青祓のネタ庫
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悪魔への対価シリーズ終了コメントありがとうございます!
み、みなさんお優しい方々ですね・・・
なんか、こんな辺境の地でも読んでいてくれる人がいるというのは
本当にありがたいなぁと実感しております。
パチパチもありがとうございます。生きる糧です。
あ、あと冬のインテに申し込みしてみました。
受かってるといいなー。
未だに仕組みを理解していないので大丈夫かしら。
さて、リクエストにもお答えできるように頑張ろうと思います。
黒猫に道を横切られると不吉の前触れ。
黒猫には、迷信が付きまとうというか。
良いイメージのものもあれば、悪いイメージのものもある。
特に、海外では魔女のお供としてのイメージがあるためか悪評の方が有名である。
そんなこんなで、聖騎士ことアーサー=オーギュスト=エンジェルは
目の前にいる黒猫にどう対応するべきか悩んでいた。
この猫は不吉というべきなのだろうか。
『あ、おまえまえにりんにひどいことしたやつだな!!』
「・・・確か、奥村燐の使い魔か」
クロとアーサーは正十字学園の中庭で対峙していた。
学園内といっても、正十字学園の校内はかなり広い。
それに、学園と正十字騎士団の内部は至る所で繋がっている。
今いる中庭も、どちらかといえば騎士団側の土地に近い。
アーサーは日本支部に定期的に訪れている。
なぜならここには警戒してやまない人類の敵。魔神の落胤こと奥村燐がいるからだ。
今日も今日とてアーサーは燐に嫌がらせをしようと、鍵を使って日本支部にお邪魔してきたのだ。
アーサーが燐にたどり着く前にクロが発見したことは、
過去に門番をやっていた経歴のおかげだろうか。
今の主人である燐に酷いことをされてはたまらない。とクロはアーサーを威嚇した。
アーサーはクロに視線を合わせるようにしゃがみこむ。
クロはびくりとしっぽを震わせた。
アーサーは聖騎士とはいえ、藤本とは考え方が根本的に違う。
悪魔を憎み、悪魔を殺す聖騎士
アーサー=オーギュスト=エンジェル
冷徹な瞳が怖くないと言えば嘘になるが、クロは必死に恐怖を耐えて、アーサーを睨み返した。
『り、りんにひどいことしたらゆるさないんだからな!!』
「・・・」
アーサーはくるりとクロを見回した。
そして、感慨深そうに言った。
「貴様、オスか」
『やー!!えっち!』
「・・・にゃーにゃーとよくわからんことを言う奴だ。発情でもしているのか」
アーサーがクロの言葉がわからずに首をかしげていると、アーサーの腰から声がした。
アーサーの持つ魔剣。カリバーンだ。
カリバーンは、困っているアーサーを助けようとクロの言葉を翻訳してアーサーに伝えた。
「えっちって言っているわアーサー」
「エッチ?なんだ、貴様やはり発情期か。メス猫を探してうろついていたんだろう。
はしたない奴め。色狂いの色情狂のようだな」
「違うわアーサー。アーサーがこの子のお尻を確認したから、そのことについて言っているのよ」
「なんだ、陰部丸出しで歩いている癖に、確認したら怒るのか。意味がわからん」
「アーサー、それは猫に対する冒涜だわ。獣とはそういうものでしょう」
クロは、やはりフーッとアーサーに向けて威嚇した。
カリバーンとアーサーの言っている意味は全てはわからなかったが、なんだか馬鹿にされているようで不愉快だ。
燐のことを傷つけるし、意味のわからないことをいうし。
クロはアーサーが嫌いだと思った。
アーサーはふと考えて、自分の服の裾を握った。
「なんだか怒っているな」
「そりゃあ怒るわよ。猫として」
「・・・では、猫。お詫びとして俺のも見るか?」
「どうしてそうなるのかしらアーサー」
「コイツは自分の陰部を見られて怒っているのだろう?ならば俺も見せれば痛みわけではないのか?」
「意味がわからないわアーサー」
カリバーンの言葉が冷静なことが逆に怖かった。
カリバーンはアーサーと昔から一緒にいるので、アーサーの奇行を一番見てきている。
今更、この純粋培養がなにをしようが、カリバーンは動揺しない。
むしろ、アーサーを止めようとするのがカリバーンだ。
しかし、カリバーンには悲しいかなアーサーを物理的に止める手段がない。
なぜなら手と足がない、剣だからだ。
「とりあえず、今日は暑いから、ズボンも履いてない。だから大丈夫だ」
『ずぼんはいてないのに、なにがだいじょうぶなんだ?』
つまり、アーサーは今コート一枚。つまり下はスカート状態なわけだ。
