忍者ブログ

CAPCOON7

青祓のネタ庫

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

まっすぐな道でさみしい

形勢は不利だった。
藤堂は、不死鳥の名を頂くカルラの炎を身に取り込んでいる。
炎は実体が掴めない。
陽炎のように不確かな赤い炎は、中に青い炎を宿しじりじりと燐を追いつめていく。
燐が、アマイモンと戦ったときのように力を出せれば、違っていただろう。
しかし、燐はあの戦いで我を忘れ、炎を暴走させたことがある。
力を解放するにしても、近くに一般人がいる舞台ではやりにくい。

極めつけは、失血だ。時間がたてば回復するであろうそれも、
藤堂の休む暇を与えない攻撃を受けていればおのずと遅れてくる。
視界が霞んでくる。
戦況は芳しくなかった。
藤堂が、周囲の被害を気にせず炎を撃つ。
まずい、このままの軌道をたどれば、被害が。

「くそッ!!」

燐はグラウンドに避難する一般人にいかないように赤い炎を
鞘をしたままの倶利伽羅で弾いた。

「ほら、よそ見してたら危ないよ?」

藤堂が、燐の背後に炎の塊を投げた。
当たる。と思ったが、コールタールの渦が燐の代わりに炎を受け止めた。
燃えていくコールタールを隠れ蓑にして、
燐の体は強引に旧校舎の教室に引っ張り込まれた。

藤堂から見たら、燐が炎で消失してしまったかのように見えただろう。
藤堂は視線を周囲に巡らせている。
しばらくは、時間を稼げるはずだ。
燐は、自分を廃墟となった教室に引っ張り込んだ人物を見て、ため息をついた。

「アスタロト」
「申し訳ありません、しかしやはりご無理は」

燐の手をとって、アスタロトは顔をしかめた。
体温が低くなっているし、顔色も真っ青だ。
このままいけばそうかからずに倒れるのは目に見えている。
それでも、燐には譲れないものがある。
アスタロトは、今にも藤堂に向かっていきそうな雰囲気があった。

しかし、それではだめだ。

アスタロトのことを燐は心配などしていなかった。
八候王と謳われる悪魔だ、アスタロトはどうとでも藤堂に対応するだろう。
しかし、炎を受けて、この生徒の体がどうなるかはわかったものではない。
アスタロトが憑依している体の持ち主の為にも、アスタロトには後方にいて貰いたかった。

「・・・お前、ここからさっきやったみたいに
あいつの出した炎が一般人にいかないように止めることってできるか?」
「できますが・・・このように弱っている貴方を置いて、人を助けろと言うのですか。
脆弱な人など放っておけばいいのでは」

燐の脳裏に仲間の姿が浮かんだ。
みんな無事だろうか。
雪男。心配していなきゃいいけど。
みんなを守るために、俺は戦っているんだ。
それを再確認する。炎には絶対に飲まれたりはしない。

「やってくれ」
「若君」
「俺は藤堂をやる。だからお前もそれを・・・」

ぐらりと燐の体が揺れた。
アスタロトは燐の体を支えて、その場に座らせた。
壁に背を預けるようにさせれば、燐の口から荒い息がこぼれる。
アスタロトは、少しだけ考えてから答えた。

「・・・わかりました」
「よし。じゃあ藤堂に見つかる前に仕掛けるぞ」
「若君」
「なんだ」
「お怒りになるかもしれませんが・・・お許しを」

燐の顔を上げさせて、アスタロトはそのまま顔を近づけた。
燐は、なにをされるのか。と警戒して腕を突っぱねる。
しかし力の入らない燐の抵抗を押さえるなど簡単だ。燐の手から倶利伽羅が落ちた。
かしゃんという金属が床にぶつかる音が廃墟に響く。
腕を捕まれ、壁に押しつけられた。
左腕は動かない。右手だけでは抵抗もままならなかった。

「お前ッ!なにを・・・!」

燐の言葉は続かなかった。アスタロトは燐の口に噛みついて、その咥内を貪った。
舌を絡めさせて、奥へと進入していく。
燐が入り込むアスタロトの舌を噛もうと牙をたてるが、痛みなど気にせずにアスタロトは燐を蹂躙していく。
ひるんだのは、燐の方だった。
血の味が口に広がって気持ちが悪い。息ができなくて苦しい。
何度も顔を背けたが、アスタロトは口が離れるたびに執拗に燐を追いつめた。
絡み合う二人の唾液が燐の顎を伝って、床に落ちた。
しばらくそうしていると、アスタロトが満足したかのように燐から離れる。
解放された燐は、むせながら苦しそうに空気を取り込んだ。涙目だった。

