忍者ブログ

CAPCOON7

青祓のネタ庫

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

拍手ありがとうございます


ぱちぱちだけの方もありがとうございます!
ようやっと亡国のプリズムも完結致しました。
先週は更新できずすみません。
頭痛と嘔吐が続いてまったくパソコンに触れる状況ではなかったもので汗

以下、拍手返信です~。

2014/04/28
亡国の続き待ってました!~の方

拍手ありがとうございます!
更新まで間が空いてしまいすみません。賛否両論ありそうな結末でしたが如何でしたでしょうか汗 
ルシフェルお兄様が結構な割合で出てきましたが、あれは私の趣味です。
原作での燐とのバトルが待ちきれずに書いてしまいました笑 二人の絡みも楽しみですよね!
拍手虎燐への感想もありがとうございます。
長編はこれで完結ですが、ちょっとでも気に入って頂けたなら幸いです!


年々年取ると無理がきかなくなってきますね。
肩こりと首の痛みがとれなくて頭痛がひどい、来週も大変そうです。
運動しないとだめですね・・・orz

PR

亡国のプリズム12


雪男は王宮にあるプライベートガーデンの片隅に来ていた。
そこには色とりどりの草花が茂っており、中には薬に使う貴重な植物もある。
雪男以外にはガーデンの世話をしにきている幼なじみの召使いくらいしか、ここを訪れる者はいない。
そこに雪男はひっそりと小さな墓石を作っていた。
兄の名前は刻んでいない。ただ、その石の前に花を手向けて話しかけた。

「僕は、いつだって置いてけぼりだね」

兄に守られて、小さな僕は生き抜いた。そして、今回も。
こんなにも近くにいたのに、守ることができなかった。
雪男の手のひらから、いつだって兄はすり抜けて遠くへいってしまう。

この国を良くしようと思ったのだって、生きていこうと思ったのだって。王になることを受け入れたのだって。
全ては兄が戻ってきたときに、帰る場所を作ってあげたかったからだったのに。

雪男の夢は崩れていった。
目の前で燐が残した最期の言葉と一緒に砕けて散ったのだ。

騎士団長の死は、名誉の死として国を挙げて国葬が行われた。
代々騎士団長が亡くなった際に刻まれる墓石に、名前が増えただけのことだ。その下に遺体はない。
こうしてひっそりと作った墓石も、雪男が自身のことを戒める為に作っただけのより所。

ここに、燐はいないのだ。

思い出すのは、別れた夜のことだった。
兄の作る料理が明日も食べられますように。
そう願いを込めて、スープを作って欲しいと強請った。
美味しい物を食べさせてやると笑ったあの笑顔が忘れられない。
あの約束は守られることはなくなった。

兄さん、どうしてここにいないのさ。

涙が溢れ出しそうだ。けれども、流れ出すことはない。
自分に泣く資格など有りはしないのだ。
雪男は背後に向かって声をかけた。

「覗き見ですか、フェレス卿」

雪男の背後にはメフィスト=フェレスが立っていた。
音も立てずに舞い降りたその姿にニヤついた笑顔、やはり彼は悪魔そのものだった。

「嘆きの王の様子はどのようなものかと、興味がございまして」
「悪趣味な」
「今更なコメントですね」

メフィストはやれやれとため息をついた。
いつもの王ならば百倍くらいに嫌味を込めて返してくるようなものを。
兄を目の前で亡くしたことがそんなにもショックだったのか。
ならば、好都合だ。
メフィストはそのことを知った上で、王に甘言を囁いた。

「王よ、私は貴方のお兄さんとある契約を結んでいました」

この国は、悪魔に攻められているんだろ。
雪男が生きているこの国に、手出しなんかさせねぇ。
俺が魔神を倒して、雪男が安心して暮らせる世界を作るんだ。

そう言って、彼は弟の盾となり散っていった。

弟に会いたいその一心で彼は上へ上へと上り詰めた。
人を殺した夜の日。自分の不手際で部下を死なせてしまったこと。
任務に失敗し瀕死の重傷を負った時。
助けた村の者から化け物と罵られたこともある。
それらすべてを身の内に抱えたまま、もだえ苦しみながら前へ前へ進んでいった。
彼は、王の弟であることを周囲に決して告げられない立場にいた。
それはつまり、周囲にいる人間すべてに嘘をついているということになる。
誰にも頼ることができない中で、
唯一自分の全てを知っている弟の存在は彼にとっての救いとなった。

