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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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サンプル:今日から俺は

※WEB用に改行しておりますが実際は詰めております。


異変が起きたのはそのすぐあとだった。

調印を終え、あとはお互いにこの和平の場を滞りなく終わらせたと宣言するだけの場で。
一発の銃弾が会場に潜り込んだ。
その銃弾は余程腕のいいスナイパーが放ったのだろう。
燐の頭めがけてそれは飛んできた。通常狙うならば頭ではなく体だ。
体ならば多少狙った位置から外れても腹や腕などに当てることができる。

倒れ込んで動かなくなったところで、二発目で止めを刺す。
頭を撃っても上手くいかないことが多いのは、
頭がい骨はカーブを描いているので、
弾がその軌道に沿って外れてしまうことがあるからだ。
頭を狙ったということは確実に仕留める気で来ているのだろう。
それも一発で。
一発で成功させなければならない理由がその狙撃者にはあった。

けれど、その一発は燐に当たることはなかった。
アスタロトが止めたわけではない。燐は自力でその弾を弾いた。
それは青い炎の膜であった。三賢者、
背後に控えるアスタロトをもすっぽりと覆い尽くす青い炎の檻。
彼は炎を自在に操ることで、外敵から身を守る。

その証拠に放たれた銃弾は青い炎のせいで溶けて地面に落ちていた。
燐はそれを指先で摘まんで、弾いた。まるでおもちゃを扱っているかのようだ。

「熱烈な視線だな。キスされるのかと思ったぜ」

命を狙われていたというのに軽口を叩く彼。
雪男はスコープ越しに彼を見た。一瞬彼と目があった気がした。
心臓がはねる。今までどの人にも感じたことのない衝動だ。

「俺を殺したいのなら、もっと激しいのか。
もしくは不意打ちくらいだろうな」

アスタロトが燐の安否を気遣う。燐はそれに笑って答えた。
三賢者がすぐさま謝罪をすればアスタロトは激昂した。
これでは身辺警護もままならぬ。帰らせてもらう。
全面戦争だととても人にとって恐ろしいことを言っている。
燐は全く気にしていないようで、むしろアスタロトのことを止めている。

彼はどうやら物質界に興味を持っているようで、無下に壊したりはしたくないらしい。
それは人にとっては好都合。
雪男はスコープを上から下へとずらす。
彼の姿はとても魅力的だ。
もしかしたら人を惑わすような何かを発しているのかもしれない。
彼は悪魔だから。人を惑わすのは悪魔の本能だ。
彼の姿に胸を躍らせていると、養父から通信が入った。

「雪男大丈夫か」
「僕は大丈夫だよ。どうしたの」
「いや、さっき少しだけお前の通信と繋がってたんだけど。
銃声が聞こえたから何事かと思って」
「うん、僕も聞こえた。多分僕の近くから彼を狙った弾丸が撃たれたんだと思う。
実は今、そいつを追ってる」
「おい馬鹿、無茶すんな!戻れ!」
「平気さ、無理そうなら引き上げるから」

雪男は通信を切って走る。早くこの場から離れて彼を追おう。
スコープ越しに見た彼は、その身を建物の中へと移した。
なるほど、狙撃を防ぐ為にはいい判断だ。雪男はスコープから目を離す。
ずっと覗いていたので、神経が疲れている。

「はぁ、早く終わらないかな」

和平の式典というものはどうしてこうも長いのか。
待っているこっちの身にもなってほしい。
この後、虚無界の若君を狙った狙撃は行われず、調印は無事に終了した。

ここに物質界と虚無界の和平は成立したことになる。

つまり、虚無界の若君のホームステイの始まりであった。

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サンプル:時の果てまで


※WEB用に改行しておりますが実際は詰めております。


メフィストは気配を探った。小さな青い光が見える。
この気配は間違いない。燐のものだ。魔神の気配は消失している。

メフィストは笑う。ああ、ついにやったのですね。

手を叩いて喜びたいくらいだったが、燐の無事を確かめるのが先だった。
うっすらとした青い炎につつまれた燐が、地面に倒れ込んでいた。
体からは多くの血が流れていたが、致命傷は負っていない。生きている。
メフィストは燐の体を抱き起こした。

