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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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クロとうわきもの


にゃーというかわいらしい声に惹かれて、燐は草むらの方へ足を向けた。
そっと覗き込んでみると、草むらの中に茶トラの子猫がいた。
近くで母猫が腹に同じような子猫を二匹抱いて寝ている。
一匹だけ起きて、近くを散策していたのだろう。
無垢な瞳が大変可愛らしい。
燐は恐る恐る猫の体に触れた。

ふかふかで柔らかい。
それに随分人に慣れていた。
首の方を撫でてやると小さな首輪がついている。
見れば母猫や兄弟猫にも同じような首輪があった。

「よかったー、お前らもう拾われてたんだな」

家には既に一匹の猫又がいるため、拾っても面倒は見れない。
猫に家族と帰る場所があることに安心した。
これで思う存分可愛がれそうだ。
子猫をころんと転がして腹を擽る。

「可愛い奴だなー」
「にゃーにゃー」
「うん、ここが気持ちいいのか?」
「にゃー」

「あー、お前クロと違って腹がふくふくで気持ち…」

クロは子猫の姿だが、立派な成猫だ。
戦闘も行なうため、お腹の肉は引き締まっている。
外猫と、家猫の違いだろうか。
外猫は外の環境でも適応できるように、体はすらりとしたハンター体型。
家猫は環境の変化がない為、体はとろりとした柔らか仕様。
この猫達は毛並みも良いし、シャンプーの香りもするのできっと家猫だろう。
この家猫特有のだらりとしたお肉の感触はたまらない。
そのやわらかな感触を楽しんでいると、背後から声が聞こえた。


『ひどいッ』


振り返る。そこには目を潤ませてこちらを見つめるクロの姿が。


『りんのうわきもの!』

「いや、浮気ってなんだよ」

いつから俺達は付き合い始めたのか。
考えて、今年の夏か?とあさっての方向に返答する。
それに焦れたのか、クロが尻尾を振って訴える。

『おれよりそいつのがいいのか』
「ちょっと待て。一言もそんなこと言ってないだろ」
『みてればわかるもん!』
「にゃー」
「あ、こらそっちは道路だから危ないぞ」
『りんのばか!』
「馬鹿とはなんだ!」



茂みから、猫と兄の声が聞こえてきた。
思わず眼鏡を抑え、耳と目を閉じ口を噤んだ存在になろうと考えた。
しかし、そんなことしたら後々厄介なことも知っている。
通り掛かった雪男はこっそりと茂みを覗き、その様子を見てため息をついた。


「にゃーごおおおお」
「なんだよ、怒るなよ!」
「ふにゃああああー!」
「え?浮気癖は獅朗ゆずり?な、え?・・・ジジイ浮気してたの!?誰と!?」
「なあああああ」
「そこらのメス猫!?どういうことだよ!??クロ!お前何を見たんだ!」


クロの言葉は人間にはわからない。

こんな猫と会話している様子を見たら事情を知る自分ならともかく、
一般人に見られたら確実に兄は変な子扱いだ。
草むらをかきわけて、一言言う為顔を出す。

「何してるの兄さん」
「ふぎゃー!」

いきなり話し掛けたとはいえ、まさか猫みたいな悲鳴をあげるとは。
雪男は戦慄した。
兄が猫に、いや電波系になってしまった!

「頭大丈夫?」
「痛い痛い!頭よりも尻尾だ馬鹿ぁ!」
「え、うわ!ごめん!」

下を見て気付く。思いっきり兄の尻尾を踏んでいた。
悲鳴もあげるはずだ。
燐は子猫を抱いたまま雪男に食ってかかる。

「雪男の馬鹿!」

子猫を離さない燐に向けてクロが言う。

『りんのばか!』

なんとなくクロの言ってることがわかった雪男は思わず吹き出しそうになる。
慌てて口を押さえたがばれたらしい。

「笑うな!」
『わらうな!』
「…ぷっ、あははは!あ、ごめん」


叫ぶ一人と一匹を宥めるのにかなり時間がかかってしまった。

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アッー!


拍手みて気づきました。
あ、カウンター自体見れる人と見れない人がいる・・・!

