青祓のネタ庫
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「もう一度言います、私と共に来なさい」
ルシフェルが燐に向かって高圧的にそう言った。
燐は乱暴な言い方でルシフェルの誘いを断った。
「誰がお前のところなんかに。死んでもごめんだッ」
ごほりと燐の口から血が溢れる。
燃え盛る地面の中、ただ前に前に進んでいく屍人と、降り注ぐ光の刃。
地獄が、歩きだしている。
燐の守ろうとしている部下達に、町に、人に。
そして王である雪男にこの地獄を見せてはいけない。
燐は倶利伽羅を抜こうと手を伸ばすが、できない。
燐の体は今、地面に縫いつけられている。
文字通り、光の刃で貫かれた手足は動くたびに筋が切れ、血が吹き出している。
腰に下げたままの倶利伽羅を取ろうにも、身動きが取れない。
その間にも、燐の悪魔の聴覚は人の悲鳴を聞き取っていた。
うわあ、屍人だ。恐れるな立ち向かうんだ。助けて。イヤだ、死にたくない。
恐れ、怯え、悲鳴、怒号。部下達がこんなにも近い場所で死んでいく、恐怖。
燐は叫んだ。
「ちく、しょう。はな、せッ、やめろおおお!!」
動けたのなら、飛んでいきたい。動く屍人を殺しつくす力を持っているのに。それができない。
倒れている部下を助け起こすことも、身を挺して庇うこともできない。
ただ、見ているだけを強要されるなんて。
ルシフェルは燐が一番嫌がることを知っていて、やっている。
悪魔め、燐は泣きたくなった。
けれど目に涙を浮かべながらも、決して泣いたりはしない。
目の前にいるルシフェルに負けるものかとにらみつけるが、
それもルシフェルの気分を高めるだけの行為だとは燐は気づかない。
その証拠に、燐の体に触れるルシフェルの手は熱かった。
「いい悲鳴だ、まるで貴方との初めての夜を思い出しますね燐」
周囲は地獄のような光景なのに、ルシフェルはまるで寝所で睦言を囁いているようだ。
燐は鳥肌が立った。あの日、ルシフェルの元から逃げ出してから、
忘れよう忘れようと努めていたことを思い出してしまう。
どんなに叫んでも、泣いても、いいように弄ばれてそこに燐の意志などなかった。
違う、違う、違う。
あのころとは違うんだ。燐は体に炎を宿す。
青い炎は燐の体に触れていたルシフェルの手を焼いた。
肉の焼けるにおいは酷いにおいだったが、もう辺りは火の海だ。
死体も、生き物も焼けている。今更だろう。
ルシフェルは焼ける自身の手を見て、にやりと笑った。
「ひどい子だ」
燐の体から、光の刃が消えていく。
急激に消えたせいで、傷口からは更にひどく血が吹き出していった。
燐の血はルシフェルの仮面をも汚し、仮面を伝った血はルシフェルの唇にまでこぼれ落ちる。
その血を丁寧に舌で舐め取ると、甘い味が口の中に広まっていく。
ああ、これだからこの子はたまらない。
血の海に沈む燐の腰に、手を伸ばす。
そこには燐の心臓を封印した、倶利伽羅があった。
倶利伽羅は幾度となく、戦争で使われた。
使用者は青い炎に耐えきれず消滅し、悪魔を焼き付くした後には何も残らない。
その倶利伽羅は悪魔に回収される前に全て人に回収されていた。
今日この日、倶利伽羅も燐も悪魔の手に堕ちる。
「この倶利伽羅で貴方を貫けば、貴方は真の悪魔として生きられる。
父上の跡を継げるのは、青い炎を継いだ貴方だけです。
貴方は、あの国の者でも、ましてや貴方のものでもない。
貴方は父上のものなのです。我らが父上の元に帰り、人の世界を壊しなさい。
貴方が守ってきた世界を貴方の手で壊すのです。
それが貴方のこれからの、生きる道だ」
ルシフェルが指を鳴らすと、壊された燐の甲冑すらも剥がれおちていった。
燐が纏うものは、薄いアンダーと薄汚れたズボンのみ。
そのどちらも血で汚れているし、横たわった体の隙間から悪魔の証である黒い尾が見えている。
そこに騎士団長としての姿はない。
ルシフェルが出会った頃のような、燐の姿があるだけだ。
倶利伽羅を鞘の状態のまま、燐の心臓部分へ向ける。
心臓を元の場所に戻すだけのこと。
けれども、燐の体を刺し貫く行為ということにルシフェルの胸は知らず熱くなってしまう。
「私と生きなさい、燐」
何の役にも立たない人間の弟のことなど、忘れてしまいなさい。
ルシフェルは倶利伽羅で燐を貫こうとした。
けれど、その動作は強い力で止められてしまう。
燐が血塗れの手で倶利伽羅を掴んでいた。鞘からはまだ刀身は抜かれていない。
まだ抵抗するのか。ルシフェルは燐の手を振り払おうとした。
けれど、その手は決して離れない。
燐は口を動かした。かすかな声だったけれど、それは地の底から響くような声だった。
「忘れる、もんか」
俺が生きていたいと思ったのは、雪男がいたからだ。
雪男が王として生きるなら、その盾でありたいと思った。
騎士団に入ってから、全てが順風満帆だったというわけではない。
汚い仕事も、たくさんしてきた。雪男には決して言えないこともしている。
こんなことを俺がしていると知ったら、雪男はきっと俺のことを嫌いになるだろう。
もう俺は、雪男の知っている俺じゃない。
幼い頃に別れた時のまま美しい思い出のままで俺のことを覚えていて欲しいと思う。
けれど、そうじゃないとも思ってしまう。
俺のことを知っていて欲しい。
今の、俺を。
悪魔になった俺のことも、知っていて欲しい。
雪男、俺はここにいるんだ。
俺はお前のことを見上げるだけで、地べたを這い蹲って生きているだけで。
王になったお前に会うこともできない、ちっぽけな存在で。
お前と同じ人間じゃなくなっても、それでも生きてきた。
会いたい。会いたい。会いたい。
お前に会って、伝えたい。
お前に会いたかったって、だから頑張ってこれたんだって。
「俺は雪男のこと、忘れたりなんかしない!!」
俺とは違う、人間の弟。
あいつに一目会うまでは、俺は死なない。
忘れたりなんかしない。
絶対に生きて、お前に刃向かって。
全てを持って悪魔を殺す。
俺は負けない。
燐の体から青い炎が吹き出してきた。
その炎は倶利伽羅に伝わり、どくんどくんと心臓の音が響きわたってきた。
血塗れの体でなお、立ち上がりルシフェルに向かおうとする姿に、感銘を受けた。
「素晴らしい、ならば私の全てを持って貴方を打ち砕いて差し上げましょう」
今の貴方を殺せるのは、私くらいのものでしょうから。
光の刃が、出現した。千の刃だ。
その全てが燐に向かっている。
燐は悪魔だから、滅多なことでは死なないけれど。
この全てを見に受ければ間違いなく死ぬだろう。
全て覚悟の上だ。
こいつと敵対する覚悟を決めてから、いつかは訪れると思っていた瞬間。
燐は倶利伽羅をルシフェルの手から奪う。
それが合図だった。
倶利伽羅が抜かれ、青い炎と光の刃が交差する。
戦場に、まばゆい光が舞い降りた。
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