青祓のネタ庫
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人が悪魔の力を得るには同等の対価が必要だ。
古来より人は悪魔の力を得ようとさまざまなものを供物として捧げてきている。
曰く。鶏、動物の死体。毒草。しゃれこうべ。そして、処女。
生け贄の山羊といえば、定番だろうか。
それらを悪魔へと捧げ、召還者は悪魔の力を行使した。
そう思っているのは人間だけかもしれないが。
悪魔は甘言を言って人をたぶらかし、自分の思うように人を操る。
それは召還者に対しても同じことだ。
悪魔の言葉に乗せられて、命を奪われた人は数知れない。
対価を。悪魔は言う。
悪魔の力を使っておきながら、なにもなしとは言わせない。
悪魔は人に微笑んだ。
燐は、やられた。と思った。
アスタロトは最初からこれが狙いだったのだ。
燐に話しかけてきたことも。最終的には自分の望みをこちらに飲ませるために仕掛けてきたことだった。
アスタロトを召還するにあたって燐がやったことといえば、呼びかけに答えたことだ。
召還の魔法陣や血はすべて藤堂がお膳立てしている。
なにも、アスタロトを召還しようとしてしたことではないとはいえ、
藤堂の行為で悪魔は物質界へ干渉する力を得た。
そのタイミングを悪魔は逃さなかった。
悪魔は、意識もおぼろげな燐にささやいた。
およびください。と。
力になります。と。
燐はみんなを助ける力が欲しかった。
呼べという悪魔。招く召還者。利害が一致した瞬間。
悪魔は力を行使する。
そして、その分の対価を要求してきた。
鶏でもなく動物の死体でもなく。毒草、しゃれこうべでもない。
ましてや処女や生け贄の山羊でもない。
悪魔の世界への、帰還。
古来から続く契約への対価をアスタロトは要求する。
「このまま若君をこちらに残して帰るわけには参りません。さぁ行きましょうか」
「ちょっと待て!ストップ!!降ろせ!俺を降ろせ!」
「できません」
アスタロトはどんどん雪男たちから距離をとろうとする。
止まれ、と燐が言ったことでようやく足取りが止まる。
遠ざかっていた雪男の顔が近づいてきた。
顔色が真っ青だ。そうだよな、いきなり虚無界行きが決定しそうになったのだ。
心配しないわけがない。
「いったいどういうことなんや奥村!」
同じく駆け寄ってきた勝呂も焦った声で燐に問いかける。
燐が答えようとして、それをアスタロトが遮った。
「どうしたもこうしたもない。若君の御身を貴様等に任せておくわけにいくか。
現に見ろ。若君はこんなにも傷ついておられる。
それをしたのは悪魔堕ちした元人間だ。
これ以上人間に若君を傷つけさせるわけにはいかない」
「待てって!俺は虚無界に行く必要なんて・・・」
燐が言おうとしたところで、ぐらりと意識が揺れた。
まずい。藤堂を倒したことで気が抜けたのか。貧血が一気に襲ってきた。
アスタロトの腕の中でぐったりとした燐を見て、雪男が声をかける。
「兄さん、意識を持って!召還者が意識を失えば、悪魔のいいなりになってしまう!」
燐は雪男の声で、なんとか自分を保った。危ないところだった。
アスタロトは、痛々しい目で燐を見る。
アスタロトが燐を心配することは本当だ。
そして、燐を救うやり方が間違っているとは、アスタロトは思わない。
悪魔は自分の欲求に忠実だ。悪魔の欲求は悪魔自身の正義となる。
それが間違いだとは露ほども思わない。
それが悪魔と人間の違いだ。
「対価をなくすならば・・・ここら一体をすべて汚染し直しましょうか。
先ほど払ったコールタールを戻せばたやすいことです。
私が満足するまで壊せば、大人しく虚無界へと帰りましょう。
お迎えにはまた後日伺わせて頂き・・・」
「そ、それはだめだ!」
「では、ご一緒に帰還致しましょう」
「それも無理!」
「ではどうしろと」
燐が逃げようともがくのを、アスタロトは逃さない。
雪男たちも、なにかを言おうとするが、言えば言うだけドツボにはまりそうだ。
悪魔に言質を取られれば、なし崩し的に燐を浚われかねない。
燐が行かなければ、ここら一体は汚染される。
おそらく大勢の人が死に、町も死ぬ。
では、このまま燐を虚無界へと向かわせるのか?
