青祓のネタ庫
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いつも拍手ありがとうございます。
こんなところでも来て下さるお客様がいらっしゃってありがたいことです。
コメントもありがとうございます。本当に宝です涙
みなさんがいるから頑張れまっす。
さて、夏にインテに出ようと思ってはいるのですが、
なにぶんここも過疎サイトなので需要がどこまであるかが
本気でまったくわかりません。
以前ご迷惑をおかけしたこともあるので今回はなんとかできたらいいなぁ。
というわけで、アンケートにご協力いただければ幸いです。
|_|´・ω・`) そ~~・・・
サンプルは以下の通り。
CPはこのサイトにおいてあるような雪燐で燐受けで燐中心本。
よくばるな!って話ですね。すみません。
無料配布かつサイトにおいてある
夜とホテル
夜と雪山
「夜と雪山」・「夜とホテル」を踏まえた内容となっていますが、
読んでなくても話は通じます。
深山鶯亭事件とも絡めてますので、なんでもありだぜハハハ!
念のため言っておくとシリアスです。
一応作成途中なので、若干変わる可能性はあります。
段落等はWEB仕様となっております。実際は詰めてます。
サンプル1
サンプル2
7/23締切!
アンケートご協力ありがとうございました!!
参考にさせて頂きます!
どうぞよろしくお願いいたします。
しばらくこの記事は上にきますので、ご注意ください。
「ここにいるお方をどなたと心得る!
虚無界の魔神様の実子にして唯一の力を受け継ぐ若君様であらせられるぞ!
警察などという人間に拘束されて良い方ではないのだ!なぜそれがわからんのだ!」
白鳥、ことアスタロトは堂々と言い放った。ここは交番だ。
時間帯は深夜。アスタロトの隣で燐が机の上につっぷして泣いていた。
もう嫌だ。帰りたい。と泣きながら訴えていた。
警察は燐に同情しつつも、これも仕事のうちなんでね。
ごめんね。と言葉をかけながら調書を書いている。
「で、なんで学生さんなのに深夜の繁華街なんかにいたの。
疑われるようなことするからこうなるの。わかる?」
「だから俺は学生じゃない!俺はもう立派な大人なんだよ!」
「そうだ!こちらの方は王子と呼ぶにふさわしいお方なのだぞ!」
「・・・これはあれかな。そういうファンタジーごっこが今の若い人には流行ってるの?
それともゲームの中の話かなぁ」
警官は先ほどから堂々巡りの会話にやや疲れた声をあげた。燐だってそうだ。
ことの始まりは燐が深夜、祓魔師としての任務に向かう途中のことだった。
朝から立て続けに任務についており、
乾いた喉を潤そうと自動販売機でジュースを買っていた所。
見回りを行っていた警官に声をかけられた。
「なんで学生さんがこんな深夜にうろついているのかな?」
「は?」
燐は自分の背後を見た。人はいなかった。
燐は立派な成人だ。高校を卒業して、祓魔師としての資格も取った。
まだ魔神を倒すまでには至っていないが、祓魔業で立派にお金を稼いで税金も払っている。
ただ、一つ問題があるとすれば十五歳の時点で悪魔として覚醒したため、
肉体的な成長が見られないことだ。
燐は年は取っているのに、見た目は若々しい十代という人間社会では非常に困った外見をしている。
未成年は深夜に出歩くことは日本では許されていない。
つまり、これは俗に言う補導であった。
「ちょっと一緒に来てね。保護者の人に連絡するから」
「え、ちょ待って待って!!俺これから仕事があんの!」
「仕事?こんな時間にかい?いかがわしい仕事じゃないの?
こんな時間に未成年働かせるなんて」
「いえ、だから誤解です!!」
燐は中学の時点で何度も補導された経験がある。
そして経験上補導されるとすごくやっかいなことになることも理解していた。
一度交番まで連れて行かれると、保護者なる人物が迎えに来るまで帰れないのだ。
昔は父が迎えに来てくれたが、その父ももういない。
二十歳になるまではメフィストが後見人になってくれていたが、
成人しているのだから連絡するわけにはいかない。
雪男は一足先に任務の待ち合わせ場所に行っているはずだ。
もう燐は成人している。頼れる者は己自身。
ここは伝家の宝刀、祓魔師免許を見せて無実を証明するしかない。
あれには生年月日も書いてある。燐はポケットに手を入れた。
しかし、そこにあったはずのものがない。
「え?え?ない!!」
落としたのか、いや。記憶を探るとなくしたわけではない。
忘れたのだ。確か今日免許証も携帯も家に忘れて、同僚に頼んで雪男に連絡してもらった覚えがある。
それを受け取るのは今回の任務先だったはずだ。
つまり、今携帯もなければ免許証もない。
燐には自分が何者であるかを証明する物がないのだ。
あわてる燐の腕を掴んで、警官は連れていこうとする。
どうしよう。このままでは任務に間に合わないどころかピンチだ。
燐がいくら未成年ではないと言おうが、経験上相手には通じない。
だれか知り合いでも通らないだろうか。燐は辺りを見回した。
すると、誰かが慌ててこちらに近づいているのが見えた。
燐はその姿を見て絶望した。
「若君!どうされたのです!?」
「お、お前なんでこんなとこいんだよアスタロト!
