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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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亡国のプリズム11

光の刃が迫っている。けれど避けるような動作はしない。
それよりもただ、ただ。目の前にいる敵を斬る。
その為の動きをしなければならない。

悪魔としての力を解放し、全てを持ってこいつを殺す。

燐は抜刀した。
青い炎に自分の体が包まれるのがわかる。
心臓がなかった時には感じなかった鼓動も聞こえる。
どくん、どくん。燐は生きていると思った。
幼い頃に心臓を奪われて、燐の力は常に制御された状態になっていた。
使える青い炎の量も少ないものだった。

それがどうだろう。手にした力は燐の全身に血の様に行きわたり、感覚全てが研ぎ澄まされる。
その感覚を持ってしても、この千の刃を避けることは不可能だと断じている。
この千の刃は己を一瞬の内に貫き殺すことができる。

ならば、共に死ぬのもいいだろう。
それで燐の大切なものが守られるというのならばそれでいいだろう。

光の刃が螺旋を描く。
燐はその刃の中心できらめくただ一つの青い刃だ。
速く速く速く。
青い光の線となって、燐の刃がルシフェルの首元に届こうとしていた。

けれどそれよりも早く光の刃が燐の元に。
足が斬れ、腕が斬れ、腹が斬られる。
致命傷になるまで深く抉られる前に。前へ出ろ。
頭で命じても体が前に動かない。

あと一歩なのに。

傷のせいで燐の刃の矛先が首元ではなく、ルシフェルの仮面に向かってしまう。
ルシフェルの顔は固い仮面でおおわれている。

一秒よりも短い時間の中の攻防ではその刃の遅れは命取りだ。
仮面の奥で暗い瞳が笑っている。
自身の勝ちを見た者の笑みだ。
ここで燐がルシフェルを討たなければ、誰が彼を止めるのだろう。
あと少し。
あと一歩が、足りない。

燐の刃が止まるかと思われた時。

ルシフェルの仮面が割れた。
額から綺麗に、二つに崩れ落ちていく仮面。
見れば、そこには一発の銃弾が撃ち込まれていた。
千の光の刃を潜り抜けて、彼の仮面を壊すためだけに届いた一発の銃弾。
そのイレギュラーは、戦場の中で命取りとなる。

燐は笑った。
燐の祖国の王は、機械の様に精密な射撃を得意としていると風の噂で聞いたことがある。
きっと、彼だ。
最後の一歩は、彼が押してくれた。

燐は刃に貫かれながら、一歩を踏み出した。
足には幾重にも折り重なるようにルシフェルの光の刃が刺さっている。
踏み込めば血があふれ、筋が斬れる。
踏み留まれるような状態でも、動けるような状態でもない。

それでも燐は、一歩を踏み出した。


「地を這って生きてきた、虫けらの痛みを思い知れ!」


彼の実験のせいで、大勢の人が死んだ。
国の外れて細々と生きていた人たちは、皆実験に使われ屍人に襲われ名もなき村は滅びた。
大切な人を亡くしていった。悪魔は人を喰っていた。
弄んでいた。嘲っていた。悪魔はずっと嗤っていた。

馬鹿にしやがって。燐はいつだって叫びたかった。
傲慢だ。力ある者が他者を蹂躙していいなんて誰が決めたと言ってやりたかった。

燐は人に全てを奪われて、悪魔に人であることを奪われて。
地べたを這いつくばるように生きるしかなった。
それでも、一度たりとも自分は悪魔のように生きたいとは思わなかった。
俺は人だ。悪魔だけど、人間なんだ。
燐は悪魔としての力を用いて、人として目の前の悪魔を殺す。

光り輝き、天に居座る者を打ち落とすように。
燐はルシフェルの首を搔き切った。

同時に、燐の体も光に打ち抜かれていた。
痛みはない。痛みなどという種類の物からはかけ離れている。
取り戻した感覚が、全て消失していく。
あんなにも熱かった鼓動が、時を止める。
青い炎は、ルシフェルの体へ宿り、燐の代わりに彼を焼き尽くしている。
燐の体に炎の灯はない。

ああ、終わった。

脳裏に浮かんだのは、弟の姿だった。
燐は息を吐いた。口からは大量の血が溢れ出している。
ルシフェルと視線が合った。
彼は自分が焼かれているというのに、笑っていた。
彼は嬉しいのだろう。思い通りにならない燐がいることが面白くてしょうがないのだろう。
燐が抵抗すればするだけ彼は楽しく思うのだ。
最悪だな。燐はルシフェルを睨み付けた。
それが、最後に二人が交わした視線だった。

燐の視界が、身体が、電池が切れたかのように真っ黒に染まっていく。
それは光を殺そうとした者への代償だったのかもしれない。


***


雪男は戦場の上を飛んでいた。出雲の使役する使い魔の背に乗せてもらっているのだ。
前には神木出雲がいる。宮殿に使える侍女である彼女がまさか手騎士としての才能を
秘めていたなんて考えたこともなかった。
雪男は持っていた銃を降ろした。銃口からは一筋の煙が出ている。

「私は、燐に頼まれていたんです。
王の傍に仕えて、何かがあった時は自分の代わりに王を守って欲しいと」

燐に救われた姉妹は、そうすることで燐への恩返しをしようと考えたのだ。
それに王宮に仕えていれば食べることに困ることもないし、
何よりあの研究所の輩も敵国の王宮に仕える者に手出しはしにくい。
本当なら、燐との約束があるので雪男をここに連れてきたくはなかった。
メフィストが余計なことを言うからいけないのだ。