とうとうやりましたね、奥村君。
燐の仲間達もすぐに来ることだろう。
メフィストはそう思っていた。だけど、そうはならなかった。
燐の仲間はすぐに来たことは本当だ。
けれど、傷ついた燐に手を差し伸べる者は一人もいない。
弟の雪男もそうだった。人は皆、燐の姿を見てこう言った。

「魔神が生きている、一体どういうことなんだ!?」

そして燐の側にいるメフィストに、裏切ったのかと人は問いつめた。
一体どういうことなのだろう。メフィストは混乱した。
腕の中にいる存在は、確かに奥村燐だ。
魔神に乗っ取られたりしたようなそんな気配は一つもない。

「奥村先生、あなた達は一体何を言っているのですか」

雪男の瞳は憎悪で満ちていた。
彼の視線の先には最愛の兄の姿はなく、
代わりに魔神を心配そうに抱き起こすメフィストの姿があるだけだった。

先ほどまで戦っていたのは、魔神と燐の二人だけ。残ったのは魔神だと人には認識されている。
燐は、魔神に殺されたのだと。雪男の瞳にはそうとしか映らない。

「フェレス卿、貴方は結局悪魔だったんですね。
魔神と共謀して兄さんを殺すなんて!僕はお前を許さない!!」

雪男は銃を放つ。メフィストはそれをマントで弾いた。
腕の中の燐はまだ目を覚ましていない。この状況を彼に見せるわけにはいかない。
逃げなければ。けれど銃弾を浴び続けているせいで、時を止める隙がない。どうするか。
考えていると、雪男の腕に飛びつく黒い影があった。
燐の使い魔のクロだった。

『ゆきおやめろ!なんでりんをこうげきするんだよ!
せっかくさたんをたおしたのに、これじゃあんまりだ!』

雪男はクロが何故自分の行動の邪魔をするのかがわからない。
けれどクロを銃で撃つわけにもいかず、混乱しているようだ。

メフィストは悟った。腕の中の燐は確かに自分が今まで見てきた奥村燐その人だ。
けれど、その姿を認識できるのは悪魔だけになってしまった。
人は奥村燐の姿が、燐が殺した魔神に見えているのだと。
メフィストは唇を噛みしめる。

「父上…なんてことをッ」

これが神殺しの報いだと言うのだろうか。
燐を殺されたと思いこんでいる雪男達は皆次々に二人に武器を向けてきた。
クロはそれを必死に止めている。

なんて残酷なことだろうか。
守りたかった者たちに、今度は燐が追われてしまう。

この光景を、彼に見せたくはなかった。
メフィストはスリーカウントを唱える。
もう騎士團に戻ることはないだろう。
数百年いたけれど、悪魔である自分はその場所になんの未練も残ってなどいない。
けれど、燐は。
呪文が唱え終わる前に、腕の中から声が聞こえてきた。

「嘘だろ」

燐の視線の先には雪男がいた。
雪男はこちらに銃口を向けている。殺意の籠もった瞳だ。
見ないでください。メフィストは燐の視界を遮った。
メフィストが燐を連れ出す前に、燐は無意識のうちに仲間のいる方へと手をのばしていた。
メフィストはその手を取って逃げた。燐を、死なせたくなかったからだ。

***

「私だけでは、あなたの心を埋めることはできないのですか」

人に魔神として認識されるようになった燐は最初どうしてだと怒った。
メフィストに沢山当たった。メフィストもそれを甘んじて受け入れた。
彼の心がそれで守られるのであれば、痛みなど感じない。
メフィストにつけた傷を見て、燐はまた傷ついた。

そのまま燐は泣いた。泣いて泣いて泣いて、動かなくなった。
まるで眠っているように、燐は動くことをやめた。
メフィストはその傍らに寄り添った。心の隙間を埋めるように。

騎士團は、魔神の存在を探している。
人の世界で身を隠すのも限界に近い。メフィストは燐に囁いた。

「私と、虚無界へ行きませんか」

虚無界ならば人が立ち入ることのできない領域だ。
魔神を倒した今、虚無界の新たな神となれるのは青い炎を継いだ燐
ただ一人。燐にとって安全な世界は、虚無界以外に存在しない。
彼は、物質界を守るために自分の居場所を失ってしまった。

もういいではないかとメフィストは言う。
これ以上人に関わるのはやめましょう。貴方が安全に暮らせる世界がある。そこで私と生きてください。
メフィストは必死に燐へ訴えた。燐はしばらく黙ったままだった。
けれどやがて諦めたのか、メフィストの提案を受け入れて頷いた。

