青祓のネタ庫
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一人になりたくないのか。
一人にしたくないのか。
なくしたくないから閉じ込めるのか。
自分のためなのか。
相手のためなのか。
果たしてその行為は相手を愛しているといえるのか?
あれから雪男は燐を離さなかった。
とはいっても学校もあれば塾もあるし、物理的に離れていることはある。
だが、あの日から決定的に変わったことがある。
いつも、燐の心の中には雪男の存在があるということだ。
雪男の寂しげな表情は燐の心を強く縛った。
幼い頃、雪男と二人で迷子になったことがある。
こどもだけで修道院を出てはいけないと藤本神父から言われていたのだが、
二人で修道院を抜け出した。
その日は二人の誕生日だったからだ。
神父が帰宅することを二人で楽しみにしていたのに、神父は
夜になっても戻ってこなかった。
「待ってろよ、神父さん今日はすぐに帰ってくるからな」
急な仕事が入ったと言って修道院を出る時、神父はそう二人に
約束をして出かけていった。
今思えば、きっと騎士団関係の仕事だったのだと理解できる。
でも当時は神父は仕事だからと納得できるようなものではなかった。
二人はベットの上に座って、暗くなっていく空を眺めた。
「今日は一緒にいてくれるっていってたのにね」
「そうだな」
「神父さん、今日帰ってくるのかな」
「・・・じゃあ、待つのはやめだ。神父さん迎えに行こうぜ」
ちらりと見た時計は夜の8時を指そうとしていた。
こんな時間に外に出たことは無い。
それでも神父がいない修道院は寂しくて、一刻も早く会いたかった。
いつもなら止める雪男も、今回は燐を止めなかった。
二人で手を繋いで修道院を抜け出す。
夜の街を駈ける。
神父のいる場所は修道院から5キロは離れている廃れた教会という話だ。
修道士達が話していたのを雪男が覚えていた。
夜の街は昼間と全く表情が違う。
家々の窓からもれる光が道を照らし、空にはぼんやりと月が光る。
静かだ。時折歩いている人も燐と雪男には無関心。
まるで世界に二人だけになった気分だった。
曲がり角に差し掛かったところで、二人は悩んだ。
「どっちだろう?」
「うーん・・・」
修道院からこんなに離れたことは無い。
神父がいるという教会にも一度だって行ったことはない。
完全に迷子だ。
「まずいなぁ」
燐は迷子になっても楽観的だった。
迷子になった不安よりも、神父を探す目的の方に意識が集中していたから。
右の方に行ってみよう、と燐は先に歩き出す。
燐の左手が引っ張られた。
「雪男?」
後ろを振り返る。雪男はとても不安そうな顔をしていた。
燐と同じ青い瞳には暗い色が宿っている。
「兄さん、大丈夫なの」
「雪男、心配すんなって。俺がついてる」
雪男が燐の左手をぎゅっと握り締めた。
もしも、ここで二人が離れることになったら。
僕達はひとりぼっちになってしまう。
「兄さん、お願い。手、離さないで」
あの後、どうしたんだっけ。
燐は授業が終わった学校の教室で昔を思い出していた。
迷子の二人は結局、物凄い形相で走ってきた神父に保護された。
心配かけやがって、と怒鳴られて両脇に抱えられたまま修道院まで
離してもらえなかったのもいい思い出だ。
あの時は、神父が迎えに来てくれた。
でも、今迎えに来てくれる神父はいない。
きっと後もう少ししたら、雪男が教室のドアを開ける。
最近いつもそうだ。学校に行くのも一緒だし、学校が終われば
教室まで迎えに来る。
騎士団から燐の監視命令を受けているのだから当然なのかもしれないが。
それにしたって、あの日以来雪男の行動はどこかが違う。
雪男は燐を離さない。
俺はあの時、雪男にどう答えたんだっけ。
窓を見て暗くなっていく空を眺めた。
教室のドアが開く音が聞こえた。早いな。
燐は荷物を持って振り返る。
今日は塾もない。
きっとこのまま寮に帰って、明日の朝まで出られないんだろうな。
ドアの前にいる人物を見て、燐は目を見張った。
派手なピンクの髪に、着崩した制服。
「なぁ奥村君」
不敵な視線で燐を見つめる。
「志摩・・・」
戸惑う燐に志摩は言う。
「俺と駆け落ちしてみん?」
一人になりたくないのか。
一人にしたくないのか。
前者の想いは自分の衝動。
後者の想いは相手への衝動。
その衝動の先にあるものは、同じようで全く違う。
父や兄のようになりたかった。
でも、そんな私に残されたのは何だ?