『戦場にはきっと、燐くんを攫うために敵国の第二王位継承者であるルシフェルが来ていることでしょう。
燐くんは皮肉なことに、この国の王位継承権を持っていながら、敵国の第一王位継承権を持つと言う
複雑な立場です。父上を心酔している兄上が、彼に何かをしないはずはない』

やっと見つけた兄を奪われるような事態を、雪男が放っておくはずはない。
あれは絶対にわざとだ。しかもルシフェルは出雲のことも雪男にばらした。
せっかく今まで秘密にしてきたことが全て台無しである。
けれど、動くなら今しかないということも出雲は理解していた。

「王、僭越ながら申し上げます。私にできるのは貴方を安全な場所に運ぶことだけです。
危険を冒すようなことはできません。それは燐との約束に反することだからです」
「かまわない、僕を連れて行ってくれ」

雪男の様子を見ていた出雲は思わず腕をさすってしまった。
銃口から上る煙が、雪男が発砲したことを物語っている。
鳥肌が立っている。それは雪男が放った殺気のせいだった。
雪男は戦場の上に着くや否や、ライフルを構えた。
王が銃を使うことは知っていたが、戯れで狩りをするときにしか使っていないのだろうというのが
大よその使用人たちの見解だった。
けれど、ライフルの構え方から標的を狙う姿勢まで全てが戦う者として完成されていた。
王は王で、きっとこれまでの間に何人もの人を殺してこざるをえなかったのだろう。

私や、燐と同じだ。出雲は思った。
手を汚していない者などこの世界にはいないのではないだろうか。
そう思ってしまうくらい、この世界は荒廃している。

青い光と白い光が交差する戦場の中へと、雪男は迷わず引き金を引いた。
螺旋を描くように青い炎と白い光が折り重なって、やがて戦場に青い光だけが残る。

美しい光景だった。

青い光は水面のように戦場に広がり、赤い炎と屍人で覆い尽くされていた戦場を鎮めていく。
悪魔は燃え、人は残る。
ほどなくして、青い炎はまるで雪が散るかのように消えていった。

雪男は戦場を見下ろして、自軍の状況を確認した。
前線の兵は、三割ほど失ってしまったようだった。けれどこの状況で三割で済んだことが奇跡だろう。
今までと同じように、騎士団長が倶梨伽羅を使用してこの場を収めたかのように思える。
けれど、今回の倶梨伽羅の使用者は本来の持ち主である燐だ。
今までのようにはいかないはずだ。
雪男は祈るような気持ちで、出雲に戦場に降りるように言った。
出雲はまだ敵がいるかもしれないからそれはできないと雪男に告げる。
けれど雪男は確信を持っているようだった。


「あそこに、兄さんがいるんだ。迎えにいかないといけない、お願いだ」


出雲には何も感じなかった。雪男は最後に光の刃が消えた辺りを指差している。
おそらく、燐は。出雲は唇を噛み締める。
弟に会いたいと願っていた。それを叶えてやりたいと思うのは自然なことだった。
出雲はもしもの時は王の盾になる覚悟を決め、戦場に降り立った。

雪男は迷わずに進んでいく。屍人の気配もないので、本当に全て青い炎で殲滅したのだろう。
草も、木もない。白い地面の中に佇む人がいた。
別れた時と同じだ。雪男はそう思った。
土埃で汚れてしまった服を纏って、ずっと会いたいと願っていた人がそこにいる。

「兄さん」

雪男が声をかけた。彼は振り返る。
雪男と同じ青い瞳に赤い虹彩。彼らが双子である証だ。
燐は笑っていた。少し悲しそうに。

「大きくなったなぁ」

燐の頭の中では、雪男は小さなころのままなのだろう。
雪男は言い返した。

「兄さんは小さくなったね」
「お前がでかくなったんだろ。生意気だ」
「いいじゃない。僕はもう兄さんに守られているだけの存在じゃないんだ」
「・・・こんなところで、会っちまうなんてな」
「場所なんてどこでもいいよ。僕は会いたかった。ずっとずっと、兄さんに会いたかった。
ようやく夢が叶ったよ」
「お前が幸せに暮らしてるってわかったら、それでいいって最初は思ってたんだけど。
駄目だな、やっぱりどんどん欲張りになっていった。俺もずっとお前に会いたかった」
「じゃあなんで言ってくれなかったの」
「言えるような立場じゃないだろ」

何処から来たのかもわからないような孤児が、どうして王に会えるだろうか。
王の兄だと言って誰が信じるというのだろう。
不敬だと消されるのが普通だろう。それでも。

「遠くから見るだけで満足なんて、自己満足もいいとこだ。僕に失礼だよ」
「・・・今まで黙っててごめんな」
「いいよ。僕はずっと謝りたかった。兄さんは僕を守るために自分の全てを犠牲にしたってわかってる。
ずっとずっと謝りたかったんだ。兄さんの置かれている境遇を僕が代わることができたらってずっと思ってたんだ」
「そんなの俺が嫌だよ、俺はこれでよかったって思ってるんだから」
「聞いてよ」

雪男は言った。


「僕と生きて」


雪男は手を差し伸べた。
燐がその手を取ることはなかった。
ただ、悲しそうに首を横に振るだけだった。

雪男は呼ばれた。燐からではない。背後に控えていた出雲からだった。
王よ、一体誰と話しているのですか。
出雲の目には雪男の姿しか映らない。この場にいるのは雪男と出雲の二人だけ。
それが、この世界の現実だった。
雪男の目に映る燐の体にはヒビが入っていく。夢が終わる。
その度にきらきらと光の粒子が飛び散った。
まるでプリズムが砕けていくように。彼は散る。


「お前がいてくれるなら、壊れたってよかったんだ」


ぱきん、と目の前で兄が砕け散った。
雪男はその欠片に手を伸ばしたけれど、掴むことはできなかった。

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