アーサーはコートの端を掴んで、広げた。
クロの眼前に、カーテンが開いて閉じたような光景が広がった。
クロはきょとんとした顔をしていた。
クロの視線はアーサーを見ていなかった。アーサーの背後。
そこに向けてクロは嬉しそうに走り出す。
丁度アーサーを避けるようにして斜めに駆け寄ってきたため。
背後にいる相手にはクロが横切ったように見えたかもしれない。
クロを追って、アーサーは振り返った。
声が聞こえた。
「クロ、どこ行ってたんだ心配し・・・」
背後に現れた少年。奥村燐とアーサーの視線が絡んだ。
燐の視線はアーサーの顔を見た後。下の方に向かっていった。
おおそこには眼前に広がるコートが。
「ぎゃあああああああ!!変態ーーーーーーーーーー!!」
「な、貴様!奥村燐!!!!」
アーサーは急いでコートの裾を手放したが遅かった。
自分で見せておきながらおかしな話だが。
まるで、スカートめくりをされた女子のような反応だった。
燐は顔を真っ青にして駆け寄ってきたクロを抱きしめた。
見たくないものを見てしまった。
燐は目を固く閉ざしている。
見せるつもりのないものに見せてしまった。
アーサーは覚悟を決めた。
「こうなっては仕方ない」
アーサーは、カリバーンを持って燐に言い放つ。
「貴様のも見せろ!傷みわけだ!!」
「嫌に決まってるだろ馬鹿野郎!!」
その後、聖騎士と魔神の落胤の本気のズボン争奪戦が始まり、
中庭が消滅したことは日本支部の恥ずべき黒歴史となった。
黒猫に道を横切られると不吉の前触れと言う。
ただし、クロには白い毛もあるので単純には黒猫とはいえないかもしれない。
燐にとっての不吉の象徴はむしろ金色毛色のアーサーなのかもしれない。
疲れたー。
遅くなりましたが、完結しました。
風呂入って、寝・・・ます。
燐は安心していた。
藤堂は倒したし、学園の瘴気もなんとかなった。
極めつけのアスタロトに関しても、どうにかなった。
後、燐にできることと言えば休息を取ることくらいだろう。
貧血と怪我でへとへとの燐も、病院で点滴を打ってもらい横になっているだけで随分とよくなってきた。
悪魔の治癒力も、回復を助けているのだろう。
燐は、ベットから起きあがった。周囲には人はいない。完全な個室だ。
燐の体質状仕方ないことだが、誰もいないのは少しだけさみしかった。
藤堂のことを思い出す。藤堂は、最期まで一人だった。
燐は、一人きりにはもう戻りたくなんてない。
二人の選択の結果の果てに、今があるのだろう。
あんな最期は、迎えたくない。それは確かだ。
燐は、もう一回横になった。
あんなにひどかった立ちくらみももうしない。
でも、暖かいベットに眠気が沸いてくる。
少しだけいいかな。燐は目を閉じた。
次に目を開けたときには、誰かがいたらいいな。
そんなことを思いながら。
どすり、と腹に重さを感じて、燐はもう一度目を覚ます。
見れば、ピンク色のもふもふが腹の上に乗っかっているではないか。
「メフィスト・・・?」
呼びかけたら、犬は顔をあげた。マスクをしていた。
犬ってマスクつけれるのか。病院に動物が入っていいのだろうか。
疑問に思っていると、目の前が煙で包まれる。
燐の腹の上には人型のメフィストが乗っかっていることになった。
目元が赤いし、なんだかずびずびと鼻を鳴らしている。
いったいどうしたのだろう。
でも、どうでもいいから退いてほしい。重い。
「重いんだけど」
メフィストに訴えても、メフィストは動かなかった。
それどころか血走った目で燐の顔の横に手を置いて、覆い被さってきた。
端から見れば、押し倒されているような。そんな体勢。
メフィストはがし、と燐の顎を掴んで、口を開けるように訴えてきた。
というか、無理矢理に開けさせられた。すごく痛い。
メフィストは医者がするかのように燐の咥内をのぞき込んできた。
「いひゃい!いひゃい!!」
「・・・・・!?」
メフィストが驚いた表情をするが、もう構ってられるか。
燐は腕を振りかざしてメフィストを殴ろうとした。
メフィストは燐の両腕を捕まえて、ベットに押さえつける。
足はメフィストの体が乗っているので振りあげることもできない。
「ど、どうしたんだよ・・・?」
燐の抵抗を封じて、何をしようと言うのか。
メフィストは、ようやく重い口を開いた。
「こんの、阿婆擦れが―――!!」
ばしーんと燐の頬をぶち殴る。
一応、平手打ちなので手加減はしたのだろう。
燐は、呆然とした。こいつ、意味がわからない。
「あばずれってなに・・・」
「わからないままの貴方でいて欲しかったですけど!
