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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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トイレの神様


「いい、これから兄さんの上司に当たる人に会いに行くんだからね
決して失礼のないようにするんだよ」

雪男はこんこんと燐に言い聞かせた。それも昨晩からずっと同じセリフだ。
流石の燐でも耳にタコができそうである。

燐ははいはいと適当に雪男の言葉を流した。
ちょっと聞いてるの、というセリフも聞き飽きた。

祓魔師を目指して早数年。弟の雪男は一足飛びに免許を取得したが
弟程頭の出来がよくない燐は苦労して苦労してようやく祓魔師の免許を取得した。

養父の藤本と最年少免許取得者の雪男が二人揃って座学を教えてくれなければ
とてもじゃないが取れなかっただろう。
そうまでして取った免許を、
まさか上司との諍いで取り上げられるようなことがあってはならない。
燐だってそれは十分に分かっている。
それなのに雪男は何故こんなにもしつこく言ってくるのだろう。

「うっせーな、そんなに何回も言わなくてもわかってるよ」
「心配なんだよ。ただでさえ彼は面白ければなんでもいいって考えを持ってる。
兄さんなんか生まれつきのトラブルメーカーじゃないか。
目をつけられたらどんな目に遭わされるかわかったもんじゃない」
「死ななきゃ大丈夫だろ、それに俺には目的があるんだ。大抵のことなら我慢するさ」
「ああ、昔会ったっていう神様の事?諦めてないんだね」

雪男と燐は日本支部の支部長室前に来た。
燐は扉を開ける前に雪男に言った。


「そう、俺はトイレの神様を探しているんだ」



***


燐が家族と衝突をするようになったのは中学に入ってからの事だった。

学校に行きたくないといい、雪男とは通学途中に離れて家にも帰らない日が続く。
当然養父の藤本は心配して何度も燐を探して家に連れ戻した。
けれど、燐はそんな藤本の元から。
家から、何もかもから逃げ出したくてしょうがなかった。

悪魔みたいだと人から言われて、
そんな悪魔の傍にいるから周囲の人まで同じような目で見られるんだと罵られ、
燐には居場所がなかった。

藤本や雪男はそんなことはないと言ってくれるだろう。
けれど燐自身が彼らの傍にいる自分を許せない。
まるで甘えているかのような自分がやるせない。

「兄さん、せめて夜には帰ってきてよ。
一人でふらふら歩いていて、危ない目にあったらどうするのさ」

雪男はそう言って燐の行動を咎めた。
けれど燐には夜家にいれない理由があった。
雪男と燐は二人部屋だ。燐がいては雪男の勉強の邪魔になってしまう。
最近塾に行き始めたというから、なおさらだ。

「俺、喧嘩強いから大丈夫だろ」
「…喧嘩だけが。暴力だけが人を傷つけるとは限らないだろ」

雪男の言うことも最もだと燐は思う。

何故なら燐の心を深く傷つけたのは、
雪男のことを慕っている女子生徒からの言葉だったからだ。

彼女たちは直接燐に対して暴言を吐いたわけではない。
ただ、通りすがりに燐が聞いてしまった。それだけのことだった。
彼女たちも面と向かって言うことは憚られたのだろう。
けれど、それだけに本心からの言葉が刃の様に胸に刺さった。


あんなお兄さんがいるなんて奥村君可哀想だよね。


燐にとって自慢の弟の雪男。
けれど雪男の将来にとっては邪魔でしかない自分の存在。
燐はどうしたらいいのかわからなくなった。

いっそ自分が消えてしまえばいいのだろうか。

そう思って家にも帰らないようにしたのに、
中学生の身である自分ではどうしたって独り立ちはできないのだ。

泣きたいのに泣けない。
こんな不確かな自分はどうしてここにいるのだろう。
はやく大人になりたいと思った。

ここから逃げ出して、父さんや雪男に迷惑をかけないように遠い何処かへ消えてしまいたい。
思春期の逃避とはまた違う。
燐の優しさが、脆さが、ここじゃない場所を求めて彷徨っている。