答えは否だ。燐一人に背負わせるわけにはいかない。
雪男たちは覚悟を決めてアスタロトに武器を向けた。
相手は八候王。正直勝てる相手ではない。
それでも、仲間を見捨てることは、できなかった。
「兄を離してもらおうか」
「奥村一人で背負わせたりせえへんで」
雪男たちも譲れないものがある。
アスタロトにも譲れないものがある。
アスタロトはおもしろい、といった風に片手を挙げる。
その手にコールタールと瘴気が集う。
瘴気は毒と同じだ。人間が吸えば、死んでしまう。
燐は双方をみた。
自分を守るといって虚無界へ行こうと誘う悪魔。
自分を見捨てはしないといって、命を省みずに戦おうとする仲間。
「お前等、ちょっと待て!!!」
燐はアスタロトを炎を纏っておもいっきり殴りとばした。
地面にアスタロトもろとも倒れこむ。
正直、貧血の身でやるにはつらい。
けれど、燐にも譲れないものがある。
燐は、ふらふらとしながらも誰の手も借りずに立ち上がった。
アスタロトと、仲間の間にたって。言い放つ。
「おいアスタロト」
「なんでしょう若君」
「対価とか言ってたよな?それ。もう一回言ってくれ」
「悪魔の力を得るには同等の対価が必要です。
私の力の行使への対価に私とともに虚無界へお帰りください」
「断る」
燐ははっきりと言った。アスタロトは目を見開く。
「それは、『人』の場合だよな?俺はもう人間でも、ましてや悪魔でもない。
だからお前の要求は断る!!!」
悪魔と人との契約に、自分はあてはまらない、と言い放つ。
燐の立場はかなり特殊だ。魔神の落胤で青い炎を継いだ唯一の存在。
それなのに人間とともに生きている。
純粋に人間、とは確かに言いがたい面がある。
ただの人間ならば八候王に傅かれたりはしないだろう。
それはアスタロトが証明している。
古来より、悪魔の甘言に乗って死んだ人間はごまんといる。
しかし、悪魔を説得して操った人間だって少数だが存在している。
要は召還とは悪魔と召還者側の主導権の奪い合いなのである。
勝呂は、思わず呟いた。
「奥村、以外と横暴やな・・・」
「・・・否定できないのがつらいです」
雪男も否定はしなかった。
アスタロトはにやりと悪い顔をして答える。
「フフフ、それでこそ我が君。このまま反論がなければ本当にお連れするところでしたのに」
「てめぇ、俺を試したのか」
「滅相もない。私は若君を信じておりました」
「この悪魔」
「褒め言葉です」
つまり、最初からふっかけてやがったのか。
いけしゃあしゃあとこいつは。と燐の額に青筋が浮かぶ。
いや、乗せられてはだめだ。我慢だ。
燐が深呼吸をしたところで、アスタロトは少し困ったように燐に告げた。
「では、他に対価はいただけないということでしょうか?」
「あー。そうだな・・・なにもないっていうのもなんだし。これやるから帰ってくんねぇ?」
燐はあたりを見回して、がれきの隙間に転がっていた瓶を拾った。
それは、藤堂が燐から無理矢理奪った血が入っている。
救急車の爆発を紛れたいくつかが、転がっていたようだ。
燐はすまなさそうにアスタロトにそれを渡す。
アスタロトの顔が喜色ばんだ。
「いただけるのですか?」
「え?ああ。これでよければ」
「対価として、頂きましょう。望外の喜びであります」
「まじで!よかったー!じゃあはやいとこ帰ってくれ!」
「承知致しました。・・・若君」
「なんだよ」
「お慕いしております。また、お会いしに参ります」
「いいよこなくて」
「これから、何度でも参ります」
「・・・いいから帰れ!」
なにかを言おうとしたアスタロトが、ぼしゅ、と音を立てて消えていった。
生徒から離れた黒い影が消失していく。
生徒は、どさりとその場に倒れ込む。雪男が急いで生徒の状態を確認した。
顔色は悪いが息はしている。入院する必要はあるだろうが、命に別状はなさそうだ。
藤堂も消え、悪魔も去った。
終わったのだ。
燐は耐えきれずにその場に倒れ込んだ。
ぎょっとした雪男たちが駆け寄ってくる。
「だいじょうぶ、生きてるよ・・・」
燐がひらひらと右手を振った。その様子に安心したのだろう。
みんな、その場に座り込んでしまった。
「一時はどうなるかと思ったわー」
「ほんまですね。でもみんな無事でよかった」
「燐、怪我大丈夫なの?」
「あんた、無茶ばっかりするんだから。付き合わされるこっちの身にもなってみなさいよ」
「ほんまや。奥村、お前また無茶ばっかりしおって」
「兄さん、後で覚悟しておきなよ?」
「・・・なんで怒られるんだよー」
燐はふてくされたように転がる。
雪男はそっぽを向いた兄の頭をなでた。
「それだけ、みんな心配してたってことだよ。お疲れさま」
なでられたのが恥ずかしかったのか、雪男の手を払うようにして、燐が起きあがる。
周囲を見回した。
そこには、燐の側にいてくれる仲間がいた。
藤堂は言った。その力は、神父を犠牲にして得た力ではないかと。
確かに、藤堂の言うことにも一理ある。
この力がなければ、神父が死ぬことはなかっただろう。