私は貴方をそんな尻の軽い子に育てた覚えはありません!」
「俺はお前に育てられた覚えはない!」
「そうですけど!そうですけど!」
「落ち着けよ、お前がなに言ってるのか全然わかんねーよ!」
「だまらっしゃい!アスタロトのお手つきにされておきながら!何がわからないですか!!!」
お手つき、と言われてもそれが何を指すのだろうか。
メフィストは、指を鳴らして手鏡を出現させた。
燐の舌を掴んで、引っ張り出す。すごくいたい。
鏡の前に映し出されたのは、舌の上に小さな円が出現している光景だった。
「にゃにこれ」
「私に許可もなく、アスタロトと契約した証ですよ」
「けいやく?」
「そうです、アスタロトと血を交換したでしょう。全く貴方は簡単に騙くらかされて!!!
私のアレルギーが悪化したら間違いなく貴方のせいですよ!!!」
血、交換。と言われて思い浮かんだのは。
アスタロトにキスされたこと。そこで、相手の血を飲み込んでいる。
といっても、あれは憑依されている人間の血じゃなかったのだろうか。
血、を交換。と考えて、燐は顔を青ざめさせた。
「あ・・・そうか、アスタロトが帰るとき俺の血うれしそうに持って帰ったのって・・・」
望外の喜びです。これから何度でも参ります。とアスタロトは言っていた。
このことだったのか。燐はそんな契約のこと全く知らなかった。
説明は全くない。アスタロトは一言だってそんなこと言わなかった。
完全に騙しの手口じゃないか。
「お呼びですか、若君?」
がちゃりと扉が開いた。
そこには、男子生徒もとい、白鳥零二の姿が。
背後にはコールタールが沸いている。
またアスタロト取り憑かれたのか。
こいつ、悪魔に何度も取り憑かれるなんてどこまで性根が腐っているのだろう。
メフィストは傘を広げて、部屋を区切るようにして結界を張る。
同時に、大きなくしゃみをした。アレルギーというのは本当のようだった。
燐は頭を抱えた。せっかく、どうにかなったと思っていたのに。
一番やっかいな奴が残ってしまうなんて。
「若君、体調が優れないのですか?虚無界に帰りますか?」
「いや、どうしてそうなる!なんでお前ここにいるんだよ!」
「若君と私は主従の契約を結んだのですから、呼ばれれば出向くのは当然かと・・・」
燐の舌に記された刻印は、アスタロトを召還するための魔法陣だ。
勝手に契約させられて、勝手に出てきて。
悪魔というのは心底自分勝手にできているらしい。
「奥村君が名前呼ぶからでてきたじゃないですか!!!ぶえっくしょーい!!」
「汚ェな!くしゃみはよそでしろよ!俺はそんな契約聞いてない!」
「一応、私はお怒りになるかもしれませんがお許しを、とは言ったのですが・・・」
「あれはそこにかかっていたのか!?悪魔ってみんなそうなのか!?なぁメフィスト!」
「まぁ大抵そうですね。じゃあ、奥村君舌出してください。ぶった斬って刻印消して、契約破棄して差し上げますよ」
「え・・・斬るの?舌を?」
「はい、貴方悪魔なんですし回復しますよね。はいじゃあ口開けて」
「若君を傷つけることを見過ごすわけにはいかない!若君、さぁこちらへ!!」
アスタロトは部屋に張られた結界に阻まれて燐のそばに近寄ることもできない。
結界に張り付いて、どんどんと結界をたたいている。
若君、若君と焦ったような声だ。
「奥村君、あんな性根の腐った奴についていく訳ないですよね!さぁ早く!!!」
「え、えー・・・」
究極の選択だ。
このままメフィストといれば閻魔大王もびっくり。
舌を引っこ抜かれてしまう。
いくら悪魔の回復能力があるからといって、痛いものは嫌だ。
それに、料理の時に舌が馬鹿になっていたら目も当てられない。
じゃあ、アスタロトのところへ行くか?答えは否だ。