あ、さては今回の任務の騒動もてめぇのせいか!」
「若君にお会いしたい一心で・・・その」
白鳥に取り憑いているアスタロトはもじもじと指を合わせて恥じらうが、可愛さなど微塵もない。
任務の内容は腐の眷属が繁華街で大暴れしているという通報が入り、その駆除が目的だった。
アスタロトは燐のことを崇拝しているようで、ことあるごとに事件を起こして燐に会おうと画策していた。
なぜなら広範囲の汚染に対応できるのは今のところ燐の青い炎しかないからだ。
それをいいことにアスタロトはやや過剰な主従根性を燐にぶつけてきている。
燐はそれに対して心底迷惑だと思っているのだが、それに気づくアスタロトではなかった。
彼は悪魔で自分の欲に忠実なのだ。正直、燐の気持ちは二の次である。
警官はアスタロトに質問した。燐の知り合いかと。
アスタロトが憑いている白鳥は悪魔に何度も取り憑かれるような
性根の腐った外道だが、外見は大人だ。
燐の保護者とも取れるような発言に対して訝しげながらも対応しようとしたのだ。
「君、この子のお知り合い?」
「知り合いではない!下僕だ!」
「・・・そっちの道の人かな?どういったご関係で」
「血縁で言えば異母兄弟と言ったところだろうか。
偉大なる父君は他にも七人の兄弟を作ったが、若君は末の弟にあたる。
しかし、私がお仕えするべきお方だ」
「へぇ九人兄弟・・・すごいね。子沢山だね。近くの組にそんな子沢山なところあったかなぁ」
「全員母親は違うがな」
「・・・複雑なご家庭だね」
「もうやめてくれアスタロト!ますます誤解されてんじゃねーかよ!」
今言ったことはすべて真実だが、一般人に理解されるものではない。
燐もアスタロトも悪魔だ。まず、人間の感覚で語ることが間違っている。
そして、アスタロトはさらなる爆弾発言を繰り返した。
「この場は私が若君をお救いするのが筋というもの!聞け下賤なる人間よ!
こちらの方は悪魔の中の悪魔の王、魔神様のお世継ぎであるぞ!
人間ならば頭を垂れて従うべき高貴なるお方なのだ!
お目通りが叶うだけでありがたいと思え!
普通なら殺しても足りない程だが、これもすべて若君が人間に害を成すなという
お言葉故私は我慢しているのだ!」
「じゃあ君も一緒に行こう。薬持ってないか調べよう」
「俺の保護者候補が薬中確定じゃねぇかああ!!!」
誤解が誤解を生んで取り返しがつかないことになっている。
燐はそれでも連行される間中アスタロトに人間に手を出すなと説得して、
決して警官を殺さないようにお願いにお願いを重ねた。
アスタロトが公務執行妨害に、薬物所持。その上殺人罪まで犯せば
燐は容疑者の家族としてめでたく新聞に載ってしまう。
雪男に顔向けできなくなってしまう。
白鳥も、自分の知らない間に刑務所行きだ。
そして冒頭に至るのだが、延々と続く調書の作成に燐はとうとう涙を流した。
本来ならアスタロトと燐は別々に事情聴取されるのだが、
今回運悪く当番の警官が不在だったのだ。
一人の警官に同じ質問を何度もされて、燐は精も根も尽き果てた。
別々だったらいっそアスタロトを見捨てることも考えれたのに、それも無理だ。
それに、燐は結局人間を見捨てることができないだろうから、
警官と八候王を同じ場所に置いて去ることなどできなかっただろうが。
朝から任務について、深夜まで働かされて、休日出勤当たり前。
魔神の落胤だからと、手当も満足にでない。
そんな職場でもがんばってきたのに。任務に行こうとしただけなのに。
なんで自分がこんな目に遭うのだろう。
神様。俺のことがそんなに嫌いですか。
魔神の落胤だからですか。それでもいくらなんでもあんまりです。ひどいです。
選んだ道は茨の道なれど、二十歳過ぎて補導なんて道はあんまりです。
任務をサボる気なんて更々なかったのに、これでは完全に遅刻だろう。
今まで築き上げてきた信頼が一気に崩れてしまう。
魔神の息子だからとまた口さがない言葉が飛び交うのだ。
ごめん雪男、俺は駄目な兄貴だった。
燐は連日の過酷な労働環境に加えてあまりの世間の理不尽さに涙を流した。
確かに免許を忘れた自分が悪いこともわかっている。それにしたってあんまりだ。
「・・・うっ・・・うう・・・父さん・・・ッ」
唯一頼れる父の名を呼んで、燐は泣いた。その父も今はもういない。
保護者のありがたみが本当に身にしみてわかった。
無条件に自分を守ってくれる存在とはありがたいことなのだ。
アスタロトが泣く燐の背中を撫でながら言った。
「そんなにも魔神様が恋しかったとは・・・不覚でした。
今すぐ虚無界へ帰りましょう若君」
「違ェよ馬鹿!!お前結局それが目的か!!!」
燐がアスタロトをぶん投げた。
警官が暴れる燐を拘束しようとしたところで、全く違う第三者の声が聞こえてきた。
「やれやれ、時間になっても来ないという連絡を受けて来てみれば。
なんて騒ぎですか・・・」
そこにはピエロの格好をしてメフィストが立っていた。
足下にはアスタロトが伸びており、それをふんずけて交番の中へと入ってくる。
雪男から連絡を受けて探していれば、一つの交番から上級悪魔の気配が二つも出ているではないか。
メフィストはアスタロト対策の為かピンクのマスクをつけており、
怪しいことこのうえなかったが、極限状態に陥った燐には正に救いの主と見えた。
そして、普段なら絶対に言わないであろう言葉を口にした。
「お、お兄ちゃーーーん!!!」
そのままメフィストに抱きついた。
燐に投げ飛ばされて伸びていたアスタロトは、メフィストにより祓われて虚無界へと強制送還された。
白鳥の体はこの際目覚めるまで警官に預かってもらうことにする。
