青祓のネタ庫
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メフィストは騎士団からの回線に通信が入っていることを確認すると、通話のボタンを押した。
通話相手はアーサー=オーギュスト=エンジェル。現聖騎士だ。
悪魔嫌いで有名なエンジェルはよっぽどのことがない限りメフィストに連絡を取ったりはしない。
今回はそのよっぽどの事に当たるのだろう、メフィストはどうやって
彼に恩を売ってやろうかと考えながら、言葉を発した。
「もしもし、貴方から連絡があるなんて真夏なのに雪でも降りそうですねエンジェル」
「ああ、こちらは雪が降っているがわかったのか。悪魔め」
「え、今夏なのに降ってるんですか」
「吹雪だがそれがどうした」
「・・・いえ、貴方の言葉にいちいち突っ込んでても
前に進みませんね。どうしました」
「ああ悪魔の討伐用に借りていた奥村燐なのだが、
熱で再起不能になってしまってな。取りに来て欲しいのだが」
「は?奥村君が熱・・・?」
「すごいぞ、三十七万度八分もあるんだ。日本にいる監視役の奥村雪男とは
連絡が取れなくてな、一応後見人に当たるお前に連絡をとったのだが。
来ないならいいぞ、雪の中にでも突っ込んでおけば熱も下がるだろう」
「それだと悪化するでしょう、っていいです!今どちらですか?
奥村先生は今電波の届かない僻地へ出張中ですからどの道連絡は取れませんし」
「ヴァチカンの地下にある氷結術式の中に突っ込んでいるが」
「だからそれ悪化しますって!」
言うやいなや、メフィストは指を鳴らし急いでヴァチカン地下に続く鍵を出現させた。
あの健康優良児。奥村燐が熱。ただ事ではない。現に夏のヴァチカンで雪が降っている。
天変地異の前触れに違いない。メフィストは燐の心配というよりこれから何が起こるか
わからない点に危機感を覚えて急いでいた。奥村燐は悪魔だ。
それも自分と同じ魔神を父に持つ虚無界でも超上級の。
滅多なことでは死なないだろう。しかし、悪魔が熱を出すなど聞いたことがない。
どういうことなのだろうか。まさか勉強し過ぎて知恵熱が出たのだろうか。
彼ならありうる。
鍵を回して扉を開ければ、そこはもう目当ての場所だ。
氷結術式をはめ込んだ独房で燐は拘束されているのだろう。
きっと寒いだろうな。そう考えてメフィストは急いで燐の元に向かおうとしたが、
扉から一歩中に足を入れた瞬間に驚いた。真夏と呼ぶにふさわしい暑さが房の中全体に広がっていた。
暑い。ここは地下のはずなのに何故こんなにも暑いのか。氷結術式はどうした。
メフィストが熱源の中心にたどり着くと、そこにはいつもの祓魔師姿のアーサーがいた。
「来たか悪魔め、こんな事態でなければ絶対に連絡を取らないのだがな」
「こっちだってそうですよ失礼な。というか貴方暑くないんですか?そんなコート着て」
「大丈夫だ、コートの下は全て脱いでいるので汗はコートが吸収してくれる。
それに生地は夏仕様なので薄手だ。問題ない」
「それ、公然猥褻という意味では問題ある気がしますけど」
メフィストがちらりとアーサーを見れば、なるほど下に何も着ていないことがわかる。
夏仕様、ということは生地が薄い。生地が薄い上に白地となると
どうしても下が透けてしまうのが世の理だ。アーサーはスケスケのコート一枚で、全裸。
しかも汗で生地が肌に張り付いていて体のラインが出て余計に卑猥だ。
大事なところが微妙に見えそうで見えないところがまた絶妙な猥褻行為に当たりそうだった。
視界の暴力から目を反らして、メフィストは燐がいるであろう房を見た。
そこにはじりじりと熱を発しながらもぐったりと横たわる燐がいる。
「奥村君ー聞こえますか?」