今でも、燐の雪男の隣にいてくれたのかもしれない。
だが、この力があったからこそ、倒せた敵もいる。
不浄王、そして藤堂もそうだ。
この力を得て失ったものは大きい、だがそれ以上に得たものだってある。
燐の力のことを知ってもなお、見捨てないでいてくれる仲間。
それが、燐の得たかけがえのない大切なもの。
「ありがとな、俺のこと助けてくれて」
燐はみんなに笑いかけた。
「なにいうとんのや、当たり前やろ。
お前が頑張ったからからなんとかなったんや。胸張ってもええと思うで」
「そうだよ!燐!」
「そうやでー、これで先生に殺されんですむわ」
「まぁ兄さんが浚われるのを見逃した志摩君には後で課題をたっぷりとあげますよ」
「ひどいいい!」
「反省は必要ですよね」
「しょうがない奴らねぇ」
みんなとこうして笑っていられるのは、神父さんが俺を生かしてくれたからなんだよな。
瞼を閉じれば、神父の姿が見えた。
瞼の裏の神父は笑っていた。
これでよかったんだよな。
燐は瞳をあけて、目の前の仲間と笑う。
神父さん、俺を生かしてくれてありがとう
今度、墓参りに言ったときに報告しよう。
俺は一人じゃなくなったんだって。
そう思った。
たとえ失ったものがあったとしても。
あがいた分だけ、人は何かを得る。
この手の平に得たものを今度こそ失わないように。
何度だって諦めないであがいてみせる。
燐は胸の奥でそっと誓った。
形勢は不利だった。
藤堂は、不死鳥の名を頂くカルラの炎を身に取り込んでいる。
炎は実体が掴めない。
陽炎のように不確かな赤い炎は、中に青い炎を宿しじりじりと燐を追いつめていく。
燐が、アマイモンと戦ったときのように力を出せれば、違っていただろう。
しかし、燐はあの戦いで我を忘れ、炎を暴走させたことがある。
力を解放するにしても、近くに一般人がいる舞台ではやりにくい。
極めつけは、失血だ。時間がたてば回復するであろうそれも、
藤堂の休む暇を与えない攻撃を受けていればおのずと遅れてくる。
視界が霞んでくる。
戦況は芳しくなかった。
藤堂が、周囲の被害を気にせず炎を撃つ。
まずい、このままの軌道をたどれば、被害が。
「くそッ!!」
燐はグラウンドに避難する一般人にいかないように赤い炎を
鞘をしたままの倶利伽羅で弾いた。
「ほら、よそ見してたら危ないよ?」
藤堂が、燐の背後に炎の塊を投げた。
当たる。と思ったが、コールタールの渦が燐の代わりに炎を受け止めた。
燃えていくコールタールを隠れ蓑にして、
燐の体は強引に旧校舎の教室に引っ張り込まれた。
藤堂から見たら、燐が炎で消失してしまったかのように見えただろう。
藤堂は視線を周囲に巡らせている。
しばらくは、時間を稼げるはずだ。
燐は、自分を廃墟となった教室に引っ張り込んだ人物を見て、ため息をついた。
「アスタロト」
「申し訳ありません、しかしやはりご無理は」
燐の手をとって、アスタロトは顔をしかめた。
体温が低くなっているし、顔色も真っ青だ。
このままいけばそうかからずに倒れるのは目に見えている。
それでも、燐には譲れないものがある。
アスタロトは、今にも藤堂に向かっていきそうな雰囲気があった。
しかし、それではだめだ。
アスタロトのことを燐は心配などしていなかった。
八候王と謳われる悪魔だ、アスタロトはどうとでも藤堂に対応するだろう。
しかし、炎を受けて、この生徒の体がどうなるかはわかったものではない。
アスタロトが憑依している体の持ち主の為にも、アスタロトには後方にいて貰いたかった。
「・・・お前、ここからさっきやったみたいに
あいつの出した炎が一般人にいかないように止めることってできるか?」
「できますが・・・このように弱っている貴方を置いて、人を助けろと言うのですか。
脆弱な人など放っておけばいいのでは」
燐の脳裏に仲間の姿が浮かんだ。
みんな無事だろうか。
雪男。心配していなきゃいいけど。
みんなを守るために、俺は戦っているんだ。
それを再確認する。炎には絶対に飲まれたりはしない。
「やってくれ」
「若君」
「俺は藤堂をやる。だからお前もそれを・・・」
ぐらりと燐の体が揺れた。
アスタロトは燐の体を支えて、その場に座らせた。
壁に背を預けるようにさせれば、燐の口から荒い息がこぼれる。
アスタロトは、少しだけ考えてから答えた。
「・・・わかりました」
「よし。じゃあ藤堂に見つかる前に仕掛けるぞ」
「若君」
「なんだ」
「お怒りになるかもしれませんが・・・お許しを」
燐の顔を上げさせて、アスタロトはそのまま顔を近づけた。
燐は、なにをされるのか。と警戒して腕を突っぱねる。
しかし力の入らない燐の抵抗を押さえるなど簡単だ。燐の手から倶利伽羅が落ちた。
かしゃんという金属が床にぶつかる音が廃墟に響く。
腕を捕まれ、壁に押しつけられた。
左腕は動かない。右手だけでは抵抗もままならなかった。
「お前ッ!なにを・・・!」
燐の言葉は続かなかった。アスタロトは燐の口に噛みついて、その咥内を貪った。