弟に会いたいと叫ぶ心が、悲鳴が。
メフィスト=フェレスを呼び出した対価となり、
甘い蜜をメフィストへと齎していた。

「召喚者が死ねばその契約は破棄されるはずなのですが、
いやはや、どうして今も私と彼の契約は切られていないのでしょう。
不思議です。そうは思いませんか、王よ」
「なん、だって・・・?」

貴方のお兄さんの心は、今も貴方に会いたいと泣いているのですよ。
そう告げられて雪男の心臓は早鐘を打った。
まさか、まさか。兄さんが生きている。
生きて、敵国に捕らわれているのだとしたら。

雪男は墓石を見た。そこに名前はない。
刻まれるとするならば、そう兄が死んだと思い込んでいた
不甲斐ない自分の名前が刻まれるのが相応しい。
雪男はプライベートガーデンに背を向けた。
もう、ここに戻ってくるつもりはなかった。

「フェレス卿、国中の兵力を集めてください。そして武器の状況も。
そして、次代の騎士団長はいりません」
「おや、それはどうしてですか」
「王自らが出向くからです。今回の戦で国境線は守られました。
こちらにもダメージはありますが、それは向こうにとっても同じこと。
もう今までのような小競り合いはなしだ。正真正銘の戦争を、始めます」

用意を。と告げた雪男の瞳に、もう涙の色はない。
そこには冷酷な王としての判断があった。
欲しいものは力づくで手に入れる。
王は貪欲でなければならない。それが例え国を滅ぼすことになったとしても。

「承知いたしました、強欲なる王よ。
私は人の側に着いた悪魔。人と悪魔の戦争の行く末を見守らせて頂きます」

アインス・ツヴァイ・ドライ、とメフィストのスリーカウントが国に響く。
それは、滅亡へのカウントダウンのようにも聞こえた。


***


遠い記憶の中に、眼鏡をかけた男の子がいた。
その子供は俺の姿を見るなり泣きやんで、俺に向かってこう言った。
兄さん。俺は首を傾げる。俺は末っ子のはずだ。
だから俺に弟なんているはずないのに。
不思議なことに、俺はその子供の名前を夢の中で呼んでいる。

「目が覚めましたか、燐」

声をかけられて目を開ける。そこには長兄であるルシフェルがいた。
燐はそのルシフェルの隣で寝ていた形だ。
ルシフェルは起きあがって燐の顔をのぞき込むようにしている。

まるで愛しい者を見るかのような視線に、燐は戸惑いを隠せない。
それに、どうしてルシフェルの隣で寝ているのだろう。
兄とそういう関係を結ばされたのは別に最近のことではない。昔からのことだ。
その解釈で間違いはないはず。
けれど、この現実は一体いつから始まっているのだろう。

燐は目の前の不可解な事実に目眩を覚えた。
ルシフェルは不安そうな燐の頭をそっと撫でる。
安心させようとしているのだろう。

「怖い夢でも見たのですか」

戸惑う燐の頭に乗せられたルシフェルの手のひらからは光が溢れていた。
その光は燐の頭の中に入り込み、大切な記憶をがらがらと音も無く壊していく。
そのことに燐は気づかない。
むしろ、ルシフェルに頭を撫でられていると
自分を悩ませていたことから解き放たれるような気がしていた。
しばらくすると、燐は怖い夢のことなどすっかりと忘れてしまっている。