暗い胸の内が、暗い暗いものを呼び寄せたのかもしれない。
燐の周りは次第に暴力を纏った人物が引き寄せられるように集まってきていた。
その彼らに悪魔が憑りついていたことを、当時の燐は知らなかった。


「うっせーな、近寄るな!」

燐は目の前にいる人物を殴り飛ばした。
人は面白いくらいに飛んで、公園の外にいる自動販売機まで飛んでいった。
ぼこん、という鈍い音がしたけれどうめき声をあげているだけなので生きているだろう。
燐はそのまま周囲にいた仲間を回し蹴りで吹き飛ばす。
彼らは茂みの辺りに放り込まれて、意識が戻る気配はなかった。

最初に燐にいちゃもんをつけてきたのは彼らだ。自業自得の輩に情けはいらない。
彼らはカツアゲをしようとしていたのだが、生憎燐はお金など持っていなかった。
持っているんだろ、持ってねぇよ。そこからはよくある不良のやり取りだ。

口論はエスカレートしていき、あっという間に暴力の応酬になった。
喧嘩になれば、燐は負け知らずだ。
夜は喧嘩に明け暮れて、もう何日修道院に戻っていないのだろう。

藤本や雪男は燐のことを探しているだろうけれど、二人は燐の行きそうな場所から探すはずだ。
今燐は隣町まで来ていた。
歩いて歩いて、行く当てもなくここまで来てしまったから、
二人は容易に燐を見つけることはできないだろう。

もしあと数日戻らなければ、警察に捜索願でも出されてしまうかもしれない。
それは嫌だな、と思った。
警察に補導されてしまえば、燐は藤本が迎えに来るまで交番でお世話になる。
せっかく逃げてきたというのに、意味がなくなってしまう。

「…俺、どうしたいんだろう」

逃げてきたのに、見つけて欲しいような。
二つの気持ちがないまぜになる。

もしこのまま燐が二人から逃げたら、いつか二人は燐の事を追ってくれなくなるのだろうか。
見捨てられるのだろうか。そう、なればいいのだろうか。

額から流れ出た血が頬を伝う。泣いてなんかいない。
不良の一人に木刀で殴られて、派手に出血してしまっている。
ふらふらと足取りはおぼつかないが、燐の傷はすぐに治ってしまう。
どうせすぐに血は止まるだろう。

燐は公園内にある公衆トイレを見た。
夜中だからか、薄ぼんやりとした灯りしかなくて不気味だった。

けれどこのまま血の付いた顔で街中をあるけば一発で補導されるのは目に見えている。
燐はまだしばらくは修道院に帰るつもりはない。
顔でも洗おうか。
そう思って、恐る恐る公衆トイレの中に入る。
お化けでも出そうな雰囲気だが、特に何かが、誰かがいるような気配もない。

燐は鏡で自分の顔を見てぎょっとした。顔中が血まみれでゾンビか何かかと思った。
悲鳴は上げなかったけれど、これはまずい。
燐は手洗い場の蛇口を捻り、自分の顔を洗った。
ついでに拳についていた返り血も一緒に洗い流す。

その間に、外で伸びていた不良たちが走り去っていく音が聞こえて来た。
よかった。流石にこれ以上刃向ってこられたら燐も手加減ができなくなりそうだ。

燐は不良だが、人殺しにはなりたくない。
それだけは、絶対になりたくなかった。


蛇口を閉めて、顔を上げる。
薄明りの中、血を洗い流したおかげで先程よりも随分と顔色も良くなった。
これから、どうしようか。ひとまずは今晩はこの公園で野宿でもしようか。
野宿の際に困るのが、トイレだ。
まさか外でするわけにもいかないのでここ数日コンビニのトイレを借りたりと苦労していた。
ここは公衆トイレがあるので行きたくなれば行けばいい。
その面では、今日ここに泊まるのはいいかもしれない。

