青祓のネタ庫
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「この豆腐ハンバーグ最高ですね。
大根おろしの甘辛さと醤油が相まって私の舌を絡め取る!
ああ、このつくねのお吸物は薄味ですが上品な香りとコクのある鳥の味がたまらない。
サラダにかかっているソースって手作りですか?やりますね。
市販のものとは全く違う!
これ製産ラインに乗せたら主婦にバカ受けすること間違いなし!
あ、すみません。ごはん追加」
「・・・へいへい」
燐はメフィストから空の茶碗を受け取り、しゃもじでご飯をよそった。
茶碗の端にご飯を擦りつける邪道なことはせず、上にほっこりと盛り上げて渡す。
ご飯の香りと湯気が鼻孔をくすぐり、メフィストのお腹がまたうなる。
「ごはんのよそい方一つとっても、貴方完璧ですよね」
「あったりまえだろ!」
「料理は誉められますけど。その他が足りなさすぎですけどね。
主に学力・頭脳・頭の部分が」
「んだとゴラァ!おかわり打ち止めすんぞ!」
「ほほーう?いいんですか?おこづかいいらないんですか?」
「う・・・卑怯だぞ!」
「誉め言葉ですね」
燐はエプロンを握りしめて訴えたが、メフィストは食事に夢中になっている。
ため息をついて、メフィストが食べ終わった食器を片づけた。
ここは理事長室。
メフィストが住むだけあって無駄に豪華な絨毯やカーテンが敷き詰められている。
食器を落としたら大変だ。燐は想像をしてぞっとした。
そうなればきっと弁償だなんだと言われて、
無理難題をふっかけられるに決まっている。
現に今もメッフィーランドのメフィスト像の首を飛ばしたのが燐であることがバレて、
こうして弁償の代わりにメフィストの給仕をさせられている。
給仕をすること事態はある程度納得している。
だが、当初はメフィストが「満足するまで」給仕をしろと言ってきたことについてはおおいに反論した。
満足したかしてないかなんて曖昧な基準では、
どうせ難癖付けてずるずると長時間労働させられるに決まっている。
珍しく気づいた不利な状況を正すため、燐は散々訴え続けた。
そして、メフィストもある程度の妥協を許したのだ。
最終的な契約はこうだ。食事の用意をし、
メフィストに「ごちそうさま」を言わせれば終了。
当初の「満足するまで」と似たようなものだと思われるかもしれないが。
燐には小さな頃から藤本から言われ続けた言葉がある。
「燐、雪男。食べ終わったらちゃんと感謝の意味を込めて「ごちそうさま」を言うんだそ!」
食事の基本。いただきます。とごちそうさま。
口を酸っぱくして躾られてきたので、
燐も雪男も食事に関してのマナーはきっちりと守っている。
つまり、そのマナーを守らなければ
燐はいくらでもメフィストの給仕をやらされることになるのだが、
本人は露ほども気づいていない。
「いただきます」と「ごちそうさま」を言わないなんてことは
燐の中では考えられなかったからだ。
「奥村君、そこの卵焼き取ってください」
「へいへい」
「ついでにアーンして食べさせてください」
「誰がするか」
「冗談です」
「に聞こえねーよ・・・」
がっくりと燐は肩を落とす。料理を作ることは疲れないが、
メフィストとの会話が疲れるのだ。
燐はいい加減部屋に戻りたかった。
こういうことには口やかましい雪男にはさっさと任務を与えて
燐の側から離れさせている辺り、恐ろしい男だ。
「うう、肝心な時にいねぇんだからよ・・・」
「おや?奥村先生が恋しくなりました?」
「違ぇよ!っていうか、早く帰らせてくれよ」
「何か用事でも?」
「お前と一緒にいるのがイヤだ」
「なんともつれない返事だ。あ、デザートは?」
「・・・」
「べーんしょう!べーんしょう!」
「うっせーな!わかったよ!!」
燐はエプロンを翻して、理事長室に備え付けのキッチンに向かった。
冷蔵庫の扉を開き、中を探る。
料理の時に一緒に作ったプリンを冷蔵庫で冷やしておいた。
これを与えれば大人しくなるだろう。そしてさっさと帰りたい。
ここにいればまたメフィストの玩具になる理由を増やすだけだ。
しかし、取り出そうとしたトレイがやけに軽いことに気づく。
「・・・中身がない」
「おやつに頂きました☆」