「夢見が悪かったみたいだ、もう大丈夫」
「それはよかった」
「ルシフェルは体の方は大丈夫なのか?」
「ええ、人の体だった時の状態を引きずってはいますが、
今はもうその体もありません。程なく、回復することでしょう」
「人ってしぶといな。ルシフェルに体を捨てさせることができる奴がいるなんて、俺信じられないよ」
「まさか敵国の騎士団長があそこまで成長しているとは私も思っていなかったのでね。
燐も気をつけなさい。人だからといって決して相手を侮ってはいけませんよ」
「わかってる」

ルシフェルは愛おしそうに燐の体に触れた。
燐は魔神の炎を継いでいながら人としての肉体を持つ唯一の存在だ。

燐は敵国の攻撃を受けて、一時意識不明に陥っていたのだが
最近になってようやく動けるようになった。というのが召使いたちから聞いた自分の状況だった。

燐を庇ったのはルシフェルだと聞いているので、この長兄には頭が上がらない。
ルシフェルは気にするなと言ってくれるが、
せめて未だ動けない長兄の代わりにできることはしようと燐は思っていた。

「さ、目が覚めたのなら父上にご挨拶に行ってきなさい。
貴方の目覚めをずっと待っていたのですからね」
「俺、あいつのこと嫌い」
「そう言わずに。上手にできたら・・・そうですね、今晩はごほうびをあげましょうか」

ルシフェルは夜のにおいを漂わせて燐の首元に唇を寄せた。
燐は真っ赤になってルシフェルから離れる。
いらねぇよ!と叫んでから燐は扉の外に出ていった。
いつまでたっても初な様子の燐にルシフェルは仕方のない子だと微笑んだ。
燐の足音は遠く離れていく。きっと言いつけを守って父上に会いにいったのだろう。
いい子だ。本当に。体を捨ててまで浚ってきたかいがあるというものだ。

「ここにいることが、貴方自身の為でもあるのですよ。
存分に力を振るい、悪魔を従わせ、そして今まで貴方が守ってきた人の世界を貴方自身が壊すのです」

悪魔の世界の若君が人から下民扱いを受けているなど耐えられるものではない。
燐自身がなんとも思っていなくとも、悪魔はそれを許さない。
これは、あなた自身が行う、人の世界への復讐の序曲。

「貴方は、きっといい声で泣いてくれるでしょう」

今夜も、そしてきっと世界が終わるその時も。


***


そこは辺り一面何もない砂漠だった。
かつて、ここには国があったらしい。
たき火を囲っている一人の男性に、男が一人近寄った。
砂漠の夜は寒い。通りがかった行きずりの仲だが、一人で過ごすより暖は取れるだろう。
二人はたき火を囲って、少しの間話をした。

「ここは悪魔が治める国と人が治める国が争った跡だ、もう何も残っていない」
「彼らを統治する国が滅びたので悪魔も人も世界中に散ったと聞いています」
「そうなると、今の世界の始まりの場所かもしれないな」
「いい意味でも悪い意味でも、ですかね?」
「違いない」
「どちらが負けた、とかは聞いたことがありますか?」
「さぁ、どうだったかな。滅びたのならばどちらが勝ったとかもないんじゃないか」
「人は結構な数が生き残ったと聞いたのですが、悪魔はどうだったんでしょうね」
「悪魔も余り見なくなったからな。生き残ったって基準で考えるなら人の勝ちか?」
「どうでしょう、僕も詳しくはわかりません。
でも生き残った人の話では、敵対するはずの青い炎のおかげで生き残ったのだと。
それは悪魔達の内側から沸き起こってきたそうです」
「・・・悪魔の中に裏切り者でもいたのかね」
「人にとっては味方と言えますよ。―――真実は今や砂の中ですけどね」

二人はそのまま黙って火を囲んでいたが、
しばらくして男の一人が鍋を火にかけ始めた。
暗闇でよく見えないが、恐らくはスープだろう。
煮えてくると、辺りにいいにおいが漂ってくる。

男は二つ椀を取り出すと、片方をもう一人の男に手渡した。
ありがたく男が受け取ると、温かいスープがその椀に注がれる。
寒い夜には温かいスープが一番だ。
男はごくりとスープを飲んだ。
何の変哲もない、具材も何もあったものじゃない粗末なものだった。
けれど、そこには全ての答えが詰まっていた。