燐は寝る場所を探す前に、要を足そうと思いトイレに足を踏み入れる。
薄暗い灯りの中、こんな時に限って学校の怪談などの怖い話を思い出す。
悪い子はいないかと子供を探してうろつくお化け、闇の中に潜む幽霊、
トイレは異界に通じており、夜の闇は異界から来た者と遭遇しやすい云々。
燐は頭を振って、怖い話を打ち消した。

「お、お化けなんていない、いない…」

それでも、そっとトイレの扉を開けた。
そこには便器があるだけで、他には何もない。
公衆トイレでもここにはトイレットペーパーが完備されているようだ。よかった。
正直、この着いては消える電気だけはなんとかして欲しいところだが、
贅沢は言ってられない。燐は家出をしている身である。

トイレの個室に入り、鍵をかける。
その場には、燐しかいない。
そのはずだった。


けれど要を足してトイレから出ようとした所で。
扉が、何かにぶつかった。

燐は扉の隙間から外を見た。そこには、人が立っていた。
燐は思わず、すみません。と声に出した。
声は男の声だった、いいえ。と彼は答える。
燐は動揺した。あれ、俺の後ろに誰かが待っていたのか。
でも、こんな深夜に人なんているのか。
動揺している頭では上手く考えがまとまらなかった。
少し空いた扉の隙間に手を差し入れられて、扉が開かれる。
燐は目を見開いた。

ピエロの格好をした男が、目の前に立っている。
男はニヤリと悪い顔をした。


「こんな夜更けに家に帰らないような悪い子には、お仕置きが必要ですよね?」


個室の中に、男が足を踏み入れる。
燐は男に押されて、トイレの個室の中に押し込められた。
無情にも施錠音が静かなトイレの中に響く。


その夜は、燐にとって一生忘れることができない夜になった。

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拍手ありがとうございます


拍手ぱちぱちだけの方もありがとうございます!
インテ行ってきて、一人じゃないっていいなと思い、
また反応を頂けることでやっててよかったと思いました。
チキンですみません。


2014/8/24
イベントに参加できないので、直接買えないのは残念ですが~の方

話が好きだと言っていただけて嬉しいです!拍手ありがとうございます!
ずっとオフの本書いてたもので更新止まっててすみません。
オンラインについてはぼちぼち更新していきますね!
拍手の虎りんちゃんへの反応ありがとうございます!私もふわふわが
大好きなので、また虎りんと雪おとこ君の小ネタ考えてみますね。



2014/08/29
いつも御本楽しみにしております~の方

拍手ありがとうございます!オフ本作ることは好きなので、
また参加する機会があればよろしくおねがいします。
オンラインについては、ぼちぼち更新していきますので、
よければ今後もお付き合い頂ければ幸いです(^^)



イベントは予定が立てばまた参加してみたいですね。
そしてまるっと四年以上活動してきましたが、
そろそろ…エロスを書いてもいいのかなって思っております。
書いてもいいのか、書かざるべきか。それが問題だ。



奥村燐、ものになる。


本当ならこんなところ来たくなかったというのが燐の本音だ。
けれど任務、つまり仕事ならば仕方がないというもの。

燐は上からの命令に背いてしまえば即処刑とはいかないまでも、
面倒な監視や始末書を書かされてしまう立場だった。
それをよく自覚しているからこそ燐はおとなしく言うことを聞いているのだ。

けれど、その努力を無に帰そうとする男が燐の目の前にいる。
燐の頭をぐりぐりと押している男は、
顔だけは眩しいくらいのイケメン、アーサー=オーギュスト=エンジェルだった。

「全く、リーダー的存在である俺の言うことが聞けないとは躾のなっていない悪魔だ」
「誰だって悪魔の大群の中に突っ込めなんて命令聞けるわけねぇだろ!」
「同じ悪魔なのだから構わないのではないか?」
「何で俺の反応がおかしいみたいな反応してんだよ!
あんな腐った悪魔の中に入るのはいーやーだー!」
「お前、腐の眷属に好かれているだろう。不意を突いて燃やせば大丈夫だ」
「だから嫌だって言ってんだろ!」

