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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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月に一度のお便りです


「じゃあ兄さん僕行ってくるけど、
くれぐれも戸締まりには気をつけてね」
「わかってるって、平気だよ」
「心配してるんだよ」
「こっちの台詞だよ、俺の飯じゃないからって抜くんじゃねぇぞ」
「・・・わかってるよ、いってきます」

雪男はそう言うと荷物を持って玄関を出ていった。
今回は二泊三日の出張で、遠方の土地で祓魔の仕事があるようだ。
日本支部に着いてから鍵を使って移動をするらしい。

全部雪男から聞いた聞ける範囲の情報でしかないので、
燐は雪男が出張でいない、ということくらいしか知ることができない。

例えばそれがどんなに危険な任務だとか、
人手が足りないかもしれないといった情報を得ることはできない。

そんな時、まだ祓魔師試験に合格していない自分がもどかしく思う。
早く祓魔師になって、雪男と肩を並べられるようになりたい。
追い越してやりたい。
そうすれば、雪男が危険な目にあった時に飛んでいって助けてやれるだろうに。

「・・・今考えてもしょうがない、か」

燐はため息をついて、雪男がいなくなった寮の階段を上がる。
燐と雪男の二人だけが住んでいるこの寮は広く、
一人で過ごすには持て余してしまう。

課題も雪男がいるうちにと全部強制的に消化させられてしまったので、
やることといえばご飯を作ることと洗濯をすることくらいだろうか。
二人分の洗濯物といっても知れているので、手間はかからない。

まずは洗濯から取りかかるかと思い燐は廊下を歩いた。
突然、廊下の線がぐらりと揺れる。
燐は慌てて壁に手をついて体を支える。
けれどその立ちくらみは一瞬で、
なぜそんなことが起きたのかは全くわからなかった。

燐は首を傾げる。
この寮には悪魔除けの結界だったり、悪魔に害のあるものは置いていないはずだ。
あれば雪男が気づいて燐に近づかないように注意するはずだし、
感覚的にそういった類のものではないように思う。

「なんだ・・・?まぁいっか」

燐は気にせずに脱衣所に向かう。
脱衣所には洗濯機が設置されているので、
脱いだ服をそのまま洗濯機に突っ込めるのがいい。

昨晩風呂場で使用したタオルやシャツが入っていることを確認してから、燐は洗濯機を回した。
終わるまで風呂場の掃除をしようか、そう思っていると体に寒気が走った。

ぞくぞくと背筋を這うような感覚に燐は一瞬飛び跳ねる。

背中を確認してみるが、例えば天井から滴が落ちて背中を這ったような痕跡はない。
むしろ、体の中から沸き上がってきたという状態だろうか。
燐は首を傾げる。
さっきから自分に一体何が起こっているのだろうか。
考えるが、よくわからない。

生まれてこの方、燐は風邪すら引いたことがない。

悪魔という生まれが関係しているのだろうが、
そのせいで燐は自分の体調の変化に極端に気づかない。
これが俗に言う熱が出る前兆だとは全く思わなかった。
雪男がいれば自身の体験から気づいたかもしれないが、今ここに雪男はいない。

燐も雪男の看病をしているのでどういう状況で熱が出るかという順序は知っているが、
体験していない状態でそれを察するというのは無理があった。

「ま、大丈夫だろ。風呂掃除しよ」

燐は冷たい風の吹く広々とした風呂場をこれまた薄着で掃除し始めた。
風呂掃除が終わり洗濯物を干し終わる頃になると、
燐はいよいよ立っていられなくなってしまった。


寒い寒い寒い。
なんだこれ寒い。

自分の部屋に戻って、急いで布団にくるまった。
部屋は事前にストーブを焚いていたので、外よりも寒いということはあり得ない。
そのはずなのに燐の体はどんどん寒気を覚えて震えている。
布団にくるまって温まっているはずなのに、一向に体は温まる気配を見せない。
それに、意識がぼんやりとしてきている。
頭の回転がいいとはいえないが、
それにしたってまともなことが考えられなくなってきていた。

「え、ちょ・・・どう、したんだ・・・ろ」

ベッドの中でなんとか楽な姿勢はないだろうかと蠢くがどうにもならない。
ついには天井が回って見えるようになってきた。

燐はただ、いつもの日常を過ごしていただけだ。

変わったことは一切していない。
最近任務が少なくて、家にいることが多くなったなと思ったが、別に普通のことだろう。
自分に何が起きているのか、この状態をなんと呼べばいいのか。
燐には答えが見つからない。