「こん・・・の!変態野郎!!!」

目の前の相手を、体の持ち主に気にせず殴ってやった。
春先も、この体の主とは喧嘩をしているので、あまり躊躇せずにできた。
手加減は流石にしたが。
怒りからか、燐の体から炎が沸き上がっている。
その様子に気づいて、燐は自分の体を見た。
なぜだか、さっきよりも体が軽い。

「血の気といいましょうか・・・生気を送りました。少しですが、持つはずです」
「おお!さっきよりはマシだ・・・すげぇ!」

が。燐が勢いよく立つと、また倒れ込みそうになった。
アスタロトは素早く燐の体を受け止める。

「やはり、人間一体の力ではあまり持ちそうにありませんね」
「ちょっと待て、お前、生気って・・・まさか」
「ええ。この体の主のをほんの少し。残念ですが私のでは、若君の力と反発しそうなので。
この若者は若いせいか血の気が多いですね。寿命は削ってないのでご安心を」
「・・・」

やっぱり悪魔っていうのは。と燐が思い知った瞬間だ。
燐はアスタロトと距離をおいた。
あんまりこいつを物質界に長居させてはいけない気がする。
そのためにも、藤堂を倒さなければ。
燐は目を閉じた。おそらく、あと一回。
それ以上は燐が持ちそうになかった。
倶利伽羅を持って立ち上がる。
剣を抜くのは最後の時だ。
いくら剣を抜いて炎を出しても、使う方の体が持たなければ意味がない。
アスタロトも立ち上がる。後は、手はず通りに。

「御武運を」

アスタロトは燐の手の平にキスをした。
あまりにも普通にするものだから、あっけにとられる。
一応、もう一回だけ殴っておいた。

「やっぱりお前嫌いだわ」
「私はお慕いしておりますので大丈夫です」

なにが大丈夫なのか全く訳がわからない。




藤堂は、消えた燐の姿を探していた。
青い炎で攻撃してやったが、こんなレベルで燐が倒せるとは思っていない。
どこかに隠れているのだろう。
旧校舎に向けて炎をぶつけた。
燃えさかる火炎が、校舎を飲み込んでいく。

「鬼ごっこよりかくれんぼが好きなのかい」

旧校舎を壊しても、反応はなかった。
やはり、あぶり出すには生きている人間を狙うのが一番かな。
藤堂は先ほどもやったとおり、炎を救護テントがある方角へ向けた。
藤堂は、一般人を巻き込むことになんら躊躇がない。
むしろ楽しそうに特大の炎を向けた。

「地獄絵図が見れるといいなぁ」

炎を扱えるようになってから知った人が焼け焦げるにおい。
それを好むようになったのは悪魔として目覚めたからだろうか。
炎が、グラウンドへと向かっていく。
おそらく燐はこの方角へ現れるはずだ。炎を阻止するために。
藤堂はそこを叩くつもりだった。

しかし。予想ははずれる。

炎を阻止したのは、黒いコールタールの壁だった。
ごうごうと燃え盛る黒い影達。しかし、数が衰えることはない。
燃えるたびに補給されるコールタールは炎を防ぐのに絶好の捨て駒だ。
アスタロトか。
藤堂は舌打ちする。
気配を感じた。そうか。

「後ろか!!」

燐は藤堂の背後で、剣を振りかざした。
左腕で鞘を持ち、剣を抜こうとする。
しかし、一瞬それが止まった。
目の前の藤堂が、赤い炎に変化したからだ。
燐の体はそのまま赤い炎に包まれる。
燐が纏っていた黒衣が焼け落ちてしまった。

まずい。

とっさに、青い炎を身にまとうことで体が焼けることは阻止したが、体を拘束されてしまった。

動けない。
藤堂を倒す、チャンスだったのに。

藤堂は、捕まえた燐をおもしろそうに笑いながら現れた。

「炎って便利だよね。実体なき陽炎という幻影も作り出せる。
そして、形も自由自在だ。剣を抜かなかったのは、途中で気がついたからかな?ほめてあげるよ。」
「てめぇ・・・」
「さっきは血から炎を貰ったけど、今度は全部だ。心臓も、炎も、体も。全部貰うよ」

黒のアンダーの上から、左胸を触られた。燐の体がびくりと震える。
触り方がどこまでも変態臭くて最悪な気分だった。

「君の力の源は、倶利伽羅にあるんだったよね。体の方に心臓はもうないのかな?試してみようか」

ぐっと、力が入る。藤堂の爪が鋭く伸びて、燐の体を切り裂こうとした。
燐は、襲いくるであろう痛みに耐えようと、目を閉じた。


声が聞こえた。




「被甲護身の印!!!」

燐の前に、結界が展開する。藤堂の悪魔の爪が、燐に届く前に弾かれた。
京都で、勝呂達が使っていた明蛇宗の印だ。
下をみれば、志摩と子猫丸が印を結んでいた。
間髪入れずに二人の隣で勝呂が唱える。