男は、顔の見えない男に声をかけた。


「こんなところにいたんだね」


国が滅びた砂漠の上で、夜空の星がきらきらと輝いていた。

亡国のプリズム11

光の刃が迫っている。けれど避けるような動作はしない。
それよりもただ、ただ。目の前にいる敵を斬る。
その為の動きをしなければならない。

悪魔としての力を解放し、全てを持ってこいつを殺す。

燐は抜刀した。
青い炎に自分の体が包まれるのがわかる。
心臓がなかった時には感じなかった鼓動も聞こえる。
どくん、どくん。燐は生きていると思った。
幼い頃に心臓を奪われて、燐の力は常に制御された状態になっていた。
使える青い炎の量も少ないものだった。

それがどうだろう。手にした力は燐の全身に血の様に行きわたり、感覚全てが研ぎ澄まされる。
その感覚を持ってしても、この千の刃を避けることは不可能だと断じている。
この千の刃は己を一瞬の内に貫き殺すことができる。

ならば、共に死ぬのもいいだろう。
それで燐の大切なものが守られるというのならばそれでいいだろう。

光の刃が螺旋を描く。
燐はその刃の中心できらめくただ一つの青い刃だ。
速く速く速く。
青い光の線となって、燐の刃がルシフェルの首元に届こうとしていた。

けれどそれよりも早く光の刃が燐の元に。
足が斬れ、腕が斬れ、腹が斬られる。
致命傷になるまで深く抉られる前に。前へ出ろ。
頭で命じても体が前に動かない。

あと一歩なのに。

傷のせいで燐の刃の矛先が首元ではなく、ルシフェルの仮面に向かってしまう。
ルシフェルの顔は固い仮面でおおわれている。

一秒よりも短い時間の中の攻防ではその刃の遅れは命取りだ。
仮面の奥で暗い瞳が笑っている。
自身の勝ちを見た者の笑みだ。
ここで燐がルシフェルを討たなければ、誰が彼を止めるのだろう。
あと少し。
あと一歩が、足りない。

燐の刃が止まるかと思われた時。

ルシフェルの仮面が割れた。
額から綺麗に、二つに崩れ落ちていく仮面。
見れば、そこには一発の銃弾が撃ち込まれていた。
千の光の刃を潜り抜けて、彼の仮面を壊すためだけに届いた一発の銃弾。
そのイレギュラーは、戦場の中で命取りとなる。

燐は笑った。
燐の祖国の王は、機械の様に精密な射撃を得意としていると風の噂で聞いたことがある。
きっと、彼だ。
最後の一歩は、彼が押してくれた。

燐は刃に貫かれながら、一歩を踏み出した。
足には幾重にも折り重なるようにルシフェルの光の刃が刺さっている。
踏み込めば血があふれ、筋が斬れる。
踏み留まれるような状態でも、動けるような状態でもない。

それでも燐は、一歩を踏み出した。


「地を這って生きてきた、虫けらの痛みを思い知れ!」


彼の実験のせいで、大勢の人が死んだ。
国の外れて細々と生きていた人たちは、皆実験に使われ屍人に襲われ名もなき村は滅びた。
大切な人を亡くしていった。悪魔は人を喰っていた。
弄んでいた。嘲っていた。悪魔はずっと嗤っていた。

馬鹿にしやがって。燐はいつだって叫びたかった。
傲慢だ。力ある者が他者を蹂躙していいなんて誰が決めたと言ってやりたかった。

燐は人に全てを奪われて、悪魔に人であることを奪われて。
地べたを這いつくばるように生きるしかなった。
それでも、一度たりとも自分は悪魔のように生きたいとは思わなかった。
俺は人だ。悪魔だけど、人間なんだ。
燐は悪魔としての力を用いて、人として目の前の悪魔を殺す。

