青祓のネタ庫
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転校生を紹介する。と教師が教卓の上から言った。
周囲の生徒が少しだけざわつく。誰だろう。女の子かな。
クラスメイトは、地区が変わらないせいで小学校からのスライドとしかいえない面子しかいない。
中学でも、子猫丸や、志摩とも相変わらず同じクラスになった。
勝呂は、転校生とは珍しいな、と素直に思う。
京都は、どちらかといえば閉鎖的な都市だ。
歴史がある分、隣人とのつながりが深い。
こども同士の繋がりが家同士の繋がりの延長であることが多い。
勝呂、志摩、子猫丸の三人も例に漏れずそのパターンだ。
小学校からの同期は似たり寄ったりだろう。ここは、そういう土地柄だ。
だからこそ、勝呂の周囲では「祟り寺の子」という不名誉な呼び方がまだ根強く残っている。
そういうクラスの中に、転校生。勝呂は純粋にその転校生に興味が沸いた。
「外から来た人間」というのに憧れていたというのも理由のひとつかもしれない。
「坊、坊、女の子やったらどうしよ。俺恋に落ちてまうわ」
「志摩さん、昨日は3組の吉永さんと恋に落ちたんじゃなかったんですか」
「今日初めての恋かもしれん」
「毎日恋に落ちとるんか。せわしないやっちゃな」
相変わらず色ボケしている幼なじみは放っておいて、視線を前に向ける。
ドアは、少しだけ間をおいて開かれる。
黒の学ランが隙間から見えた。
それだけで「男かいなー」と志摩がつまらなさそうに言う。
少年は普通の足取りで教卓の上に立った。クラスのざわつきが止んだ。
赤い布でつつまれた竹刀袋だろうか。
それを肩から下げている姿は一風変わっていた。
剣道部にでも入るのだろうか。
それよりも一同が驚いたのは、少年の目が青かったことだ。
よく見れば、中心の瞳孔だけ鮮やかな赤色をしている。
ハーフ?という声がどこかから聞こえた。
ハーフにせよクォーターにせよ、偉く目立つ風貌の奴だ。
少年は、黒板に名前を書いた。
クラスのざわつきなど、対して気にしていないような様子だった。
先生は自己紹介を、と少年に促した。
「奥村燐、東京からきました。よろしく」
あー、東京モンか。と何故か納得したような声が挙がる。
興味を持つ声から、すかしやがってという声まで、クラスの反応は様々だ。
勝呂は、東京からはるばるなんで京都まで?という疑問が浮かぶ。
まぁなんにしても、関わることはないだろうと思っていた。
勝呂は奥村燐に関して、初対面で気に入らない点が一つあった。
別にそれは目が青いとか竹刀袋が目立っているとかいう些細なことではない。
目が、気に入らなかった。
他者を入り込ませないような、
奥村燐の瞳の奥に一瞬だけ感じた、薄暗い影。
理由はわからないが、それが気に入らなかった。
「男の子なのは残念やけど、美人は美人なんかな」
「志摩さん・・・節操って言葉知ってます?」
志摩が言った非常に残念な言葉に、呆れてものが言えなかった。
それが、奥村燐との最初の出会いだった。
後日、噂で聞いた話。転校生は、さっそくだがその目立つ風貌と生意気な態度で
上級生から呼び出されたらしい。
しかも、上級生全員をその場で伸して、病院送りにするという荒事付きだ。
奥村燐は、謎の転校生の他に不良だ悪魔とだいう噂が立つまで、時間はかからなかった。
東京から転校してきたのは、その素行に問題があったのではないか。
噂は独りでに歩き出し、最初は物珍しさから話しかけていたクラスメイトも
徐々に奥村燐のことを遠巻きにみるようになった。
風貌は不良だが、中身は優等生の勝呂はその噂を聞いて、
やはりいけ好かない奴だという印象を強める。
なにより、授業中寝るわ、サボるはを繰り返す奥村燐を真面目な勝呂は許せなかった。
奥村燐に対する勝呂の第一印象は、そんな具合に「最悪」からスタートしたのだった。
目の前にいるこどもは言った。
悪魔がいるんです。怖い悪魔が。
どうすればいいですか。
俺は、こどもに向けていった。
「大丈夫、なにも怖がることはない。君の家族がきっと君を守ってくれるよ。
そうだ、それでも不安だっていうのなら、なにかお守りをあげようか」
俺が、懐を漁っていると、こどもは言った。
よつばのクローバー、ありますか。