舌を絡めさせて、奥へと進入していく。
燐が入り込むアスタロトの舌を噛もうと牙をたてるが、痛みなど気にせずにアスタロトは燐を蹂躙していく。
ひるんだのは、燐の方だった。
血の味が口に広がって気持ちが悪い。息ができなくて苦しい。
何度も顔を背けたが、アスタロトは口が離れるたびに執拗に燐を追いつめた。
絡み合う二人の唾液が燐の顎を伝って、床に落ちた。
しばらくそうしていると、アスタロトが満足したかのように燐から離れる。
解放された燐は、むせながら苦しそうに空気を取り込んだ。涙目だった。
「こん・・・の!変態野郎!!!」
目の前の相手を、体の持ち主に気にせず殴ってやった。
春先も、この体の主とは喧嘩をしているので、あまり躊躇せずにできた。
手加減は流石にしたが。
怒りからか、燐の体から炎が沸き上がっている。
その様子に気づいて、燐は自分の体を見た。
なぜだか、さっきよりも体が軽い。
「血の気といいましょうか・・・生気を送りました。少しですが、持つはずです」
「おお!さっきよりはマシだ・・・すげぇ!」
が。燐が勢いよく立つと、また倒れ込みそうになった。
アスタロトは素早く燐の体を受け止める。
「やはり、人間一体の力ではあまり持ちそうにありませんね」
「ちょっと待て、お前、生気って・・・まさか」
「ええ。この体の主のをほんの少し。残念ですが私のでは、若君の力と反発しそうなので。
この若者は若いせいか血の気が多いですね。寿命は削ってないのでご安心を」
「・・・」
やっぱり悪魔っていうのは。と燐が思い知った瞬間だ。
燐はアスタロトと距離をおいた。
あんまりこいつを物質界に長居させてはいけない気がする。
そのためにも、藤堂を倒さなければ。
燐は目を閉じた。おそらく、あと一回。
それ以上は燐が持ちそうになかった。
倶利伽羅を持って立ち上がる。
剣を抜くのは最後の時だ。
いくら剣を抜いて炎を出しても、使う方の体が持たなければ意味がない。
アスタロトも立ち上がる。後は、手はず通りに。
「御武運を」
アスタロトは燐の手の平にキスをした。
あまりにも普通にするものだから、あっけにとられる。
一応、もう一回だけ殴っておいた。
「やっぱりお前嫌いだわ」
「私はお慕いしておりますので大丈夫です」
なにが大丈夫なのか全く訳がわからない。
藤堂は、消えた燐の姿を探していた。
青い炎で攻撃してやったが、こんなレベルで燐が倒せるとは思っていない。
どこかに隠れているのだろう。
旧校舎に向けて炎をぶつけた。
燃えさかる火炎が、校舎を飲み込んでいく。
「鬼ごっこよりかくれんぼが好きなのかい」
旧校舎を壊しても、反応はなかった。
やはり、あぶり出すには生きている人間を狙うのが一番かな。
藤堂は先ほどもやったとおり、炎を救護テントがある方角へ向けた。
藤堂は、一般人を巻き込むことになんら躊躇がない。
むしろ楽しそうに特大の炎を向けた。
「地獄絵図が見れるといいなぁ」
炎を扱えるようになってから知った人が焼け焦げるにおい。
それを好むようになったのは悪魔として目覚めたからだろうか。
炎が、グラウンドへと向かっていく。
おそらく燐はこの方角へ現れるはずだ。炎を阻止するために。
藤堂はそこを叩くつもりだった。
しかし。予想ははずれる。
炎を阻止したのは、黒いコールタールの壁だった。
ごうごうと燃え盛る黒い影達。しかし、数が衰えることはない。
燃えるたびに補給されるコールタールは炎を防ぐのに絶好の捨て駒だ。
アスタロトか。
藤堂は舌打ちする。
気配を感じた。そうか。
「後ろか!!」
燐は藤堂の背後で、剣を振りかざした。
左腕で鞘を持ち、剣を抜こうとする。
しかし、一瞬それが止まった。
目の前の藤堂が、赤い炎に変化したからだ。
燐の体はそのまま赤い炎に包まれる。
燐が纏っていた黒衣が焼け落ちてしまった。
まずい。
とっさに、青い炎を身にまとうことで体が焼けることは阻止したが、体を拘束されてしまった。
動けない。
藤堂を倒す、チャンスだったのに。
藤堂は、捕まえた燐をおもしろそうに笑いながら現れた。
「炎って便利だよね。実体なき陽炎という幻影も作り出せる。
そして、形も自由自在だ。剣を抜かなかったのは、途中で気がついたからかな?ほめてあげるよ。」
「てめぇ・・・」
「さっきは血から炎を貰ったけど、今度は全部だ。心臓も、炎も、体も。全部貰うよ」
黒のアンダーの上から、左胸を触られた。燐の体がびくりと震える。
触り方がどこまでも変態臭くて最悪な気分だった。
「君の力の源は、倶利伽羅にあるんだったよね。体の方に心臓はもうないのかな?試してみようか」
ぐっと、力が入る。藤堂の爪が鋭く伸びて、燐の体を切り裂こうとした。
燐は、襲いくるであろう痛みに耐えようと、目を閉じた。
声が聞こえた。
「被甲護身の印!!!」
燐の前に、結界が展開する。藤堂の悪魔の爪が、燐に届く前に弾かれた。
京都で、勝呂達が使っていた明蛇宗の印だ。
下をみれば、志摩と子猫丸が印を結んでいた。
