青祓のネタ庫
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燐は安心していた。
藤堂は倒したし、学園の瘴気もなんとかなった。
極めつけのアスタロトに関しても、どうにかなった。
後、燐にできることと言えば休息を取ることくらいだろう。
貧血と怪我でへとへとの燐も、病院で点滴を打ってもらい横になっているだけで随分とよくなってきた。
悪魔の治癒力も、回復を助けているのだろう。
燐は、ベットから起きあがった。周囲には人はいない。完全な個室だ。
燐の体質状仕方ないことだが、誰もいないのは少しだけさみしかった。
藤堂のことを思い出す。藤堂は、最期まで一人だった。
燐は、一人きりにはもう戻りたくなんてない。
二人の選択の結果の果てに、今があるのだろう。
あんな最期は、迎えたくない。それは確かだ。
燐は、もう一回横になった。
あんなにひどかった立ちくらみももうしない。
でも、暖かいベットに眠気が沸いてくる。
少しだけいいかな。燐は目を閉じた。
次に目を開けたときには、誰かがいたらいいな。
そんなことを思いながら。
どすり、と腹に重さを感じて、燐はもう一度目を覚ます。
見れば、ピンク色のもふもふが腹の上に乗っかっているではないか。
「メフィスト・・・?」
呼びかけたら、犬は顔をあげた。マスクをしていた。
犬ってマスクつけれるのか。病院に動物が入っていいのだろうか。
疑問に思っていると、目の前が煙で包まれる。
燐の腹の上には人型のメフィストが乗っかっていることになった。
目元が赤いし、なんだかずびずびと鼻を鳴らしている。
いったいどうしたのだろう。
でも、どうでもいいから退いてほしい。重い。
「重いんだけど」
メフィストに訴えても、メフィストは動かなかった。
それどころか血走った目で燐の顔の横に手を置いて、覆い被さってきた。
端から見れば、押し倒されているような。そんな体勢。
メフィストはがし、と燐の顎を掴んで、口を開けるように訴えてきた。
というか、無理矢理に開けさせられた。すごく痛い。
メフィストは医者がするかのように燐の咥内をのぞき込んできた。
「いひゃい!いひゃい!!」
「・・・・・!?」
メフィストが驚いた表情をするが、もう構ってられるか。
燐は腕を振りかざしてメフィストを殴ろうとした。
メフィストは燐の両腕を捕まえて、ベットに押さえつける。
足はメフィストの体が乗っているので振りあげることもできない。
「ど、どうしたんだよ・・・?」
燐の抵抗を封じて、何をしようと言うのか。
メフィストは、ようやく重い口を開いた。
「こんの、阿婆擦れが―――!!」
ばしーんと燐の頬をぶち殴る。
一応、平手打ちなので手加減はしたのだろう。
燐は、呆然とした。こいつ、意味がわからない。
「あばずれってなに・・・」
「わからないままの貴方でいて欲しかったですけど!
私は貴方をそんな尻の軽い子に育てた覚えはありません!」
「俺はお前に育てられた覚えはない!」
「そうですけど!そうですけど!」
「落ち着けよ、お前がなに言ってるのか全然わかんねーよ!」
「だまらっしゃい!アスタロトのお手つきにされておきながら!何がわからないですか!!!」
お手つき、と言われてもそれが何を指すのだろうか。
メフィストは、指を鳴らして手鏡を出現させた。
燐の舌を掴んで、引っ張り出す。すごくいたい。
鏡の前に映し出されたのは、舌の上に小さな円が出現している光景だった。
「にゃにこれ」
「私に許可もなく、アスタロトと契約した証ですよ」
「けいやく?」
「そうです、アスタロトと血を交換したでしょう。全く貴方は簡単に騙くらかされて!!!
