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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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悪魔の家庭は複雑怪奇


「ここにいるお方をどなたと心得る!
虚無界の魔神様の実子にして唯一の力を受け継ぐ若君様であらせられるぞ!
警察などという人間に拘束されて良い方ではないのだ!なぜそれがわからんのだ!」

白鳥、ことアスタロトは堂々と言い放った。ここは交番だ。
時間帯は深夜。アスタロトの隣で燐が机の上につっぷして泣いていた。
もう嫌だ。帰りたい。と泣きながら訴えていた。
警察は燐に同情しつつも、これも仕事のうちなんでね。
ごめんね。と言葉をかけながら調書を書いている。

「で、なんで学生さんなのに深夜の繁華街なんかにいたの。
疑われるようなことするからこうなるの。わかる?」
「だから俺は学生じゃない!俺はもう立派な大人なんだよ!」
「そうだ!こちらの方は王子と呼ぶにふさわしいお方なのだぞ!」
「・・・これはあれかな。そういうファンタジーごっこが今の若い人には流行ってるの?
それともゲームの中の話かなぁ」

警官は先ほどから堂々巡りの会話にやや疲れた声をあげた。燐だってそうだ。
ことの始まりは燐が深夜、祓魔師としての任務に向かう途中のことだった。
朝から立て続けに任務についており、
乾いた喉を潤そうと自動販売機でジュースを買っていた所。
見回りを行っていた警官に声をかけられた。

「なんで学生さんがこんな深夜にうろついているのかな?」
「は?」

燐は自分の背後を見た。人はいなかった。
燐は立派な成人だ。高校を卒業して、祓魔師としての資格も取った。
まだ魔神を倒すまでには至っていないが、祓魔業で立派にお金を稼いで税金も払っている。
ただ、一つ問題があるとすれば十五歳の時点で悪魔として覚醒したため、
肉体的な成長が見られないことだ。
燐は年は取っているのに、見た目は若々しい十代という人間社会では非常に困った外見をしている。
未成年は深夜に出歩くことは日本では許されていない。
つまり、これは俗に言う補導であった。

「ちょっと一緒に来てね。保護者の人に連絡するから」
「え、ちょ待って待って!!俺これから仕事があんの!」
「仕事?こんな時間にかい?いかがわしい仕事じゃないの?
こんな時間に未成年働かせるなんて」
「いえ、だから誤解です!!」

燐は中学の時点で何度も補導された経験がある。
そして経験上補導されるとすごくやっかいなことになることも理解していた。
一度交番まで連れて行かれると、保護者なる人物が迎えに来るまで帰れないのだ。
昔は父が迎えに来てくれたが、その父ももういない。
二十歳になるまではメフィストが後見人になってくれていたが、
成人しているのだから連絡するわけにはいかない。
雪男は一足先に任務の待ち合わせ場所に行っているはずだ。
もう燐は成人している。頼れる者は己自身。
ここは伝家の宝刀、祓魔師免許を見せて無実を証明するしかない。
あれには生年月日も書いてある。燐はポケットに手を入れた。
しかし、そこにあったはずのものがない。

「え?え?ない!!」

落としたのか、いや。記憶を探るとなくしたわけではない。
忘れたのだ。確か今日免許証も携帯も家に忘れて、同僚に頼んで雪男に連絡してもらった覚えがある。
それを受け取るのは今回の任務先だったはずだ。
つまり、今携帯もなければ免許証もない。
燐には自分が何者であるかを証明する物がないのだ。

あわてる燐の腕を掴んで、警官は連れていこうとする。
どうしよう。このままでは任務に間に合わないどころかピンチだ。
燐がいくら未成年ではないと言おうが、経験上相手には通じない。
だれか知り合いでも通らないだろうか。燐は辺りを見回した。
すると、誰かが慌ててこちらに近づいているのが見えた。
燐はその姿を見て絶望した。

「若君!どうされたのです!?」
「お、お前なんでこんなとこいんだよアスタロト!
あ、さては今回の任務の騒動もてめぇのせいか!」
「若君にお会いしたい一心で・・・その」

白鳥に取り憑いているアスタロトはもじもじと指を合わせて恥じらうが、可愛さなど微塵もない。
任務の内容は腐の眷属が繁華街で大暴れしているという通報が入り、その駆除が目的だった。
アスタロトは燐のことを崇拝しているようで、ことあるごとに事件を起こして燐に会おうと画策していた。
なぜなら広範囲の汚染に対応できるのは今のところ燐の青い炎しかないからだ。
それをいいことにアスタロトはやや過剰な主従根性を燐にぶつけてきている。

燐はそれに対して心底迷惑だと思っているのだが、それに気づくアスタロトではなかった。
彼は悪魔で自分の欲に忠実なのだ。正直、燐の気持ちは二の次である。
警官はアスタロトに質問した。燐の知り合いかと。
アスタロトが憑いている白鳥は悪魔に何度も取り憑かれるような
性根の腐った外道だが、外見は大人だ。
燐の保護者とも取れるような発言に対して訝しげながらも対応しようとしたのだ。

「君、この子のお知り合い?」
「知り合いではない!下僕だ!」
「・・・そっちの道の人かな?どういったご関係で」
「血縁で言えば異母兄弟と言ったところだろうか。
偉大なる父君は他にも七人の兄弟を作ったが、若君は末の弟にあたる。
しかし、私がお仕えするべきお方だ」
「へぇ九人兄弟・・・すごいね。子沢山だね。近くの組にそんな子沢山なところあったかなぁ」
「全員母親は違うがな」
「・・・複雑なご家庭だね」
「もうやめてくれアスタロト!ますます誤解されてんじゃねーかよ!」