「てめぇえええ!」
「さーてデザートがないですねぇ。これでは食事の締めにならない。つまり食事が終わらない。どうしましょう?」
「お前のせいだろ!」
「でざーと、でざーと!」
「あー、もうちょっと待ってろ!」
確かに食後のデザートまで揃えてこそ真の意味での食事の終わり。
ごちそうさまを言ってもらえるまで燐は決して妥協をしない。
しかし冷蔵庫の中身を見ても果物もないし、菓子づくりに必要なチョコの類もない。
団子でも作ろうかと思ったが、白玉粉もない。
簡易キッチンにあるものを、全力でメインに使ってしまったのは失敗だったか。
燐は頭をフル回転させる。
そして、戸棚の中の砂糖を手に取った。
「ほらよ」
「おや?これは・・・」
目の前に置かれたのは皿に載った黄金色の星だ。
メフィストはそれを一つ取ると、口の中に含んだ。
甘い。舌で転がして、がりっとかみ砕く。
「べっこう飴ですか?」
「おう、砂糖と水で作れるデザートっつたらこれだな」
実の所メフィストは燐を部屋に帰す気など最初からなかった。
だからこそ冷蔵庫にあるプリンを食べたのだ。
もちろん、食材も最小限のものしかおいてなかったのも業とだ。
デザートがないと駄々をこねれば契約を続行させることも可能だと踏んでいた。
律儀な燐は契約をふいにしたりは決してしない。
このままいけば、メフィストの計画通りになるはずだった。
しかし予想に反して、燐はメフィストの要望通りにデザートを用意してみせた。
形が星型になっているのも工夫があっていい。
きっと台所にあったクッキーの型に流し込んで成形したのだろう。
星形の飴を割らないまま取り出すなんて、やはり彼の腕は確かだ。
「・・・なんというか貴方はいつも予想を裏切ってくれますよね」
「なんだよそれ」
「誉めているんです。これ、美味しいですよ」
「それならいいけどよ」
メフィストは一つ二つと飴を口に放り込む。
その様子を見て満足したのか、燐はキッチンの片づけを始めた。
鍋に水を溜めて、その水を使いつつ皿を洗う。しかし、すすぐのはきちんと綺麗な水で。
節水の仕方も洗い方も完璧だ。片づけまでしてこそ、真の料理人。
最後の飴を口に含んで、メフィストは燐の後ろ姿を眺めた。
学生服に、エプロンをつけて炊事をする姿。
その隙間から黒い悪魔のしっぽがゆらゆらと動いている。
ふと、メフィストは思った。あのしっぽさえなければ、悪魔としての覚醒がなければ。
彼は今頃「普通」の人間変わらない人生を歩んだのだろうか、と。
そして藤本が望んでいたのは、彼のそういう人生だったのだろう。
悪魔もない、魔神もない。
だだ普通の人生。今はもう望めないけれど。
がりっと飴を噛んで、メフィストは燐の後ろに立った。
振り向こうとする燐を止めて、背後から耳元に囁いた。
「美味しかったですよ」
「そうか?」
「ええ」
「味付けはじじいに教わったのもあるんだぜ」
「そうですか」
声の感じが嬉しそうだ。
「まぁきっと。これが俺と雪男の家族の味ってやつなんだろうな」
燐の言葉を聞いて、ある衝動が生まれた。
その衝動のままに警戒心のない燐の首にそのまま噛みついた。
「いてぇえええ!!」
暴れる燐の体を抱いて、皮膚に牙を突き立てた。
がり、と飴を噛むような音がして咥内に血の味が広がる。
べっこう飴のような、甘い味。
腹の底を燃やすような、熱い熱い熱を含んだ血液。
彼の血はこんなにも喉を潤すものなのか。
知らなかった。
そのままごくりと飲み込んで、味わうように首を舐めて離れた。
「デザート、美味しかったですよ。ごちそうさまでした。奥村燐くん」
燐は首を押さえて、信じられねぇ!と叫んで部屋を出ていった。
片付けはちゃんと終わらせている辺り流石だ。
そうして思わず言った一言に、気づく。
「残念。契約は終了ですね」
唇についた血を舌で舐めとって、先ほど燐が言った言葉を思い出す。
手料理を味わうのとはまた違う。
末の弟燐の血の味は、甘くメフィストの喉を潤した。
「そういえば。これも家族の味・・・ですかね?」
ああ癖になりそうだ。
藤本が望んだ普通の人間とは違う。
悪魔の食卓にふさわしい味だった。
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