若君若君と群がってくる腐の悪魔達を燐は怒りの一撃で燃やした。
けれどしつこい行為が売りの腐の眷属は
まるで突進する王蟲のように燐のいる場所に沸いて出てきた。

アーサーの言うことにも一理ある。
燐のいる所に悪魔が現れるのだから燐と一緒にいるアーサーの身が危険に陥るからだ。
だからといっていっそ突撃しろは作戦としては余りに単純である。

燐は青い炎を使って、目の前にいる悪魔を次から次へと燃やした。
青い炎を纏いながらも突進してくる悪魔はかなりのホラーだ。
燐が本気を出せばあれくらいの悪魔、一瞬で蒸発させられるだろうに。
手古摺る燐の姿を見て、アーサーは問いかけた。

「お前、体調でも悪いのか。何故腰を庇うような仕草をしている」
「俺だってわかんねぇよ。最近よく寝れてねぇのか。
朝起きたら全身が痛いんだ。これでもマシな方だっての」
「体調管理もできないのか。これだから悪魔は」
「悪魔は関係ねぇだろ、それに俺は至って健全な生活しかしてねぇ!」
「どうだかな」

アーサーは燐の背後でカリバーンを抜いた。
眩い光を纏い、アーサーは自身の髪にそっとカリバーンの刃を当てる。
格好も様になっている。これだからイケメンは、と燐は心の中で悪態をつく。
それでも、そのカッコよさは認めざるを得ない。

「カリバーン、我に力を」

アーサー、喜んで。貴方の体の一部はどんな場所でも私の舌を満足させる。
魔剣の歓喜の声と共に、刃が悪魔に降り注ぐ。
燐の青い炎とはまた違った美しさだった。
腐の眷属は全てアーサーの攻撃で焼き尽くされた。蒸発したと言ってもいい。
彼らを殺すにはそれくらいの容赦の無さが必要だ。

「これくらいのこともできないのか、屑め」
「うるせぇ!あれくらい俺もできる!」
「ならばしろ、そして体調が悪いのならそもそも任務など来るな。
必要なのは力であって、その力が発揮できない存在など邪魔だ。
今日は俺とお前だけだからよかったようなものの、他の祓魔師がいたのならばどうする。
人に迷惑をかけるな悪魔め」
「……ッ!」

アーサーの言うことはもっともだった。
言い方はきついし、燐への当たりも強いが間違ったことは言っていない。

例えば燐と一緒にいた仲間が、もしアーサーのように強くなければ。
手騎士や詠唱騎士のような、サポートが必要な仲間であれば。
燐は彼らを守るために、その身を擲ってでも盾にならなければならない。

アーサーの言うことを理解しているだけに燐も黙った。
どうしてだろう。最近燐の体はおかしい。
一時メフィストに相談したこともあったが改善の兆しは見られなかった。

朝起きたら体がだるく、熱っぽさが抜けない。
けれど熱があるわけでもないので、休むようなこともできない。
燐は思い通りにならない自分の体が歯がゆかった。
それにより、任務に支障が出ていることもまた許せなかった。
怒っているのは、アーサーに対してではない。思い通りにならない自分の体にだ。

アーサーは燐の頭をぎゅっぎゅっと押した。
最近、アーサーと一緒に任務に就くことが多いのだけれど必ずと言っていい程
アーサーは燐の頭を押してくる。

「なんだよ」
「いや、ただでさえ小さいお前の身長をもっと縮めてやろうと思っているだけだ」
「嫌がらせかよ!!」

燐はアーサーの腕を振り払った。こいつ、どこまでも俺を馬鹿にしやがって。
燐は怒ってアーサーを殴ろうとした。
けれどその拳をするりと避けて、アーサーは笑いながら去っていく。