「けど虚無界に行く前にやっておきたいことがある。
最後に一目雪男に会いたい」

メフィストは燐が傷つくだけだと止めたが、
たった一人の弟に何も言わずに去ることだけはできないと譲らない。
メフィストは燐の未練が少しでもない方がいいだろうと、最終的には燐の言葉を受け入れた。

雪男が一人になったところで、燐は雪男の前に姿を現すことにした。
燐には青い炎がある。例え銃弾を受けたとしても、致命傷にはならない。
けれどメフィストは燐を失うかもしれないという不安が拭い切れなかった。
燐はメフィストを安心させるために、倶利伽羅を手渡した。

「お前が持っててくれ」

倶利伽羅には燐の心臓が入っている。
心臓さえあれば、悪魔は生き残ることができる。
メフィストはそうしてようやく、燐を送り出すことができた。
遠いけれど、すぐに駆けつけることができる距離にメフィストはいる。
これが終われば、彼は私を選んでくれる。


メフィストはそう信じていた。そして、それは嘘ではなかったはずだった。



奥村燐の経験回数を答えてください


うーん、うーん。
旧男子寮のトイレからうなり声が聞こえてくる。
新寮の住人からはお化け屋敷と噂される建物なので、
幽霊が住んでいてもおかしくはないだろう。

けれど本当はこの建物に住んでいる青い悪魔のせいで、
下級の幽霊は怖がって近寄ることもできない。
その青い悪魔こと奥村燐はトイレの個室に入りながらうんうん唸っていた。
うなり声はしばらく続いたが、やがて個室のドアが開き
中からこの世の物とは思えない程憔悴しきった燐が出てきた。
燐は手洗い場で手を洗うと、そのままがっくりと肩を落とした。

「こんなこと・・・誰にも言えねぇよ」

この年で不能になってしまっただなんて。

手洗い場に設置された棚には、燐が部屋から持ってきたエロ本が置いてある。
先ほどから燐が唸っていた原因はこれである。

燐の分身は、全くといっていいほど立たなくなってしまったのだった。

過労や精神的な疾患からそういったことが起こることもあるが、
燐はそういったストレスはため込まない性質である。
もしや悪魔に覚醒したことが原因だろうかと思ったけれど、
そもそも悪魔は人を堕落させることを目的にしている生き物だ。
悪魔に覚醒したことで、息子が元気になることはあれど、元気を無くすことなどないだろう。

原因が全くわからない。
けれどこんな自身の尊厳に関わるようなことなど誰にも相談できるわけがない。
こんなことだから、雪男に女の子と手を繋いだこともないのかと馬鹿にされてしまうのだ。
燐は女の子と手を繋いだこともなければ、つき合ったことすらない。
肉体関係を一度も持たないまま息子は逝き絶えてしまった。
何がいけなかったのだろう。
ぐすん、と燐はこぼれ出た涙を自分の袖口で拭った。


燐は欠片も気づいていないが、
この現象は燐の分身が不能になったわけでも機能不全に陥ったわけでもない。
燐自身は何一つ悪くなどないが、原因に気づくこともまた不可能であった。

なぜなら燐の不調の元凶は連日連夜に渡る雪男による犯行の賜だったからだ。

燐は気づいていないが、分身である息子は雪男とともに連日ハッスルしていたのである。
雪男は知略に長けた犯人だったので、
燐が起きた時にそうと思わせるような痕跡は一切残していない。
シーツだって別の部屋にストックを残し、使用したものについては数回分を貯めた後、
裏口から取りに来てくれるクリーニング屋に頼んでいる。
もちろん、お届けはそっと裏口に置くだけという優れたサービスを兼ね備えている。
この業者ならば燐が大量のシーツを受け取ることもない。
万が一を考えて、祓魔に使う荷物を定期的に洗えるよう依頼していると言っているので
燐は不審な荷物があったとしても中身を見ずにそのまま放置している状態だ。

けれど弊害というのは付き物で。

燐が起きている際に事を起こそうと思ってもそれは無理な話である。
夜に起きている息子が昼間寝ていても責めることはできないだろう。
毎晩起きていれば疲れるのも当たり前だ。
むしろ元気な部類だというのに、燐は自身に不能というレッテルしか見いだせない。
燐は考えた。
どうすれば元気になるのだろうかと。
考えて、考えて。考えた末に。