(゜д゜)

そうだ、携帯からだとこれわかんないですね。盲点。
拍手ありがとうございます。

こうなれば、リクエストは公募制にしましょうか。
あ、もし踏んで気づいた方いらっしゃったら個別に対応しますんで!
そうだなぁ。5個くらい?募集かけようかな。
皆さんどんなのを見たいのでしょうか。という興味から。
時期はまたお知らせします。
アンケートもとってみたいけど、アンケートってどうやって作るんだろう・・・
とにかく、公募制にします。

そういえば昨日の夜、某所のエチャにお邪魔してました。
他の方とお話できるっていいですね。交流大事。
パソコンが音をあげて熱暴走を起こしてなければもう少しいたかった・・・!
5年前のパソコンは処理が限界です。ノーパソだしね・・・

家族の味


「この豆腐ハンバーグ最高ですね。
大根おろしの甘辛さと醤油が相まって私の舌を絡め取る!
ああ、このつくねのお吸物は薄味ですが上品な香りとコクのある鳥の味がたまらない。
サラダにかかっているソースって手作りですか?やりますね。
市販のものとは全く違う!
これ製産ラインに乗せたら主婦にバカ受けすること間違いなし!
あ、すみません。ごはん追加」
「・・・へいへい」

燐はメフィストから空の茶碗を受け取り、しゃもじでご飯をよそった。
茶碗の端にご飯を擦りつける邪道なことはせず、上にほっこりと盛り上げて渡す。
ご飯の香りと湯気が鼻孔をくすぐり、メフィストのお腹がまたうなる。

「ごはんのよそい方一つとっても、貴方完璧ですよね」
「あったりまえだろ!」
「料理は誉められますけど。その他が足りなさすぎですけどね。
主に学力・頭脳・頭の部分が」
「んだとゴラァ!おかわり打ち止めすんぞ!」
「ほほーう?いいんですか?おこづかいいらないんですか?」
「う・・・卑怯だぞ!」
「誉め言葉ですね」

燐はエプロンを握りしめて訴えたが、メフィストは食事に夢中になっている。
ため息をついて、メフィストが食べ終わった食器を片づけた。
ここは理事長室。
メフィストが住むだけあって無駄に豪華な絨毯やカーテンが敷き詰められている。
食器を落としたら大変だ。燐は想像をしてぞっとした。
そうなればきっと弁償だなんだと言われて、
無理難題をふっかけられるに決まっている。
現に今もメッフィーランドのメフィスト像の首を飛ばしたのが燐であることがバレて、
こうして弁償の代わりにメフィストの給仕をさせられている。
給仕をすること事態はある程度納得している。
だが、当初はメフィストが「満足するまで」給仕をしろと言ってきたことについてはおおいに反論した。
満足したかしてないかなんて曖昧な基準では、
どうせ難癖付けてずるずると長時間労働させられるに決まっている。
珍しく気づいた不利な状況を正すため、燐は散々訴え続けた。
そして、メフィストもある程度の妥協を許したのだ。
最終的な契約はこうだ。食事の用意をし、
メフィストに「ごちそうさま」を言わせれば終了。
当初の「満足するまで」と似たようなものだと思われるかもしれないが。
燐には小さな頃から藤本から言われ続けた言葉がある。

「燐、雪男。食べ終わったらちゃんと感謝の意味を込めて「ごちそうさま」を言うんだそ!」

食事の基本。いただきます。とごちそうさま。
口を酸っぱくして躾られてきたので、
燐も雪男も食事に関してのマナーはきっちりと守っている。
つまり、そのマナーを守らなければ
燐はいくらでもメフィストの給仕をやらされることになるのだが、
本人は露ほども気づいていない。
「いただきます」と「ごちそうさま」を言わないなんてことは
燐の中では考えられなかったからだ。

「奥村君、そこの卵焼き取ってください」
「へいへい」
「ついでにアーンして食べさせてください」
「誰がするか」
「冗談です」
「に聞こえねーよ・・・」

がっくりと燐は肩を落とす。料理を作ることは疲れないが、
メフィストとの会話が疲れるのだ。
燐はいい加減部屋に戻りたかった。
こういうことには口やかましい雪男にはさっさと任務を与えて
燐の側から離れさせている辺り、恐ろしい男だ。

