」
「えー、いいじゃん別に」
「怪我したらどうすんだ」

神父は燐の頭をなでる。夜はまだ寒い。
雪男は体が弱いので神父の足の間に挟まって、上から毛布をかけられている。燐は、二人から少しはなれたところに座っていた。

「べつに、怪我しても俺、治るし。いい」
「おい、燐それは聞き捨てならねーぞ」

燐の耳を引っ張って、傍に引き寄せる。
そんな風に言う子に育てた覚えはないぞ、と諭した。

「お前が怪我すると俺が心配なんだよ。寒いだろ、こっちこい」
「・・・だって」

燐はチラッと神父の胸元を見て、また離れようとした。
その動作だけで察しがつく。


こいつ、俺の肋骨折ったこと気にしてるのか


幼稚園で暴れた燐を抑えたときに、怪我をした部分だ。
もう治っているし、神父自身は全く気にしていない。
だが、燐は違ったらしい。ほんの少しだが、人と距離を置くようになったのはそのためか。
神父は離れようとする燐の服を掴んで、思いっきり抱き寄せた。

「なにすんだよ!」
「俺は寒いんだ。お前も俺を暖める湯たんぽになれ」
「兄さんも入りなよ」

神父の足の間に放り込まれた。毛布の中から出ようとするが、雪男に頼まれたら断りにくい。
燐の身体は外にいたせいですっかり冷え込んでいた。

「兄さんの体冷たいよ。もっとこっち寄って。温めてあげる」
「寒いだろ、いいよ」
「はいはい、いいから空見てみろー」

二人並んで、神父に上から抱きこまれる。
体温のおかげで、冷たかった燐の身体も温かくなってきた。
「北斗七星は教えたよな、あとはアレだ。」
指を夜空に指した。指の先が示す方向にはWを形作る星がある。

「あれがカシオペヤ座だ。この2つを覚えてたら迷子になっても家に帰れるからな」
「どういうこと?」
首をかしげる雪男。燐はまだ見つけられないらしい。
「カシオペヤ座と北斗七星の間に北極星があるんだ。わかるか、一番明るい星だ」
「あれかなー」
「俺わかった。アレだな!」
燐にもみつけやすかったらしく、得意げだ。
神父は二人の頭を撫でて、呟く。


「俺達が住んでいる南十字男子修道院は、名前の通り南にあるんだ。北極星は北を示す星。昔から、道に迷った旅人が目印にした星なんだよ」


「じゃあ、アレと反対方向に帰ればいいんだね」
「え、どういうことだ」
「北の反対は南だよ兄さん」
「北極星に背を向けれて帰ればいいんだ。燐はそう覚えてろ」
「わかった」
「北斗七星から北極星を辿るには、北斗七星が作るひしゃく部分の先端の2星。その長さを5倍した先だからな」
「そうなんだ、覚えとくよ」
「何言ってんのかわからん」
「大丈夫だよ。もしもの時は雪男が教えてくれるさ」
「うん、僕が教えてあげるよ」
「なんだよそれ」

三人で星空を見上げることも、時がたてばできなくなるだろう。
だけど、これだけは二人に覚えていて欲しかった。


「道に迷ったら空を見ろ。空が帰り道を教えてくれるから」


そして、ここに帰ってきてくれ。

兄弟は神父が思う深い部分まではまだわからないだろう。
だけど今はそれでもよかった。
三人で並んで見上げた星空は綺麗で。

とても温かかった。

電波に乗せた傷の歌

電話をかける。

おかけになった電話番号は電波の届かないところにあるか、
電源が入っていません
お手数ですがもう一度おかけ直し下さい
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メールを送る。

送信できませんでした
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空高く携帯電話を上げたけれど、電波が入る気配は無い。
空の色は相変わらず真っ暗で、雲は紫色をしている。
電波が入る気配は無い。
開いていた携帯電話を閉じる。

「やっぱり、ダメか」

うず高く積まれた悪魔の死体の上で空を見上げる。
何回も繰り返したけれど、諦めることはできなかった。
せめて、ひと言だけでも物質界に届けばいいのに。
そんな思いで繰り返す、意味のない行為。
携帯電話の電池の残りも少ない。もうすぐ携帯も使えなくなる。
虚無界に来てから繰り返している、悪魔の殺害と物質界への連絡。
悪魔のほうは滞りなく殺している。
もう何匹殺したかなんかいちいち覚えていない。

「どいつもこいつも嬉しそうな顔しやがって、胸糞悪ぃ」

若君が帰還された!と悪魔達は狂ったように燐をもてはやしている。
もてはやす、といっても普通とは意味が違う。
次々に燐に襲い掛かっては殺されるという正に悪魔の宴だった。
気に食わなくても続けるのは、ひとえに学園の平和のため。

「あー、ったく服がまた汚れやがった」

悪魔の返り血で、黒かった学生服も青く染まっていた。
悪魔の血は時間がたつと青く変色するらしい。
しかも、こちらで暮らしてから気づいたことだが、悪魔の血は取れない。
死んだ後もこびり付いてくるなんてめんどくさい事この上ない奴らだ。
近くにあった悪魔の頭を蹴り飛ばして、死体の山から下りる。