まだアーサーに敵うまでの実力は燐にはない。
覚えてろ、と燐はまるで雑魚キャラのようなセリフを吐いた。
むかつく男だ。
気障だし、言うことはきついし、性格は最悪。
悪魔である燐に対して容赦はないし、顔を見ると自動的に殴りたくなる。
けれど、アーサーとのやり取りが燐は不思議と嫌いではなかった。
ずきりと体の奥底が痛む。
燐は眉をしかめると、腰を摩りながら帰路についた。
帰ったら事務作業が残っているがどうにも椅子に座って作業をやるには辛い体調だ。
そして、言いにくいけれどそういう場所が痛んでいるのも事実だった。
燐はこっそりと携帯で痔の病院でも探そうかと考えるくらいには、
燐の身体は軋んでいる。
当然、原因が弟の毎晩に渡る行為の結果だとは燐は夢にも思わない。
勿論上司であるアーサーにも想像がつかなかった。

「しかし、最近の奥村燐は妙だな」

燐と別れたアーサーは、次の任務の地に向かうために森を駆けていた。
燐には帰還命令が出ていたが、アーサーにはあともう一件狩らねばならない相手がいる。

聖騎士とは忙しい職業だ。
呼ばれれば世界各国何処にでも馳せ参じなければならない。

アーサーはこの仕事のことが好きだが、たまに疲れてしまうことも事実だ。
燐もアーサーに負けず劣らず、任務を割り当てられている。
広範囲の悪魔の除去などにあの青い炎は最適だからだ。
だからと言って、疲労が溜まるような任務のこなし方をしているわけではないようだ。

燐自身にもわからない、燐の不調。
アーサーは首を傾げた。目の前に標的の悪魔がいる。
アーサーはまた髪を一房カリバーンに捧げて、その力を引き出した。

一閃。
煌めく光が悪魔を切り裂く。

アーサーはその光の中に降り立った。祓魔師の制服が鮮やかに翻る。
見るものがいたのなら、彼をその名の通り天使と呼んだだろう。
アーサーはカリバーンの刀身を優しく白い布で拭った。
今日は彼女を酷使しすぎてしまっている。早く戻って手入れでもしてやろうか。
そう思っていると、カリバーンがアーサーに答えた。

『あの魔神様の子のことだけど、アーサーが気にすることじゃないと思うわん』

カリバーンはそっけなく言う。
彼女が愛しているのはアーサーだけなのでその他の事はあまり気にしない性質を持っていた。
悪魔とは得てしてそういう存在である。

「なんだ、何か知っているのかカリバーン?」
『そりゃ、あれだけ匂いを発していれば大抵の悪魔は気づいているんじゃないかしら』

カリバーンの告げた言葉に、アーサーは絶句した。


***


「貴様、毎夜毎夜弟と酒池肉林の性夜を繰り広げるとは何事だ!!!!」

アーサーは日本支部の燐のデスクに乗り込んだ。
カリバーンから告げられた真実は、清廉潔白に生きてきたアーサーにとって
まさに文字通り頭を殴られたような衝撃を受けた。


奥村燐は、弟である奥村雪男と性的な関係を持っている。


そう告げたのは魔剣カリバーンだった。悪魔の憑りついた剣。
悪魔の嗅覚は鋭い。燐の体から香る雪男の濃い匂いからしてまず間違いないと
カリバーンはアーサーに説明をした。

燐は突然のアーサーの登場に目が点になった。
任務のせいで、デスクワークが疎かになっていたので、
事務所に残って仕事をしていただけだった。腰が痛いので椅子には
ドーナツ型の座布団を敷いている。

当然、戻ってきたのは任務を終えた深夜なので同僚はとっくに帰っている。
アーサーの発言を他の人に聞かれなかったことは一種の救いだ。

「は?お前とうとう頭までおかしくなったのか?」
「言い逃れはできんぞ奥村燐!
カリバーンは俺に嘘などつかん!弟と禁断の関係を持つなど言語道断だ!
男同士で毎晩性行に耽れば、身体の調子がおかしくなって当然だろう。
それで任務に支障が出るなど、お前の頭が手遅れだ!」

