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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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若君としもべ



呼び出すときのコツってなにかあるかなぁ?

勘よ。

と出雲は答えた。
例えるならそうね。
テストで2択問題があるとするじゃない?
マークシートでもいいけど。
それを頭の中で、答えはこれだ。って取捨選択する時に似ているわ。
悩んでいる時に、答えはでない。
答えはね。選んだ時にでるの。
正しくても、間違っていても。結果は選ばないと出ないわ。
あんたは、選べていないのよ。
こちらからの呼びかけに答える悪魔の声を聞きなさい。
あとは、あんたが選んで答えを出すだけよ。

しえみは集中した。
目の前には、コールタールを生み出す魔法陣がある。
燐がさらわれたことを知って、しえみは燐を助けたいと思った。
それには、グリーンマン。ニーちゃんの力が必要だということもわかった。
ニーちゃんがいなければ、自分には何の力もない。
だが、ニーちゃんがいれば、自分は何か人の役に立てる。
手に持った魔法陣に呼びかける。

「おねがい、ニーちゃん!燐を助けたいの!きて!!」

呼びかけに答えるように、魔法陣が光った。
ニー!という声が聞こえる。
以前なら、呼び出してすぐに消えてしまうこともあった。
だが今は、しえみの手のひらでぴょこぴょこと動いている。
しえみは、目の前の、コールタールを生み出す魔法陣を見据えて言う。

「ニーちゃん!お願いウナウナ君で魔法陣を壊して!!」

グリーンマンはしえみに応えて、魔法陣を破壊する。
グリーンマンの腹から生み出された枝が、勢い余って校舎の窓や壁を突き破ったが、
取り壊し予定の建物だ。目をつむって頂こう。
ここから新たなコールタールが生まれてくることはない。
しえみは、周囲を浄化する為、聖水を散布した。
これで、この教室一帯は大丈夫だろう。
他の仲間はどうだろう。
視線を旧校舎の別棟に向ければ、各場所から浄化の光や、攻撃の音が聞こえてきた。

「カーン!!・・・よし、ここは大丈夫や。しかし京都の時といい世話の焼けるやっちゃな!」
「かしこみ申す!!まったく、ここでもないわ!」
「ぎゃああああ、虫みたいなコールタールおったあああ!」
「奥村君が、いそうな所・・・どこやろ。クロやったらわかるんかなぁ」

それぞれに、役目を果たす。
それが最良の道につながると信じて。
しえみも、駆けた。大切な友達を救う為に。




雪男は、魔法陣を2カ所破壊した後。
何か藤堂の居場所に繋がる手がかりがないかと記憶を掘り起こしていた。

「藤堂は、鍵を使っていた。鍵は、扉を使わないといけない。同タイプの扉・・・
でも、スライド式のドアなんてどこにでもあるし・・・」

生物準備室で遭遇したときは、藤堂はドアをスライドさせて閉めていた。
ここ、特別棟は理科。生物。科学など。実験に使う教室だ。
これらの扉は、全てスライド式。
だが、スライドさせて開く扉と言えば、それこそ学校の教室だってそうだろう。
注目すべき点はそこではない気がした。
雪男は、記憶の中で見た光景が、どうにもひっかかっていた。スライド式のドア。
そして、機材に囲まれて血塗れになった兄の姿―――

「待てよ・・・機材?」

そうだ、兄は呼吸器のようなものをつけていた。
あれは、普通の学校にあるものか?
雪男は、思い出す。ストレッチャーに寝かされていた兄の姿を。
導き出される答えはひとつ。


送信者 奥村雪男

みなさん、救急車に気をつけてください!!
藤堂は、兄はそこにいる!