「うう、肝心な時にいねぇんだからよ・・・」
「おや?奥村先生が恋しくなりました?」
「違ぇよ!っていうか、早く帰らせてくれよ」
「何か用事でも?」
「お前と一緒にいるのがイヤだ」
「なんともつれない返事だ。あ、デザートは?」
「・・・」
「べーんしょう!べーんしょう!」
「うっせーな!わかったよ!!」

燐はエプロンを翻して、理事長室に備え付けのキッチンに向かった。
冷蔵庫の扉を開き、中を探る。
料理の時に一緒に作ったプリンを冷蔵庫で冷やしておいた。
これを与えれば大人しくなるだろう。そしてさっさと帰りたい。
ここにいればまたメフィストの玩具になる理由を増やすだけだ。
しかし、取り出そうとしたトレイがやけに軽いことに気づく。

「・・・中身がない」
「おやつに頂きました☆」
「てめぇえええ!」
「さーてデザートがないですねぇ。これでは食事の締めにならない。つまり食事が終わらない。どうしましょう?」
「お前のせいだろ!」
「でざーと、でざーと!」
「あー、もうちょっと待ってろ!」

確かに食後のデザートまで揃えてこそ真の意味での食事の終わり。
ごちそうさまを言ってもらえるまで燐は決して妥協をしない。
しかし冷蔵庫の中身を見ても果物もないし、菓子づくりに必要なチョコの類もない。
団子でも作ろうかと思ったが、白玉粉もない。
簡易キッチンにあるものを、全力でメインに使ってしまったのは失敗だったか。
燐は頭をフル回転させる。
そして、戸棚の中の砂糖を手に取った。



「ほらよ」
「おや?これは・・・」
目の前に置かれたのは皿に載った黄金色の星だ。
メフィストはそれを一つ取ると、口の中に含んだ。
甘い。舌で転がして、がりっとかみ砕く。

「べっこう飴ですか?」
「おう、砂糖と水で作れるデザートっつたらこれだな」

実の所メフィストは燐を部屋に帰す気など最初からなかった。
だからこそ冷蔵庫にあるプリンを食べたのだ。
もちろん、食材も最小限のものしかおいてなかったのも業とだ。

デザートがないと駄々をこねれば契約を続行させることも可能だと踏んでいた。
律儀な燐は契約をふいにしたりは決してしない。

このままいけば、メフィストの計画通りになるはずだった。
しかし予想に反して、燐はメフィストの要望通りにデザートを用意してみせた。
形が星型になっているのも工夫があっていい。
きっと台所にあったクッキーの型に流し込んで成形したのだろう。
星形の飴を割らないまま取り出すなんて、やはり彼の腕は確かだ。

「・・・なんというか貴方はいつも予想を裏切ってくれますよね」
「なんだよそれ」
「誉めているんです。これ、美味しいですよ」
「それならいいけどよ」

メフィストは一つ二つと飴を口に放り込む。
その様子を見て満足したのか、燐はキッチンの片づけを始めた。
鍋に水を溜めて、その水を使いつつ皿を洗う。しかし、すすぐのはきちんと綺麗な水で。
節水の仕方も洗い方も完璧だ。片づけまでしてこそ、真の料理人。


最後の飴を口に含んで、メフィストは燐の後ろ姿を眺めた。
学生服に、エプロンをつけて炊事をする姿。
その隙間から黒い悪魔のしっぽがゆらゆらと動いている。
ふと、メフィストは思った。あのしっぽさえなければ、悪魔としての覚醒がなければ。