メフィストに聞いてみることにした。


***


メフィストは末の弟からいきなりの不能宣言を受けて硬直していた。
元気が取り柄の末の弟はこの世の終わりのような顔をしている。
当然だろう。若くして男としての機能を失ったと考えれば思い詰めたとしてもしょうがない。
けれど、そんなことカミングアウトされた兄の気持ちも考えてみてほしい。

「えーと、じゃあまずは目の前で実践してみてください?」

証拠を見せろと言ってしまったメフィストの口を責めないで欲しい。
ただ純粋に本当にそうなのか確かめたかったのだ。

下心が一ミリもなかったとはいえないが、
言った瞬間メフィストの全身は青い炎でこんがりと焼かれてしまっていた。
もちろん悪魔なので平気だけれど、できねーから言ってんだろ!とブチギレられる側の気持ちも
ちょっとは考えて欲しい。私にどうしろというんですか。
メフィストが指を鳴らして全身を整える。
本来なら焼け焦げた服を弁償して欲しいくらいだが、
燐がこうなってしまった原因について、メフィストも思い当たる節がない。

とりあえず落ち着きなさいと燐をソファに座らせた。

指をもう一回鳴らして目の前に紅茶とお菓子を出現させると
燐もひとまず落ち着きを取り戻した。

「思い当たることはないんですか?」
「ストレスとかってことだろ?それない」
「ですよねぇ・・・ならあり得ないですけど貴方半分は人間ですし病気とか?」
「なるようなこともしてねーよ!」
「貴方自分で童貞発言とか言ってて虚しくなりません?」
「言うな、自覚してる」
「うーん、となれば。直接燐君の身体に聞いてみましょうか」
「え」

燐が後ずさる。まさか童貞の前に目の前の悪魔に処女を奪われてしまうのかと警戒した。
メフィストは心配しなくても取って食べたりしませんよ、と言って燐の隣に座った。

「貴方の記憶を遡って見るだけです、
自覚がないだけで他人が見たら一目瞭然ってこともあるんですよ」
「えーでもお前に記憶見られるとか嫌なんだけど」
「私は別に貴方が不能でも一向に構いませんけどね」

騎士團も魔神の息子が不能だと知れば、
子孫が残らないと喜ぶでしょうよと言えば燐は黙った。悩んでいるらしい。

燐にわかるようにメフィストはわざとらしく両手を上げる。
自分はあくまで燐の意志に基づいて手を貸すというだけであって、
嫌ならば手は出さない。というジェスチャーだった。

一歩引けば、一歩踏み出すのが人の性というもので。
燐はメフィストの提案を飲み込んだ。


「わかった、見てくれ」


メフィストは燐に目を閉じるように言う。
燐の額に人差し指を当てて、メフィストも目を閉じた。
これは言うならば悪魔同士のテレパシーみたいなものだ。
共感覚を利用して、相手の中を覗き見る。
本来なら誘惑や傀儡の対象である人相手に使うものだけど、
お互いの了承を得た悪魔同士ならば交信は可能だ。

また変なものでも拾い食いしたんでしょうかねぇ。
メフィストは特に何も思わず燐の記憶を覗き見た。


泣いた。
一瞬で泣いた。


燐は目を閉じているのでわからないだろうが、
メフィストの顔色はいつにも増して悪くなっている。
メフィストの瞼から滂沱のごとく流れる涙が二人の座るソファを濡らす。
燐の額に当てている指先も無意識だけど震えていた。


何これ怖い。

こんな性犯罪が私のお膝元で行われていたなんて。
赤の他人ならおもしろおかしく見るだけだったかもしれない。
けれど対象は大事に大事に自身の羽の下で育ててきた末の弟である。
歪んだ愛情も含まれるけど、悪魔なりに大切にしてきたつもりだったメフィストの弟は。

あろうことかその弟に既に頭からばりばりと食べられてしまっていただなんて。


「お・・・おぉう、おふ・・・」


言葉にならなかった。
燐の身体は玄人だけど、心はとんだ素人だ。

二次元の男性向けエロ同人みたいな子が実際にいるなんて。
メフィストの心は傷つきながらも熱く高鳴った。

記憶の中の燐は雪男の教育の賜物か、信じられないくらいエロかった。
数を数えて見たけど、信じられない回数だ。
経験人数は一人だが、経験回数が風俗嬢と肩を並べるレベルである。
どうしてこんな回数やられておきながら貴方気づかないんですか。
馬鹿だと思ってたんですけど、馬鹿以下だったんですか。