「そ、そうだ。ゆきおに・・・れんらく・・・」

燐は呂律の回らない舌と頭を使って、
机の上に置いてあった携帯を手に取った。
ベッドから這い出て、机の上にある充電器に刺さった携帯を取るまでに、実に三十分かかった。
永遠ともいえる距離を移動したつもりの燐は、
息も絶え絶えに連絡を取った。

雪男に連絡をすれば、何かわかるかもしれない。

雪男が出かけてから既に六時間は経過していた。
燐の頭の中には雪男に電話するという目的しかなく、
六時間も立っていれば任務も始まっているという事実にまで頭が回らない。

何度連絡をすれども、留守電に繋がるだけだった。
ワン切りもしてみたけれど、折り返しの連絡もない。
誰に電話すれば、いいんだ。
っていうか何で俺電話してんだっけ。

気持ちが悪くなり、口を押さえる。
近くにあったコンビニの袋の中に吐いてしまう。
ご飯を食べていなかったせいか、水くらいしか吐く物はなかった。
それをゴミ箱に避難させる。
当然のことながらこれを片づける元気も体力もない。

足はがくがく震えるし、意識は朦朧としている。
けれどここで意識を失えば、最悪の事態になることだけは理解していた。

雪男は最低でも二日と半日は出張で戻らない。
連絡も通じない。普段この寮を訪れる者は皆無だ。
燐はなんとかして外部と連絡を取らなければ、
ここで丸二日倒れたまま動けないことになる可能性が高い。

「だ、だれか・・・」

腕が震える。
でも、雪男以外に誰に連絡をすれば。
燐の頭は全く回っていない。

爺はいない。修道院の皆、だめだ。忙しいよな。
塾の皆は、迷惑になるだろうし呼べない。

ここで迷惑になるかもと思ってしまうのは、
体が弱っている者特有の鬱状態と言えるだろうか。
家族ならば遠慮はしないが、全くの他人に頼るのは気が引ける。

ぐるぐるぐるぐる。

悩み続けて、熱は更に跳ね上がる。
もう寒気も感じない。これが一番まずい状態だ。
体温は測っていないけれど、
もし計れたのならば四十度を越していただろう。
このまま放置しておけば、間違いなく命の危険がある。

燐は意識を失いかけながら携帯を操作した。
ボタンを一つ押して、倒れ込む。
少ない電話帳の中から選択された連絡先は、無意識に押したものだった。
それでも画面に表示された名前に向かって必死に訴えた。
彼は、気づいてくれるだろうか。


***


「おや、奥村君から連絡とは珍しい」

メフィストは仕事中でありながら数コールの後に出た。
決済など電話をしながらでもできる。
滅多に連絡をしてこない末弟からの連絡だ。
何かおもしろいことでも起きたのだろうか。
それとも小遣いがなくなったから、追加でくれという催促だろうか。

けれど通話ボタンを押した先に出るだろう、燐の声は聞こえなかった。
頭に疑問符を浮かべながらメフィストは電話に話しかける。

もしもし、どうしたんですか。
イタ電ですか?切りますよー。

反応はなかった。
電話番号を確認してみる。
間違いなく、登録してある奥村燐の携帯からかかってきているようだ。
無言電話だと思って切ることはたやすい。
けれどそんないたずらをするようなタイプの子ではないとメフィストは知っている。

なにかあったのではないか。

メフィストは最後の書類にサインをすると、椅子から立ち上がった。
GPS機能を使うより、気配を察知する方が早い。
メフィストが燐の気配を探ろうとしたところで、
無言電話の先から音が聞こえてくる。
メフィストは耳を澄ませた。


『メフィ・・・スト・・・』
「燐くん?どうしたんですか、いったい何が」
『からだ、辛い。いたい・・・』
「痛い!?我慢強い貴方がどうしたんですか、
いきなり連絡してきて全然状況がわからないんですけど!!」
『うう・・・雪、男に連絡しても・・・繋がらなくて。
でも頭まわんないし。俺、もうどうしたらいいのか、わかんねぇよ・・・』
「わかりました!ええと、わからないんですけど
困っているのはわかりましたから、今どこにいるんですか?!」
『天井がまわるー・・・ぐすっ』
「ちょ、泣いているんですか!!」