彼は今頃「普通」の人間変わらない人生を歩んだのだろうか、と。


そして藤本が望んでいたのは、彼のそういう人生だったのだろう。
悪魔もない、魔神もない。
だだ普通の人生。今はもう望めないけれど。

がりっと飴を噛んで、メフィストは燐の後ろに立った。
振り向こうとする燐を止めて、背後から耳元に囁いた。

「美味しかったですよ」
「そうか?」
「ええ」
「味付けはじじいに教わったのもあるんだぜ」
「そうですか」

声の感じが嬉しそうだ。


「まぁきっと。これが俺と雪男の家族の味ってやつなんだろうな」


燐の言葉を聞いて、ある衝動が生まれた。
その衝動のままに警戒心のない燐の首にそのまま噛みついた。

「いてぇえええ!!」

暴れる燐の体を抱いて、皮膚に牙を突き立てた。
がり、と飴を噛むような音がして咥内に血の味が広がる。
べっこう飴のような、甘い味。
腹の底を燃やすような、熱い熱い熱を含んだ血液。
彼の血はこんなにも喉を潤すものなのか。

知らなかった。

そのままごくりと飲み込んで、味わうように首を舐めて離れた。


「デザート、美味しかったですよ。ごちそうさまでした。奥村燐くん」


燐は首を押さえて、信じられねぇ!と叫んで部屋を出ていった。
片付けはちゃんと終わらせている辺り流石だ。
そうして思わず言った一言に、気づく。


「残念。契約は終了ですね」


唇についた血を舌で舐めとって、先ほど燐が言った言葉を思い出す。
手料理を味わうのとはまた違う。
末の弟燐の血の味は、甘くメフィストの喉を潤した。


「そういえば。これも家族の味・・・ですかね?」


ああ癖になりそうだ。
藤本が望んだ普通の人間とは違う。
悪魔の食卓にふさわしい味だった。

20万近い!

20万いきそうなので。

もしよければ、20万踏んだ方はリクエストどうぞー。あ、無理そうならスルーも可ですので!

告白してさよなら



好きだよ、と言われたのはいつの頃からだったか今はもう思い出せない。ただ、最初。
俺は悪魔みたいだって嫌われていて、誰も俺のそばに近寄らなかった。
それは仕方のないことだって思ってた。
俺は、ひとりの方がいいのかもしれない。
そう思って一人でブランコに座っていると、夕方になっても帰らない俺を心配してか雪男が迎えに来てくれた。
「帰ろう、父さんもみんなも待ってるよ」
僕、おなか空いた。兄さんのごはんが食べたいな。
顔をあげて、雪男の顔をみる。
俺に笑いかけてくれる、俺の家族。
そうして、何気なく言われた言葉。

僕、兄さんのこと好きだよ。

そうあいつは言ってくれた。
俺はそれがすごく嬉しくて。
俺はそれに甘えていたのかもしれない。



「好きって言われるの嫌いなの?」
雪男はベットに座る燐に話しかけた。
目の前に座る兄はさっきまで笑いながらマンガを読んでいたのに、今は俯いて表情が見えない。
「・・・んなことねーよ。なんでそう思うんだ?」
「いや、だって僕がさっき「好き」って言ってから。なんだか顔色悪いから」
「ば、お前。恥ずかしくねーのかよ」
「恥ずかしくはないかな。照れてるの?」
「うっせーな」
燐は雪男から表情を隠すようにそっぽを向いた。
照れているだけか。そう思って、制作途中だったプリントを作成する為にパソコン画面に目を向ける。
画面に映った自分の顔は、少し赤い。
まずいな、照れられるとこっちが恥ずかしいじゃないか。
雪男は動揺を隠すようにメガネを上げた。

なんてことはない会話だった。
好きな奴はいるか。と質問されて。
逆に兄に質問した。
「兄さんはいるの?」
「俺が先に聞いたんだろ」
「僕は・・・、まぁ」
「なんだよ。いるのか」
にやにやしながら、聞いてくるその顔。
まさしく悪魔みたいだ。
「別に僕のことなんて良いだろ!」
「いーや、弟の春を祝わない兄はいない!で、誰!?」
「しつこい!」
「いーじゃん!」
そうして、嘘をつかない程度の切り替えし方を思いついた。