けしからん、実にけしからん。

メフィストはしばらくして、指をそっと離した。
燐は終わったのかと思って目を開く。
そこにはまじめな顔をしたメフィストがいた。
まさか、原因がわかったのだろうか。
燐はどうしたんだよ、とメフィストを問いただす。
燐君、とメフィストも真剣に返した。


「原因としては疲れですね、夜によく眠っていればじきによくなると思いますよ」


つまりメフィストは匙を投げたのであった。
記憶の中の燐は悪魔的でとても魅力的であった。
大切に育てた燐が穢されたショックは大きいが、止める筋合いもない。
つまるところ心境としてはいいぞ、もっとやれ。である。
メフィストは悪魔だ。
おもしろいことを放置してなにが悪い。

燐は疲れかー、といまいち納得していないようだったが、一抹の的確なアドバイスも忘れない。


「あんまり気になるようなら、奥村先生に聞いてみたらいいんじゃないですか」


メフィストがそう言うと、燐は顔を真っ赤にして誰が言うか、と怒りだした。
メフィストは雪男の性格の悪さにぞっとした。
燐は自分が弟にそんなことされてるだなんて欠片も思っていない。

被害者にバレる時は、まだ当分先のようである。恐ろしい。
けれど、その間とても美味しいものが見れるだろう。
脳裏に浮かんだアダルトな光景は私のおかずにふさわしい。

その晩からメフィストの偵察用の使い魔が
旧男子寮の前をぐるぐると旋回するようになったらしい。

拍手ありがとうございます!



ぱちぱちの方もありがとうございます!元気でます!
しばらくお篭りしておりました。
本調子ではないのですが、頃合いを見てぼちぼちやっていきます~。


2014/05/12
連載とても楽しみなんですが~の方

コメントありがとうございます!やっぱりパソコン扱う皆さんは
同じ症状が出ているのですね・・・orz
マッサージしたり、温めたりして頭痛の波をやりすごしております。
あたたかいお言葉ありがとうございます!
お風呂で血行良くしてきます~



2014/05/13
長編完結、面白かったです~の方

反応も少なかったのであんまりよくなかったかな、と思ってたのですが
ほっとしました(^^)
身体の方は頭痛が酷いのですがなんとかやりすごしています。
年なので、肩こり解消にはやはり運動しないとだめですね笑
長編へのコメントありがとうございました!



肩こりを直す旅にでます・・・

今晩で百二十一回目です


燐は脱衣所の扉を乱暴に開けると、洗面台の前で顔を勢いよく洗い出した。
コップがそばにあるというのに、水流を手で掬うと何度も何度も口を濯いでいる。
しばらくそれを繰り返すと、燐は鏡の前でうなだれた。
暗闇の中でも、自分の悪魔の瞳はしっかりと機能しているようだ。

酷い顔をしている自覚はある。

燐はもう一度水で顔を洗った。洗っても洗っても、まだ感触が残っているようで気持ち悪い。
廊下の方から物音が聞こえる。燐は急いで顔をタオルで拭った。
この寮には雪男と燐しかいない。きっと雪男が任務から帰ってきたのだろう。

自分の異変を弟に悟られたくはなかった。

燐は努めて明るい表情で、自分から廊下に出た。
そこにはちょうど、祓魔師のコートを手に持って脱衣所に入ろうとする雪男がいた。
任務の内容にもよるが、祓魔師のコートはとても汚れやすい。
悪魔の討伐に成功したとしても、硝煙の臭いや砂埃の汚れはどうしたって生じるものだ。
雪男は換えのコートも持っているので、できるだけ洗える時にコートを洗うようにしている。
寮の脱衣所には、洗濯機が設置されているので、いつものように先に洗おうと考えていたのだろう。
雪男は燐の顔を見るなり、帰ってたんだね。と声をかけた。

「兄さんも任務だったんだよね、
今回はバチカンからの依頼だって聞いてたから心配してたんだ。無事でよかった・・・」

雪男はそこまで言って、言葉を切った。何かに気づいたようだった。
燐は雪男の次の言葉を待たずに、その場から逃げ出そうとした。
今日は何食べたい、と誤魔化すような言葉と共に。