私のアレルギーが悪化したら間違いなく貴方のせいですよ!!!」
血、交換。と言われて思い浮かんだのは。
アスタロトにキスされたこと。そこで、相手の血を飲み込んでいる。
といっても、あれは憑依されている人間の血じゃなかったのだろうか。
血、を交換。と考えて、燐は顔を青ざめさせた。
「あ・・・そうか、アスタロトが帰るとき俺の血うれしそうに持って帰ったのって・・・」
望外の喜びです。これから何度でも参ります。とアスタロトは言っていた。
このことだったのか。燐はそんな契約のこと全く知らなかった。
説明は全くない。アスタロトは一言だってそんなこと言わなかった。
完全に騙しの手口じゃないか。
「お呼びですか、若君?」
がちゃりと扉が開いた。
そこには、男子生徒もとい、白鳥零二の姿が。
背後にはコールタールが沸いている。
またアスタロト取り憑かれたのか。
こいつ、悪魔に何度も取り憑かれるなんてどこまで性根が腐っているのだろう。
メフィストは傘を広げて、部屋を区切るようにして結界を張る。
同時に、大きなくしゃみをした。アレルギーというのは本当のようだった。
燐は頭を抱えた。せっかく、どうにかなったと思っていたのに。
一番やっかいな奴が残ってしまうなんて。
「若君、体調が優れないのですか?虚無界に帰りますか?」
「いや、どうしてそうなる!なんでお前ここにいるんだよ!」
「若君と私は主従の契約を結んだのですから、呼ばれれば出向くのは当然かと・・・」
燐の舌に記された刻印は、アスタロトを召還するための魔法陣だ。
勝手に契約させられて、勝手に出てきて。
悪魔というのは心底自分勝手にできているらしい。
「奥村君が名前呼ぶからでてきたじゃないですか!!!ぶえっくしょーい!!」
「汚ェな!くしゃみはよそでしろよ!俺はそんな契約聞いてない!」
「一応、私はお怒りになるかもしれませんがお許しを、とは言ったのですが・・・」
「あれはそこにかかっていたのか!?悪魔ってみんなそうなのか!?なぁメフィスト!」
「まぁ大抵そうですね。じゃあ、奥村君舌出してください。ぶった斬って刻印消して、契約破棄して差し上げますよ」
「え・・・斬るの?舌を?」
「はい、貴方悪魔なんですし回復しますよね。はいじゃあ口開けて」
「若君を傷つけることを見過ごすわけにはいかない!若君、さぁこちらへ!!」
アスタロトは部屋に張られた結界に阻まれて燐のそばに近寄ることもできない。
結界に張り付いて、どんどんと結界をたたいている。
若君、若君と焦ったような声だ。
「奥村君、あんな性根の腐った奴についていく訳ないですよね!さぁ早く!!!」
「え、えー・・・」
究極の選択だ。
このままメフィストといれば閻魔大王もびっくり。
舌を引っこ抜かれてしまう。
いくら悪魔の回復能力があるからといって、痛いものは嫌だ。
それに、料理の時に舌が馬鹿になっていたら目も当てられない。
じゃあ、アスタロトのところへ行くか?答えは否だ。
なんだかんだと騙されて、アスタロトの都合のいいようにされている経緯がある。
なんだかんだで虚無界まで連れて行かれそうな気がしてならない。
選べるわけがなかった。
そんな燐にじれたのか、メフィストが燐を無理矢理に自分の方へと引き寄せた。
顔をあげさせて、視線を合わせられる。
嫌な予感でいっぱいだ。悪魔のこのパターンからいくと。
「じれったいですね、キスして噛みちぎって差し上げますよ」
「ぎゃあああ!嫌だーーー!!」
一日に、二度も男にキスされるなんて地獄以外のなんでもない。
燐が好きなのは大人っぽくてエロいお姉さんだ。
しかし、どうして悪魔は身体的接触が好きなのだろう。
燐の唇は悪魔の契約の為にあるのではない。と訴えたかった。
「・・・ッ待ってくれ!!」
アスタロトが叫んだ。
燐が傷つけられる光景を黙ってみていられなかったのだろう。
アスタロトは、苦渋の表情で告げた。
「契約を破棄すればいいのだろう。私から失効すればいい。そうすればその刻印は消える」
「ほう・・・いいのか?悪魔が一度決めた契約を破棄することはなによりの屈辱だというのに?」
「若君が傷つけられるより、ましだ」
「お前・・・」
アスタロトは、真剣な眼差しで燐を見つめる。
そんな目で見つめられたことのない燐は動揺を隠せない。
それは、燐が今まで受けたことのない感情だった。
「若君、私が貴方にしたことは確かに貴方にとっては不本意なことだったでしょう。
しかし、私はそうせざる負えなかった。無理矢理にでも、貴方と契約を結びたかった」
「なんでだよ」
燐は問いかける。アスタロトは、その場に跪いた。
「貴方の側に・・・いたかったからです。貴方がいれば、対価などいらない」
それだけです。と呟いた。
メフィストはそれを聞いて大笑いする。
「ははは!傑作だ!八候王ともあろうものが、まるで人であるかのようにものを言う!