一般人を搬送するために学園に入った救急車。
その中の一台に紛れ込んでいるはずだ。
藤堂は当初救急隊員に紛れ込んで燐を拉致した。
その「患者」を連れても人が不自然に思わない場所といえば、
救急車だ。学園内にあっても不自然ではない上に、移動ができる。
救急車は、後部の隊員が出る扉がスライド式になっている。
鍵は同タイプの扉同士の空間を繋げる。
人工呼吸器のような機材は、救急車に設置されている。
兄を連れて、このまま車で移動でもされたら。
雪男は冷や汗をかいた。
廊下から、見渡せる限り救急車を探した。
止まっているもの。動いて行くもの。
今まさに患者を運び込んでいるもの。
止まっている車が一番怪しいはずだ。
なにか、目印は。
雪男は目を凝らした。
こんな時目が悪い自分を呪いたくなった。
雪男の携帯が着信を告げる。間髪入れずに出た。

「先生!たぶんあれや!!北校舎の一角の止まっとる救急車!周
囲の気配がすごい悪くなっとる。
コールタールが。あと、窓から青い光が出とる!!」
「なんだって!?ありがとう志摩君!」

志摩に全員の旧校舎からの退去の連絡を頼んで、電話を切る。
北校舎が見える、渡り廊下に出ようと階段を下りる。
そこで、なにかに躓いた。負担ならありえないことだ。
この急いでいる時に限って。雪男は眉間にしわを寄せながら階段の踊り場。
床を見た。雪男の足下には魔法陣が。

「しまった!!トラップか!」

気づいた時には遅い。
足下から一気に噴出するコールタール。
とっさに、顔を腕でガードする。
コールタールが噴出する勢いにはじかれて、そのまま渡り廊下までとばされてしまった。
倒れたコールタールが、雪男めがけて襲いかかってくる。
まずい。
雪男は聖水を撒こうとしたが、遅い。
襲いくる衝撃に備えようと、体をこわばらせた。
どこかから声が聞こえた。


来い―――


「・・・兄さん?」
衝撃は、襲ってこなかった。代わりに聞こえてきた誰かの声。
コールタールは、方向を急速に転換させて、空へと舞い上がる。
見上げた空には、いくつもの黒い筋が収束しあい、何かの図柄を描いている光景が。
悪寒がした。
藤堂なんか目ではないくらいの存在がいる。
北校舎の一角から、一際濃い瘴気が舞い上がった。
続けて、爆発音と炎が。
見なくても、わかった。焼けていくガソリンのにおい。
きっと救急車が爆発したのだ。
爆炎と黒い筋。
螺旋を描いて舞い上がる赤と青の炎。
動く影が、筋の中から飛び出してきた。
「―――!藤堂!!」
全身血にまみれた藤堂が、空中から出てきた。
藤堂は、炎の化身であるカルラを取り込んでいる。
空中を舞うように何かから逃げている。
視線の先を追えば、青と黒に包まれた人物がいた。

「兄さん!!」

雪男は声を荒げた。よかった。生きている。
無事でよかった。
見上げた燐の姿は、見たこともない黒衣に包まれていた。
黒のアンダー。制服の黒のズボン。
これは燐が身につけていたものだ。
しかしあの見慣れない黒衣は一体。
マントにも見えるそれが風に揺れる。
燐は、なにもない空中に着地した。
体から青い炎が沸き上がる。
黒衣が揺らめく。
目は、どこかうつろだ。

「・・・兄さん?」

雪男の声は届かない。
地響きが聞こえる。足下が揺れる。
見れば、校舎の壁にひびが入っている。
まずい。ここも危ない。
ただでさえ古い校舎で、取り壊し途中の建物だ。
藤堂と燐の力の圧力に、舞台となった校舎が悲鳴を上げている。
雪男は、ひとまず兄の姿を目で追いながら渡り廊下の階段を駆け降りる。
校舎から間一髪で飛び出した。
背後で、渡り廊下が、校舎が。崩れ落ちていく。
舞う粉塵と瘴気に眉をしかめながら思う。
塾生を早めに避難させていてよかった。
雪男の携帯が鳴り響く。