光り輝き、天に居座る者を打ち落とすように。
燐はルシフェルの首を搔き切った。

同時に、燐の体も光に打ち抜かれていた。
痛みはない。痛みなどという種類の物からはかけ離れている。
取り戻した感覚が、全て消失していく。
あんなにも熱かった鼓動が、時を止める。
青い炎は、ルシフェルの体へ宿り、燐の代わりに彼を焼き尽くしている。
燐の体に炎の灯はない。

ああ、終わった。

脳裏に浮かんだのは、弟の姿だった。
燐は息を吐いた。口からは大量の血が溢れ出している。
ルシフェルと視線が合った。
彼は自分が焼かれているというのに、笑っていた。
彼は嬉しいのだろう。思い通りにならない燐がいることが面白くてしょうがないのだろう。
燐が抵抗すればするだけ彼は楽しく思うのだ。
最悪だな。燐はルシフェルを睨み付けた。
それが、最後に二人が交わした視線だった。

燐の視界が、身体が、電池が切れたかのように真っ黒に染まっていく。
それは光を殺そうとした者への代償だったのかもしれない。


***


雪男は戦場の上を飛んでいた。出雲の使役する使い魔の背に乗せてもらっているのだ。
前には神木出雲がいる。宮殿に使える侍女である彼女がまさか手騎士としての才能を
秘めていたなんて考えたこともなかった。
雪男は持っていた銃を降ろした。銃口からは一筋の煙が出ている。

「私は、燐に頼まれていたんです。
王の傍に仕えて、何かがあった時は自分の代わりに王を守って欲しいと」

燐に救われた姉妹は、そうすることで燐への恩返しをしようと考えたのだ。
それに王宮に仕えていれば食べることに困ることもないし、
何よりあの研究所の輩も敵国の王宮に仕える者に手出しはしにくい。
本当なら、燐との約束があるので雪男をここに連れてきたくはなかった。
メフィストが余計なことを言うからいけないのだ。

『戦場にはきっと、燐くんを攫うために敵国の第二王位継承者であるルシフェルが来ていることでしょう。
燐くんは皮肉なことに、この国の王位継承権を持っていながら、敵国の第一王位継承権を持つと言う
複雑な立場です。父上を心酔している兄上が、彼に何かをしないはずはない』

やっと見つけた兄を奪われるような事態を、雪男が放っておくはずはない。
あれは絶対にわざとだ。しかもルシフェルは出雲のことも雪男にばらした。
せっかく今まで秘密にしてきたことが全て台無しである。
けれど、動くなら今しかないということも出雲は理解していた。

「王、僭越ながら申し上げます。私にできるのは貴方を安全な場所に運ぶことだけです。
危険を冒すようなことはできません。それは燐との約束に反することだからです」
「かまわない、僕を連れて行ってくれ」

雪男の様子を見ていた出雲は思わず腕をさすってしまった。
銃口から上る煙が、雪男が発砲したことを物語っている。
鳥肌が立っている。それは雪男が放った殺気のせいだった。
雪男は戦場の上に着くや否や、ライフルを構えた。
王が銃を使うことは知っていたが、戯れで狩りをするときにしか使っていないのだろうというのが
大よその使用人たちの見解だった。
けれど、ライフルの構え方から標的を狙う姿勢まで全てが戦う者として完成されていた。
王は王で、きっとこれまでの間に何人もの人を殺してこざるをえなかったのだろう。

私や、燐と同じだ。出雲は思った。
手を汚していない者などこの世界にはいないのではないだろうか。
そう思ってしまうくらい、この世界は荒廃している。

青い光と白い光が交差する戦場の中へと、雪男は迷わず引き金を引いた。
螺旋を描くように青い炎と白い光が折り重なって、やがて戦場に青い光だけが残る。

美しい光景だった。

青い光は水面のように戦場に広がり、赤い炎と屍人で覆い尽くされていた戦場を鎮めていく。
悪魔は燃え、人は残る。
ほどなくして、青い炎はまるで雪が散るかのように消えていった。