『無』だよ。
それを認めるのは怖いかね?
僕はお前とは違う。
僕に残るものがあるとしたらそれは―――
朝の光がまぶしくて、目を覚ました。
寝ぼけた目には強い朝日。
兄さん、カーテン閉めなかったのか。
少し苛立ちながらベットから起き上がる。
寝覚めが悪い、嫌な夢を見たようで、不快だ。
ボヤける瞳、手探りで眼鏡を取ってかける。
視界がはっきりした。
ベットから降りて、隣のベットに向かう。
そこには布団に包まって眠る兄の姿があった。
机の上にある時計を確認すれば午前6時。
雪男にしたらいつも通りだが、燐にとっては早い。
休日だからといってだらけていてはいけない。
特に兄は人より勉強しなければ。
「兄さん起きてよ」
布団を剥ぎ取る、いつもならクロが足元で丸まっているのに
今日に限っていなかった。外に出かけたのかもしれない。
燐は寒くなったのか、体を丸めてまだ寝ようとする。
猫ですら活動的なのに。
「兄さんてば」
ベットの上に乗り上げて、肩を揺する。
燐はおっくうそうに言った。
「・・・うっせーな・・・志摩」
肩を掴む手が、急激に冷えた気がした。
なんでそこで、彼の名前が出てくるんだ。
そんなこと一度だってなかったのに。
今までの不審が一気に心に襲い掛かってくる。
携帯電話に志摩君が出たのは何故。
誕生日の夜にどこに行っていたのさ。
この左手の先にいるのは彼なの。
雪男は燐の左手に指を絡める。
温かい、この手を握っていたのは僕だけだったはずなのに。
頭痛がする。嫌な夢を思い出しそうな予感。
でも、そんな私に残されたのは何だ?
『無』だよ。
それを認めるのは怖いかね?
僕には兄さんがいてくれると思ってた。
でも、兄さんはそうじゃないのかもしれない。
おかしいな。
にいさんがいなくなったら、ぼくにはなんにものこらないじゃないか。
兄の肩を掴んで、仰向けにする。
腹の上に乗り上げて、寝ぼけて力の入らない両手を拘束した。
雪男の行動に驚いたのか、燐は視線を雪男に合わせた。
「雪男、なんだよどうした」
雪男は応えない。そのまま顔を近づける。
燐は抵抗するように顔を背けた。
「雪男、嫌だ。やめろ」
その言葉に火がついた。
雪男は右手を振り上げて、燐の頬をぶった。
ぱしんと乾いた音が響く。
何をされているのかわからないだろう。
泣きそうな顔で見上げてくる瞳。
雪男の心は燐の反応を見るたびに冷えていった。
「じゃあ、志摩君にならいいっていうの?」
燐は降りてきた雪男の唇を今度は抵抗せず受け入れた。
触れて、離れた唇。右手でなぞる。
そのまま紅くなった頬を撫でる。
「雪男、雪男」
うわごとのように燐が名前を呟く。
今、この瞬間だけ兄が自分を見てくれている気がした。
雪男の手は首をなぞって、鎖骨の形を確かめた。
手が、燐の服の中に侵入する。
「抵抗しないの?僕を殴って逃げるくらい兄さんになら簡単だろ」
「お前、どうしたんだよ」
「兄さんって本当に何もわかってないよね」
耳元で呟いた。そうだ、なんにもわかっていない。
いや、わからないのかもしれない。
自分のことも相手のことも何一つ分からない。
「わかってないのはお前だろ」
寂しそうな声だ。なんでだろう、寂しいのは僕だったはずなのに。
「お前、迷子になったときと同じ顔してるぞ」
俺の目、見てみろよ。燐は言った。
でも、雪男は燐の肩に顔を埋めて瞳を見ない。
見ればきっとそこには情けない自分の顔が、泣き出しそうな自分の瞳が映る。
向き合うことで、鏡の様にそれぞれの表情を見せ合うことになる。
「雪男、手離してくれ」
「いやだ」
燐は仕方なく、ぶたれて紅くなった頬を雪男に寄せる。
触れ合った頬がやけに熱く感じた。
捕まえてないと、離れてしまうかもしれない。
掴まれてたら、お前を抱きしめられない。
二人は反対のことを思いながら同じことを想う。
なんでこうなってしまったんだろう。
なぁ雪男、俺はさ。お前にだけは俺を背負わせたくなかっただけなんだ。
心の内を言ってしまうのは簡単だ。
でも、今の雪男に言えば逆効果になってしまいそうで言えなかった。
雪男に拘束されて動けない。
このままではベットから降りることも、部屋から出ることもできないだろう。
燐は視線を壁に向けた。
行き止まりだ。
なぁ、まるで俺達みたいだな、雪男。
まじで今更ですが、インテお疲れ様でした。
1月9日?でしたっけ、行ってました。
最初は、よっしゃ!サークルさんに端から端まで話しかけちゃうぜ!