「もしもし」

『ちょっと先生!!あなたお兄さんにどういう教育をしたんですか!!!』

きーんと大声が雪男の耳に響く。
ちょっと携帯と距離を置きながら、再度電話に出る。

「今までさんざんかけた連絡に無視を決め込んでおきながら
今更の登場ですかフェレス卿」
『いや。本当私腐の気配だけは駄目なんですよ。アレルギーがひどくなっちゃって』
「ごたくはいいです。あれは、いったいなんなんですか?
兄はいったいなにに巻き込まれているんですか?!」
『先生。空を見てください。あれは、腐の王を召還する為の魔法陣です』
「腐の・・・まさか。アスタロト?」
『はい。この陰湿で紳士的な要素の欠片も感じられない気配は。
八候王の一角を司る彼しかありえません。
コールタールを召還するために描いた藤堂の陣。
あれは学園に何カ所も設置されていました。コールタールはアスタロトの眷属だ。
その陣を強引に乗っ取ってアスタロトの召還に使ったんですよ』
「誰が」
『あなたのお兄さんです。各魔法陣には彼の血が依代に使われていたようですしね。
小さな魔法陣同士を掛け合わせて、アスタロトを導く円を描いています。
これは、あなた方の協力のたまものでしょうか』
「どういう意味です」
『各場所に設置された陣を、あなた達は破壊していったでしょう?
よけいな陣を破壊したおかげで。
上から見たらよくわかるんですが、ちょうど残りの陣で円が描けます』
「・・・僕たちは示し合わせてやったわけではないのですが」

塾生達は、それぞれの役割をこなしただけだ。
それがこの結果を導き出すとは夢にも思っていなかった。

『偶然は必然につながりますよ。奥村先生。
なんにせよ。彼は腐の王を呼び出してしまった。
私としては胸が高鳴る展開ですが、
ここら一体が地獄絵図にならなければいいですね』

どこか愉快な声で道化の男は述べた。
笑い事ではない。ただでさえコールタールの瘴気で学園がやられているのだ。
雪男の脳裏に京都での不浄王の一件が浮かぶ。
あれの親玉を呼び出すなんで、兄はなにを考えているのだろうか。

「兄さん・・・一体どうするつもりなんだ・・・」
雪男の独り言ともいえる問いに、メフィストは答えた。

『どちらにせよ。彼は、選んだのでしょう。
結末については、見届けるしかありませんよ奥村先生』

見ているしかない。
それだけでは、雪男の衝動が収まるわけがない。
なんとかしないと。このままではいけない。
雪男は、走った。
自分は人間だ。
こうなった兄を止めるすべを自分は知らない。
でも、じっとしているなんてごめんだ。

「じゃあ、僕も選ぶだけだ」

兄の無事を。
みんなで笑える結末を。





「若君、お目にかかり光栄の至り」

アスタロトは正十字学園の学生服を着ていた。
髪は白髪。燐は、この春に出会った不良を思い出す。
名前は・・・忘れてしまったが。
生徒の体を依代にアスタロトは物質界に現れているらしい。

「おまえ、取り憑いているのか?」
「はい。この体は思ったよりもなじみ深いもので」
「終わったら出ていけ。その体、傷つけるなよ。人間なんだから」
「人間の心配をされるのですね」
「聞けないか?」
「いいえ、おおせのままに」

燐の体が、ぐらりと揺れる。アスタロトは燐の背を包み込むように支えた。
だいぶ息が荒い。それに顔が真っ青だ。

「若君、やはりお体が・・・いくら私の黒衣で支えているとはいえ、無茶は」
「いい。それよりも、倶利伽羅を探してきてくれ」

燐の体は、コールタールを収束させて作った黒衣でまとわれている。
これは、空中に体を浮遊させる役割もあるが、失血でおぼつかない燐の体を支えるためのものでもあった。
アスタロトは、腕を一振りしてコールタールの渦を巻き上げた。
舞い上がったのは一振りの刀。
それを、空中で受け止めて、燐の前に恭しく差し出した。

「ここに」
「助かる」

倶利伽羅の鞘は閉じていた。きっととばされた衝撃で閉じたのだろう。
燐は右手で倶利伽羅を受け取った。
左腕は、聖水を直接注射されたせいで、まだ動きが鈍い。
やるならば、右手一本だろうか。
燐は目の前の藤堂を見据えた。

「好き勝手やってくれたじゃねーか」
「ふふ、まさかこんなキャストを召還するとは予想外だったよ。
でもいいのかい?ただでさえ汚染されているここら一体がただではすまないよ?」