雪男は戦場を見下ろして、自軍の状況を確認した。
前線の兵は、三割ほど失ってしまったようだった。けれどこの状況で三割で済んだことが奇跡だろう。
今までと同じように、騎士団長が倶梨伽羅を使用してこの場を収めたかのように思える。
けれど、今回の倶梨伽羅の使用者は本来の持ち主である燐だ。
今までのようにはいかないはずだ。
雪男は祈るような気持ちで、出雲に戦場に降りるように言った。
出雲はまだ敵がいるかもしれないからそれはできないと雪男に告げる。
けれど雪男は確信を持っているようだった。


「あそこに、兄さんがいるんだ。迎えにいかないといけない、お願いだ」


出雲には何も感じなかった。雪男は最後に光の刃が消えた辺りを指差している。
おそらく、燐は。出雲は唇を噛み締める。
弟に会いたいと願っていた。それを叶えてやりたいと思うのは自然なことだった。
出雲はもしもの時は王の盾になる覚悟を決め、戦場に降り立った。

雪男は迷わずに進んでいく。屍人の気配もないので、本当に全て青い炎で殲滅したのだろう。
草も、木もない。白い地面の中に佇む人がいた。
別れた時と同じだ。雪男はそう思った。
土埃で汚れてしまった服を纏って、ずっと会いたいと願っていた人がそこにいる。

「兄さん」

雪男が声をかけた。彼は振り返る。
雪男と同じ青い瞳に赤い虹彩。彼らが双子である証だ。
燐は笑っていた。少し悲しそうに。

「大きくなったなぁ」

燐の頭の中では、雪男は小さなころのままなのだろう。
雪男は言い返した。

「兄さんは小さくなったね」
「お前がでかくなったんだろ。生意気だ」
「いいじゃない。僕はもう兄さんに守られているだけの存在じゃないんだ」
「・・・こんなところで、会っちまうなんてな」
「場所なんてどこでもいいよ。僕は会いたかった。ずっとずっと、兄さんに会いたかった。
ようやく夢が叶ったよ」
「お前が幸せに暮らしてるってわかったら、それでいいって最初は思ってたんだけど。
駄目だな、やっぱりどんどん欲張りになっていった。俺もずっとお前に会いたかった」
「じゃあなんで言ってくれなかったの」
「言えるような立場じゃないだろ」

何処から来たのかもわからないような孤児が、どうして王に会えるだろうか。
王の兄だと言って誰が信じるというのだろう。
不敬だと消されるのが普通だろう。それでも。

「遠くから見るだけで満足なんて、自己満足もいいとこだ。僕に失礼だよ」
「・・・今まで黙っててごめんな」
「いいよ。僕はずっと謝りたかった。兄さんは僕を守るために自分の全てを犠牲にしたってわかってる。
ずっとずっと謝りたかったんだ。兄さんの置かれている境遇を僕が代わることができたらってずっと思ってたんだ」
「そんなの俺が嫌だよ、俺はこれでよかったって思ってるんだから」
「聞いてよ」

雪男は言った。


「僕と生きて」


雪男は手を差し伸べた。
燐がその手を取ることはなかった。
ただ、悲しそうに首を横に振るだけだった。

雪男は呼ばれた。燐からではない。背後に控えていた出雲からだった。
王よ、一体誰と話しているのですか。
出雲の目には雪男の姿しか映らない。この場にいるのは雪男と出雲の二人だけ。
それが、この世界の現実だった。
雪男の目に映る燐の体にはヒビが入っていく。夢が終わる。
その度にきらきらと光の粒子が飛び散った。
まるでプリズムが砕けていくように。彼は散る。


