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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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行き止まり



父や兄のようになりたかった。
でも、そんな私に残されたのは何だ?
『無』だよ。
それを認めるのは怖いかね?



僕はお前とは違う。
僕に残るものがあるとしたらそれは―――


朝の光がまぶしくて、目を覚ました。
寝ぼけた目には強い朝日。
兄さん、カーテン閉めなかったのか。
少し苛立ちながらベットから起き上がる。
寝覚めが悪い、嫌な夢を見たようで、不快だ。
ボヤける瞳、手探りで眼鏡を取ってかける。
視界がはっきりした。
ベットから降りて、隣のベットに向かう。
そこには布団に包まって眠る兄の姿があった。
机の上にある時計を確認すれば午前6時。

雪男にしたらいつも通りだが、燐にとっては早い。
休日だからといってだらけていてはいけない。
特に兄は人より勉強しなければ。
「兄さん起きてよ」
布団を剥ぎ取る、いつもならクロが足元で丸まっているのに
今日に限っていなかった。外に出かけたのかもしれない。
燐は寒くなったのか、体を丸めてまだ寝ようとする。
猫ですら活動的なのに。
「兄さんてば」
ベットの上に乗り上げて、肩を揺する。
燐はおっくうそうに言った。


「・・・うっせーな・・・志摩」


肩を掴む手が、急激に冷えた気がした。
なんでそこで、彼の名前が出てくるんだ。
そんなこと一度だってなかったのに。
今までの不審が一気に心に襲い掛かってくる。

携帯電話に志摩君が出たのは何故。
誕生日の夜にどこに行っていたのさ。
この左手の先にいるのは彼なの。


雪男は燐の左手に指を絡める。
温かい、この手を握っていたのは僕だけだったはずなのに。
頭痛がする。嫌な夢を思い出しそうな予感。
でも、そんな私に残されたのは何だ?
『無』だよ。
それを認めるのは怖いかね?


僕には兄さんがいてくれると思ってた。
でも、兄さんはそうじゃないのかもしれない。
おかしいな。
にいさんがいなくなったら、ぼくにはなんにものこらないじゃないか。

兄の肩を掴んで、仰向けにする。
腹の上に乗り上げて、寝ぼけて力の入らない両手を拘束した。
雪男の行動に驚いたのか、燐は視線を雪男に合わせた。
「雪男、なんだよどうした」
雪男は応えない。そのまま顔を近づける。
燐は抵抗するように顔を背けた。
「雪男、嫌だ。やめろ」
その言葉に火がついた。
雪男は右手を振り上げて、燐の頬をぶった。
ぱしんと乾いた音が響く。
何をされているのかわからないだろう。
泣きそうな顔で見上げてくる瞳。
雪男の心は燐の反応を見るたびに冷えていった。


「じゃあ、志摩君にならいいっていうの?」


燐は降りてきた雪男の唇を今度は抵抗せず受け入れた。
触れて、離れた唇。右手でなぞる。
そのまま紅くなった頬を撫でる。
「雪男、雪男」
うわごとのように燐が名前を呟く。
今、この瞬間だけ兄が自分を見てくれている気がした。
雪男の手は首をなぞって、鎖骨の形を確かめた。
手が、燐の服の中に侵入する。
「抵抗しないの?僕を殴って逃げるくらい兄さんになら簡単だろ」
「お前、どうしたんだよ」
「兄さんって本当に何もわかってないよね」
耳元で呟いた。そうだ、なんにもわかっていない。
いや、わからないのかもしれない。
自分のことも相手のことも何一つ分からない。

「わかってないのはお前だろ」

寂しそうな声だ。なんでだろう、寂しいのは僕だったはずなのに。



「お前、迷子になったときと同じ顔してるぞ」
俺の目、見てみろよ。燐は言った。
でも、雪男は燐の肩に顔を埋めて瞳を見ない。
見ればきっとそこには情けない自分の顔が、泣き出しそうな自分の瞳が映る。
向き合うことで、鏡の様にそれぞれの表情を見せ合うことになる。
「雪男、手離してくれ」
「いやだ」
燐は仕方なく、ぶたれて紅くなった頬を雪男に寄せる。
触れ合った頬がやけに熱く感じた。


捕まえてないと、離れてしまうかもしれない。
掴まれてたら、お前を抱きしめられない。


二人は反対のことを思いながら同じことを想う。
なんでこうなってしまったんだろう。
なぁ雪男、俺はさ。お前にだけは俺を背負わせたくなかっただけなんだ。
心の内を言ってしまうのは簡単だ。
でも、今の雪男に言えば逆効果になってしまいそうで言えなかった。

雪男に拘束されて動けない。
このままではベットから降りることも、部屋から出ることもできないだろう。
燐は視線を壁に向けた。


行き止まりだ。


なぁ、まるで俺達みたいだな、雪男。

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