「人間では近寄れなくてな、先ほど私も熱に聞くという
ネギを買ってきたのだが使いようがない」
「いや使わないでください。っていうかなんで貴方
日本のマイナーな風邪治療の方法知ってるんですか」
「シュラが教えてくれたのだ、熱を出したら尻にネギを突っ込めばいいのだと。
上司思いの部下を持ったものだ」
「・・・ええそうですね」
おそらくシュラはアーサーのことが嫌いで教えたのだろう。
本人が気づいていないのならそれに越したことはない。
いつか熱を出したときにアーサーが自らの手で尻にネギをねじ込めばいいのだ。
誰に迷惑をかけるわけでもないだろう。
しかし、人間が近寄れない熱を出していなければ、
奥村燐の純潔はネギによって奪われたということになるのだろうか。
恐ろしきは人の親切である。
メフィストは焼け付くような暑さの中、燐に近づいてその額に手を乗せた。
これはヒドい。メフィストの手のひらですら焼けそうな熱だ。
現に燐は苦しそうに胸を押さえてうずくまっている。
その様子にすら悪魔の中の悪魔であるメフィストは興奮を覚えた。
いつも元気な奥村燐が苦しんでいる。それだけでああ、胸が高鳴るじゃないか!
「では、連れて帰りますけどよろしいですね?」
「ああ討伐用に借りてただけだしな、さっさと帰るがいい。
しかしあの討伐した悪魔も倒す前からなにやら苦しそうにしていたのだが、
何か関係があったのだろうか」
「さぁそれはわかりませんね」
メフィストはアーサーの言葉を耳に入れつつ、いつものスリーカウントで燐を連れて部屋に戻った。
燐の周囲が熱で燃えそうになったので、慌てて彼の周りに結界を張る。
結界は熱を吸収して適温となり大気中へ気化するので火事になることもないだろう。
メフィストは天蓋付きのベッドへ燐を寝かせると、着ているものをはぎ取った。
汗で濡れているのでこのままだと余計気持ち悪いだろう。
体に薄手の布をかけてやり、体温を調節できるようにしてやる。
燐は裸に近い格好で、メフィストのベッドに横たわっている。
苦しそうに息を乱し、額には汗がにじんでいる。
こんな場面でなければ扇情的な姿だ。メフィストは燐の耳元に唇を寄せた。
「はしたない子ですね。子供のくせに」
「・・・う、あ」
燐の言葉にならない声はメフィストを刺激するには十分だった。
子供のくせに。メフィストが改めて思うと、脳裏にふと思い当たることがあった。
メフィストは再度アーサーに連絡を取った。
「アーサーだ、ネギは使ったか」
「ネギの信憑性はともかくとして、聞きたいことがあります。
その討伐した悪魔ですが、年齢というか・・・いつ頃生まれたとかわかりますか?」
「わかるぞ、あの悪魔は孵化して間もない。たぶん悪魔の中でも赤子に当たるのではないか。
あの種族は成体になるとやっかいなので生まれてすぐに叩くのがセオリーだ」
「なるほど、わかりました。あとネギはとてもよく効きますよ」
「では今度試してみよう」
「そうしてください」
電話を切ると、メフィストは燐に向き直った。
つまり、孵化して間もない悪魔から移されたのだろう。
燐は悪魔として覚醒して一年にも満たない。
年は十五だが、悪魔としてはひよっこもひよっこだ。
何百年も生きる悪魔にとっては赤子とそう変わりない。つまり。
「これ、悪魔はしかですね。いやぁ懐かしいアマイモンが生まれてすぐなって以来ですね。
あれもぎゃんぎゃん泣きわめいて自力で治るまでうるさいことこの上なかったですが」
数百年も前のことをしみじみと思い出して感慨に耽る。
メフィスト自身も気の遠くなるほど昔になった覚えがある。
悪魔が一番最初になる病気だ。
これを越えてこそ強靱な肉体と病にかからない体を手に入れるのだ。