なんだかんだと騙されて、アスタロトの都合のいいようにされている経緯がある。
なんだかんだで虚無界まで連れて行かれそうな気がしてならない。
選べるわけがなかった。
そんな燐にじれたのか、メフィストが燐を無理矢理に自分の方へと引き寄せた。
顔をあげさせて、視線を合わせられる。
嫌な予感でいっぱいだ。悪魔のこのパターンからいくと。
「じれったいですね、キスして噛みちぎって差し上げますよ」
「ぎゃあああ!嫌だーーー!!」
一日に、二度も男にキスされるなんて地獄以外のなんでもない。
燐が好きなのは大人っぽくてエロいお姉さんだ。
しかし、どうして悪魔は身体的接触が好きなのだろう。
燐の唇は悪魔の契約の為にあるのではない。と訴えたかった。
「・・・ッ待ってくれ!!」
アスタロトが叫んだ。
燐が傷つけられる光景を黙ってみていられなかったのだろう。
アスタロトは、苦渋の表情で告げた。
「契約を破棄すればいいのだろう。私から失効すればいい。そうすればその刻印は消える」
「ほう・・・いいのか?悪魔が一度決めた契約を破棄することはなによりの屈辱だというのに?」
「若君が傷つけられるより、ましだ」
「お前・・・」
アスタロトは、真剣な眼差しで燐を見つめる。
そんな目で見つめられたことのない燐は動揺を隠せない。
それは、燐が今まで受けたことのない感情だった。
「若君、私が貴方にしたことは確かに貴方にとっては不本意なことだったでしょう。
しかし、私はそうせざる負えなかった。無理矢理にでも、貴方と契約を結びたかった」
「なんでだよ」
燐は問いかける。アスタロトは、その場に跪いた。
「貴方の側に・・・いたかったからです。貴方がいれば、対価などいらない」
それだけです。と呟いた。
メフィストはそれを聞いて大笑いする。
「ははは!傑作だ!八候王ともあろうものが、まるで人であるかのようにものを言う!
やはり、貴方はおもしろいですね奥村君!最高だ!!」
悪魔との契約には、対価が伴う。
古来より契約により悪魔は力を執行してきた。
しかし、この悪魔は古来よりのしきたりを。
悪魔の本能を無視して。
対価を要求しないと。
契約すら破棄してもいいという。
「感情」は、「対価」を伴わない。
悪魔の心に生まれたものは、燐を慕う心だった。
悪魔への対価を、必要としない心だった。
「叶うことなら、これからもお側に」
アスタロトは、腕を振った。ばきん、という音がして、部屋の中の結界が破れる。
契約を破棄した時の衝撃が、結界を破ったのだろう。
燐は、舌が熱くなる感触がした。
いそいで鏡で確認すれば、刻印は消えていた。
契約は失効されたのだ。
契約のないアスタロトは、まもなく虚無界へと帰るだろう。
召還の魔法陣が消えれば、悪魔は消える。
アスタロトは、自分の手に噛みついた。
意識を失わないようにしているのだろうか。
ふらふらとおぼつかない足取りで燐のベット際まできて、その場に座り込んだ。
「おまえ・・・」
「また、会いに・・・きます」
そういって、アスタロトは消えた。
あとには床に倒れ込む白鳥零二だけが残されている。
燐はなんともいえない気分になった。
メフィストは、それを見てため息をつく。
「あなたも、罪な人ですね」
燐にはそういうつもりなんてさらさらない。
悪魔は消えたから、これでようやく今回の騒動は終結したのだろうか。
しかし、これだけ騒いでも誰も来ないなんて外は大丈夫なのだろうか。
燐は疑問を口にした。
「ああ、私が面会謝絶って扉に張ったからですよ」
「・・・それでか。ってかこいつも入院してたんじゃねーのかな。
気絶してるし、運ばないといけないっぽいか」
燐がベットから降りて、白鳥の体をよいしょと起こした。
気絶している白鳥が、がしっと燐の体にしがみついてきた。
まるで、ゾンビみたいな動きだった。