間髪入れずに二人の隣で勝呂が唱える。
「伽樓羅焔 火粉の印!!!!」
燐を捕らえていた炎が、火の玉へと変化し、藤堂を攻撃した。
勝呂家は代々カルラと契約を結んでその力を行使してきた。
カルラとの縁は先祖を辿れば百年以上のつき合いになる。
成功するかは賭だったが、一時的な炎の使役は成功した。
拘束が解けた燐の体が、空中に投げ出される。
藤堂が体制を立て直す前に、別の声が藤堂の名を呼んだ。
「藤堂三郎太、兄をここまで痛めつけてただで済むと思っていたのか?」
雪男の機嫌は最悪に悪かった。額に青筋まで浮かんでいる。
当然だ。家族を傷つけられて嬉しい者などいるはずもなかった。
雪男達は逃げたわけではない。
それぞれに役目を果たすために期を伺っていたのだ。
誰も燐を一人で戦わせようとは思っていない。
祓魔師は一人では戦えない。
全員が力をあわせること。
京都で不浄王に打ち勝った時に得た教訓だ。
雪男はしえみ、出雲と魔法陣を囲んでいる。
それは、コールタールを呼び出すような簡易なものではない。
魔法弾を使用し、見習いとはいえ才能ある手騎士の力を借りて作った特製の陣だ。
しえみ、出雲。雪男は同時に叫んだ。
「「「水霊の水牢!!!」」」
藤堂の体が、水の檻に閉じこめられる。
三人分の力が籠もった檻は京都の時のようにすぐには抜け出せなかった。
カルラの炎を噴出させ、檻を蒸発させる。
壊されることも。想定内。
時間稼ぎが、雪男達の目的だ。
「出番だよ、兄さん!」
空に投げ出された燐を受け止めたのはアスタロトだった。
その連携の見事さに藤堂は舌打ちする。
燐は、藤堂に刃を向けた。
「終わりだ!藤堂!!」
動かない左腕の代わりに倶利伽羅を口にくわえて、右手で一気に引き抜く。
青い炎がその身に宿る。
そのまま、アスタロトの背を踏み台にして空を舞った。
今度は外したりしない。
青炎を宿した倶利伽羅で、藤堂の胸を貫いた。
青い炎がカルラの炎をも取り込んで燃え盛る。
藤堂の体が徐々に崩れ落ちていった。
「なぜだ・・・カルラの炎が、青い炎が・・・・」
「お前の敗因は、炎のせいじゃねーよ」
燐が不敵に笑う。
その顔は苦しそうだが、炎を弱めるつもりもない。
そのまま、一気に焼き付くす。
赤と青が相克し、火の粉が渦を描いて空へと消えていく。
藤堂が、燃え尽きる寸前に、さみしそうにつぶやいた。
「なぜ・・・私は君に負けたんだろう」
藤堂には、家族がいた。
父も兄も家も。最初から憎んでいたわけではない。
尊敬もしていた。大切だった。その気持ちも確かにあった。
それが歪んだのは一体いつからだったんだろう。
例えどんなに憎くても。重くても。
藤堂は捨ててはならなかったものを捨ててしまった。
燐は、大切なものを捨てたりなんかできない。
二人の違いは明確だ。
燐は答えた。
「俺が、一人じゃないからさ」
藤堂は、一人だった。
最期まで、一人だった。
燐の言葉を最期に。藤堂は、燃え尽きた。
燐の声は届いただろうか。それはもうわからない。
助けてくれる仲間がいるということ。
それは、祓魔師になる時に一番最初に教わることだ。
まっすぐな道でさみしい。とつぶやいたのは誰だったのか。
まっすぐな道でも、誰かと歩けば寂しくはなかったはずなのに。
落ちる燐の体をアスタロトが受け止め、地上にゆっくりと降りていく。
一番先に駆け寄ったのは、やはり雪男だった。
「兄さん!!」
「雪男!よかった無事だったんだな!!」
燐に近寄ろうとする雪男を、アスタロトが遮った。
雪男はむっとした顔を向ける。
燐は、まだアスタロトの腕に抱えられたままだった。
降ろせよ、と燐が言うが、アスタロトは言うことを聞かない。
「おい・・・?」
「若君、今回のことではっきりわかりました」
アスタロトは駆け寄ってくる燐の仲間と距離をとろうとする。
行動の意味が燐にはよくわからない。
アスタロトは言った。
「対価を頂きます。若君」
「たいか?」
「ええ、悪魔の力を得るには同等の対価が必要となります。
私を喚びだしてそれでおしまいという訳にはまいりません。
これまで使わせて頂いた力の対価を頂こうと思います」
その言葉は雪男達を。
そして燐をも戦慄させた。
「若君、私と共に虚無界に帰還して頂きます」
悪魔の力を得るならば、同等の対価が必要だ。
悪魔はにやりと微笑んだ。
ひとまず要望のあった倉庫整理をやってみた。
リンクとか消えてるssあったら教えていただけたらありがたいです。
作品数が多すぎて把握しきれぬ。
つかれたー。
明日が仕事なんて嘘よ!!
そんなこんなで明日は誕生日です。
またひとつ年をとるのかぁ。
まだ若いままでいたいけど、こうして人は年をとっていくのですね。
追記
誕生日へのコメントありがとうございます!!!
わーい!たくさん祝っていただきました(^ω)ありがたや
呼び出すときのコツってなにかあるかなぁ?
勘よ。
と出雲は答えた。
例えるならそうね。
テストで2択問題があるとするじゃない?