雪男は逃げようとする燐の腕を掴んだ。

祓魔塾を卒業して数年、燐も今や立派な祓魔師として働いている。
任務の際に傷を負ったり、時に同じ仲間であるはずの祓魔師から中傷を受けたりすることも少なくない。

燐は今、傷ついた表情を雪男に悟られまいと隠そうとした。

一体何年一緒にいたと思っているのだ。それを見逃したり、許したりする雪男ではない。
燐もそれに気づいているからこそ、逃げだそうとしたのだろう。
雪男は掴んだ燐の腕を引っ張ると、扉を閉めた。

脱衣所の中は静かだ。暗闇の中では雪男の目は働かない。
手探りで電気をつけて、腕の中に閉じこめた燐の姿を確認した。

燐は、高校の時から成長を止めてしまっている。
人として成長しつづける雪男とは明確な差ができてしまっていた。
それにも増して、兄が一回り小さくなってしまったような気がして。
雪男は優しく腕の中の兄に声をかけた。

「なにかあったの?僕でよければ聞くよ」

そういっておきながら、話すまで逃がす気はないのだけれど。
燐はしばらくそのまま顔を逸らしていた。
けれど、沈黙に耐えかねたのか離せよ、と口を開く。

「兄さんが話したら離す」
「お前が離したら話すから、離せ」

しばらくそうしていたけれど雪男は兄の態度に根負けして腕を離す。
どうやら、逃げる気はないようだ。
ここで逃げ出すようなら、ちょうど腰に獲物を下げているのでそれで兄の足を打ち抜くことも考えていた。

雪男は成長してから、燐の扱いがかなり雑になっていた。
もちろん、自分の腕を信じているしかすり傷だけですます自信もあってのことだ。
一回別の件で逃げだそうとした兄の足を容赦なく撃った時の顔が忘れられない。

驚愕とどん引きの狭間で揺れ動く兄の姿はたまらなかった。

現在の雪男は密かにサディストとしての一面も花開かせている。
燐はぼそぼそと小声ながら、事の詳細を話し始めた。

「バチカンの任務ってことで、アーサーが来てたんだ。
あいつ俺と仲悪いから、今回もかなり大変でさ」
「そうだったんだ、怪我させられたりしなかった?」
「別にそれは大丈夫だったんだけど・・・」
「何、嫌がらせでもされたの?」
「・・・うーん、そうとも言えるような」
「まだるっこしいなぁ、何があったのさ」

過去、悪魔の―――もちろん燐のことだが、
足や腕をばっさりと切っても再生するのか試そうとした前科があるエンジェルだ。
もし兄をプラナリアのように扱おうとするようならば、人権委員会に訴えてやるつもりだった。
なんなら、パワハラで裁判沙汰でも起こしてやろうかというくらいだ。
法外な慰謝料と共に聖騎士の座から追放してやる。
職を奪ってしまえばあの年齢の男だ。ホストかヒモくらいしか就職先はないだろう。
それくらいの心意気は常に雪男の中にある。

「あ、アーサーに・・・キスされたんだ」

燐は手のひらで何度も自分の唇を触っている。
いやな感触が残っているのかもしれない。

へぇ、キスか。これは裁判のネタとしてはもってこいかな。

セクハラも追加で雪男の頭の中にインプットされた。
雪男は証拠写真か何かないの、と極めて冷静に燐に返す。
燐は雪男の言葉を聞いて信じられないといった反応をした。

「俺が嘘ついてるっていうのかよ!」
「ごめん、そういうのじゃなくて。後々の卿を追放するための材料をだね・・・」
「追放なら、今して欲しいくらいだ!
あいつ、いけしゃあしゃあと、おおお俺の、ファーストキスを!!!」
「え、兄さん初めてだったの嘘だろ」

今度は雪男が驚愕した。
高校を卒業して結構年数が経っている、にも関わらず兄には浮いた話のひとつもなかった。
けれど、キスもまだだったとか驚きだ。

男に唇を奪われたことも驚くが、そっちの方にも驚きが隠せない。
流石に魔神の落胤が次世代を残す行為である性行為をしようものなら全力で雪男も騎士団も止めるけど。
妊娠しないのならばキスくらいいくらしようが構わないだろうに。