「と、いうわけで戻って参りました。アスタロトです」
にょっきりと頭から角が生えている。
燐は、呆然とした。
アスタロトは燐を抱えて、素早くメフィストから距離を取る。
見れば、アスタロトの。この場合白鳥零二だろうか、の腕には先ほどの刻印が記されているではないか。
先ほど、腕に噛みついていたのはこの為か。
「ぎゃあああ!出たーーー!!!」
「この!!しつこい風呂場のカビみたいな奴ですね!だから私はお前が大嫌いなんですよ!!!!」
「若君との契約は破棄したが、この人間との契約についてはとやかく言われる必要はない!」
やはり、アスタロトも腐っても悪魔だ。
燐を慕う心が生まれようとも基本的には自分の欲望に忠実に生きている。
というか、燐を慕う心のせいでいささか暴走している気配があった。
燐は、もう解放されたかった。
こんな風に悪魔の騒動に巻き込まれるなんて。
もうこりごりだ。
自分のことでぎゃーぎゃーと言い合いを始めた悪魔に向けて、燐は力を解き放つ。
「おまえ等、もう帰れーーー!!!」
部屋中に、竜巻のように青い炎が巻きあがる。
駆けつけて、ドアを開けた雪男と志摩が見た光景。
そこには、床に正座させられるメフィストとアスタロトの姿があった。
「な、なにがあったんや・・・」
「えーと、とりあえず。兄さんは無事・・・っぽいですね」
志摩と雪男はその光景を燐の怒りがひと段落するまで見つめていた。
その心には、悪がある。
だが、その心は時に対価も凌駕する。
正十字学園男子生徒。一年。
もとい、白鳥零二はクズである。
春先には手下を引き連れて、中学時代に悪魔と名高かった奥村燐を襲撃した。
あの生意気な顔が苦痛と恐怖で歪む。今でもそれを想像しただけで、ぞくぞくする。
あの春に、白鳥は確かに奥村燐の顔が苦痛に歪む顔を見た。
手下に押さえつけさせて、奥村燐を景気よくぶっ殺そうとした時。
その瞬間は、白鳥の中でも人生で一位二位を争うくらい最高の時だった。
しかし、不思議なことに、それ以後のシーンの詳細は白鳥はまったくといっていいほど覚えていなかった。
気がついたら病院にいて。親にうるさく泣かれたといううざったい記憶しかない。
医者や手下に聞けば、どうも錯乱したあげくに記憶を一部分消失しているそうだ。
そのぬけ落ちた記憶の詳細を聞いても、手下は。
「白鳥さん、悪魔みたいで。奥村のこと執拗に追いつめて殺そうとしてたんです」
ということしか出てこなかった。
俺は奥村のことを惨殺することはできなかったらしい。
しかし、追いつめるところまではいったのか。なぜその記憶がないのだろう。
白鳥は口惜しかった。
気に入らない奴の苦痛に歪む顔は正直三度の飯より大好きだから。
春先での出来事は結局親の力と金でもみ消し、白鳥は無事正十字学園に入学している。
同時期に、奥村燐も入学していたことには驚いたが。
金も権力もないあいつがなぜ入れたのかは不明だ。
優秀な弟に替え玉でもさせたのだろうか。
それとも、汚い大人の言うことでも聞いたのだろうか。
どちらにせよ、白鳥が奥村燐のことを気に入らないことは確かであるし不変だ。
あいつをどうやってはめてやろうか。目下の白鳥の目標であった。
しかし、奥村燐は放課後になるとどこかへと消えるように消えていくので、
今の今まで、ちょっかいすらかけられていないのが現状だったのだ。
そうこうしているうちに、学園内に不穏な出来事が起きた。
目の前にいる粒みたいな虫みたいなやつが、学校の生徒を襲い始めたのだ。
春先に入院しているとき、祓魔師とやらが来て、これが悪魔であることを教わっている。
でもこんな風に人を襲うところを見たのは初めてだ。
こいつらは、普通の人間には見えない。なんでも自分は、