マークシートでもいいけど。
それを頭の中で、答えはこれだ。って取捨選択する時に似ているわ。
悩んでいる時に、答えはでない。
答えはね。選んだ時にでるの。
正しくても、間違っていても。結果は選ばないと出ないわ。
あんたは、選べていないのよ。
こちらからの呼びかけに答える悪魔の声を聞きなさい。
あとは、あんたが選んで答えを出すだけよ。
しえみは集中した。
目の前には、コールタールを生み出す魔法陣がある。
燐がさらわれたことを知って、しえみは燐を助けたいと思った。
それには、グリーンマン。ニーちゃんの力が必要だということもわかった。
ニーちゃんがいなければ、自分には何の力もない。
だが、ニーちゃんがいれば、自分は何か人の役に立てる。
手に持った魔法陣に呼びかける。
「おねがい、ニーちゃん!燐を助けたいの!きて!!」
呼びかけに答えるように、魔法陣が光った。
ニー!という声が聞こえる。
以前なら、呼び出してすぐに消えてしまうこともあった。
だが今は、しえみの手のひらでぴょこぴょこと動いている。
しえみは、目の前の、コールタールを生み出す魔法陣を見据えて言う。
「ニーちゃん!お願いウナウナ君で魔法陣を壊して!!」
グリーンマンはしえみに応えて、魔法陣を破壊する。
グリーンマンの腹から生み出された枝が、勢い余って校舎の窓や壁を突き破ったが、
取り壊し予定の建物だ。目をつむって頂こう。
ここから新たなコールタールが生まれてくることはない。
しえみは、周囲を浄化する為、聖水を散布した。
これで、この教室一帯は大丈夫だろう。
他の仲間はどうだろう。
視線を旧校舎の別棟に向ければ、各場所から浄化の光や、攻撃の音が聞こえてきた。
「カーン!!・・・よし、ここは大丈夫や。しかし京都の時といい世話の焼けるやっちゃな!」
「かしこみ申す!!まったく、ここでもないわ!」
「ぎゃああああ、虫みたいなコールタールおったあああ!」
「奥村君が、いそうな所・・・どこやろ。クロやったらわかるんかなぁ」
それぞれに、役目を果たす。
それが最良の道につながると信じて。
しえみも、駆けた。大切な友達を救う為に。
雪男は、魔法陣を2カ所破壊した後。
何か藤堂の居場所に繋がる手がかりがないかと記憶を掘り起こしていた。
「藤堂は、鍵を使っていた。鍵は、扉を使わないといけない。同タイプの扉・・・
でも、スライド式のドアなんてどこにでもあるし・・・」
生物準備室で遭遇したときは、藤堂はドアをスライドさせて閉めていた。
ここ、特別棟は理科。生物。科学など。実験に使う教室だ。
これらの扉は、全てスライド式。
だが、スライドさせて開く扉と言えば、それこそ学校の教室だってそうだろう。
注目すべき点はそこではない気がした。
雪男は、記憶の中で見た光景が、どうにもひっかかっていた。スライド式のドア。
そして、機材に囲まれて血塗れになった兄の姿―――
「待てよ・・・機材?」
そうだ、兄は呼吸器のようなものをつけていた。
あれは、普通の学校にあるものか?
雪男は、思い出す。ストレッチャーに寝かされていた兄の姿を。
導き出される答えはひとつ。
送信者 奥村雪男
みなさん、救急車に気をつけてください!!
藤堂は、兄はそこにいる!
一般人を搬送するために学園に入った救急車。
その中の一台に紛れ込んでいるはずだ。
藤堂は当初救急隊員に紛れ込んで燐を拉致した。
その「患者」を連れても人が不自然に思わない場所といえば、
救急車だ。学園内にあっても不自然ではない上に、移動ができる。
救急車は、後部の隊員が出る扉がスライド式になっている。
鍵は同タイプの扉同士の空間を繋げる。
人工呼吸器のような機材は、救急車に設置されている。
兄を連れて、このまま車で移動でもされたら。
雪男は冷や汗をかいた。
廊下から、見渡せる限り救急車を探した。
止まっているもの。動いて行くもの。
今まさに患者を運び込んでいるもの。
止まっている車が一番怪しいはずだ。
なにか、目印は。
雪男は目を凝らした。
こんな時目が悪い自分を呪いたくなった。
雪男の携帯が着信を告げる。間髪入れずに出た。
「先生!たぶんあれや!!北校舎の一角の止まっとる救急車!周
囲の気配がすごい悪くなっとる。
コールタールが。あと、窓から青い光が出とる!!」
「なんだって!?ありがとう志摩君!」
志摩に全員の旧校舎からの退去の連絡を頼んで、電話を切る。
北校舎が見える、渡り廊下に出ようと階段を下りる。
そこで、なにかに躓いた。負担ならありえないことだ。
この急いでいる時に限って。雪男は眉間にしわを寄せながら階段の踊り場。
床を見た。雪男の足下には魔法陣が。
「しまった!!トラップか!」
気づいた時には遅い。
足下から一気に噴出するコールタール。
とっさに、顔を腕でガードする。
コールタールが噴出する勢いにはじかれて、そのまま渡り廊下までとばされてしまった。
倒れたコールタールが、雪男めがけて襲いかかってくる。
まずい。
雪男は聖水を撒こうとしたが、遅い。
襲いくる衝撃に備えようと、体をこわばらせた。
どこかから声が聞こえた。
来い―――
「・・・兄さん?」
衝撃は、襲ってこなかった。代わりに聞こえてきた誰かの声。
コールタールは、方向を急速に転換させて、空へと舞い上がる。
見上げた空には、いくつもの黒い筋が収束しあい、何かの図柄を描いている光景が。