メフィストは人間界でも正十字学園の理事長という立場があり、燐の後見人でもあった人物だ。
権威ある人物による身元保証により、晴れて燐は自由の身となった。
「それにしても、君から兄として扱われるとは貴重な体験でした。
一種のプレイのようですね。興奮しますね。ねぇもう一回言ってくださいよ奥村君」
にやにやしながら語る姿は、まさしく悪魔のようだ。
今回の燐の不遇を心の底から楽しんでいる。
燐は顔を真っ赤にして二度と言うかと怒鳴り散らしている。
この男に弱みを見せてしまったのは奥村燐一生の不覚だ。
雪男にこの男を兄呼ばわりしたことがバレれば、きっと恐ろしい目に遭うだろう。
月明かりの中、二人を見送る警官は、こうつぶやいた。
「長男がピエロで、下僕扱いの兄がいて。
高校生の末弟が跡継ぎ・・・か。どこの組かマークしておいた方がいいのかなぁ」
結局誤解は解けないままだ。
悪魔の家庭は複雑怪奇なのである。
メフィストは騎士団からの回線に通信が入っていることを確認すると、通話のボタンを押した。
通話相手はアーサー=オーギュスト=エンジェル。現聖騎士だ。
悪魔嫌いで有名なエンジェルはよっぽどのことがない限りメフィストに連絡を取ったりはしない。
今回はそのよっぽどの事に当たるのだろう、メフィストはどうやって
彼に恩を売ってやろうかと考えながら、言葉を発した。
「もしもし、貴方から連絡があるなんて真夏なのに雪でも降りそうですねエンジェル」
「ああ、こちらは雪が降っているがわかったのか。悪魔め」
「え、今夏なのに降ってるんですか」
「吹雪だがそれがどうした」
「・・・いえ、貴方の言葉にいちいち突っ込んでても
前に進みませんね。どうしました」
「ああ悪魔の討伐用に借りていた奥村燐なのだが、
熱で再起不能になってしまってな。取りに来て欲しいのだが」
「は?奥村君が熱・・・?」
「すごいぞ、三十七万度八分もあるんだ。日本にいる監視役の奥村雪男とは
連絡が取れなくてな、一応後見人に当たるお前に連絡をとったのだが。
来ないならいいぞ、雪の中にでも突っ込んでおけば熱も下がるだろう」
「それだと悪化するでしょう、っていいです!今どちらですか?
奥村先生は今電波の届かない僻地へ出張中ですからどの道連絡は取れませんし」
「ヴァチカンの地下にある氷結術式の中に突っ込んでいるが」
「だからそれ悪化しますって!」
言うやいなや、メフィストは指を鳴らし急いでヴァチカン地下に続く鍵を出現させた。
あの健康優良児。奥村燐が熱。ただ事ではない。現に夏のヴァチカンで雪が降っている。
天変地異の前触れに違いない。メフィストは燐の心配というよりこれから何が起こるか
わからない点に危機感を覚えて急いでいた。奥村燐は悪魔だ。
それも自分と同じ魔神を父に持つ虚無界でも超上級の。
滅多なことでは死なないだろう。しかし、悪魔が熱を出すなど聞いたことがない。
どういうことなのだろうか。まさか勉強し過ぎて知恵熱が出たのだろうか。
彼ならありうる。
鍵を回して扉を開ければ、そこはもう目当ての場所だ。
氷結術式をはめ込んだ独房で燐は拘束されているのだろう。
きっと寒いだろうな。そう考えてメフィストは急いで燐の元に向かおうとしたが、
扉から一歩中に足を入れた瞬間に驚いた。真夏と呼ぶにふさわしい暑さが房の中全体に広がっていた。
暑い。ここは地下のはずなのに何故こんなにも暑いのか。氷結術式はどうした。
メフィストが熱源の中心にたどり着くと、そこにはいつもの祓魔師姿のアーサーがいた。
「来たか悪魔め、こんな事態でなければ絶対に連絡を取らないのだがな」
「こっちだってそうですよ失礼な。というか貴方暑くないんですか?そんなコート着て」
「大丈夫だ、コートの下は全て脱いでいるので汗はコートが吸収してくれる。
それに生地は夏仕様なので薄手だ。問題ない」
「それ、公然猥褻という意味では問題ある気がしますけど」
メフィストがちらりとアーサーを見れば、なるほど下に何も着ていないことがわかる。
夏仕様、ということは生地が薄い。生地が薄い上に白地となると
どうしても下が透けてしまうのが世の理だ。アーサーはスケスケのコート一枚で、全裸。
しかも汗で生地が肌に張り付いていて体のラインが出て余計に卑猥だ。
大事なところが微妙に見えそうで見えないところがまた絶妙な猥褻行為に当たりそうだった。
視界の暴力から目を反らして、メフィストは燐がいるであろう房を見た。
そこにはじりじりと熱を発しながらもぐったりと横たわる燐がいる。
「奥村君ー聞こえますか?」
「人間では近寄れなくてな、先ほど私も熱に聞くという
ネギを買ってきたのだが使いようがない」
「いや使わないでください。っていうかなんで貴方
日本のマイナーな風邪治療の方法知ってるんですか」
「シュラが教えてくれたのだ、熱を出したら尻にネギを突っ込めばいいのだと。
上司思いの部下を持ったものだ」
「・・・ええそうですね」
おそらくシュラはアーサーのことが嫌いで教えたのだろう。
本人が気づいていないのならそれに越したことはない。
いつか熱を出したときにアーサーが自らの手で尻にネギをねじ込めばいいのだ。
誰に迷惑をかけるわけでもないだろう。
しかし、人間が近寄れない熱を出していなければ、
奥村燐の純潔はネギによって奪われたということになるのだろうか。
恐ろしきは人の親切である。
メフィストは焼け付くような暑さの中、燐に近づいてその額に手を乗せた。
これはヒドい。メフィストの手のひらですら焼けそうな熱だ。
現に燐は苦しそうに胸を押さえてうずくまっている。
その様子にすら悪魔の中の悪魔であるメフィストは興奮を覚えた。
いつも元気な奥村燐が苦しんでいる。それだけでああ、胸が高鳴るじゃないか!