なノリだったのですが、現実は妄想とは違うものです。
勇気だして話しかけてみたものの、びくびくして結局うまいこと話せませんでした・・・
そこで断念して、あとはずっと壁でうずくまってました。
名刺交換なるものがあったようですが、相手様の名刺だけもろたよ・・・
名刺作ろうにも何を書けばいいのかわからなかった私にはすごく新鮮でした。
流行というか、本当に私は情報に疎いな。
っていうかウチのサイトの読み方本人がわからなかった。
だからこそ自己紹介できなかったという。
「CAPCOON7」
カップコーンセブンって読むんですかね?
うん。もうこれで。
私はカップコーンセブンのコンブです。
あれ、頭おかしい子みたいね!不思議!
今年はもう少しアクティブな子になるのが目標。
春にはアニメも始まるしね!
でも、弱小サイトなものでガクブルしちまうぜ!
放課後、教室で寝てても誰も起こしてくれなくて遅刻した。
奥村君は祓魔塾に遅れてきたときにこんなことを言っていた。
でも、放課後になっても誰も起こしてくれないとかありえるだろうか。
少なくとも志摩はそういう経験は無い。
放課後や移動クラスで寝ていた時などは、全然仲良くないクラスメイトでも普通に起こしてくれた。
奥村燐はクラスでどういう扱いを受けているのだろう。
祓魔塾以外での燐を見るために、志摩は足早に廊下を歩いた。
なんだかとっても興味が湧いた。
(あ、でもいじめとかだったら嫌やな・・・)
一瞬考えた嫌な予感に志摩の足が止まる。
奥村燐がいじめられるようなタマではないことはよく知っている。
まぁこれは確かめることが肝心だ。
もし、万が一にもそうだったなら慰めたろ。
そんなことを考えながら歩き出す。
別のクラスを覗くのは結構緊張する。
放課後を狙ってきたのだが、教室の中にはまだ何人か残っているらしい。
ドアの向こうから、女の子の話し声が聞こえてくる。
(奥村君おるかなー・・・)
ドアを開けて、こっそりと中を伺う。
夕暮れの教室に、机にうつ伏せて寝ている男子生徒がいた。
それを取り囲むように、女子が二人。
寝ている男子生徒を覗き込んでいるようだった。
女子が手を動かすと、ピロリン、という電子音が聞こえた。
「なにしとるんー?」
志摩が背後から話しかけると、女子生徒はきゃ、と小さく悲鳴をあげた。
志摩の方を振り返り、見かけない顔だと思ったのだろう「どちらさまですか」と
逆に質問された。
「俺は志摩いうんよ。そこで寝てる奥村君のお友達ー、君らクラスの子?」
寝ている燐を指差して言うと、女の子二人は顔を紅く染める。
携帯電話をもっている手が震えていた。
ちらりと覗き見た携帯電話の画面で全てを把握する。
恥ずかしいのだろう女の子達はいたずらが見つかった子供みたいにそわそわしている。女の子を愛でるのが趣味な志摩はその様子を見てニヤニヤを隠せない。
「このことは秘密にしてください」と言って女の子達は教室を駆け足で去っていった。
後に残されたのは、寝こける燐とそれを覗き込む志摩だけ。
志摩はニヤニヤした顔で燐を見る。
「奥村君も罪作りやなぁ」
起きているときの奥村燐は騒がしいし、
モノを知らないので馬鹿だと思われる面が多々ある。
いや逆にそれがあるからこそ今目の前の光景に人は惹かれるのかもしれない。
夕暮れの光に、燐の寝顔が照らされる。
普段の様子からは考えられない程、端正な寝顔がそこにはあった。
弟の奥村雪男は女の子にモテる。雪男に対する女の子の評価は「カッコいい」だ。
奥村雪男と奥村燐は双子の兄弟。
兄である燐が「カッコいい」顔をしていないはずがない。
つまり、燐だってモテているのである。本人が気づいていないだけで。
志摩はポケットから携帯電話を取り出して、ピントを合わせた。
ピロリン、と誰もいない教室に電子音が響く。
「誰にも言わんよー」
独り言を呟く。先ほどの女の子達と同じことを自分はしている。
画面には、夕焼け色に染まった燐の寝顔。
放課後、教室で寝てても誰も起こしてくれなくて遅刻した。
燐が遅刻した理由。
誰も、この絵になる風景を壊したくなかったのだろう。