悪寒がした。
藤堂なんか目ではないくらいの存在がいる。
北校舎の一角から、一際濃い瘴気が舞い上がった。
続けて、爆発音と炎が。
見なくても、わかった。焼けていくガソリンのにおい。
きっと救急車が爆発したのだ。
爆炎と黒い筋。
螺旋を描いて舞い上がる赤と青の炎。
動く影が、筋の中から飛び出してきた。
「―――!藤堂!!」
全身血にまみれた藤堂が、空中から出てきた。
藤堂は、炎の化身であるカルラを取り込んでいる。
空中を舞うように何かから逃げている。
視線の先を追えば、青と黒に包まれた人物がいた。
「兄さん!!」
雪男は声を荒げた。よかった。生きている。
無事でよかった。
見上げた燐の姿は、見たこともない黒衣に包まれていた。
黒のアンダー。制服の黒のズボン。
これは燐が身につけていたものだ。
しかしあの見慣れない黒衣は一体。
マントにも見えるそれが風に揺れる。
燐は、なにもない空中に着地した。
体から青い炎が沸き上がる。
黒衣が揺らめく。
目は、どこかうつろだ。
「・・・兄さん?」
雪男の声は届かない。
地響きが聞こえる。足下が揺れる。
見れば、校舎の壁にひびが入っている。
まずい。ここも危ない。
ただでさえ古い校舎で、取り壊し途中の建物だ。
藤堂と燐の力の圧力に、舞台となった校舎が悲鳴を上げている。
雪男は、ひとまず兄の姿を目で追いながら渡り廊下の階段を駆け降りる。
校舎から間一髪で飛び出した。
背後で、渡り廊下が、校舎が。崩れ落ちていく。
舞う粉塵と瘴気に眉をしかめながら思う。
塾生を早めに避難させていてよかった。
雪男の携帯が鳴り響く。
「もしもし」
『ちょっと先生!!あなたお兄さんにどういう教育をしたんですか!!!』
きーんと大声が雪男の耳に響く。
ちょっと携帯と距離を置きながら、再度電話に出る。
「今までさんざんかけた連絡に無視を決め込んでおきながら
今更の登場ですかフェレス卿」
『いや。本当私腐の気配だけは駄目なんですよ。アレルギーがひどくなっちゃって』
「ごたくはいいです。あれは、いったいなんなんですか?
兄はいったいなにに巻き込まれているんですか?!」
『先生。空を見てください。あれは、腐の王を召還する為の魔法陣です』
「腐の・・・まさか。アスタロト?」
『はい。この陰湿で紳士的な要素の欠片も感じられない気配は。
八候王の一角を司る彼しかありえません。
コールタールを召還するために描いた藤堂の陣。
あれは学園に何カ所も設置されていました。コールタールはアスタロトの眷属だ。
その陣を強引に乗っ取ってアスタロトの召還に使ったんですよ』
「誰が」
『あなたのお兄さんです。各魔法陣には彼の血が依代に使われていたようですしね。
小さな魔法陣同士を掛け合わせて、アスタロトを導く円を描いています。
これは、あなた方の協力のたまものでしょうか』
「どういう意味です」
『各場所に設置された陣を、あなた達は破壊していったでしょう?
よけいな陣を破壊したおかげで。
上から見たらよくわかるんですが、ちょうど残りの陣で円が描けます』
「・・・僕たちは示し合わせてやったわけではないのですが」
塾生達は、それぞれの役割をこなしただけだ。
それがこの結果を導き出すとは夢にも思っていなかった。
『偶然は必然につながりますよ。奥村先生。
なんにせよ。彼は腐の王を呼び出してしまった。
私としては胸が高鳴る展開ですが、
ここら一体が地獄絵図にならなければいいですね』
どこか愉快な声で道化の男は述べた。
笑い事ではない。ただでさえコールタールの瘴気で学園がやられているのだ。
雪男の脳裏に京都での不浄王の一件が浮かぶ。
あれの親玉を呼び出すなんで、兄はなにを考えているのだろうか。
「兄さん・・・一体どうするつもりなんだ・・・」
雪男の独り言ともいえる問いに、メフィストは答えた。
『どちらにせよ。彼は、選んだのでしょう。
結末については、見届けるしかありませんよ奥村先生』
見ているしかない。
それだけでは、雪男の衝動が収まるわけがない。
なんとかしないと。このままではいけない。
雪男は、走った。
自分は人間だ。
こうなった兄を止めるすべを自分は知らない。
でも、じっとしているなんてごめんだ。
「じゃあ、僕も選ぶだけだ」
兄の無事を。
みんなで笑える結末を。
「若君、お目にかかり光栄の至り」
アスタロトは正十字学園の学生服を着ていた。
髪は白髪。燐は、この春に出会った不良を思い出す。
名前は・・・忘れてしまったが。
生徒の体を依代にアスタロトは物質界に現れているらしい。
「おまえ、取り憑いているのか?」
「はい。この体は思ったよりもなじみ深いもので」
「終わったら出ていけ。その体、傷つけるなよ。人間なんだから」
「人間の心配をされるのですね」
「聞けないか?」
「いいえ、おおせのままに」
燐の体が、ぐらりと揺れる。アスタロトは燐の背を包み込むように支えた。
だいぶ息が荒い。それに顔が真っ青だ。
「若君、やはりお体が・・・いくら私の黒衣で支えているとはいえ、無茶は」
「いい。それよりも、倶利伽羅を探してきてくれ」
燐の体は、コールタールを収束させて作った黒衣でまとわれている。
これは、空中に体を浮遊させる役割もあるが、失血でおぼつかない燐の体を支えるためのものでもあった。