「では、連れて帰りますけどよろしいですね?」
「ああ討伐用に借りてただけだしな、さっさと帰るがいい。
しかしあの討伐した悪魔も倒す前からなにやら苦しそうにしていたのだが、
何か関係があったのだろうか」
「さぁそれはわかりませんね」
メフィストはアーサーの言葉を耳に入れつつ、いつものスリーカウントで燐を連れて部屋に戻った。
燐の周囲が熱で燃えそうになったので、慌てて彼の周りに結界を張る。
結界は熱を吸収して適温となり大気中へ気化するので火事になることもないだろう。
メフィストは天蓋付きのベッドへ燐を寝かせると、着ているものをはぎ取った。
汗で濡れているのでこのままだと余計気持ち悪いだろう。
体に薄手の布をかけてやり、体温を調節できるようにしてやる。
燐は裸に近い格好で、メフィストのベッドに横たわっている。
苦しそうに息を乱し、額には汗がにじんでいる。
こんな場面でなければ扇情的な姿だ。メフィストは燐の耳元に唇を寄せた。
「はしたない子ですね。子供のくせに」
「・・・う、あ」
燐の言葉にならない声はメフィストを刺激するには十分だった。
子供のくせに。メフィストが改めて思うと、脳裏にふと思い当たることがあった。
メフィストは再度アーサーに連絡を取った。
「アーサーだ、ネギは使ったか」
「ネギの信憑性はともかくとして、聞きたいことがあります。
その討伐した悪魔ですが、年齢というか・・・いつ頃生まれたとかわかりますか?」
「わかるぞ、あの悪魔は孵化して間もない。たぶん悪魔の中でも赤子に当たるのではないか。
あの種族は成体になるとやっかいなので生まれてすぐに叩くのがセオリーだ」
「なるほど、わかりました。あとネギはとてもよく効きますよ」
「では今度試してみよう」
「そうしてください」
電話を切ると、メフィストは燐に向き直った。
つまり、孵化して間もない悪魔から移されたのだろう。
燐は悪魔として覚醒して一年にも満たない。
年は十五だが、悪魔としてはひよっこもひよっこだ。
何百年も生きる悪魔にとっては赤子とそう変わりない。つまり。
「これ、悪魔はしかですね。いやぁ懐かしいアマイモンが生まれてすぐなって以来ですね。
あれもぎゃんぎゃん泣きわめいて自力で治るまでうるさいことこの上なかったですが」
数百年も前のことをしみじみと思い出して感慨に耽る。
メフィスト自身も気の遠くなるほど昔になった覚えがある。
悪魔が一番最初になる病気だ。
これを越えてこそ強靱な肉体と病にかからない体を手に入れるのだ。
メフィストは笑いをこらえて燐をみた。
「つまり、こどもがなる病気ってことですよ。
安心なさい死にはしません。死ぬほど苦しみぬくだけです」
それは安心するに値しない言葉だが、燐にはどう聞こえていただろうか。
メフィストは指を鳴らして濡れたタオルを燐の額に乗せた。氷枕を頭に敷くのも忘れない。
あらかた熱に効く処方を施して、メフィストは悪魔の甘言を燐に囁いた。
「それとも、今ここで大人にして差し上げましょうか?」
燐の体にかかっていた布を際どいところまではだけさせる。
今燐の意識はないに等しい。こどもを大人に変化させる方法。
それはメフィスト自身の手で燐の純潔を散らすということだ。
それはとても甘美な響きに思えた。
ここでいう子供から大人になるということは、
大人の体液を介して子供にはしかの抗体を移す行為に当たる。
それは大人同士の夜の営みから親子の親愛のキスまで様々だが、
メフィストが親愛のキスで終わらせるような輩ではないことは明白だ。
「とても楽になりますよ、快楽に身を任せていればすぐに治ります。奥村君、どうしますか?」
メフィストの手が燐の体をなぞる。
燐は身を捩ってメフィストから逃げようとするが、それを許すメフィストではない。
どうしますかと疑問を投げておきながら有無を言わさない強引さだ。
燐はうっすらと目を開けた。潤んだ瞳がメフィストを見上げている。
メフィストは燐に色事を仕掛けるべく顔を近づけた。
そして、燐の腕もメフィストの首に回される。
同意の合図、そうとってメフィストは事を起こそうとしたのだが。
「ッ!!!」
引き寄せられ、口づけが行われるかと思いきや。
燐の口はメフィストの首もとに寄せられた。
そして鋭い牙でメフィストの肌を食い破ると、その血をワインのように飲んだのだ。
自分より大人の悪魔の体液、といえばこの場で該当するのはメフィストしかいない。
しかしそれはメフィストが望んだやり方ではなく、半ば奪い取るように燐は抗体を手に入れた。
血を飲むという野蛮な方法で。
口元は赤く染まり、徐々に燐の熱が下がっていく。
それに苛立ったのかメフィストは燐の頬を打った。
「しつけのなっていない子だ!」
赤くなった頬から、すでに熱は引いていた。
燐はぐらりと揺れる頭を戻して、メフィストの方へ向き直った。
そして汚い物を吐き出すように口に溜まっていたメフィストの血液を吐き出す。
「てめぇの思い通りなんか、に・・・なるかよ」
ギラリと光る鋭い視線にメフィストは射ぬかれる。
ああそうだこの瞳だ。反抗的で言うことを何一つ聞こうとしないじゃじゃ馬の瞳。