『そうよそうよ!誤魔化そうったって無駄なんだからね!』

カリバーンもアーサーの援護に回った。
燐は徐々にアーサーとカリバーンの言っている意味がわかってきて怒りに身が震える。

燐にとって全く身に覚えのない話だ。
それに、雪男が絡んでいるなどどこの男と魔剣は言っている。

燐のことはいい。口さがない言葉で罵られようと我慢できる。
けれど、雪男のことを馬鹿にするような発言を許すわけにはいかない。
燐は青い炎を纏い、激昂した。


「俺が雪男とそんなことするわけあるか!!!
雪男のことまで馬鹿にするなんて絶対に許さねぇからな!!!」

『それだけ男の匂いを纏わせておきながらよく言うわよこの淫売悪魔!!
しらを切ると言うのなら言ってあげましょうか?
貴方昨日も一昨日もその前も弟とまぐわっていたでしょう!
身体にガタがくるのも当たり前よ!激しすぎてこっちが眩暈を起こしそうなプレイしておきながら!』

「だからしらねェって言ってんだろ、その刀身へし折るぞ!!」
「……おい、ちょっと待て。なんだか雲行きが怪しくなってきたぞ」


激論を交わす燐とカリバーンを、アーサーは諌めた。

カリバーンが嘘を言わないことを、アーサーは契約上知っている。
彼女はそういう存在だ。
また、悪魔というのは人の弱みに付け込んで甘言を囁くため、
そういう負の行為、といったものに敏感である。

カリバーンの言うことは、恐らく事実だろう。

けれどその事実を突き付けても、燐は誤魔化すどころか逆に怒ってきた。
そういった行為は身に覚えがないとまで言っている。

普通、人は後ろめたいことがあると動揺し混乱し、なんとか隠そうとするはずだ。
怒る、という反応をしない者がいないとは言わないが。
それにしても、この反応はおかしい気がする。
カリバーンも燐の言葉が本心から言っているとわかり、動揺しているようだった。

『ちょっと、あの。貴方本当に何も知らないの?』
「だから何がだよ」
『え、だってその。部外者の私でも一目瞭然なのに…
実の弟に毎晩犯されているって、犯されてる本人がわかってないの…?』

燐は首を傾げるばかりだ。
彼は真実、嘘を言っていない。

アーサーは顔を青ざめさせた。
脳裏には利発そうな顔をした奥村雪男の顔が浮かんでくる。
彼はあんなに人のよさそうな顔をしておきながら、裏で何食わぬ顔で実の兄に手を出して。
込み出る嘔吐感を、アーサーは抑えた。
悪魔である燐も絡んでいるとばかり思っていたが、加害者は人間で被害者は悪魔の方だった。

「…おい、犯罪の匂いがしてきたぞカリバーン」
『ええ、アーサー。これ列記とした犯罪だわ。それも極悪非道な性犯罪だわ』

なに言ってんの。と燐はアーサーを問い詰めた。
アーサーは考える。
性犯罪の加害者と被害者は他の犯罪に比べて極めてデリケートな関係にある。
奥村燐は弟と共に暮らしていることで被害に合っているようだ。
ならば、まずは彼らを引き離すことが先決である。
上司の特権を乱用するべき場面であることは明白だ。

「よし、お前は今日から俺の使い魔にすることにしよう。今決めた」
「え?」
「というわけで、ヴァチカンに報告に行く。着いて来い」
「え?ええ?」
「行くぞ」

ひょいと燐を肩に担ぐと、アーサーは鍵を扉に差した。
動揺する燐には後で契約の首輪でも着けておこう。
訳のわかっていない燐は暴れてアーサーから逃れようとするが、
正義は我にありのアーサーは燐を逃す気などなかった。

程なくして日本支部に、燐の転籍が告げられる。
燐はヴァチカン所属になり、日本への帰還は当分なくなってしまった。
最初は抵抗していた燐も、アーサーとカリバーンの言うことを聞くうちに
雪男の行動に不審を持つようになった。
そして、二人の言った通り雪男と離れたことにより、
燐の体調がみるみる内に回復していったのは言うまでもなかった。