やはり、貴方はおもしろいですね奥村君!最高だ!!」
悪魔との契約には、対価が伴う。
古来より契約により悪魔は力を執行してきた。
しかし、この悪魔は古来よりのしきたりを。
悪魔の本能を無視して。
対価を要求しないと。
契約すら破棄してもいいという。
「感情」は、「対価」を伴わない。
悪魔の心に生まれたものは、燐を慕う心だった。
悪魔への対価を、必要としない心だった。
「叶うことなら、これからもお側に」
アスタロトは、腕を振った。ばきん、という音がして、部屋の中の結界が破れる。
契約を破棄した時の衝撃が、結界を破ったのだろう。
燐は、舌が熱くなる感触がした。
いそいで鏡で確認すれば、刻印は消えていた。
契約は失効されたのだ。
契約のないアスタロトは、まもなく虚無界へと帰るだろう。
召還の魔法陣が消えれば、悪魔は消える。
アスタロトは、自分の手に噛みついた。
意識を失わないようにしているのだろうか。
ふらふらとおぼつかない足取りで燐のベット際まできて、その場に座り込んだ。
「おまえ・・・」
「また、会いに・・・きます」
そういって、アスタロトは消えた。
あとには床に倒れ込む白鳥零二だけが残されている。
燐はなんともいえない気分になった。
メフィストは、それを見てため息をつく。
「あなたも、罪な人ですね」
燐にはそういうつもりなんてさらさらない。
悪魔は消えたから、これでようやく今回の騒動は終結したのだろうか。
しかし、これだけ騒いでも誰も来ないなんて外は大丈夫なのだろうか。
燐は疑問を口にした。
「ああ、私が面会謝絶って扉に張ったからですよ」
「・・・それでか。ってかこいつも入院してたんじゃねーのかな。
気絶してるし、運ばないといけないっぽいか」
燐がベットから降りて、白鳥の体をよいしょと起こした。
気絶している白鳥が、がしっと燐の体にしがみついてきた。
まるで、ゾンビみたいな動きだった。
「と、いうわけで戻って参りました。アスタロトです」
にょっきりと頭から角が生えている。
燐は、呆然とした。
アスタロトは燐を抱えて、素早くメフィストから距離を取る。
見れば、アスタロトの。この場合白鳥零二だろうか、の腕には先ほどの刻印が記されているではないか。
先ほど、腕に噛みついていたのはこの為か。
「ぎゃあああ!出たーーー!!!」
「この!!しつこい風呂場のカビみたいな奴ですね!だから私はお前が大嫌いなんですよ!!!!」
「若君との契約は破棄したが、この人間との契約についてはとやかく言われる必要はない!」
やはり、アスタロトも腐っても悪魔だ。
燐を慕う心が生まれようとも基本的には自分の欲望に忠実に生きている。
というか、燐を慕う心のせいでいささか暴走している気配があった。
燐は、もう解放されたかった。
こんな風に悪魔の騒動に巻き込まれるなんて。
もうこりごりだ。
自分のことでぎゃーぎゃーと言い合いを始めた悪魔に向けて、燐は力を解き放つ。
「おまえ等、もう帰れーーー!!!」
部屋中に、竜巻のように青い炎が巻きあがる。
駆けつけて、ドアを開けた雪男と志摩が見た光景。
そこには、床に正座させられるメフィストとアスタロトの姿があった。
「な、なにがあったんや・・・」
「えーと、とりあえず。兄さんは無事・・・っぽいですね」
志摩と雪男はその光景を燐の怒りがひと段落するまで見つめていた。
その心には、悪がある。
だが、その心は時に対価も凌駕する。
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