「お前がいてくれるなら、壊れたってよかったんだ」


ぱきん、と目の前で兄が砕け散った。
雪男はその欠片に手を伸ばしたけれど、掴むことはできなかった。

亡国のプリズム10


「もう一度言います、私と共に来なさい」

ルシフェルが燐に向かって高圧的にそう言った。
燐は乱暴な言い方でルシフェルの誘いを断った。

「誰がお前のところなんかに。死んでもごめんだッ」

ごほりと燐の口から血が溢れる。
燃え盛る地面の中、ただ前に前に進んでいく屍人と、降り注ぐ光の刃。

地獄が、歩きだしている。

燐の守ろうとしている部下達に、町に、人に。
そして王である雪男にこの地獄を見せてはいけない。
燐は倶利伽羅を抜こうと手を伸ばすが、できない。
燐の体は今、地面に縫いつけられている。
文字通り、光の刃で貫かれた手足は動くたびに筋が切れ、血が吹き出している。
腰に下げたままの倶利伽羅を取ろうにも、身動きが取れない。
その間にも、燐の悪魔の聴覚は人の悲鳴を聞き取っていた。
うわあ、屍人だ。恐れるな立ち向かうんだ。助けて。イヤだ、死にたくない。
恐れ、怯え、悲鳴、怒号。部下達がこんなにも近い場所で死んでいく、恐怖。
燐は叫んだ。

「ちく、しょう。はな、せッ、やめろおおお!!」

動けたのなら、飛んでいきたい。動く屍人を殺しつくす力を持っているのに。それができない。
倒れている部下を助け起こすことも、身を挺して庇うこともできない。
ただ、見ているだけを強要されるなんて。
ルシフェルは燐が一番嫌がることを知っていて、やっている。
悪魔め、燐は泣きたくなった。
けれど目に涙を浮かべながらも、決して泣いたりはしない。
目の前にいるルシフェルに負けるものかとにらみつけるが、
それもルシフェルの気分を高めるだけの行為だとは燐は気づかない。
その証拠に、燐の体に触れるルシフェルの手は熱かった。

「いい悲鳴だ、まるで貴方との初めての夜を思い出しますね燐」

周囲は地獄のような光景なのに、ルシフェルはまるで寝所で睦言を囁いているようだ。
燐は鳥肌が立った。あの日、ルシフェルの元から逃げ出してから、
忘れよう忘れようと努めていたことを思い出してしまう。

どんなに叫んでも、泣いても、いいように弄ばれてそこに燐の意志などなかった。

違う、違う、違う。
あのころとは違うんだ。燐は体に炎を宿す。
青い炎は燐の体に触れていたルシフェルの手を焼いた。
肉の焼けるにおいは酷いにおいだったが、もう辺りは火の海だ。
死体も、生き物も焼けている。今更だろう。
ルシフェルは焼ける自身の手を見て、にやりと笑った。

「ひどい子だ」

燐の体から、光の刃が消えていく。
急激に消えたせいで、傷口からは更にひどく血が吹き出していった。
燐の血はルシフェルの仮面をも汚し、仮面を伝った血はルシフェルの唇にまでこぼれ落ちる。
その血を丁寧に舌で舐め取ると、甘い味が口の中に広まっていく。

ああ、これだからこの子はたまらない。

血の海に沈む燐の腰に、手を伸ばす。
そこには燐の心臓を封印した、倶利伽羅があった。
倶利伽羅は幾度となく、戦争で使われた。
使用者は青い炎に耐えきれず消滅し、悪魔を焼き付くした後には何も残らない。
その倶利伽羅は悪魔に回収される前に全て人に回収されていた。

今日この日、倶利伽羅も燐も悪魔の手に堕ちる。

「この倶利伽羅で貴方を貫けば、貴方は真の悪魔として生きられる。
父上の跡を継げるのは、青い炎を継いだ貴方だけです。
貴方は、あの国の者でも、ましてや貴方のものでもない。
貴方は父上のものなのです。我らが父上の元に帰り、人の世界を壊しなさい。
貴方が守ってきた世界を貴方の手で壊すのです。
それが貴方のこれからの、生きる道だ」

ルシフェルが指を鳴らすと、壊された燐の甲冑すらも剥がれおちていった。
燐が纏うものは、薄いアンダーと薄汚れたズボンのみ。
そのどちらも血で汚れているし、横たわった体の隙間から悪魔の証である黒い尾が見えている。
そこに騎士団長としての姿はない。
ルシフェルが出会った頃のような、燐の姿があるだけだ。
倶利伽羅を鞘の状態のまま、燐の心臓部分へ向ける。
心臓を元の場所に戻すだけのこと。
けれども、燐の体を刺し貫く行為ということにルシフェルの胸は知らず熱くなってしまう。