***


ヴァチカンのある一角に、犯罪者を尋問するための部屋がある。
その部屋は窓もなく、机が一つに椅子が二つあるだけだ。
椅子に座るのは今現在燐を保護するアーサー=オーギュスト=エンジェルと、
かつて燐を保護していた奥村雪男の二人だけ。

「兄さんを拉致するなんて、酷い人ですね」

雪男はさらりとそう言った。なんとも思ってなさそうだけれど気配でわかる。
雪男はアーサーを殺したくてしょうがないらしい。

「俺よりもお前の方が余程酷いことをしていると思うがな…」
「まあ自覚はしています。けれど改める気はないですね」

アーサーが雪男を問い詰めると、雪男はあっさり自白した。

ええ、兄さんのことを犯しているのは僕です。それがなにか。

ぞっとする言葉である。よくそこまで開き直れるものだ。
燐は現在体調が戻ったことを喜んでいるが、時折遠くを見ていることがある。
きっと弟のことを考えているのだろう。
雪男はちらりと壁の方を見た。そこに向かって微笑む。

「兄さんそこにいるんでしょう。こっち来なよ」
「よくわかるな」
「まぁ双子なもので」

言った通り、しばらくしてから扉が開いた。
壁はマジックミラーの様になっており、中の様子を覗くことができた。
雪男が呼びかけた壁の向こうには燐がいたのだ。
中に入って、燐はそっとアーサーの後ろに立った。
燐は動揺してがっちがちに固まっている。
まさか、自分が弟に犯されていたなんて夢にも思わなかっただろう。

「ゆゆゆ雪、男…お前本当に俺に…その」
「うん、手出してたよ。毎日毎晩365日欠かさずに」
「う、うそだあああああああああああ!!!!」

燐はわんわん泣き出した。当然だろう。
信じていた弟に裏切られ、その裏切りが嫌いだった上司に暴かれてしまうなんて。
アーサーは雪男に告げる。

「お前は自分の行動を改める気はないんだな」
「はい、欠片もありません。そして兄さんを逃がすつもりもありません」

雪男は仕込んでいた銃を、アーサーはカリバーンを構える。
お互いの獲物を構える二人に、燐は動揺した。

雪男のことは大切な弟だ。弟を傷つける輩を許すわけにはいかない。
けれどアーサーは燐の為を思ってこの場を設けてくれたのだ。
燐はどっちつかずな自分の気持ちに、どうすればいいのかわからなくなった。

「兄さん帰ろう、ここにいたら実験動物みたいに扱われる。
僕らの家に帰ろうよ」

雪男の言葉に燐は惹かれる。家族である弟の元に帰りたいと思う心もある。
けれど。そんな揺れる天秤のような燐の心に、アーサーが言葉を放つ。

「お前は俺の使い魔だ。
俺のものになるというのなら、お前は物みたく扱ってやろう」
「そんなことを言って、兄さんが喜ぶとでも?」
「わかっていないな…貴様らは親に、教師に習わなかったのか?
物は大切にしろという言葉を」


実の所燐のファーストキスはアーサーに奪われている。
その時にも言われた言葉だ。

アーサーは、不器用だけれど本当は優しい。
アーサーのものであるカリバーンは手入れもきちんと行き届き、
アーサーの一部が欲しいと強請ればきちんと与えられている。
彼は口は悪いが、今燐を助けようとしてくれていることがわかる。


「俺は、ものを大切にする男だ。お前のことも大切に扱ってやる」

だから俺と来い。
アーサーは言いきった。男前に言いきった。
燐の瞳から目を逸らさず、
きらりと光る王子のような微笑みで止めを刺される。。
彼はイケメンだ。性格は残念だけど顔だけは一級品と言ってもいい。
その顔が、燐だけに微笑んている。
心の天秤ががくんと傾いた。