アスタロトは腐の王だ。
その息は呼吸をするだけで致死量の瘴気を吐き出す。
燐は、アスタロトに向かって言った。

「瘴気は、お前がなんとかしろ」
「では、空中にひとまとめに致しましょうか?」
「それでいい。学園や、人にまとわりついている奴も全部だ。取りこぼすなよ」
「承知いたしました」
「それと、お前いるだけで瘴気出すんだよな?それは押さえろ」
「私に息をするなとおっしゃるのですね。ひどいお方だ」
「できないのか」
「かしこまりました。若君は人間の死をお望みではないようなので」

アスタロトが言うと、学園中のコールタールが一斉に空へとあがっていった。
空に描かれている魔法陣のさらに上に、紫色の瘴気と、コールタールの球体ができあがっていく。
地上にいる人間ならば、息がしやすくなったと感じるだろう。
この舞台にいるのは悪魔と悪魔。
感じたのは、空を覆っていた雲が晴れたことだろうか。
隙間から漏れる太陽の光に壊れた校舎が照らされる。

その光景に、藤堂は唖然とした。

「意志なきコールタールを統率する存在・・・なるほど。
これじゃあテロの意味すらなくなってしまうね。これがやりたかったのか。
君はどこまでも人間を助けるんだね。反吐が出る」
「若君を侮辱するか。悪魔堕ちの出来損ないめ」

腐の王は、藤堂をバカにしたように言った。
悪魔は生まれ持った力ですべての階級が決まる。
力持つものは力なきものを容赦なく喰らい尽くすのが虚無界のルールだ。
藤堂のように、悪魔を乗り換えて力をつけていくようなやり方は、
アスタロトにとっては小物の小細工としか見えない。

「そうだな、僕はただの落ちこぼれだからね。こんなやり方しかできない。」

藤堂は、カルラの炎を呼び出した。
炎の中には、カルラの炎に包まれるように青い炎がぽつんと宿っている。
燐から奪った炎の欠片。
それは欠片でも、藤堂の体では押さえきれるものではない。
カルラの不死の炎で包んで、ようやくもてるような代物だ。

「青い炎に焼かれれば、君でも死ぬかもしれないね」

燐の周囲にカルラの炎が展開する。
中には青い炎が混じったものも。
燐は、アスタロトに自分から離れるように言った。
アスタロトは納得がいかないと燐に告げる。

「私をおそばに、若君一人では」
「お前の心配じゃない。その体の持ち主のこと言ってるんだ。
その体は人間のものだ。お前とも・・・俺とも違う」
「若君・・・」

アスタロトにとって燐の命令は絶対だ。
だが。悪魔がただ他人の言うことを鵜呑みにできるわけがない。
悪魔は、自己の欲求に忠実だ。
燐は、その悪魔の欲求を抑えろという。
人間など見捨てて皆殺しにして、燐の無事を願うアスタロトを燐は認めない。

「ひどいお方だ」

アスタロトは、燐の手をとって手のひらにキスをした。
それは忠誠の証。

アスタロトはそういって、燐から離れた。
腕を振り、コールタールの渦を操る。後方支援型に攻撃形態を変えた。
燐は、アスタロトがキスをした部分を容赦なくマントで拭う。
半ば衝動的な行動だった。
相手は、悪魔とはいえ自分と同じ男子学生の姿をしている。
あんまりキスされてうれしい相手ではなかった。

「君はモテるね。妬けてしまいそうだ」
「・・・丸焼きにされてーのかおっさん!」
「おっさんはひどいな。今は若いよ」

藤堂と、燐の体から炎が巻きあがる。
どちらかが、死ぬまで。勝負は終わらないだろう。
燐の視界が揺れる。
燐は、失血しすぎている。
言葉が普段よりもぶっきらぼうなのは、しゃべる余裕がないからに他ならなかった。
藤堂は、きっと燐の状態に気づいている。
そこを突かれれば、危ないこともわかっている。
このまま戦闘になっても、いつまで持つかわからない。
だが、それでも。
燐はそれを選択した。

すべてを背負う、選択を。


「いくぞ、藤堂!」
「君を倒して、君の全てを奪ってあげるよ」


赤と青の炎が明滅するように学園を包み込んでいった。

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