青祓のネタ庫
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放課後、教室で寝てても誰も起こしてくれなくて遅刻した。
奥村君は祓魔塾に遅れてきたときにこんなことを言っていた。
でも、放課後になっても誰も起こしてくれないとかありえるだろうか。
少なくとも志摩はそういう経験は無い。
放課後や移動クラスで寝ていた時などは、全然仲良くないクラスメイトでも普通に起こしてくれた。
奥村燐はクラスでどういう扱いを受けているのだろう。
祓魔塾以外での燐を見るために、志摩は足早に廊下を歩いた。
なんだかとっても興味が湧いた。
(あ、でもいじめとかだったら嫌やな・・・)
一瞬考えた嫌な予感に志摩の足が止まる。
奥村燐がいじめられるようなタマではないことはよく知っている。
まぁこれは確かめることが肝心だ。
もし、万が一にもそうだったなら慰めたろ。
そんなことを考えながら歩き出す。
別のクラスを覗くのは結構緊張する。
放課後を狙ってきたのだが、教室の中にはまだ何人か残っているらしい。
ドアの向こうから、女の子の話し声が聞こえてくる。
(奥村君おるかなー・・・)
ドアを開けて、こっそりと中を伺う。
夕暮れの教室に、机にうつ伏せて寝ている男子生徒がいた。
それを取り囲むように、女子が二人。
寝ている男子生徒を覗き込んでいるようだった。
女子が手を動かすと、ピロリン、という電子音が聞こえた。
「なにしとるんー?」
志摩が背後から話しかけると、女子生徒はきゃ、と小さく悲鳴をあげた。
志摩の方を振り返り、見かけない顔だと思ったのだろう「どちらさまですか」と
逆に質問された。
「俺は志摩いうんよ。そこで寝てる奥村君のお友達ー、君らクラスの子?」
寝ている燐を指差して言うと、女の子二人は顔を紅く染める。
携帯電話をもっている手が震えていた。
ちらりと覗き見た携帯電話の画面で全てを把握する。
恥ずかしいのだろう女の子達はいたずらが見つかった子供みたいにそわそわしている。女の子を愛でるのが趣味な志摩はその様子を見てニヤニヤを隠せない。
「このことは秘密にしてください」と言って女の子達は教室を駆け足で去っていった。
後に残されたのは、寝こける燐とそれを覗き込む志摩だけ。
志摩はニヤニヤした顔で燐を見る。
「奥村君も罪作りやなぁ」
起きているときの奥村燐は騒がしいし、
モノを知らないので馬鹿だと思われる面が多々ある。
いや逆にそれがあるからこそ今目の前の光景に人は惹かれるのかもしれない。
夕暮れの光に、燐の寝顔が照らされる。
普段の様子からは考えられない程、端正な寝顔がそこにはあった。
弟の奥村雪男は女の子にモテる。雪男に対する女の子の評価は「カッコいい」だ。
奥村雪男と奥村燐は双子の兄弟。
兄である燐が「カッコいい」顔をしていないはずがない。
つまり、燐だってモテているのである。本人が気づいていないだけで。
志摩はポケットから携帯電話を取り出して、ピントを合わせた。
ピロリン、と誰もいない教室に電子音が響く。
「誰にも言わんよー」
独り言を呟く。先ほどの女の子達と同じことを自分はしている。
画面には、夕焼け色に染まった燐の寝顔。
放課後、教室で寝てても誰も起こしてくれなくて遅刻した。
燐が遅刻した理由。
誰も、この絵になる風景を壊したくなかったのだろう。
だから、誰も奥村燐を起こさなかった。
「ここのクラスの子らは奥村君のことよう知ってるんやなー」
燐の顔にかかる髪をそっとかきあげる。
触られたことで、燐がうーん、と寝言を言う。だが起きない。
眠りの深さを確認して、志摩はそっと燐に顔を近づけた。
「このことは、秘密にしてな?」
燐の唇にそっとキスをする。
志摩は背後を振り返った。
教室の入り口で立ちすくむ、雪男と目があった。
志摩は悪い顔をして、雪男にもう一度言った。
「このことは、奥村君には秘密にしてな?」
わざとらしく、唇に指を当てて志摩は言う。
クラスメイトは奥村燐を起こさない。
ならば、燐を起こす役目は、弟の雪男しかいない。
今回も、燐を起こしにきたのだろう。
雪男に見られた光景を、志摩は謝るつもりはなかった。
それどころか、挑発的だ。
「・・・確信犯か」
雪男が起こしに来るタイミングで仕掛けた志摩に不快感を隠せない。
雪男は不機嫌な顔で呟いた。
眉間に皺が寄った険しい表情は、どこか燐に似ていた。
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