「ごめん雪男、俺たちしばらく距離を置いた方がいいと思う」


告白よりも先に身体を手に入れた弟は
物事には順序というものがあることを理解した方がいいだろう。

残念そうな顔をする雪男の表情を見て、俺の弟ってイケメンだなと燐は思う。
ああ俺と離れて雪男が痩せたりしませんように。そう願って、燐は雪男と別れた。

別れ際に、いけないときは何時でも帰ってきてねと言われた。

俺の弟は、イケメンだけど下種だった。その事実に燐は打ちひしがれる。
ぽろりと流れ出る涙を、アーサーは見逃さない。


「泣くな、俺がいるだろう」


アーサーの言葉に、燐は落ちた。
例え武器に向ける言葉でもその言葉は優しく燐の心に積もる。
人は辛い時にやさしくされると見事に堕ちてしまうらしい。


天国のジジイ。ごめんなさい。奥村燐はいけない子です。
俺は、イケメンで優しい男のものになりました。


インテお疲れ様でした!


インテ無事に終わりました~。
当日お越し頂いた方々、誠にありがとうございました。
プチにも参加できて本当に楽しかったです!
主催の方々に本当にお疲れ様でしたとお伝えしたいです。素晴らしいプチオンリーでした。
スペースがあったのでくじは引きには行けなかったのですが、
皆さんのスタンプ集められたのでほくほくです。

またお隣の方や、お越し頂いた方にもお菓子を頂きました。
お返しできるものなくてすみませんでした(;^ω^)
帰ってさっそく食べたのですがお菓子美味しかったです。
ありがとうございます。糧になります。
白いくるみ最中今度お店で探してみよう…

今回イベントで支部で作品を拝見していた、つんさんにお会いすることができました!
声かけて頂いてすごくうれしかったです!まさかお会いできるとは。
メフィ燐やルシ燐大好きということで同志様に会えて本当によかったです。
これからも素敵なメフィ燐ルシ燐をお待ちしております!(^^)

お客様の中でもメフィ燐もルシ燐も雪燐も好きだとおっしゃる方にも出会えて
幸せなイベントでございました…
一人じゃないって確認できるのっていいですね!
今回だけでなく、また次の機会にもお会いできたらいいなぁ。

次は冬出れるかが未定なので、予定が分かり次第の参加にはなりそうですが、
それでも一般か何かで参加したいですね。

最後に在庫についてのお知らせですが、
今回でブルートレインとコピー本は完売致しました。ありがとうございます。
新刊についてはKブックスさんで通販が開始されました。


時の果てまで通販

どうぞよろしくお願い致します。

【インテ新刊】6号館Aゾーン ラ28bオフライン情報



『新刊サンプル』
時の果てまで
A5:P68:メフィ燐、雪燐、ルシ燐
あらすじ→「私はただ、貴方に生きていて欲しかっただけなのに」
魔神の呪いで人に魔神として認識されるようになった燐。
敵対する雪男は燐に向けて引き金を引き、やがて最悪の結末を迎えてしまう。
燐を失ったメフィストは自らの命を懸けて時を遡る。燐を救うために。

今日から俺は
A5:P16:コピ本:雪燐←ルシフェル 
あらすじ→雪燐で、虚無界の若君燐が和平の為に物質界を訪れて、雪男に出会うというお話。
ちょろっとルシ→燐表現有。


スペースNO:6号館Aゾーン ラ28bです。


表紙は
塩さんに描いて頂きました!ありがとうございます。

当日の新刊以外の頒布物は以下の通り。
さよならブルートレイン
RETURN
伽藍DOLL
RETURNはまだ少しだけありますが、
さよならと伽藍は在庫2冊程度ですが持っていきます。

御無沙汰しております。しこしこと本を書いておりました。
これにてひとまずイベント参加は区切りをつけたいと思っております。
今までお世話になりました。冬に出れたらよかったんですが予定が未定で・・・orz
最後に
ゆきりんマーケット様
参加することにしました。よろしくおねがいしますうううう!!

なお、書店通販はKブックスさんを予定しております。

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