この意志をねじ伏せることにメフィストはこの上ない快楽を感じてしまう。
「いいですね奥村君、私としたことが胸が高鳴ってしまいました」
なければ他者から奪い取る悪魔としての基本をこの末の弟は起こしたのだ。
長兄として喜ばないわけにはいかない。
この弟は人間でありたいと願いながら悪魔としての本能も同時に生きている。
だからメフィストは奥村燐から目をそらせられない。
先ほどの怒りが嘘のようにメフィストは燐の虜になった。
燐は赤子の時を脱して、大人としての第一歩を踏み出したのだ。
「今日はお祝いです、お赤飯炊かないといけませんね」
「言ってろクソ野郎」
そして、その夜はお赤飯を炊いてお祝いということになり、
燐とメフィストの仲を誤解した雪男が出張先から突撃してくることになった。
「フェレス郷。熱にはネギがいいそうです。昔神父が言っていました」
「くっ、一連のネギ事件の犯人は藤本でしたかッ!!」
その夜は赤飯を持ってネギから逃げる悪魔がいたそうだ。
夕暮れの校舎で、ひとりで泣いていた。
靴は片方しかなくて、もう片方は隠されてしまった。
これでは帰れない。上履きで帰ることも可能だけれど、
そうすればきっと神父さんは心配するだろうし修道士達も気づくはずだ。
それだけはいやだった。
雪男はこんな風にいじめられたとしても、男の子だ。
なけなしのプライドまで捨てたくはなかった。
泣いて、一息ついたら靴を探して帰ろう。
そう思ってしゃくりあげる息を止めて、呼吸を整えた。ところで、雪男の前に影が差した。
雪男にひやりとした汗が流れる。今は夕暮れ。
そう、人ならざるモノが歩き出す逢魔が時だ。
雪男はそういった人ならざるもの、悪魔が見える。
神父が言うには幼い頃に魔障を受けたことが原因らしい。
こんな怖い思いをしたくなくて、弱い自分を変えたくて。
そして大切なもの。兄を守るために、雪男は神父の手を取った。
しかし祓魔師の訓練を始めたからといって、すぐに強くなれるわけではない。
資格のない訓練生の今はあくまで対処法を学んでいるだけにすぎない。
恐怖がなくなるわけではないのだ。
今、雪男の目の前に立つ影がある。
祓魔師を目指すなら、動揺してはいけないこともわかっている。
でも、雪男は今小学生だ。頭では理解できても、心がついていかない。雪男は叫んだ。
「あ、悪魔ッこっちに来ないで!!」
雪男にかかっていた影が、動揺したかのように揺れた。
いつもなら、雪男の影の中に入って驚かしたり、
もっと怖い声をあげてくるはずなのにそれがない。
雪男は視線をあげた。そして、心の底から後悔した。
「お前の・・・くつ。あっちにあったから」
そこには兄である燐が立っていた。
クラスは違うが、帰り際に雪男のことを知ったのだろう。
泣いている自分の為に靴を探してきてくれたのだ。
それなのに、自分はなんてこと言ってしまったのだろう。
雪男は真っ青になって言った。
「ごめん、兄さん。その、僕ちょっと動揺してて・・・」
「ん?ああ気にすんなよ」
燐はぽんぽん、としゃがみこむ雪男の頭を撫でた。安心させようとしたのだろう。
兄の手はいつだって優しさであふれていた。
この手から、神父さんや自分を唸らせる料理がでてくるのだ。
この手があるから、雪男には家族がいるのだと安心できるのだ。
この手は、雪男にないものをたくさんもたらしてくれる。
でも、その優しい手は今かすかに震えていた。
そのことに雪男の心は悲鳴を上げそうになった。
悪魔の子。化け物。お前なんか死んじゃえ。
なんでここにいるんだ。悪魔だ。悪魔がいる。
兄の燐に浴びせられる言葉。
悪魔という言葉を、よりにもよって自分が言ってしまった。傷つけてしまった。
僕のせいだ。
雪男の目にまた涙がこみ上げてきた。それを見た燐が、慌てたように雪男に話しかける。
「大丈夫だって雪男、靴は見つかったんだし。
そりゃ、今は汚れちゃってて履けないかもしれねーけど。帰ったら洗えばいいだろ」
「そうだね・・・これ履いたら靴下の方が汚れちゃうや」
雪男は返ってきた自分の靴をみてため息をついた。
運動場にでも放置されていたのだろう。
砂埃でかなり汚れているが、帰って洗えばなんとかなるだろう。
体育で汚してしまったとでも言えば言い訳がたつ。
しかし、問題は帰り道をどうするかだ。
靴下を汚れることを覚悟で履けば大丈夫だが、
そうすると汚れた靴下と靴の両方を洗わなければならない。手間は二倍だ。
雪男が考えていると、燐がその場に背を向けてしゃがみこんでいる姿が見えた。
雪男は首を傾げる。
「兄さんなにしてるの?」
「なにって見りゃわかんだろ。おんぶだよ。ほら、乗れ」
「え、でもなんで兄さんが僕をおんぶするの?」
「なんでって、俺がお前の兄貴だからだろ。靴このままじゃ履けねーし。
俺がおんぶして帰れば済むことだ。ほら」
燐は雪男を急かすように腕を自分の首に回させた。
燐のランドセルは反対側に背負っているので、お腹からはランドセルが出て、
背中には雪男を背負ってというなんとも重たそうな光景になってしまう。
雪男は慌てて燐に言った。
「いいよ、自分で歩く」
「俺がいいからいーんだよ。ほら、俺って力持ちだから大丈夫だって」