メフィストは笑いをこらえて燐をみた。
「つまり、こどもがなる病気ってことですよ。
安心なさい死にはしません。死ぬほど苦しみぬくだけです」
それは安心するに値しない言葉だが、燐にはどう聞こえていただろうか。
メフィストは指を鳴らして濡れたタオルを燐の額に乗せた。氷枕を頭に敷くのも忘れない。
あらかた熱に効く処方を施して、メフィストは悪魔の甘言を燐に囁いた。
「それとも、今ここで大人にして差し上げましょうか?」
燐の体にかかっていた布を際どいところまではだけさせる。
今燐の意識はないに等しい。こどもを大人に変化させる方法。
それはメフィスト自身の手で燐の純潔を散らすということだ。
それはとても甘美な響きに思えた。
ここでいう子供から大人になるということは、
大人の体液を介して子供にはしかの抗体を移す行為に当たる。
それは大人同士の夜の営みから親子の親愛のキスまで様々だが、
メフィストが親愛のキスで終わらせるような輩ではないことは明白だ。
「とても楽になりますよ、快楽に身を任せていればすぐに治ります。奥村君、どうしますか?」
メフィストの手が燐の体をなぞる。
燐は身を捩ってメフィストから逃げようとするが、それを許すメフィストではない。
どうしますかと疑問を投げておきながら有無を言わさない強引さだ。
燐はうっすらと目を開けた。潤んだ瞳がメフィストを見上げている。
メフィストは燐に色事を仕掛けるべく顔を近づけた。
そして、燐の腕もメフィストの首に回される。
同意の合図、そうとってメフィストは事を起こそうとしたのだが。
「ッ!!!」
引き寄せられ、口づけが行われるかと思いきや。
燐の口はメフィストの首もとに寄せられた。
そして鋭い牙でメフィストの肌を食い破ると、その血をワインのように飲んだのだ。
自分より大人の悪魔の体液、といえばこの場で該当するのはメフィストしかいない。
しかしそれはメフィストが望んだやり方ではなく、半ば奪い取るように燐は抗体を手に入れた。
血を飲むという野蛮な方法で。
口元は赤く染まり、徐々に燐の熱が下がっていく。
それに苛立ったのかメフィストは燐の頬を打った。
「しつけのなっていない子だ!」
赤くなった頬から、すでに熱は引いていた。
燐はぐらりと揺れる頭を戻して、メフィストの方へ向き直った。
そして汚い物を吐き出すように口に溜まっていたメフィストの血液を吐き出す。
「てめぇの思い通りなんか、に・・・なるかよ」
ギラリと光る鋭い視線にメフィストは射ぬかれる。
ああそうだこの瞳だ。反抗的で言うことを何一つ聞こうとしないじゃじゃ馬の瞳。
この意志をねじ伏せることにメフィストはこの上ない快楽を感じてしまう。
「いいですね奥村君、私としたことが胸が高鳴ってしまいました」
なければ他者から奪い取る悪魔としての基本をこの末の弟は起こしたのだ。
長兄として喜ばないわけにはいかない。
この弟は人間でありたいと願いながら悪魔としての本能も同時に生きている。
だからメフィストは奥村燐から目をそらせられない。
先ほどの怒りが嘘のようにメフィストは燐の虜になった。
燐は赤子の時を脱して、大人としての第一歩を踏み出したのだ。
「今日はお祝いです、お赤飯炊かないといけませんね」
「言ってろクソ野郎」
そして、その夜はお赤飯を炊いてお祝いということになり、
燐とメフィストの仲を誤解した雪男が出張先から突撃してくることになった。
「フェレス郷。熱にはネギがいいそうです。昔神父が言っていました」
「くっ、一連のネギ事件の犯人は藤本でしたかッ!!」
その夜は赤飯を持ってネギから逃げる悪魔がいたそうだ。
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