メフィストは燐の位置を特定すると、スリーカウントで移動した。
こんなとき空間転移ができる能力があってよかったと思う。
部屋で倒れ込んで、うんうんと携帯に訴える燐の姿がそこにあった。
血みどろでも、敵に襲われて瀕死の重傷になっているとかそういう訳ではなかったらしい。
ひとまずほっとしてメフィストは燐の体を抱き起こした。

「あー、よかった命に関わるようなこと・・・
ですね!?こんな高熱出してどうしたんですか!!」

メフィストは燐の体に触れたことでようやく異常事態に気づく。
体が燃えるように熱く、燐の意識も朦朧としている。
燐は未だかつて体調を崩したことはない。
探ってみたが、祓魔の術などを受けた痕跡はなかった。
そうなると、燐の体に何かが起きたと考えるのが普通だろう。
弟の雪男は今任務でいない。
今回はそれがよかったかもしれない。
人間ではこの状態の燐を治すことなど不可能だっただろう。

メフィストは燐を抱き上げると、一瞬で自身の屋敷に戻った。
指を鳴らして屋敷に張っていた結界を更に強化する。
燐の体はどんどん熱くなっていく。

そう、まるで燃えるように。熱い。

メフィストはベリアルを呼び出すと、客用の寝室を急いで整えさせた。
ベリアルは準備を終えるとすぐに部屋を出て廊下に待機する。
寝室に足を踏み入れると同時に更に結界を厚くした。
これで足りるだろうか。

「まったく、やっかいな子だとは思っていましたがここまでとはね」

ベッドに寝かせた燐の体からはベリアルですら近づけないような膨大な魔力が宿っている。
けれどそれが外に出ることはなく、燐の体の中で暴れ回っているような状態だ。
この高熱の原因は、燐の力が暴走しているからに他ならない。

メフィストはここ最近の燐の任務を思い出していた。
ゴースト退治に、バリヨンの収集。
しばらくの間燐は簡単な任務しかこなしていないことがわかる。
そう、青い炎を使うような任務をここ一ヶ月全くしていないことがわかった。

「燐くん、聞こえますか?貴方一番直近で炎を使った記憶はありますか?」
「うー、ほの、お・・・?」
「そうです、気をしっかり持って。
持って行かれてはいけませんよ。思い出してください」
「わかんない、前から使ってない・・・気が、する」

意識が朦朧としている。
メフィストは舌打ちをした。
燐は悪魔としてまだまだ赤子も同然だ。
自分で魔力や力をコントロールするような器用なことができるタイプではない。
つまり、力を使うことでガス抜きの代わりになっていたのに
力を使うような任務がなかったことで、自分の体の中に炎をため込みすぎたのだ。

通常の悪魔ならばため込んだ魔力を体の維持に回したり、
敵との戦いに使用したりもするが、燐は「人間の体」を持っている。
メフィストやアマイモン等、上級悪魔が人間の死体に憑依するような、
そんな面倒なことをする必要性がない。
生きている悪魔は、魔力を使って死体―――憑依体の維持をする必要がない。
それに気づかなかった。
当たり前に自分がしていることが、燐にも当てはまると考えてはならないのだ。

メフィストも、適度に燐が力を振るえるように気を配ってやればよかったのだが。

メフィストは燐の様子を伺った。
苦しそうに息を吐いており、意識は朦朧としている。
炎に飲み込まれそうな燐を、メフィストはこちら側に引き戻す義務がある。

「燐君、手荒な真似をしますが我慢してくださいね」

燐の着ていた服をはぎ取り、体の上に跨った。
燐の体は熱い。それこそメフィストの肌が火傷してしまいそうなほどに。
手っとり早く熱を放つには、これが一番いいだろう。
体内に宿った炎は、きっかけがあれば爆発する。
そう、例えば身の危険を感じるような何かを。
メフィストはそれを作るだけだ。
ぐい、と燐の顔を乱暴に掴むとメフィストは顔を近づける。