燐の腕は、雪男と変わらないくらいの細さなのにこの腕のどこからそんな力が出てくるのか。
雪男とランドセルを軽々と持って燐は歩きだした。
雪男は振り落とされないように、靴を持った手をしっかりと燐の首に回して固定する。
それだけで、雪男の心は安堵に包まれた。
「兄さん・・・」
雪男は燐の背中に耳を当てた。とくとくとく、と心臓の鼓動が聞こえる。
体も雪男とそう変わらないのに燐は大人をも凌ぐ力を持っている。
知ってるよ。兄さんが力持ちなことくらい。
だって、兄さんは本当の悪魔なんだもの。
言えるわけのない言葉を飲み込んで雪男は燐の服をぎゅっと握りしめた。
兄は雪男のことを弟だからと守ってくれる。
でも、兄のことは一体誰が守るのだろう。
今は神父さんがいてくれる。でも、神父さんがいないところで兄さんに危機が迫ったら。
兄さんを守る人は誰もいなくなってしまう。
雪男は自分が弱いことを知っている。
だから、神父のように兄のようになりたいと強く願った。
自分は差し伸べられる手にいつまでも甘えていてはいけないのだ。
今度は自分が手を差し伸べられるように。
「兄さん」
「なんだよ」
「兄さんが困ってたら、絶対に僕が助けるからね」
僕は力持ちじゃないから。兄さんよりもがんばらないといけないだろう。
それでも、僕にできることがきっとあるはずだ。
同じ身長に揺られて帰る道は、いつもよりも少しだけ遅かった。
***
あれから、何年たっただろうか。
雪男は理事長室の扉を開けて、声を荒げた。
「兄さんッ」
「おや奥村先生お早いお着きで」
「それよりも、兄はどこです!?」
「そこにいますよ、お持ち帰りお願いしますね」
見れば、ソファの上に燐が横たわっていた。
腕で顔を隠している、顔色は少し青い。貧血ぎみなのかもしれない。
雪男は燐の足下を見て、その原因を突き止めた。
右足が包帯でぐるぐる巻きにされている。添え木もあることから、折れているのだろう。
任務で怪我をしたという知らせを受けて、急いで来てみればこれだ。
雪男といっしょの任務の時ならば雪男が気を配れるので燐の怪我は最小限に押さえられる。
しかし、一度離れてしまえば燐は誰かを守るためにその身を投げ出すことも厭わない。
「こんなこと、いつまでも続けないでよ」
「悪ィ・・・お前に迷惑かけて」
ほら、そうして自分のことを考えない。
そういうところが一番嫌いだ。
「そんなことより、もっと自分を大事にしてよ」
雪男は何回目かわからない台詞を吐いた。それに燐が答えることはない。
この問答はこれからも何回だって続くだろう。
雪男はため息をついて、燐を背中に背負って理事長室を後にする。
向かう先は医務室ではなく寮だ。
二人だけの空間の方が、傷も見やすいし、なにより燐も休みやすいことが理由だった。
一度、医務室に運んだときにその場にいた祓魔師に暴言を吐かれて以来行かないようにしている。
まだ、魔神の落胤を憎む輩は消えていない。
そんな奴らの心ない言葉で、兄が傷つくことが雪男は許せなかった。
いつもよりぐったりとしていることから、今回は相当血を失ったのだろう。
今はうっすらとした跡を残して消えているが、燐の体には生傷が耐えない。
傷がいくら消えてなくなろうとも、雪男は燐の傷を覚えてやるつもりだった。
蚯蚓腫れ一個だって見逃してなるものか。
「兄さんふくらはぎ、それから右手左二の腕、首にまで切り傷の跡があるよ。
それから鎖骨あたりには火傷。制服で隠れているけどまだあるでしょ」
「そうだなー。今回結構手こずったから。悪いな背負わせちまってさ」
「僕がいいからいいんだよ。ほら、僕って昔より力持ちだから大丈夫」
そういって、雪男は燐を背負いなおした。
昔はこの背中に背負われていたのに、今は逆だ。
自分は兄より背が高くなった。
自分は兄より体重が重くなった。
同じだった昔には、もう戻れない。
背負って歩けるようになるくらいだ。
身長差は日々開いていく。
これから、どんどん。
兄を守れるくらい、自分は大きくなれただろうか。
背中の重さは、年がたつにつれてどんどん軽くなった。
それは雪男に力がついたのか、燐が軽くなったのかはわからない。
そのどちらでもあったのかもしれない。
「雪男」
「なに」
「お前、俺より背中でっかくなっててむかつく」
「ようやく気づいたの」
「認めたくなかっただけ」
「腕も肩も、身長も兄さんより大きいよ」
「イヤミか」
「真実だ」
「雪男」
「なに」
「すぐ追いつくから、お前もうコレ以上でっかくなんな」
「・・・無茶言うなぁ」
伸びる身長をどう止めろというのか。
しばらくすると、背後から寝息が聞こえてきた。
きっと疲れていたのだろう。
とくとくとく、と昔聞いていた鼓動が、背中から聞こえてきてなんだかくすぐったい気持ちになる。
僕たちは変わってしまった。
でも、変わらないものもきっとある。
「絶対、兄さんを追い越してみせるからね」
兄の背はもう伸びない。
それは悪魔に覚醒した瞬間に確定してしまった事実だ。
それでも。
背よりも大きな兄を追い越すために僕は今でも足掻いている。
SQ最新号ネタバレ有りです!!