この春に魔障とやらを受けた為、見えるらしい。これも、祓魔師に教えてもらった。
クラスの奴らは粒悪魔に気づかぬまま襲われていき、次から次へと倒れていった。
白鳥は粒悪魔をよけながら、一人でさっさと逃げ出した。
途中、全身を毛布で包まれたストレッチャーに乗せられた生徒とすれ違った。
重傷か?はは。いい気味だ。
そのまま廊下を通っていると、隅でうずくまって動かなくなっている女子生徒がいた。
助け起こすこともせず、さっさと通り過ぎる。
学園から出て、設置されている救護テントに行って、空いているベットに横になる。
勿論、怪我などしていない。
だが、いちいち周囲は一人の生徒に構ってはいられない状況だ。
白鳥にとっては好都合だった。
これで、昼寝してても問題ないだろう。
学園の外に出ることも考えたが、外の方にも粒悪魔が充満しているのが確認できた。
祓魔師がいるここのほうが、おそらく安全だろう。
程なくして。白鳥は、意識が遠くなっていくのを感じた。
なぜだろう。この粒悪魔が増えだしてから、なにかの声が聞こえる気がする。
最初は弱々しく。今は、強く。
声が。声が。声が。
俺を呼ぶ。
不思議と、眠りに落ちる瞬間。奥村燐の顔が浮かんだ。
あいつは血塗れで、苦痛で顔が歪んでいた。
いい夢が見れそうだ。そんなことを期待しながら、白鳥零二は眠りについた。
そして、現在気がつけば。
白鳥は正十字総合病院の一室に入院している。
どうも身体の節々が痛い気がする。あと、謎の夢も見たような。
奥村燐の顔が、浮かんでは消え。
夢の中で奥村燐と自分は・・・キスのようなことをしていなかったか?
白鳥はそれを思い出して、首を振った。
いや、そんなバカな。俺があいつと。
俺はあいつを殺したいと思ってはいても。そんなことは。バカな。
あいつの唇が結構柔らかかったとかそんなこと思ってなんかいない。
あれは夢だ。
白鳥は口元を拭って、悪夢を振り払うようにして、視線を周囲へ向けた。
病院の個室だ。
ベットと、簡易テレビと冷蔵庫。棚。それくらいしかない。
白鳥は首をかしげた。自分は救護テントで寝ていただけだ。
もしかして、親の力かなにかで大事をとって入院という形になったのだろうか。
腕についていた点滴の針を抜き取って廊下に出た。
何人か、正十字学園の制服を着たままの奴らがいた。
どうやら、搬送されたのはかなりの人数だったようだ。
白鳥が廊下を道なりにあるいていくと、ある個室の前で自然と足が止まった。
入院患者の名前を見る。
『奥村燐』
白鳥の意識は、また途絶える。
志摩は、コールタールの浄化作業を一時中断して、正十字総合病院へ来ている。
藤堂を倒した後、塾生を待っていたのは、学園内の広範囲の浄化作業だった。
あの後、まもなくしてシュラが燐たちと合流した時のことだ。
シュラの服は、ぼろぼろだった。声も疲れている。
「おー、親玉は倒したみたいだにゃー」
「シュラさん、どこに行ってたんですか?」
雪男が質問すると、シュラが雪男たちに鋭い視線を向けた。
「どこ?だってよ!おまえらな!アタシは言ったよな!!魔法陣を破壊しつつ、燐を捜索しろって!
魔法陣の破壊が中途半端だったおかげで、こっちは一人で陣を壊しまくってたんだぞ!」
旧校舎が倒壊したため、魔法陣の捜索と破壊は中途半端だった自覚は雪男たちにはある。
シュラはあの時、出来る限り外を見て回る。と言っていた。
そう、校舎の外にも、魔法陣は大量にあった。
壊された校舎の中でも、壊れずに存在している陣もあったのだ。
だから、アスタロトは物質界に存在していた。
燐を拉致することにかけては藤堂並に燃えている悪魔。
正直二度とお目にかかりたくない。
「あ・・・そうか、アスタロトが途中で消えたのって」
「アタシが陣全部壊したからに決まってるだろ!おまえ等全員爪が甘い!