こどもは四つ葉のクローバーが魔除けのお守りになるとは知らないはずだ。
きっとこどもが目にしやすい、比較的ポピュラーな幸運の花が思い浮かんだのだろう。
「それならちょうどいい。ここに四つ葉のクローバーのお守りがあるんだ。
このクローバーがきっと君を守ってくれる。何か起きたら、またくるといい。
そのときは俺たち祓魔師がなんとかしてやる」
こどもは、四つ葉のクローバーのお守りをぎゅっと握りしめた。
そして、恐々とした顔でつぶやいた。
また、ここに来ていいですか。
「おう!いいぞ。待ってるからな!」
頭をがしがしとなでてやった。
俺たち祓魔師は、悪魔払いから、闇に怯えるこどもの世話まで。
分け隔てなく救いの手をさしのべる。
そんな職業だ。
俺は、そんな職業について早ウン十年。
今では、聖騎士なんていう役職についている。
「うわ、つめた!」
雪男は頭に突然降り懸かってきた水に顔をしかめた。
頭上を見上げれば、そこには瓶詰めで置いておいた聖水が。
床に座ったまま荷造りの作業をしていたので、倒れたことに気がつかなかったのか。
雪男は濡れた髪をかきわけて顔にかかっていた液体を拭った。
冷たい液体をかぶったせいだろうか、妙に頭がすっきりしている感覚がある。
眼鏡にかかっていた水滴を拭って、かけなおす。
聖水は、蓋をしていたにも関わらず全部こぼれてしまったようだ。
「あーあ、これ高濃度の聖水だから貴重だったのになぁ」
もったいないことをしてしまった。と肩を落とす。
二年前に祓魔師の試験に合格してから、
こういった祓魔道具は経費で落とせるようになった。
しかし、だからといってあまり高価なものを大量に買えるわけでもない。
位としては中一級になったが、一個人、経費で買える金額にも
ちゃんと上限があるのだ。
聖水は、また祓魔屋で購入するしかないなぁと考えた。
確か、まだ経費には若干の残りがあったはず。
それを考えて、雪男は聖水をこぼしたことにまたちょっと落ち込んだ。
覆水、盆に返らず。とはこのことだろうか。
とりあえず、荷造りしていた箱にガムテープを貼って蓋をした。
立ち上がって周囲を見回せば、部屋の中が妙にがらんとしていることに気づく。
「あとちょっとで、この部屋ともお別れなんだなぁ」
雪男は感慨深げにつぶやいた。
ここは、雪男が生まれてから今までを過ごした思い出深い修道院の一室だ。
家族と、修道院の修道士達に囲まれて過ごした、雪男の家だ。
春からは正十字学園の寮に住むことが決まっている。
そこでは、高校生をしながら祓魔師として過ごす二重生活が待っている。
自分で選んだ道だが、高校は成績優秀者が
集められた特進科に通うことになる。
大変そうだなぁと雪男はため息をついた。
まぁ、別段深刻には考えていないのだが。
雪男はぞうきんをとって、机の上のこぼれた聖水をふき取った。
小瓶はまた別の機会にでも使えるだろうからとっておこう。
雪男は荷造りと、掃除の終わった部屋を後にした。
リビングの方に向かうと、ちょうど仕事を終えた神父と出くわした。
「おう、雪男荷造り終わったのか?」
「うん、あとは送ってもらうだけで大丈夫だよ。神父さんは仕事終わったの?」
「ああ、仕事とはいっても、悪魔が見えるって怯える女の子の相談役さ。
勘が鋭い子みたいで、実際には見えていないようだったがな。
あいつには頼れる両親もいるようだったし、お守りだけ渡しておいた」
「そうか、魔障にかかってないのなら大丈夫そうだね」
「ああ、また悩み事があったら聞いてやれば楽になるだろう」
神父こと藤本獅朗は表ではただの修道院の神父だが、裏では祓魔師の最上級の資格を持つ聖騎士だ。
そんな藤本の携帯が着信を告げる音を奏でた。
「もしもし」
あ、仕事モードだ。と雪男は思った。
きっと祓魔師関係の仕事の方だろう。
この顔をしている時の神父は、堅い表情をしている。
それがわかったから、雪男は何も言わずにただ神父の表情を眺めた。
普段の父親らしい神父もいいが、この真剣な表情が、結構好きだった。
それくらいには、雪男は神父のことを尊敬している。
数回相手とやりとりをして、藤本は携帯を切った。
「これから仕事?」
「ああ、どうも支部の方でトリプルC濃度の貯水層がやられたらしい。
あれも、貴重だからな。俺が出て見ることになった」
