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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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衝動の先にあるもの


一人になりたくないのか。
一人にしたくないのか。
なくしたくないから閉じ込めるのか。
自分のためなのか。
相手のためなのか。

果たしてその行為は相手を愛しているといえるのか?




あれから雪男は燐を離さなかった。
とはいっても学校もあれば塾もあるし、物理的に離れていることはある。
だが、あの日から決定的に変わったことがある。
いつも、燐の心の中には雪男の存在があるということだ。
雪男の寂しげな表情は燐の心を強く縛った。



幼い頃、雪男と二人で迷子になったことがある。
こどもだけで修道院を出てはいけないと藤本神父から言われていたのだが、
二人で修道院を抜け出した。
その日は二人の誕生日だったからだ。
神父が帰宅することを二人で楽しみにしていたのに、神父は
夜になっても戻ってこなかった。
「待ってろよ、神父さん今日はすぐに帰ってくるからな」
急な仕事が入ったと言って修道院を出る時、神父はそう二人に
約束をして出かけていった。
今思えば、きっと騎士団関係の仕事だったのだと理解できる。
でも当時は神父は仕事だからと納得できるようなものではなかった。
二人はベットの上に座って、暗くなっていく空を眺めた。
「今日は一緒にいてくれるっていってたのにね」
「そうだな」
「神父さん、今日帰ってくるのかな」
「・・・じゃあ、待つのはやめだ。神父さん迎えに行こうぜ」
ちらりと見た時計は夜の8時を指そうとしていた。
こんな時間に外に出たことは無い。
それでも神父がいない修道院は寂しくて、一刻も早く会いたかった。
いつもなら止める雪男も、今回は燐を止めなかった。
二人で手を繋いで修道院を抜け出す。

夜の街を駈ける。
神父のいる場所は修道院から5キロは離れている廃れた教会という話だ。
修道士達が話していたのを雪男が覚えていた。
夜の街は昼間と全く表情が違う。
家々の窓からもれる光が道を照らし、空にはぼんやりと月が光る。
静かだ。時折歩いている人も燐と雪男には無関心。
まるで世界に二人だけになった気分だった。

曲がり角に差し掛かったところで、二人は悩んだ。
「どっちだろう?」
「うーん・・・」
修道院からこんなに離れたことは無い。
神父がいるという教会にも一度だって行ったことはない。
完全に迷子だ。
「まずいなぁ」
燐は迷子になっても楽観的だった。
迷子になった不安よりも、神父を探す目的の方に意識が集中していたから。
右の方に行ってみよう、と燐は先に歩き出す。
燐の左手が引っ張られた。
「雪男?」
後ろを振り返る。雪男はとても不安そうな顔をしていた。
燐と同じ青い瞳には暗い色が宿っている。
「兄さん、大丈夫なの」
「雪男、心配すんなって。俺がついてる」
雪男が燐の左手をぎゅっと握り締めた。

もしも、ここで二人が離れることになったら。
僕達はひとりぼっちになってしまう。


「兄さん、お願い。手、離さないで」



あの後、どうしたんだっけ。
燐は授業が終わった学校の教室で昔を思い出していた。
迷子の二人は結局、物凄い形相で走ってきた神父に保護された。
心配かけやがって、と怒鳴られて両脇に抱えられたまま修道院まで
離してもらえなかったのもいい思い出だ。
あの時は、神父が迎えに来てくれた。
でも、今迎えに来てくれる神父はいない。
きっと後もう少ししたら、雪男が教室のドアを開ける。
最近いつもそうだ。学校に行くのも一緒だし、学校が終われば
教室まで迎えに来る。
騎士団から燐の監視命令を受けているのだから当然なのかもしれないが。
それにしたって、あの日以来雪男の行動はどこかが違う。
雪男は燐を離さない。



俺はあの時、雪男にどう答えたんだっけ。



窓を見て暗くなっていく空を眺めた。
教室のドアが開く音が聞こえた。早いな。
燐は荷物を持って振り返る。
今日は塾もない。
きっとこのまま寮に帰って、明日の朝まで出られないんだろうな。
ドアの前にいる人物を見て、燐は目を見張った。

派手なピンクの髪に、着崩した制服。
「なぁ奥村君」
不敵な視線で燐を見つめる。
「志摩・・・」
戸惑う燐に志摩は言う。




「俺と駆け落ちしてみん?」




一人になりたくないのか。
一人にしたくないのか。
前者の想いは自分の衝動。
後者の想いは相手への衝動。



その衝動の先にあるものは、同じようで全く違う。

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