だから、誰も奥村燐を起こさなかった。
「ここのクラスの子らは奥村君のことよう知ってるんやなー」
燐の顔にかかる髪をそっとかきあげる。
触られたことで、燐がうーん、と寝言を言う。だが起きない。
眠りの深さを確認して、志摩はそっと燐に顔を近づけた。
「このことは、秘密にしてな?」
燐の唇にそっとキスをする。
志摩は背後を振り返った。
教室の入り口で立ちすくむ、雪男と目があった。
志摩は悪い顔をして、雪男にもう一度言った。
「このことは、奥村君には秘密にしてな?」
わざとらしく、唇に指を当てて志摩は言う。
クラスメイトは奥村燐を起こさない。
ならば、燐を起こす役目は、弟の雪男しかいない。
今回も、燐を起こしにきたのだろう。
雪男に見られた光景を、志摩は謝るつもりはなかった。
それどころか、挑発的だ。
「・・・確信犯か」
雪男が起こしに来るタイミングで仕掛けた志摩に不快感を隠せない。
雪男は不機嫌な顔で呟いた。
眉間に皺が寄った険しい表情は、どこか燐に似ていた。
もしも俺が寝ている間に君が死ぬことになったら、
きっと俺は眠れない夜を歩き続けることになるだろう。
「見つけたぞ、奥村燐」
振り向いた瞬間に見えたのは白い祓魔師の制服だった。
夜明け前の空はまだ薄暗い。
それなのに、なんでこんな時間にここにいるのか。
志摩は寝巻きの上にダウンジャケットを着て、歩いていた。
正十字学園の男子寮は朝ごはんの時間、就寝時の時間等は正確に決められているが
基本的に自由行動が可能だ。
坊も早起きしてランニングをしているが、あれはどっちかというと
変態的だ。規則正しく、規律正しく生活を送っている高校生なんて信じられない。
普通こんな時間に志摩は起きない。
だが今日はなんだか眠れなくて、こうして朝が来るまで歩いている。
足は特に目的もなく歩き出す。
物音は自分の足音以外しない。町はまだ眠ったままだ。
街頭がぼんやりと歩く道を照らす。
分かれ道に差し掛かる。
右に行けば、遠回りだけど寮に戻る道。
左の道をこのまま行くと、旧男子寮が見えてくる。
どちらにいこうか。
志摩は少し考える。この時間だと、あの兄弟も寝ているはずだ。
そもそも会いに行きたいわけでもない。
なんとなく眠れなくて、なんとなく歩いて、なんとなく旧男子寮に行く。
志摩のスタンスは適当だ。
気が向いたし男子寮に向かうかなぁ、うん。そうしよ。
志摩は特に何も考えずに左の道を選んで歩いた。
道を歩いていると、紅い点々が散っているのが見えた。
先に進めば進むほど、点々は多く道にこびり付いている。
しゃがんで見てみる。
街頭の薄暗い光だけではわかりにくいが、これは。
「・・・血、やろうか」
身震いして、方向転換。この学園は中級以上の悪魔は入れない。
だが、それ以下の悪魔は入れるわけだ。
いくらレベルが低いとはいえ、悪魔に遭遇したくは無い。
もし悪魔じゃなかったとしても、こんな血が続く先にいる人間にも
遭遇したくは無い。
殺人鬼とかやったらどうしよ。
志摩は来た道を帰ろうとした。
でも、一度だけ振り返ってしまった。
それがいけなかったのかもしれない。
血が続く茂みの向こう。
人の足が見えた。
誰かいる。
振り返るんじゃなかったなぁ。
でも見てしまった以上は放っておけない。
「・・・・」
緊張した面持ちで、志摩は茂みに近づく。
街頭は茂みの暗闇までは照らしてくれない。
この距離では見えない。
足音を立てないように気をつけ、そっと茂みを覗いた。
風が吹く。
空にかかっていた雲が動いたのか、月明りがうっすらと茂みを照らした。
木に寄りかかる人物。
正十字学園の学生服が見えた。
そんな、嘘だろう。
「ちょ、大丈夫なん奥村君!?」
志摩は茂みをかき分けて、燐に声をかける。
燐の制服には黒い影がこびり付いている。
暗くてよく見えないが血だろうか。
こんなにたくさん。
「・・・志摩か」
「奥村君、なんでこんな・・・」
肩から下。斜めに切り裂かれている。
どうみても重傷だ。ここで止血くらいはできるだろうか。
志摩は燐の上着をはだけさせた。
傷ひとつなかった。