根城にしている修道院に帰るか、そう思っていたら。


着信音が鳴った。


慌てて携帯電話を取り出して、名前を確認する。
非通知。
それでもよかった。電話に出た。

「コンニチワー」
「てめぇかよ・・・アマイモン」

一気にテンションが下がる。

「最近どうしてるのかと気になりまして」
「どうしたもこうしたも変わんねぇよ」
「おや、贈った悪魔たちは気に入りませんでしたか残念」
「100匹越えた辺りから悪魔の数も数えてないな」
「僕は10匹贈った時点から数えるのやめましたよ」

こいつと話してると無駄話が多すぎて電池が勿体無い。

「もういいわ・・・」

通話を切る。
同時に、持っていた剣を近くの木に突き刺した。
木から青い焔が燃え上がり、上からアマイモンが落ちてきた。

「電話で会話する必要ねぇだろ。鬱陶しい」
「君、成長しましたね。最初の頃なんか僕の存在に気づかなかったのに」
「あ、あんなことされたら誰だって警戒するわ!!」

当初、悪魔の相手だけで精一杯だった。
悪魔を殺しつくすことに疲れ果てて、こびりついた血を流すこともせず修道院のベットに倒れこんだ。
虚無界の修道院は物質界と作りが同じだ。
その日、物質界では雪男の部屋に該当する部屋。そこで眠りに着いた。

次に目が覚めたとき、上にはアマイモンが乗っかっていた。
どうやら服を脱がそうとしていたらしい。
しかし、血が染み込んだ服はなかなか脱がせない。
手こずっているうちに目が覚めた、というわけだ。
悪魔の気配は読めるようになったが、上級への対処はまだできなかった。
この時ほどあせったことはない。
雪男の部屋の中で危うく大変なことになるところだった。

「失礼ですね。親切でしてあげようと思ったのに」
「何をだよ!何を!しかもお前あの時、暴れる俺を押さえつけて服破ろうとしただろ!」
「そうでしたっけ?」
「・・・もういいわ」

剣を抜いて、アマイモンに対峙した。
もう幾度も繰り返したが、まだ物質界への帰り道を吐かせるまでは至っていない。

「今回は、てめぇの携帯の電池パックくらいは奪わねぇとな」
「え、ちょ。地味に困るんですけど」
「俺の携帯、充電切れそうなんだよ」

燐は地を駈けた。アマイモンが、応戦する。
どちらも、表情は笑っていた。






電話をかける。

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メールを送る。

送信できませんでした
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ボロボロになった腕を上げて、電波が入らないか試した。
充電は満タンだ。

「今・・・回も、だめ・・・か」

電池パックを奪えるくらいは成長したが、勝てるまではいってない。
体中血にまみれて、骨が折れて、痛みでどうにかなりそうだ。
それでもアイツは俺を殺さない。
寸前で生かしている。
息をしてみるが、こみ上げてくる血が呼吸を遮る。
一回血を吐いて、息をした。多少は楽になった。

足が折れてて立てないから、腕で這いながら修道院の中まで入った。
壊れかけた聖堂の中央に、折れた十字架がぶら下がっている。
祭壇まではいけそうにない。途中で力尽きて、そのまま動けなくなった。
痛みは我慢していればいい、いつか治る。そのいつかまで我慢すればいいだけだ。
床に顔をつけたまま、視線だけで折れた十字架を見た。

物質界にいたころは、聖堂でよく雪男とかくれんぼしたな。


他愛の無い思い出が、懐かしい。


痛みで意識が遠ざかっていく。
意識が落ちる前、携帯の画面を確認した。
着信も、メールの受信もなかった。



ふいに涙がこみ上げてきた。
こんなにも、泣きたくなるなんて。
きっと傷の痛みのせいなんだろう。

痛みは我慢していればいい、いつか治る。そのいつかまで我慢すればいいだけだ。
次に目が覚めたとき、この痛みが治っていればいいのに。


もう一度、携帯の画面を確認した。
着信も、メールの受信もなかった。



電波も、俺の声も、ここからじゃ届かない。

北極星の見つけ方

小さな頃、神父さんは僕と兄さんに北極星の見つけ方を教えてくれた。
北極星の位置を知っていれば、迷子になっても修道院に帰れるから。
だけど、兄さんはいつも北極星を見失ってしまう。

だから星を見つけるのは僕の役目だった。

北斗七星が作るひしゃく部分の先端の2星。
その長さを5倍した先に北極星は輝いている。

兄は覚えているだろうか。
北極星の見つけ方を。
兄は帰れるだろうか。
僕達のいるところに。





夢の中、兄が遠くに去っていく風景が見える。
兄の温かい手が、僕の元から離れていく。
いかないで
言ってみたけど、兄には聞こえなかったらしい。
体温が離れていく。
その手を掴みたかったけど、僕の身体は動かない。

じゃあな

ひと言だけ兄が言った別れの言葉。
今も耳に残る寂しそうな声。
僕は止めることができなかった。

「にいさん」

無意識のうちに、天井に手を伸ばしていた。
ベットの横に設置された椅子に、望んだ姿はなかった。
青い月が空っぽの椅子を照らしている。
起きた時から感じていた、言いようの無い喪失感。
神父さんが死んだ時と同じ感覚。