「私と生きなさい、燐」

何の役にも立たない人間の弟のことなど、忘れてしまいなさい。

ルシフェルは倶利伽羅で燐を貫こうとした。
けれど、その動作は強い力で止められてしまう。
燐が血塗れの手で倶利伽羅を掴んでいた。鞘からはまだ刀身は抜かれていない。
まだ抵抗するのか。ルシフェルは燐の手を振り払おうとした。
けれど、その手は決して離れない。
燐は口を動かした。かすかな声だったけれど、それは地の底から響くような声だった。

「忘れる、もんか」

俺が生きていたいと思ったのは、雪男がいたからだ。
雪男が王として生きるなら、その盾でありたいと思った。

騎士団に入ってから、全てが順風満帆だったというわけではない。
汚い仕事も、たくさんしてきた。雪男には決して言えないこともしている。
こんなことを俺がしていると知ったら、雪男はきっと俺のことを嫌いになるだろう。

もう俺は、雪男の知っている俺じゃない。

幼い頃に別れた時のまま美しい思い出のままで俺のことを覚えていて欲しいと思う。
けれど、そうじゃないとも思ってしまう。

俺のことを知っていて欲しい。
今の、俺を。
悪魔になった俺のことも、知っていて欲しい。

雪男、俺はここにいるんだ。

俺はお前のことを見上げるだけで、地べたを這い蹲って生きているだけで。
王になったお前に会うこともできない、ちっぽけな存在で。
お前と同じ人間じゃなくなっても、それでも生きてきた。

会いたい。会いたい。会いたい。
お前に会って、伝えたい。
お前に会いたかったって、だから頑張ってこれたんだって。


「俺は雪男のこと、忘れたりなんかしない!!」


俺とは違う、人間の弟。
あいつに一目会うまでは、俺は死なない。
忘れたりなんかしない。
絶対に生きて、お前に刃向かって。
全てを持って悪魔を殺す。
俺は負けない。

燐の体から青い炎が吹き出してきた。
その炎は倶利伽羅に伝わり、どくんどくんと心臓の音が響きわたってきた。
血塗れの体でなお、立ち上がりルシフェルに向かおうとする姿に、感銘を受けた。


「素晴らしい、ならば私の全てを持って貴方を打ち砕いて差し上げましょう」


今の貴方を殺せるのは、私くらいのものでしょうから。

光の刃が、出現した。千の刃だ。
その全てが燐に向かっている。
燐は悪魔だから、滅多なことでは死なないけれど。
この全てを見に受ければ間違いなく死ぬだろう。
全て覚悟の上だ。
こいつと敵対する覚悟を決めてから、いつかは訪れると思っていた瞬間。

燐は倶利伽羅をルシフェルの手から奪う。
それが合図だった。

倶利伽羅が抜かれ、青い炎と光の刃が交差する。
戦場に、まばゆい光が舞い降りた。


拍手ありがとうございます。


ぱちぱちだけの方もありがとうございます!
以下返信です~。

2014/04/01
小屋暮らし~の続き待ってたので読めて嬉しかったです~の方

コメントありがとうございます!反応頂けて嬉しいです。
メフィストが外道のメフィ燐が好物な為、燐が通常よりも酷い目にあっています笑
お兄様が出張ってきていますが、メフィ燐はこれからも応援していきたいCP
なので、これからも書いていきますね。
同志様がいらっしゃると励みになります、ありがとうございました!



仕事が忙しいですが、本も作りたいし更新もしたい・・・!
最近青祓で更新されてる方が少ないのはイベントが近いからだと
私は信じております。
皆様の本をお待ちしています。応援しております。

夏のインテは出たいと考えているのですが・・・
今から頑張らないとですね(遠い目)


TemplateDesign by KARMA7

忍者ブログ [PR]