アスタロトは、腕を一振りしてコールタールの渦を巻き上げた。
舞い上がったのは一振りの刀。
それを、空中で受け止めて、燐の前に恭しく差し出した。
「ここに」
「助かる」
倶利伽羅の鞘は閉じていた。きっととばされた衝撃で閉じたのだろう。
燐は右手で倶利伽羅を受け取った。
左腕は、聖水を直接注射されたせいで、まだ動きが鈍い。
やるならば、右手一本だろうか。
燐は目の前の藤堂を見据えた。
「好き勝手やってくれたじゃねーか」
「ふふ、まさかこんなキャストを召還するとは予想外だったよ。
でもいいのかい?ただでさえ汚染されているここら一体がただではすまないよ?」
アスタロトは腐の王だ。
その息は呼吸をするだけで致死量の瘴気を吐き出す。
燐は、アスタロトに向かって言った。
「瘴気は、お前がなんとかしろ」
「では、空中にひとまとめに致しましょうか?」
「それでいい。学園や、人にまとわりついている奴も全部だ。取りこぼすなよ」
「承知いたしました」
「それと、お前いるだけで瘴気出すんだよな?それは押さえろ」
「私に息をするなとおっしゃるのですね。ひどいお方だ」
「できないのか」
「かしこまりました。若君は人間の死をお望みではないようなので」
アスタロトが言うと、学園中のコールタールが一斉に空へとあがっていった。
空に描かれている魔法陣のさらに上に、紫色の瘴気と、コールタールの球体ができあがっていく。
地上にいる人間ならば、息がしやすくなったと感じるだろう。
この舞台にいるのは悪魔と悪魔。
感じたのは、空を覆っていた雲が晴れたことだろうか。
隙間から漏れる太陽の光に壊れた校舎が照らされる。
その光景に、藤堂は唖然とした。
「意志なきコールタールを統率する存在・・・なるほど。
これじゃあテロの意味すらなくなってしまうね。これがやりたかったのか。
君はどこまでも人間を助けるんだね。反吐が出る」
「若君を侮辱するか。悪魔堕ちの出来損ないめ」
腐の王は、藤堂をバカにしたように言った。
悪魔は生まれ持った力ですべての階級が決まる。
力持つものは力なきものを容赦なく喰らい尽くすのが虚無界のルールだ。
藤堂のように、悪魔を乗り換えて力をつけていくようなやり方は、
アスタロトにとっては小物の小細工としか見えない。
「そうだな、僕はただの落ちこぼれだからね。こんなやり方しかできない。」
藤堂は、カルラの炎を呼び出した。
炎の中には、カルラの炎に包まれるように青い炎がぽつんと宿っている。
燐から奪った炎の欠片。
それは欠片でも、藤堂の体では押さえきれるものではない。
カルラの不死の炎で包んで、ようやくもてるような代物だ。
「青い炎に焼かれれば、君でも死ぬかもしれないね」
燐の周囲にカルラの炎が展開する。
中には青い炎が混じったものも。
燐は、アスタロトに自分から離れるように言った。
アスタロトは納得がいかないと燐に告げる。
「私をおそばに、若君一人では」
「お前の心配じゃない。その体の持ち主のこと言ってるんだ。
その体は人間のものだ。お前とも・・・俺とも違う」
「若君・・・」
アスタロトにとって燐の命令は絶対だ。
だが。悪魔がただ他人の言うことを鵜呑みにできるわけがない。
悪魔は、自己の欲求に忠実だ。
燐は、その悪魔の欲求を抑えろという。
人間など見捨てて皆殺しにして、燐の無事を願うアスタロトを燐は認めない。
「ひどいお方だ」
アスタロトは、燐の手をとって手のひらにキスをした。
それは忠誠の証。
アスタロトはそういって、燐から離れた。
腕を振り、コールタールの渦を操る。後方支援型に攻撃形態を変えた。
燐は、アスタロトがキスをした部分を容赦なくマントで拭う。
半ば衝動的な行動だった。
相手は、悪魔とはいえ自分と同じ男子学生の姿をしている。
あんまりキスされてうれしい相手ではなかった。
「君はモテるね。妬けてしまいそうだ」
「・・・丸焼きにされてーのかおっさん!」
「おっさんはひどいな。今は若いよ」
藤堂と、燐の体から炎が巻きあがる。
どちらかが、死ぬまで。勝負は終わらないだろう。
燐の視界が揺れる。
燐は、失血しすぎている。
言葉が普段よりもぶっきらぼうなのは、しゃべる余裕がないからに他ならなかった。
藤堂は、きっと燐の状態に気づいている。
そこを突かれれば、危ないこともわかっている。
このまま戦闘になっても、いつまで持つかわからない。
だが、それでも。
燐はそれを選択した。
すべてを背負う、選択を。
「いくぞ、藤堂!」
「君を倒して、君の全てを奪ってあげるよ」
赤と青の炎が明滅するように学園を包み込んでいった。
連日連載についてのワッフルコールをありがとうございます。
ワッフルワッフル(´∀)
コメントであったのですが、やっぱりこのサイト見ずらかったですかねー汗
アンケートでも携帯から簡単にアクセスできるようにできないかとも要望がありました
ここ始めた当初はトップにあれば見やすいかなーくらいの作品数でしたしね…
おかげさまで次のうpで100本越えでございます。
そりゃスクロールバー長くなるわ!
うーんどうやれば見やすくなるか、ちょっと考えます。
管理人のウェブに対する知能が正直タグ?(゜∀。)?なレベルなので。
できるのは作品整理かな…
土曜日も仕事なのでペースは遅いですが作品整理しますねー。
仕事爆発しろ!