「たった一人の家族、だし。兄さんのことは好きだよ」


なんちゃって。とか言おうかと思ったけど。
いえなかった。だって僕は本心から兄さんのことが好きだった。
告白なんてできないから、せめてそれくらい言ってもいいだろう。
家族という言葉にカモフラージュされた好きという言葉。
それを聞いて、兄の顔は曇った。
だから、動揺を押し隠して聞いた。
自分に好きと言われるのは嫌いなのかと。
もしかしたら、隠している気持ちに気づかれたのかと。
そう思った。
でも、心配は杞憂に終わる。
「まぁ、俺も兄ちゃんだからお前のことは大切に思ってるぜ」
そう言って兄は、部屋を出ていこうとした。
どこにいくの、と聞いても「外」とだけ答える声。
閉まる扉。
足早に去っていく兄の姿。
雪男はため息をついて、メガネを上げた。
燐が悪魔として目覚めてから、どことなく距離を感じるようになったのは気のせいだろうか。
照れているだけならいい。
でも、そうじゃなかったら。
そう思うと心は不安でいっぱいになる。
「兄さん」
家族だからとか、兄だからとか。
そんなのじゃないんだ。
「僕は、兄さんのこと好きだよ」
悪魔だったとしても。
だれよりも優しいことを知っている。
周囲の人間がいくら兄さんを嫌っていても。

僕は、好きだよ。

その言葉を伝えたい。
でも、もう一人の雪男はその言葉を絶対に言ってはいけないことを知っている。
だから、雪男は去っていく燐を一度も追ったりはしなかった。




燐は、学生寮の一番下のトイレに駆け込んだ。
そこで、蛇口をひねって水を流す。
こみ上げてくる、不快感。
「・・・げほ・・・ッ」
口から血を吐いた。
吐いた血は、水の流れに沿って消えていく。
何度か繰り返すうちに、呼吸も落ち着いてくる。
手のひらを見れば、吐き気を押さえた時についた血がやけに鮮やかにこびりついている。
手を洗って、血を流す。
顔も血のにおいがしなくなるまで洗った。
水を止めて、鏡を見る。
多少顔色は悪いが、すぐに元に戻るだろう。
はぁとため息をついて、燐は俯いた。

いつからこうなってしまったんだろう。

思い返せば、人間だった時にこんなことは起こらなかった。
もしかしたら悪魔特有の病気なのかもしれない。
今のところ誰にもバレてはいないが、それも時間の問題だろう。

雪男と話していると、こみ上げてくる不快感を消せない。
だから、逃げるようになった。
必然的に、雪男と距離ができてしまうのも仕方がなかった。

「・・・この力に目覚めてから、あいつと離れるばっかりだ」

先を歩いていく雪男に近づけない。
そんな思いがストレスにでもなっているのだろうか。
こうなったら、メフィストにでも相談して部屋を変えてもらおうか。
そうなると、たぶん雪男が新しい男子寮に引っ越して、旧男子寮にはクロと二人きりで暮らすことになるだろうけど。
そうなったほうが、いいのかもしれない。
このことが雪男に知られたらきっとすごくショックを受ける。
ただでさえ心配をかけているのに、これ以上かけたら雪男の頭に白髪でも生えてきそうだ。
白髪になった雪男を想像して、思わず笑った。
まだ、俺は笑える。
きっと、大丈夫だろう。
そうして、トイレを出た。



目の前に、廊下の壁に背を預ける志摩がいた。



思わず、足が止まる。
志摩の表情は暗い。
「え、お前なんでここにいんだよ」
純粋に驚いた。
一般の生徒は旧男子寮には近づかない。
志摩は新しい男子寮に住んでいる。
そこから、旧男子寮までは結構距離があるのに。
「いや・・・俺、奥村先生に渡すプリント持ってきてんけど。
部屋が何号室やったか覚えてなくてなぁ。困ってたところに奥村君おったから、聞こ思てな」
だから、トイレの前にいたわけか。
心臓が脈打つのがわかったけど、落ち着け。
自分に言い聞かせた。
きっと、気づいていないはずだ。
「なんだ、そんなことかよ。俺たちの部屋602号室だよ。俺部屋戻るし一緒にいこうぜ」
背を向けて、階段にいこうとした。

志摩が、燐の手を掴む。

「奥村君、なんかついてるで」
くるりと体を反転させられる。
向かい合わせになって、唇の端を触られた。
「ああ、昼に食べたのりでもついてたか?」
「いや、これ・・・」
志摩が、指の先を見た。
燐からしたらなにもついていないように思えたけれど。