「聖騎士様も大変だね」
「すまないが、ちょっと様子を見てくる。後のことは頼んだぞ」
藤本は、足早に玄関に向かっていった。
祓魔師の仕事は、年中無休といっていい。
でも、今回はあまり時間をとられそうもないな、と雪男は思った。
トリプルC濃度の聖水は、位の高い聖職者の洗礼で作ることができる。
藤本は、祓魔師としては最高位の聖騎士だ。
濃度の高い聖水は、ちょっとのコールタールが混ざり込んだだけでも反応を示してしまう。保存する時には気を使うデリケートな代物だ。
だからこそ、高位の聖職者が定期的に管理をする必要があった。
今回、たまたま上位の祓魔師が出払っていたので、
神父にお鉢が回ってきたということだろう。
きっと貯水層の聖水に洗礼をするだけだから、すぐに終わりそうだ。
雪男は残りの片づけをするために、リビングにおいてあったゴミ袋を手に取った。
いらないものは、朝のうちにまとめてゴミに出しておいた。
残りは、着れなくなった服とかかな、と思っていると。
ミサを終えた修道士達がリビングに集まってきた。
「おう、雪男。片づけすんだのか?」
「だいたいね。あとはゴミ出しくらいかな」
「あんなにちっちゃかった雪男がもう高校生とはなぁ」
「雪男がいなくなっちまうと。ここも、寂しくなるなぁ」
「藤本神父なんか、泣いちゃうんじゃないか?」
修道士達は口々に寂しいなとつぶやく。
雪男はそれに苦笑した。
自分がいなくなっても、まだ双子の兄が残っている。
まだ面倒事は山のように残っているだろうに。
でも、かまわれて悪い気はしなかった。
「僕は寮に入ってしまうからここから出るけど、
まだ手の掛かる兄さんが残っているし、寂しくはないと思うよ。
そういえば、兄さんの姿を見かけないけど、どこかに出てるのかな」
雪男は窓の外を見た。ゴミ収集車はまだ来ていない。
早く片づけた方がいいかなぁ。と思っていると、修道士達が怪訝な顔をしていった。
「なにいってんだ?雪男」
「え?いや、ゴミ早く片づけたほうがいいかなぁって・・・」
「違う違う。お前に兄ちゃんなんていないだろ?なにいってんだ?」
雪男の手が止まった。
冗談にしてはタチが悪い。
しかし、見上げた修道院の仲間の顔は、それが「当たり前」という表情だ。
何を言っているんだろう。雪男は狐につまれたような気分になった。
「まだ四月一日には早いでしょう。冗談はやめてよ」
「いや、お前春休みボケでも起きたのか?」
「違う!僕の双子の兄さん。奥村燐のことだよ!忘れたの!?
一体どうしちゃったのさ!!」
「だ、だったら。お前の部屋見て見ろよ。お前、ずっと一人部屋じゃんか」
言われて、そんなはずないと叫んで、急いで部屋に戻った。
扉を開けて、確認する。
二段ベッドがひとつと、机が2つ。
あとは、雪男が片づけてしまったので、なにもない。
二段ベッドも確認したが、そこから兄の布団はなくなっていた。
机の引き出しにもなにも入っていない。
二つの物が揃えられてはいるが、確かにこれは2人部屋とは言い難い。
まるで、ここには最初からだれもいなかったかのような。
がらんとした空間だ。
そんなの嘘だ。兄さんがいなくなるわけない。
雪男は、荷造りを終えた段ボール箱をひっくり返す。
「そんなわけない・・・そんなわけ」
中学校のアルバムを開けた。兄がいるなら、同じ中学に通っているはず。
名簿の一覧をみたが、そこに名前はない。
小学校の時はどうだろう。
探したが、どの段ボール箱に入っているのかがわからない。
写真は、アルバムは。
雪男は、燐の思い出を探した。
段ボール箱を探して、兄が使っていたノートや教科書がないかもみた。
なにもない。
どうして。
どうして。
混乱する。
兄はいないというみんなの言葉が信じられない。
雪男の記憶では、兄が笑っている表情がすぐに浮かんでくるのに。
ふいに思い出した記憶の中の兄は、幼い姿のままだった。
雪男は、手に握っていたゴミ袋のくしゃっとした感触で我に返った。
「ゴミ・・・まさか・・・」
雪男は青い顔をして、修道院の玄関を飛び出した。
それを見ていた修道士達は、なおも怪訝な顔で全力で走る雪男を見送った。
「どうしちまったんだ?雪男」
「さぁ」
修道士達は、雪男がなにをしたいのか、さっぱりわからなかった。