「伽樓羅焔 火粉の印!!!!」

燐を捕らえていた炎が、火の玉へと変化し、藤堂を攻撃した。
勝呂家は代々カルラと契約を結んでその力を行使してきた。
カルラとの縁は先祖を辿れば百年以上のつき合いになる。
成功するかは賭だったが、一時的な炎の使役は成功した。

拘束が解けた燐の体が、空中に投げ出される。
藤堂が体制を立て直す前に、別の声が藤堂の名を呼んだ。

「藤堂三郎太、兄をここまで痛めつけてただで済むと思っていたのか?」

雪男の機嫌は最悪に悪かった。額に青筋まで浮かんでいる。
当然だ。家族を傷つけられて嬉しい者などいるはずもなかった。
雪男達は逃げたわけではない。
それぞれに役目を果たすために期を伺っていたのだ。
誰も燐を一人で戦わせようとは思っていない。

祓魔師は一人では戦えない。

全員が力をあわせること。
京都で不浄王に打ち勝った時に得た教訓だ。
雪男はしえみ、出雲と魔法陣を囲んでいる。
それは、コールタールを呼び出すような簡易なものではない。
魔法弾を使用し、見習いとはいえ才能ある手騎士の力を借りて作った特製の陣だ。
しえみ、出雲。雪男は同時に叫んだ。

「「「水霊の水牢!!!」」」

藤堂の体が、水の檻に閉じこめられる。
三人分の力が籠もった檻は京都の時のようにすぐには抜け出せなかった。
カルラの炎を噴出させ、檻を蒸発させる。
壊されることも。想定内。
時間稼ぎが、雪男達の目的だ。

「出番だよ、兄さん!」

空に投げ出された燐を受け止めたのはアスタロトだった。
その連携の見事さに藤堂は舌打ちする。
燐は、藤堂に刃を向けた。


「終わりだ!藤堂!!」


動かない左腕の代わりに倶利伽羅を口にくわえて、右手で一気に引き抜く。
青い炎がその身に宿る。
そのまま、アスタロトの背を踏み台にして空を舞った。

今度は外したりしない。

青炎を宿した倶利伽羅で、藤堂の胸を貫いた。
青い炎がカルラの炎をも取り込んで燃え盛る。
藤堂の体が徐々に崩れ落ちていった。

「なぜだ・・・カルラの炎が、青い炎が・・・・」
「お前の敗因は、炎のせいじゃねーよ」

燐が不敵に笑う。
その顔は苦しそうだが、炎を弱めるつもりもない。

そのまま、一気に焼き付くす。
赤と青が相克し、火の粉が渦を描いて空へと消えていく。
藤堂が、燃え尽きる寸前に、さみしそうにつぶやいた。


「なぜ・・・私は君に負けたんだろう」


藤堂には、家族がいた。
父も兄も家も。最初から憎んでいたわけではない。
尊敬もしていた。大切だった。その気持ちも確かにあった。
それが歪んだのは一体いつからだったんだろう。
例えどんなに憎くても。重くても。
藤堂は捨ててはならなかったものを捨ててしまった。
燐は、大切なものを捨てたりなんかできない。
二人の違いは明確だ。


燐は答えた。



「俺が、一人じゃないからさ」



藤堂は、一人だった。
最期まで、一人だった。

燐の言葉を最期に。藤堂は、燃え尽きた。
燐の声は届いただろうか。それはもうわからない。
助けてくれる仲間がいるということ。
それは、祓魔師になる時に一番最初に教わることだ。


まっすぐな道でさみしい。とつぶやいたのは誰だったのか。
まっすぐな道でも、誰かと歩けば寂しくはなかったはずなのに。



落ちる燐の体をアスタロトが受け止め、地上にゆっくりと降りていく。
一番先に駆け寄ったのは、やはり雪男だった。

「兄さん!!」
「雪男!よかった無事だったんだな!!」

燐に近寄ろうとする雪男を、アスタロトが遮った。
雪男はむっとした顔を向ける。
燐は、まだアスタロトの腕に抱えられたままだった。
降ろせよ、と燐が言うが、アスタロトは言うことを聞かない。

「おい・・・?」
「若君、今回のことではっきりわかりました」

アスタロトは駆け寄ってくる燐の仲間と距離をとろうとする。
行動の意味が燐にはよくわからない。
アスタロトは言った。

「対価を頂きます。若君」
「たいか?」
「ええ、悪魔の力を得るには同等の対価が必要となります。
私を喚びだしてそれでおしまいという訳にはまいりません。
これまで使わせて頂いた力の対価を頂こうと思います」


その言葉は雪男達を。
そして燐をも戦慄させた。



「若君、私と共に虚無界に帰還して頂きます」



悪魔の力を得るならば、同等の対価が必要だ。
悪魔はにやりと微笑んだ。

PR

TemplateDesign by KARMA7

忍者ブログ [PR]