今言ったことはすべて真実だが、一般人に理解されるものではない。
燐もアスタロトも悪魔だ。まず、人間の感覚で語ることが間違っている。
そして、アスタロトはさらなる爆弾発言を繰り返した。

「この場は私が若君をお救いするのが筋というもの!聞け下賤なる人間よ!
こちらの方は悪魔の中の悪魔の王、魔神様のお世継ぎであるぞ!
人間ならば頭を垂れて従うべき高貴なるお方なのだ!
お目通りが叶うだけでありがたいと思え!
普通なら殺しても足りない程だが、これもすべて若君が人間に害を成すなという
お言葉故私は我慢しているのだ!」
「じゃあ君も一緒に行こう。薬持ってないか調べよう」
「俺の保護者候補が薬中確定じゃねぇかああ!!!」

誤解が誤解を生んで取り返しがつかないことになっている。
燐はそれでも連行される間中アスタロトに人間に手を出すなと説得して、
決して警官を殺さないようにお願いにお願いを重ねた。
アスタロトが公務執行妨害に、薬物所持。その上殺人罪まで犯せば
燐は容疑者の家族としてめでたく新聞に載ってしまう。
雪男に顔向けできなくなってしまう。
白鳥も、自分の知らない間に刑務所行きだ。

そして冒頭に至るのだが、延々と続く調書の作成に燐はとうとう涙を流した。
本来ならアスタロトと燐は別々に事情聴取されるのだが、
今回運悪く当番の警官が不在だったのだ。
一人の警官に同じ質問を何度もされて、燐は精も根も尽き果てた。

別々だったらいっそアスタロトを見捨てることも考えれたのに、それも無理だ。
それに、燐は結局人間を見捨てることができないだろうから、
警官と八候王を同じ場所に置いて去ることなどできなかっただろうが。

朝から任務について、深夜まで働かされて、休日出勤当たり前。
魔神の落胤だからと、手当も満足にでない。
そんな職場でもがんばってきたのに。任務に行こうとしただけなのに。
なんで自分がこんな目に遭うのだろう。

神様。俺のことがそんなに嫌いですか。
魔神の落胤だからですか。それでもいくらなんでもあんまりです。ひどいです。
選んだ道は茨の道なれど、二十歳過ぎて補導なんて道はあんまりです。
任務をサボる気なんて更々なかったのに、これでは完全に遅刻だろう。
今まで築き上げてきた信頼が一気に崩れてしまう。
魔神の息子だからとまた口さがない言葉が飛び交うのだ。

ごめん雪男、俺は駄目な兄貴だった。

燐は連日の過酷な労働環境に加えてあまりの世間の理不尽さに涙を流した。
確かに免許を忘れた自分が悪いこともわかっている。それにしたってあんまりだ。

「・・・うっ・・・うう・・・父さん・・・ッ」

唯一頼れる父の名を呼んで、燐は泣いた。その父も今はもういない。
保護者のありがたみが本当に身にしみてわかった。
無条件に自分を守ってくれる存在とはありがたいことなのだ。
アスタロトが泣く燐の背中を撫でながら言った。

「そんなにも魔神様が恋しかったとは・・・不覚でした。
今すぐ虚無界へ帰りましょう若君」
「違ェよ馬鹿!!お前結局それが目的か!!!」

燐がアスタロトをぶん投げた。
警官が暴れる燐を拘束しようとしたところで、全く違う第三者の声が聞こえてきた。

「やれやれ、時間になっても来ないという連絡を受けて来てみれば。
なんて騒ぎですか・・・」

そこにはピエロの格好をしてメフィストが立っていた。
足下にはアスタロトが伸びており、それをふんずけて交番の中へと入ってくる。
雪男から連絡を受けて探していれば、一つの交番から上級悪魔の気配が二つも出ているではないか。
メフィストはアスタロト対策の為かピンクのマスクをつけており、
怪しいことこのうえなかったが、極限状態に陥った燐には正に救いの主と見えた。
そして、普段なら絶対に言わないであろう言葉を口にした。


「お、お兄ちゃーーーん!!!」


そのままメフィストに抱きついた。
燐に投げ飛ばされて伸びていたアスタロトは、メフィストにより祓われて虚無界へと強制送還された。
白鳥の体はこの際目覚めるまで警官に預かってもらうことにする。
メフィストは人間界でも正十字学園の理事長という立場があり、燐の後見人でもあった人物だ。
権威ある人物による身元保証により、晴れて燐は自由の身となった。


「それにしても、君から兄として扱われるとは貴重な体験でした。
一種のプレイのようですね。興奮しますね。ねぇもう一回言ってくださいよ奥村君」


にやにやしながら語る姿は、まさしく悪魔のようだ。
今回の燐の不遇を心の底から楽しんでいる。
燐は顔を真っ赤にして二度と言うかと怒鳴り散らしている。
この男に弱みを見せてしまったのは奥村燐一生の不覚だ。
雪男にこの男を兄呼ばわりしたことがバレれば、きっと恐ろしい目に遭うだろう。

月明かりの中、二人を見送る警官は、こうつぶやいた。

「長男がピエロで、下僕扱いの兄がいて。
高校生の末弟が跡継ぎ・・・か。どこの組かマークしておいた方がいいのかなぁ」


結局誤解は解けないままだ。
悪魔の家庭は複雑怪奇なのである。

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