罰として、ここら一帯の浄化作業は塾生だけでやってもらうからな!
覚悟しとけよ!」
ふん、とシュラが言ったところで、燐が手を挙げた。
「シュラ」
「なんだ」
「お・・・れ、もうギブアップ・・・」
燐が卒倒した。
当たり前だ。
血は限界まで抜かれ、藤堂との戦闘をこなし。
あげくアスタロトを追い返すとこまでやった。
いくら燐の体力が宇宙だといっても、限度がある。
この上、浄化作業までやってたら確実に寿命を削る。
燐は悲鳴を上げる身体の言うことを素直に聞いた。
もう無理。
あわてたのは雪男たちだ。
「ちょ、兄さん!まずい口からなんか出てる!!顔が土気色だ!!病院連れていかないと!」
「あかん、奥村しっかりせえ!!」
「・・・燐はいいわ。おまえ等だけで浄化作業やれ」
そうして、燐は病院にかつぎ込まれた。
燐の体質は特殊な為、個室で治療を受けることになった。
燐を病院にかつぎ込んだ後は、塾生たちは命令どうり浄化作業に従事していたのだ。塾生は燐のことが心配だった。
でも、命令を無視するわけにもいかない。
だから、交代でこうしてお見舞いに来ることにした。
少しすれば、志摩も戻るつもりだ。
雪男も、もう来るだろう。
雪男は燐の家族だ。
雪男は監督不行届きだと言われて、シュラの厳命で浄化作業をしていた。
しかし、燐が落ち着いたらそばにいてもいいとも言われている。
塾生もそれを了承している。家族が怪我しているのだ。
代わってやれることは代わるつもりでいた。
志摩は、燐の病室の前に来る。
さて、あの子は大丈夫だろうか。
点滴を受けてからはずいぶんと顔色がよくなっていた、と先に見舞に来た勝呂が言っていた。
志摩は、病室の名前を確認して、扉を開けようとした。
が、できなかった。
扉の前には、あるプレートが張り付いていた。
『面会謝絶』
志摩は、絶句する。どういうことだ。
勝呂が見舞いに来て、志摩が交代でここにくるまで、そう時間はたっていない。
その間に容態が急変したとか?
バカな。志摩は、扉が開かないかひねってみたが、開かない。
鍵がかかっている?そんな。そこまで悪いのか。
扉に耳を当ててみれば、中からは機材が動く音と怒号が聞こえてくる。
志摩の顔が真っ青になった。
燐は、大丈夫だと思っていたのだ。
彼は悪魔だから、傷の治癒が早い。今回も、無事だった。
そこに、甘えはなかったか?
志摩は急いで携帯を開いた。扉が開く気配はない。
数コールの後、相手が出た。
『もしもし?』
「先生!奥村君が・・・!!」
『志摩君?え、兄に何かあったんですか?』
「今ッ・・・今、奥村君の病室の前におるんですけど、面会謝絶ってあって!」
志摩の混乱した声が、雪男に届く。
声色を聞いて、雪男もただ事ではないと悟った。
「今行きます!」
面会謝絶、と書かれたプレートの扉が開いた。
別に、中から医者が出てきたとか機材が搬出されたとかいう訳ではない。
雪男が鍵を使って、一直線に病院へと飛び込んできたわけだ。
その証拠に、雪男の背後には青い空と旧校舎の瓦礫があった。
ぽかんとした出雲の顔も隙間から見えた。扉は一瞬で閉められる。
「ぎゃあああああああ!!出たーーー!!!」
「それよりも、今の話本当ですか!??」
雪男もかなり焦っているので余裕がない。
たぶん、自体に気づいた仲間は後から来るだろう。
ただ、いくら急いでるからと言ってなにも、その病室の扉から出現することはないとは思うが。
雪男がもう一度問いかける。
「志摩君、兄は?」
「た、たぶんこの扉の中に・・・」
志摩が指し示した扉を、雪男が開けようとする。
がしゃん、という音が部屋の中から響いてきた。
曇りガラスの向こうに、青い炎が光って消えた。
「兄さん!!」
「奥村君!!!」
返事は返ってこない。
扉は、閉まったままだ。