「にいさん・・・」

兄はいなくなってしまった。
その事実がどうしようもなく悲しかった。




次に目が覚めたとき、腕に包帯を巻いたシュラが椅子に座ってこちらを見ていた。
「シュラさん、無事だったんですね」
「まぁな、無様だろ」
話を聞けば、前線で腕をやられて身を潜めていたらしい。

見つけられては逃げ、見つけられては逃げの繰り返しで
傷を癒す暇も、連絡を取る手段もなくなってしまった。
そんなことを繰り返していたある日、いきなり悪魔の進行が止んだ。
悪魔達の進行方向の先に、アマイモンが現れたからだ。

「アマイモンが悪魔達に囁いていた言葉を聞いて、愕然としたよ」



我らの小さな末の弟は我らの手に落ちた。
目的は達成された。
末の弟はお前達との腕試しをお望みだ。
我らの悲願のために、虚無界に向かえ。
喜べ。我らの小さな末の弟は、我らのものだ。



悪魔達は一斉に歓喜の雄たけびを上げていた。


「若君が帰還された、って言ってやがったよ」
「やっぱり、兄さんは・・・」
「・・・すまない。雪男」
「予感がしたんです」


胸糞悪い、といった表情をシュラは隠さなかった。
結局、自分達がやったことは全て無駄になってしまったということだ。
だが、燐があちらにいかなければ間違いなくやられていただろう。
完全なる敗北。屈辱以外の何物でもない。
何よりもむかつくのが。

「あいつが、俺達になにも言わずに行っちまった事だ」

そうしなければならなかったことも。
そうせざるをえなかったことも。
そうしなければ守りたいものを守れなかったことも。
全部理解できるけど、それでも行かないで欲しかった。

「あいつ、ここが好きだったから守りたかったんだろうな」

初めて出来た仲間や友達を見捨てることができなかった。
雪男は、傷口を押さえて起き上がった。
まだ熱は下がっていないようだ。荒い息を吐きながら、搾り出すように雪男は言った。

「僕は、絶対に諦めません」

怪我人とは思えない力強い声で宣言した。

「当然だ、このままじゃ獅朗に合わせる顔がないからな」

諦めない。諦めてたまるか。人間はしぶといのだ。
今度は負けない。絶対に取り返してやる。
悪魔に思い知らせてやる。






兄さんが北極星を見失ったなら
僕が代わりに見つけてあげる。
物質界から届かなくても、虚無界まで聞こえるように。



北斗七星が作るひしゃく部分の先端の2星。
その長さを5倍した先に北極星は輝いている。

クロとはつじょうき

寮の部屋で薬の調合をしていると、クロがいきなり膝の上に乗ってきた。
雪男は慌てて倒れそうになっていた薬の瓶を押さえる。
よかった、中身は零れていない。
ほっとため息をついて、膝に乗るクロをしかる。
「クロ、だめじゃないか」
「にゃおんにゃおん」
兄のようにテレパシーが使えるわけではないので、クロが何をいっているかさっぱりだ。
兄は今、アイスを買いに購買に行っている。肝心な時にいないんだから。
と雪男は燐に心の中で八つ当たりしておいた。
「にゃおおおう」
「クロ、どうしたの?」
膝の上でコロコロ転がって、腹を見せている。
なんというか、喜んでいるようである。
もっと詳しく言えば悦んでいる。
雪男は、机に設置されているパソコンを弄ってネットに繋げた。
「猫ってこういうときなにして欲しいんだろ・・・」
ネットの大海には先人達の知恵がある。
単純に猫とくくっていいかわからないクロだが、猫叉も猫なんだから習性は同じだろうと
検索をかけた。そして、雪男はひとつの単語にたどり着く。


「発情期・・・だと・・・」


しかも、クロはオスだ。燐はクロの言葉を翻訳する時「俺は~」と訳していた。
だからきっとオスなんだろう。
猫のオスは、メスが出すホルモンに引かれて発情する。
クロは、雪男の膝の上で狂っている。

にゃおおん。にゃおおおん。

「・・・いやいや、そんな」
雪男の臭いに反応してるとかそんなことあり得ないだろう。
雪男の思考が疑問スパイラルに陥りそうになったところで、燐が帰ってきた。




「なんか、おまえからマタタビの臭いがするから狂ってたんだとよ」
「マタタビ?僕そんなの使ってないけど・・・」
今だ狂うクロを抱き、雪男は机の上にある薬を確認した。
「これはハーブのオリーブオイル漬け、これはコールタールの瓶詰め、これは・・・」
雪男は後ろの品質表示を見て、驚いた。
マタタビが0.1グラム入っている薬を使って調合していたらしい。

「どんだけ求めてたんだろうね、クロ・・・」
「最近酒もマタタビもやってないからだろうな・・・可哀想に」

クロは、アル中でマタタビ中でもあったらしい。

不憫に思った奥村兄弟は、翌日マタタビの粉を買いに祓魔屋に足を運ぶのだった。

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