青祓のネタ庫
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にゃーというかわいらしい声に惹かれて、燐は草むらの方へ足を向けた。
そっと覗き込んでみると、草むらの中に茶トラの子猫がいた。
近くで母猫が腹に同じような子猫を二匹抱いて寝ている。
一匹だけ起きて、近くを散策していたのだろう。
無垢な瞳が大変可愛らしい。
燐は恐る恐る猫の体に触れた。
ふかふかで柔らかい。
それに随分人に慣れていた。
首の方を撫でてやると小さな首輪がついている。
見れば母猫や兄弟猫にも同じような首輪があった。
「よかったー、お前らもう拾われてたんだな」
家には既に一匹の猫又がいるため、拾っても面倒は見れない。
猫に家族と帰る場所があることに安心した。
これで思う存分可愛がれそうだ。
子猫をころんと転がして腹を擽る。
「可愛い奴だなー」
「にゃーにゃー」
「うん、ここが気持ちいいのか?」
「にゃー」
「あー、お前クロと違って腹がふくふくで気持ち…」
クロは子猫の姿だが、立派な成猫だ。
戦闘も行なうため、お腹の肉は引き締まっている。
外猫と、家猫の違いだろうか。
外猫は外の環境でも適応できるように、体はすらりとしたハンター体型。
家猫は環境の変化がない為、体はとろりとした柔らか仕様。
この猫達は毛並みも良いし、シャンプーの香りもするのできっと家猫だろう。
この家猫特有のだらりとしたお肉の感触はたまらない。
そのやわらかな感触を楽しんでいると、背後から声が聞こえた。
『ひどいッ』
振り返る。そこには目を潤ませてこちらを見つめるクロの姿が。
『りんのうわきもの!』
「いや、浮気ってなんだよ」
いつから俺達は付き合い始めたのか。
考えて、今年の夏か?とあさっての方向に返答する。
それに焦れたのか、クロが尻尾を振って訴える。
『おれよりそいつのがいいのか』
「ちょっと待て。一言もそんなこと言ってないだろ」
『みてればわかるもん!』
「にゃー」
「あ、こらそっちは道路だから危ないぞ」
『りんのばか!』
「馬鹿とはなんだ!」
茂みから、猫と兄の声が聞こえてきた。
思わず眼鏡を抑え、耳と目を閉じ口を噤んだ存在になろうと考えた。
しかし、そんなことしたら後々厄介なことも知っている。
通り掛かった雪男はこっそりと茂みを覗き、その様子を見てため息をついた。
「にゃーごおおおお」
「なんだよ、怒るなよ!」
「ふにゃああああー!」
「え?浮気癖は獅朗ゆずり?な、え?・・・ジジイ浮気してたの!?誰と!?」
「なあああああ」
「そこらのメス猫!?どういうことだよ!??クロ!お前何を見たんだ!」
クロの言葉は人間にはわからない。
こんな猫と会話している様子を見たら事情を知る自分ならともかく、
一般人に見られたら確実に兄は変な子扱いだ。
草むらをかきわけて、一言言う為顔を出す。
「何してるの兄さん」
「ふぎゃー!」
いきなり話し掛けたとはいえ、まさか猫みたいな悲鳴をあげるとは。
雪男は戦慄した。
兄が猫に、いや電波系になってしまった!
「頭大丈夫?」
「痛い痛い!頭よりも尻尾だ馬鹿ぁ!」
「え、うわ!ごめん!」
下を見て気付く。思いっきり兄の尻尾を踏んでいた。
悲鳴もあげるはずだ。
燐は子猫を抱いたまま雪男に食ってかかる。
「雪男の馬鹿!」
子猫を離さない燐に向けてクロが言う。
『りんのばか!』
なんとなくクロの言ってることがわかった雪男は思わず吹き出しそうになる。
慌てて口を押さえたがばれたらしい。
「笑うな!」
『わらうな!』
「…ぷっ、あははは!あ、ごめん」
叫ぶ一人と一匹を宥めるのにかなり時間がかかってしまった。
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