燐はおっくうそうに志摩の手を払う。
ぱしんとした乾いた音が響いた。
「・・・悪い」
「ううん、ええよ」
傷は治るのだ。奥村燐は悪魔だから。
普通の人間とは違って重傷を負ってもすぐに治ってしまう。
手を払ったのはそんな自分を見て欲しくなかったからだろうか。
「奥村君」
「なんだ」
「誰にやられたん」
「あー、あれだ。大嫌いな白い男」
「白い男?」
「今聖騎士やってるやつ」
「・・・確か、アーサー=オーギュスト=エンジェル・・・?」
「うん、それ。あいつ事あるごとに俺に嫌がらせしてくんの。
それも、殺す寸前で止めるから毎回困ってんだよな」
殺さないのは上層部が燐を祓魔試験までは生かすという方針をとっているからだ。
燐の言葉を聞いて、志摩は腸が煮えくり返る想いがした。
アーサーには勿論。目の前で倒れる燐にもだ。
「なぁ。毎回って、これがはじめてじゃないん?」
「・・・あー、まぁそうだな」
「なんでなん」
「なにが?」
「奥村君のことやからどうせ誰にも言ってないんやろ。ひどいわ。初めて知った」
「・・・雪男にも言ってないしな」
言わないのは傷が治るからだろうか。
でも、あの弟は兄がこういう目にあっていると知ったらどうするだろう。
志摩は携帯電話を取り出した。
燐はそれを止める。
「連絡しないでくれ」
「なんで?納得いく言葉でいってくれな俺は止めんよ」
燐は志摩の瞳を見て言った。
「負けた・・・こんなかっこ悪い姿見せたくねーんだよ。
いつか、あいつに勝つまで俺は絶対に言いたくない」
お互いに目を逸らさなかった。
燐の目は本気だった。
志摩はため息をついて手の平をそっと上に上げた。
思いっきり燐の頬をブチ叩いた。
「いってええええええええええ!!」
「アホか!こんな怪我して変な意地はるな!!いくら俺でも怒るで奥村君!」
「もう怒ってんじゃねーか!!」
「当たり前やドアホ!!言うてやろー先生に言うてやろー」
「うわ、馬鹿やめろ!」
燐は志摩に飛び掛った、だが出血のせいで貧血なのだろう。
結果的には志摩に倒れ掛かっただけ。二人で地面に転がる羽目になった。
志摩の上に血まみれの燐がもたれかかる。
起き上がろうとするが、その前に志摩は燐の体に腕を回して固定する。
「なぁ、奥村君どうしても奥村先生に言いたくない?」
兄としての意地なのか。男としての意地なのか。
弟に心配をかけたくないのか。アーサーに勝ちたいからなのか。
ごちゃまぜになった想いが燐を捉えて離さない。
それでも。
「うん、俺は言いたくない」
「じゃあ俺と取引しよ、奥村君」
志摩は自分の上に乗る燐と目を合わせた。
「次、奥村君が怪我したら俺が迎えにいったる。
だから俺だけにはこのこと言って」
「やだ」
そうしたら、志摩に迷惑がかかる。
燐はそんな表情だ。
「じゃあ奥村先生に言うで」
「それは駄目だ」
煮え切らない燐の態度に腹が立って唇にキスしてやった。
燐は完全に油断していたのか唇が離れるまで大人しかった。
尻尾だけが動揺してかパタパタと揺れている。
そういえば悪魔との契約は身体的接触によって成り立つって
授業で言っていた気がする。
「うん、取引成立やで奥村君」
よしよしと燐の頭を撫でた。燐は不服そうだ。
「なんだよ従わないと雪男に言うぞってことだろ。ただの脅しじゃねーか」
「ええやん。奥村君だって動けんまま朝を迎えたくないやろ」
「それはそうだけどさ」
志摩は燐を背中に負ぶって歩き出す。
出血が酷くて貧血で動けない身体。なんだか酷く軽い気がする。
空を見上げたら、朝日が昇ろうとしていた。
「眠いわー、なんか今日授業受けれる気せぇへん」
「俺にかまうからだろーが」
夜一人で散歩した道を夜明けには二人で歩くことになった。
眠れない夜を歩いたら、傷だらけの同級生を拾った。
そいつは意地っ張りで、一人ぼっちで動けなくなっていた。
このことを誰にも言いたくないというならいいだろう。
今度から俺が迎えにいってやる。
相手が意地を張るなら、こっちだって意地を貫き通してやる。
そうして思い知らせてやるのだ。
君が傷ついて心配する人間が弟以外にいるということに。