どう、犯してやろうか。

乱暴な思いが渦巻く中、他人の体温を感じたのか。
燐の唇がそっと動いた。



とうさん



熱に浮かされながらつぶやいた、父を呼ぶ声。
メフィストではない。もういない男を呼ぶか細い声。

この状況で、絶対に助けに来ない者の名を呼ぶなんて。
メフィストはその声をあざ笑った。


「燐君、藤本は貴方にこんなことをしましたか?」


唇を塞ぎ、呼吸を奪う。
体の線を手でなぞり、手のひらを絡めて押さえつける。
足の間に体を忍ばせて、これからする行為を悟らせた。

知るがいい。
目の前にいる男が、君を庇護する者ではないことを。


「ここにいるのは、誰ですか?」


メフィストの鋭い爪が、燐の心臓を狙う。
途端に、燐の体から爆発するように青い炎が巻き起こった。
それは幾重にも重ねた結界を次々に壊していき、
メフィストも炎の勢いに飲まれながらも炎を囲い込むように空間の力を使い、消滅させていく。
とんだじゃじゃ馬だ。メフィストは燐を押さえ込もうと更に力を出して炎を取り囲む。


爆発した炎は二晩にも渡り、メフィストの屋敷と部屋を焼き付くした。


けれどそれは決して外に漏れることはなく、町は半径数百キロに渡り消滅することを免れた。
すべてが終わった後、時計の針を巻き戻すかのように。
屋敷は何事もなかったかのように修復されていく。


***


「俺・・・どうしてこんなとこいるんだ・・・?」


燐は目を覚ました。
実に二日と半日、このベッドで寝ていたのだがそんな自覚は全くない。
隣をみればぐったりとしたメフィストが、ベッドに倒れ込むようにして寝ている。

状況的にメフィストの屋敷にいるのだろう。
男子寮にこんな天蓋付きのベッドは存在しない。

見ればピンク色のパジャマを着せられ、額には冷たいタオルが乗せられていた。
看病してくれた、のだろうか。

メフィストは心底疲れた顔をしており、如何に燐の看病が大変だったのかが伺える。

思い返せば前後不覚に陥った自分は泣きながらメフィストに助けを求めていたようで、
今更ながらに自分の行動が恥ずかしい。

体はすっきりとしており、あんな高熱にうなされていたのが嘘のようだった。

まさか、この悪魔に看病してもらうなんて想像もつかなかった。
それでも、こうして回復したということは、
助けを求める先としては間違っていなかったのだろう。


夢の中で、今は亡き父に会えたような気がしたが。
それはきっと高熱が見せた幻だ。


小さな頃、雪男が熱を出した時。
父にそばにいてほしいと言っていた理由がわかった気がする。
燐はメフィストを起こさないようにそっと顔を近づけた。


「慣れないことさせてごめんな、ありがとう」


二人の距離が少しだけ、近くなった。



その後、メフィストに高熱の原因を教えられた上で、燐はこっぴどく叱られた。

ちゃんと自分の力をコントロールできていなかったのだから、そこは反論の仕様もない。
メフィストに今回のようなことが二度とないように約束をさせられて、
燐はようやく寮に戻ることが許された。
当然、燐の高熱のことは雪男に伝わっており戻った先で更に雪男にも叱られてしまった。

「体調が悪かったなら言ってくれたらよかったじゃないか!
携帯にかけても通じないし、何かあったんじゃないかってここ数日生きた心地がしなかったよ!」
「まぁ何かあったのは事実だし・・・俺もそれどころじゃなかったんだって」
「・・・ごめん、兄さんのこと。看病できなくて」
「いいよ、仕事だったんだし」

雪男はしばらくむくれていたが、燐は本題を忘れていたと説明を始めた。

「雪男。今回はよかったんだけど、
俺任務がない時は月に一回メフィストの所に行かないといけないんだって」
「どうして?今回で終わりじゃないってこと?」

今回は燐が炎をため込み過ぎたことが原因だ。
つまり定期的に炎を発散させてやらなければならない。
そうでなければ今回のようなことがまた起きてしまいかねない。

メフィストがいたからよかったようなものの、
燐は一歩間違えば町を一つ破壊しかねなかったのだ。
燐はまじめな表情で説明した。



「メフィストが俺に生理があるからだって、言ってた」


曰く。
魔力が溜まっていくのは悪魔にとっての生理現象みたいなものですから。
君は気にしなくていいんですよ。
それよりもまず自分の力をコントロールすることを覚えなさい。
困ったなら、月に一度私の所に来るといい。
私の結界内ならば例え炎が暴発しても大丈夫ですからね。

メフィストはそういっていた。
燐は全部覚えきれなかったので、かいつまんで雪男に説明をしただけだ。
高熱を出したせいで、燐の頭は更に回転が悪くなっている。


「なにそれ意味がわからない!!」


雪男がメフィストの屋敷に殴り込みをかけるまで、五秒もかからなかった。

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