クラーケンの退治も終わり、奥村兄弟の不和も一応の決着を付け、
祓魔塾の生徒一同はイカ焼きそばの調理に追われていた。
イカの足は取れたてのせいかぷりぷりとしており、意外と切りにくい。それに、大きさが半端ではない。
人の力では切りにくいそれをバッサバッサと切り裂いている燐がいなければ短時間では終わらなかっただろう。
しかし、倶利伽羅は調理器具ではないと明蛇の次期党首である勝呂は思いつつも言わなかった。
戦闘で空いた腹を早く満たしたかったという理由もある。勝呂は燐のほうをみた。
切れたイカの足を、鉄板の上で焼く姿は楽しそうだ。
あの海神の島でなにがあったかはわからないが、弟である雪男との仲も少しは修復されたらしい。
その証拠に雪男は燐の作っている焼きそばをそわそわと側で見守っていた。
勝呂たちは知らないだろうが、海神の島で作った燐の料理を意地を張って雪男は食べなかった。
その空腹が今頃きているのだろう。
燐は側で待つ弟に苦笑しながら、一番に出来た焼きそばを弟の皿に山のように盛り分けた。
「おーい、欲しい奴はこっち並べよ~」
燐のかけ声で、周囲にいた塾生や祓魔師達が集まってきた。
当初は魔神の息子ということで警戒されていたが、燐の料理のうまさが浸透したらしくいそいそと並んでいる。
その様子を見て、勝呂はふと温かい気持ちになった。
燐は魔神の落胤だ。だがそれの一言では燐を語れない。
奥村燐は悪魔だけれど、そこらの人間よりもよほど人間らしさを持っている。
それが少しでも多くの人にわかってもらえたら、燐の味方が増えることに繋がるだろう。
「ほれ、勝呂は多めに盛ってやるよ」
「おおきに、お前も食べや」
鉄板の焼きそばもいい具合に量が減ってきた。
ちょうどいい頃合いだろう、燐も残りを自分の皿に盛ると、勝呂と共に浜から外れた階段に向かった。
そこには志摩や子猫丸がすでに座っており、二人に向かって手を振っていた。
「待ってましたよ~こっちです」
「奥村君お疲れさまです、この焼きそば美味しいです」
「へへ、そうか?よかった」
階段に座ってイカ焼きそばを口にかき込む。
ソースの丁度よい辛さと、イカの弾力のある歯ごたえ。たまらない。美味しい。
戦闘で疲れた腹を満たす旨さだ。
腹が膨れてきたところで、志摩が声をかけた。
「さーて、腹も膨れたところでデザートいこか」
「デザート?あったかそんなもん?」
調理担当の燐が首を傾げる。食後に頂くようなフルーツなどは材料の中にはなかったが。
志摩は燐の手をひっぱると、階段の脇を指さした。そこにあるものを見て、燐は戦慄した。
「なッ、あれは・・・!」
「でへへ、流石夏のビーチやでぇ。絶対あると思っててん」
階段下に敷かれたコンクリートの上に、エロ本が並んでいるではないか。
それも一冊や二冊ではない。かなり量がある。
表紙の写真からして間違いなく十八禁だ。お宝だ。
夏。それは人を開放的にさせる季節だ。
しかもここは近隣でも有名なビーチ。人が集まれば、男女も集まる。
男女が集まればやることは一つ。
流石に今は見回りが厳しいので砂浜でそういった行為に耽るものは少ないだろうが、ゼロではない。
それを狙った男性客は、来るべき夜に備えてエロ関係のものを持ってくる。
男子高校生には買えないものを、大人はビーチに持ち込み、捨てていく。
これは昼間の男性客の夢の残骸だ。
志摩はその夢のかけらを拾っていたのである。そう、任務そっちのけで。
「さぁ、今回はジャンルが豊富やでぇ。陵辱系から清純系、女子高生にお姉様ものに女教師に医者ものに、
特殊なものでいうと緊縛監禁まであるでぇ!ああ胸が高鳴るわ!!」
「なに考えとんのや志摩!!」
「志摩さん・・・待機時間中に必死にゴミ拾いしてはるわと思ってたら、こんな」
幼なじみたちの冷徹な視線もなんのその。こちらはエロに興味津々の奥村燐という味方がいる。
志摩は水を得た魚のように燐とあれこれ話している。
「奥村くんどういう系好き?俺お姉様系、あと医者かな」
「俺はどっちかというと清純系で」
「お?お?それは清純プラス女子高生とかいう組み合わせ?ぶふっ、胸はおっきい方やんなぁ」
「ちょ、お前なに想像してんだよ!!」
「ええやん、俺もきっつい瞳のお姉様好き~表紙が出雲ちゃんに似た感じで・・・」
「あたしがなに?」
二人が硬直した。背後をギギギ、と油を差していない機械のような堅さで振り向くと。
そこには今話に出てきた同級生が絶対零度の瞳でこちらを見ている。
出雲は二人の視線の先にあるものを見つけると、顔を青くして、また赤くしてを繰り返すと絶叫した。
「キモいのよ!こんなとこまできて何してんのよ!!!」
「出雲ちゃん、違うんやこれは男の本能で」
「あたしに近寄らないでって言ったでしょ!寄るな!!汚らわしい!!」
志摩はどうにか弁解しようとしているが、あの状態の出雲に話しかけるなど勇者以外の何者でもない。
燐は完全に言葉を失っている。出雲は志摩に話していたら埒があかないと思ったのだろう、矛先を燐に向けてきた。
「ちょっと奥村燐!!あの本燃やしなさいよ!!」
「え、ええ!?俺が!?」
「あんたもこいつと同罪よ!自分の手で自分の不始末つけなさい!