雪男に経験のことでも馬鹿にされたと思ったのか、傷ついた燐は更に雪男の言葉に傷ついた。
言葉の暴力はすさまじい。ドメスティックバイオレンスにも匹敵するだろう。

とうとう燐は目に涙を浮かべて、今にもこぼれ落ちそうになっている。
あと少し地雷を踏めば確実に泣くだろう。
雪男もこれにはぎょっとした。兄が泣くかもしれない。
それはそれでいいけど、今はよくない。

しまった、これは色々と対処を間違えてしまったかもしれない。
燐は本当に、滅多なことでは泣いたりしない。雪男の前では尚更だ。
雪男は滅多に見ない兄の姿におろおろとしながら、フォローに回る。

「兄さん、海外の人は挨拶でキスしたりすることもあるんだ。
そう深く考えることじゃないから、ね?あの人はきっと頭が兄さんみたく空っぽだから、
考えなしにそういうことをしたんだよきっと」
「だ、だって、あいつ俺のこと面倒だからいっそ使い魔にしたいとか何とかいって。
それで参謀のライトニングって奴がおもしろ半分に、
悪魔を従わせるにはディープなキスが一番だとか言い出して。
あいつそれを真に受けて、一瞬で俺の腰を引き寄せて・・・」

決め台詞は、喜べお前は物みたく扱ってやろう、だったらしい。

物扱いされて喜ぶ輩がいったいどこにいるというのだろうか。
ちなみにキス自体は、海外仕様のかなり激しいものだったらしい。
流石は黙っていればイケメンのアーサーだ。
過去の女性遍歴は華々しいものだったろう。

ライトニングは冗談を間に受けて本気で燐に口づけたアーサーを見て爆笑し、
そのまま呼吸困難に陥って任務遂行が不可能になったそうだ。
現在も人工呼吸器をつけている状態らしいので、正に腹筋が崩壊したといっても過言ではない。

雪男は慰謝料は億はもらえるなと踏んでから、傷つく燐にそっと手を差し伸べた。

「辛かったんだね兄さん、酷いこと言ってごめんよ」

内心では雪男も笑いそうになっていたが、黙っていた。
男からのキスと聞くと、実兄でありながらも
事実当事者ではない雪男にとっては罰ゲームにしか聞こえない。
そしてなぜ雪男がここまで冷静かというと、理由があった。


(兄さんのファーストキスって、実は五歳の頃に僕が奪っちゃってるんだけどね・・・)


もちろんキスとは何かを全てわかった上で五歳の雪男はやっていた。
それに直近でいうと昨日寝ている燐の体にのし掛かって三回くらいしている。
それ以上のことも寝ている燐に幾度となく行っていた。
これまでバレるような隙も痕跡も一切見せていないので、
燐は本気でファーストキスを奪われたと思いこんでいるのだ。


なんだろう、この気持ち。
処女みたいな反応されると、逆に動揺する。


雪男は兄に対して好意を抱いていながらその実、やっている行為は外道そのものであった。

燐は雪男に背中をさすられて、一応の落ち着きを取り戻しつつある。
大丈夫だって、事故だと思って忘れるといいよ。
もしくは罰ゲームくらいの軽い気持ちでいる方がいいさ。
男とキスした人なんていくらだっているって。

そんな言葉を適当に並べた。事実燐の目の前にいる雪男だって燐という男にキスしているし。
僕は兄さんの知らない兄さんの姿をたくさん知ってるから。


「処女ぶらなくても大丈夫だよ」
「は?」


おっとこれは失言だ。雪男は鍵だって気がついたら無くすものだし。あ、でも鍵だと鍵穴に挿し込むね。
だめだね、と意味のわからない言葉を並べて誤魔化した。
燐を誤魔化すには、頭をパンクさせるのが一番であると雪男は知っていた。

燐は先ほどから何度も唇を触っている。
やはり違和感が拭えないらしい。

「口濯いでも気持ち悪さがぬけねぇ。どうしたらいいかな」

つき合っているもの同士ならば、じゃあ僕が消毒してあげるよとか言ってワンラウンド持っていくのだけれど。
あいにくやることやっているが雪男と燐はつき合ってなどいない。そうなれば。


「イソジンいる?」


手っとり早い、消毒である。
雪男は今晩の算段を立てながら答えた。たぶん、まだばれない。

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