「なぁ、血やでこれ。もしかして先生と喧嘩でもしたん?」


言われて、凍り付いた。
急いで、口を拭く。袖口には確かに血がこびり付いた。
心臓が嵐のように音を立てている。
大丈夫だ、誤魔化せる。落ち着け。
「雪男とじゃねーよ、ちょっと色々あって・・・」
言おうとして、口からこみ上げてくるものがあった。
まずい、落ち着いたと思ったのに。咄嗟に口を押さえた。
志摩は怪訝そうな顔を向けてくるが、答えれそうにもない。
口を開けば、ここで吐いてしまう。
だが、喉からせり上がってくる鉄錆の味は我慢できそうもなかった。
口元を押さえた手から、紅い筋が零れ落ちてくる。
その光景に志摩の顔が青ざめる。
「奥村君!どうしたん!?」
志摩が肩を掴んだ、そのままトイレの洗面台へ連れて行かれる。
そこで俺はようやく血を吐き出した。
「・・・げほ・・・ッ・・・」
「この血の量はおかしいわ・・・」
洗面台を盛大に汚した血を、志摩は青ざめたまま見つめた。
燐は蛇口を捻って血を流そうとしたが、志摩に止められる。
「あかん、これこのままにしとこ。そんで、奥村先生に言おう。
どれだけ血を吐いたんかとか確認する意味でも残しといた方がええ」
志摩の目は真剣だった。
確かに、状態確認は治療の基本だ。
このまま残して、治療する者に確認してもらうのがいいだろう。
だが、その役目が雪男だというなら話は別だ。
「・・・じゃあ流すわ」
「あー!!」
燐は蛇口を捻って、血を洗い流した。
志摩が止める暇もなく、あっという間に流れていった。
燐は、口元をゆすいで口を拭う。
目の前の鏡で確認したが、血はついていなかった。
次からはちゃんと細かく確認しよう。そう考えて横を見る。
鏡の横で不機嫌そうな顔を向ける志摩と目があった。
「・・・納得いかへん」
「いいだろ、別に」
「よくない」
「俺はいいの」
「それで、秘密にするつもりなん?」
「大丈夫だって、俺すぐ治るし!心配性だよなぁ」
明るく言ったけど、志摩は怒ったように言い返す。


「治るからいいってもんでもないやろ!
奥村君の様子を見ると、なんか慣れとるように見えるわ。
今回だけやない。もしかして、今までもあったんとちゃうんか」


鏡ごしに会話をする。
志摩の瞳は真剣で、泣きそうに見えた。
それは、雪男が俺に向ける瞳と同じ。
ああ。だから、俺は知られたくなんかなかったんだ。
そんな瞳で俺を見る奴を増やしたくなんかなかったんだ。


俺のことを心配なんかしないでくれ。


言ったら、志摩は傷ついたように目を伏せた。
知られたくないやっかいなことは。
本当に、知られたくない奴にほど知られるものだ。


「俺、奥村君のこと好きやのに。関係ないって遠ざけるんや」
「・・・え」

好き、と言われて驚いた。
同時に、雪男に言われて感じたような不快感はない。
そうして俺は、自分が何の言葉に反応しているのかを悟ってしまった。

「・・・これ・・・って・・・」
「奥村君、あかんよ。病院行こう。見てもらおう。なぁお願いや」


志摩の泣きそうな声。言われた言葉。
雪男と同じで、でも違う。
認めたくなかったけど。
もしかして、これは。

「なぁ、お前詠唱騎士目指してた・・・よな」
「え、いきなり何言うて・・・」
「もう一回、さっきの言葉言ってくれ」

振り返らないまま、志摩に体を預けた。
鏡越しで見る志摩の顔色が悪い。
詠唱騎士、そして言葉。
考えられる要素はあった。


「俺、奥村君のこと好きやで」


何も起きなかった。
これではっきりした。


「なぁ志摩。俺の致死節わかっちまったわ」


俺の死は。
俺が『好きな奴』から贈られる『好き』っていう言葉だったんだ。


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