じゃないと奥村先生にあることないこと吹き込んでやる!!」
「待て出雲、それは勘弁してくれ!!」
「じゃあ燃やせ!今すぐよ!」
「あかん奥村君!!せめて中身見て脳に焼き付けてからにせな!」
二人に挟まれて、燐は怯えていた。
出雲を取れば、お宝を自分の手で焼失させなければならない。
志摩を取れば、雪男からの制裁が待っている。
ジジイ。エロの権化であったジジイ。ジジイのベッドの下のお宝は、今でも俺の聖書です。
俺は一体どうすれば。悩む出雲が背後を指さして告げた。
「あ、奥村先生」
「くっそおおおおおおおお!!!」
燐は青い炎を灯らせた。哀れ、エロ本が青い光に包まれる。
その光につられて、雪男がすごい形相で走ってきた。
「馬鹿!兄さんなに炎使っているんだ!!」
「雪男!見るな!!」
雪男をいかせまいとする燐。燐を払いのける雪男。
状況が状況なら勝呂達も止めるなり説得するなりするがが、行き着く先はエロ本である。
止める気も起きなかった。
雪男の目が驚愕に染まる。そして、つぶやいた。
「えーっと。なんで炎の中に・・・あんな本が」
「え?あれ?燃えてないやん」
雪男と志摩が疑問の中燐を見る。燐は顔を覆い隠した。
すごく恥ずかしそうだった。
「燃やし分けの技術がこんなところで」
雪男は状況が理解できたのか、深い深いため息をついた。
燐は燃やさなければならない状況でも、心が拒否すれば燃やし分けれるようだ。
まさかエロ本でこんなことがわかるとは思わなかったが。雪男が燐の頭を掴んだ。
「燃やせよ」
「雪男、俺は・・・ッ」
「そうや!こんな男子高校生の心を否定するやり方なんてあんまりや!
先生だって男やろ!俺らと同じ男やろ!それやのになんでこんなひどいことできるんや!!」
「任務で来てるんですから見逃せるわけないでしょう!!」
志摩と雪男が口論を繰り返していると、騒ぎを聞きつけたシュラがひょっこりと顔を出した。
一瞬で状況を把握したのか、シュラが缶ビール片手に笑いながら雪男を指差した。
「にゃはは!なんだよ志摩とエロ本の取り合いとかビビりも成長したな!!」
「違いますよ!失礼な!」
雪男が怒鳴りながら状況を的確に説明した。
燐の燃やし分けを聞いて、シュラはまた爆笑していたが。
「なんだよ~つまんねぇメガネ。
ほれ、あの右から二番目の緊縛監禁モノなんかお前モロ好みだろ」
特殊なプレイものを名指しで指名された雪男は、即座にそれを否定した。
しかし、シュラは尚もつらつらと雪男の性癖を暴露していく。
たぶん、酒が五本目に突入していたのも理由の一つだろう。
「言っただろ溜め過ぎなんだよお前。お前の言うこといちいち聞いてたら
燐のこと監禁しなきゃならないことくらい自分でもわかってたんだろ?
檻に入れたかったんだろ。
自分が安心するために燐を自分の目の届くところに閉じこめておきたかったんだろ?
つまり、お前は緊縛束縛監禁大好きだ。せめて自分には素直でいろよ」
ここでいう溜めていたに該当するのはストレスなのだが、別の意味にしか取れなかった。
シュラの言葉に周囲の気温が五度は下がった。
シュラは酔っぱらっている。昼間に話したことと今の状況がこんがらがっている。
しかし、昼間の会話を知らない周囲がそんなことわかるはずもない。
あの真面目な先生が、緊縛束縛監禁大好き。
しかもその相手は実の兄。特殊なプレイすぎてどう対応していいのかわからないよ。
「雪男・・・俺のこと監禁したかったなんて嘘だろ?」
その対象とされている兄、燐は引くというレベルでなく顔が真っ青だった。
しかし、事実雪男の心の中にそんな思いがあったことは間違いない。
弟の心の中には兄を監禁したかった事実がある。
雪男は答えた。
「当たり前だ。嘘に決まってるだろ」
「じゃあなんで目逸らすんだよ!お前昔から嘘つくとき俺の目見ねぇじゃん!!」
「ばれてたの!?」
「兄ちゃんなめんな!!!」
燐が怒鳴ると、緊縛監禁のエロ本が天高く燃えていった。
なるほど、自分が対象になるかもしれないエロ本を取っておく必要はないだろう。
しかし、隣にあった清純系エロ本に燃え移ってないのを見る限り見事である。
そんな騒ぐ奥村兄弟の耳に、柏手が聞こえてきた。
「天の大神酒!!!」
雪男と燐の上に、大量の神酒が降り注ぐ。
燐は炎を出していたので、多少痛がっていたが命に別状はなさそうだった。
大惨事を受けたのはエロ本の方である。酒に浸されたエロ本は見るも無惨な姿になっていた。
青い炎も神酒で鎮静化したらしい。
志摩が悲鳴をあげる間もなく、出雲の声が響いた。
「狐火」
ぼう、と本に火が灯る。それは瞬く間にエロ本を燃やし尽くしていった。
志摩が燃えていくエロ本に向かって叫んだ。
「うわああん!坊の好きな女教師モノが!俺の好きなお姉様ものに医者ものが!
奥村君の好きな女子高生清純系モノが!奥村先生の好きな緊縛監禁モノが!
子猫さんはAVとかいうより、アニマルビデオ派!みんな大好き男の為の陵辱モノがああああああ!!」
みんなそれぞれ好みが別れとって喧嘩せぇへん分け方できたのにいいいい。と志摩は叫んだ。
志摩の叫びによって自分の性癖を暴露された男性陣は全員女子に視線を合わせられなかった。
シュラはにやにやしているが、出雲はゴミ以下のものを見る目だ。
その視線が怖くて、視線を空に向けた。
エロ本が燃えていく白い煙が空へと消えていっている。
「日本酒って燃えにくいのに、出雲うまいこと燃やしたな・・・」
料理の知識が豊富な燐は出雲の燃やし方のうまさに感動するやら残念やら。
燐は見れなかったエロ本と、知りたくもなかった弟の性癖に目を反らしながらつぶやいた。
男の夢が、天高く夏の空に燃えていった。