青祓のネタ庫
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≪ その心には悪がある | | HOME | | 手の平に得たもの ≫ |
正十字学園男子生徒。一年。
もとい、白鳥零二はクズである。
春先には手下を引き連れて、中学時代に悪魔と名高かった奥村燐を襲撃した。
あの生意気な顔が苦痛と恐怖で歪む。今でもそれを想像しただけで、ぞくぞくする。
あの春に、白鳥は確かに奥村燐の顔が苦痛に歪む顔を見た。
手下に押さえつけさせて、奥村燐を景気よくぶっ殺そうとした時。
その瞬間は、白鳥の中でも人生で一位二位を争うくらい最高の時だった。
しかし、不思議なことに、それ以後のシーンの詳細は白鳥はまったくといっていいほど覚えていなかった。
気がついたら病院にいて。親にうるさく泣かれたといううざったい記憶しかない。
医者や手下に聞けば、どうも錯乱したあげくに記憶を一部分消失しているそうだ。
そのぬけ落ちた記憶の詳細を聞いても、手下は。
「白鳥さん、悪魔みたいで。奥村のこと執拗に追いつめて殺そうとしてたんです」
ということしか出てこなかった。
俺は奥村のことを惨殺することはできなかったらしい。
しかし、追いつめるところまではいったのか。なぜその記憶がないのだろう。
白鳥は口惜しかった。
気に入らない奴の苦痛に歪む顔は正直三度の飯より大好きだから。
春先での出来事は結局親の力と金でもみ消し、白鳥は無事正十字学園に入学している。
同時期に、奥村燐も入学していたことには驚いたが。
金も権力もないあいつがなぜ入れたのかは不明だ。
優秀な弟に替え玉でもさせたのだろうか。
それとも、汚い大人の言うことでも聞いたのだろうか。
どちらにせよ、白鳥が奥村燐のことを気に入らないことは確かであるし不変だ。
あいつをどうやってはめてやろうか。目下の白鳥の目標であった。
しかし、奥村燐は放課後になるとどこかへと消えるように消えていくので、
今の今まで、ちょっかいすらかけられていないのが現状だったのだ。
そうこうしているうちに、学園内に不穏な出来事が起きた。
目の前にいる粒みたいな虫みたいなやつが、学校の生徒を襲い始めたのだ。
春先に入院しているとき、祓魔師とやらが来て、これが悪魔であることを教わっている。
でもこんな風に人を襲うところを見たのは初めてだ。
こいつらは、普通の人間には見えない。なんでも自分は、
この春に魔障とやらを受けた為、見えるらしい。これも、祓魔師に教えてもらった。
クラスの奴らは粒悪魔に気づかぬまま襲われていき、次から次へと倒れていった。
白鳥は粒悪魔をよけながら、一人でさっさと逃げ出した。
途中、全身を毛布で包まれたストレッチャーに乗せられた生徒とすれ違った。
重傷か?はは。いい気味だ。
そのまま廊下を通っていると、隅でうずくまって動かなくなっている女子生徒がいた。
助け起こすこともせず、さっさと通り過ぎる。
学園から出て、設置されている救護テントに行って、空いているベットに横になる。
勿論、怪我などしていない。
だが、いちいち周囲は一人の生徒に構ってはいられない状況だ。
白鳥にとっては好都合だった。
これで、昼寝してても問題ないだろう。
学園の外に出ることも考えたが、外の方にも粒悪魔が充満しているのが確認できた。
祓魔師がいるここのほうが、おそらく安全だろう。
程なくして。白鳥は、意識が遠くなっていくのを感じた。
なぜだろう。この粒悪魔が増えだしてから、なにかの声が聞こえる気がする。
最初は弱々しく。今は、強く。
声が。声が。声が。
俺を呼ぶ。
不思議と、眠りに落ちる瞬間。奥村燐の顔が浮かんだ。
あいつは血塗れで、苦痛で顔が歪んでいた。
いい夢が見れそうだ。そんなことを期待しながら、白鳥零二は眠りについた。
そして、現在気がつけば。
白鳥は正十字総合病院の一室に入院している。
どうも身体の節々が痛い気がする。あと、謎の夢も見たような。
奥村燐の顔が、浮かんでは消え。
夢の中で奥村燐と自分は・・・キスのようなことをしていなかったか?
白鳥はそれを思い出して、首を振った。
いや、そんなバカな。俺があいつと。
俺はあいつを殺したいと思ってはいても。そんなことは。バカな。
あいつの唇が結構柔らかかったとかそんなこと思ってなんかいない。
あれは夢だ。
白鳥は口元を拭って、悪夢を振り払うようにして、視線を周囲へ向けた。
病院の個室だ。
ベットと、簡易テレビと冷蔵庫。棚。それくらいしかない。
白鳥は首をかしげた。自分は救護テントで寝ていただけだ。
もしかして、親の力かなにかで大事をとって入院という形になったのだろうか。
腕についていた点滴の針を抜き取って廊下に出た。
何人か、正十字学園の制服を着たままの奴らがいた。
どうやら、搬送されたのはかなりの人数だったようだ。
白鳥が廊下を道なりにあるいていくと、ある個室の前で自然と足が止まった。
入院患者の名前を見る。
『奥村燐』
白鳥の意識は、また途絶える。
志摩は、コールタールの浄化作業を一時中断して、正十字総合病院へ来ている。
藤堂を倒した後、塾生を待っていたのは、学園内の広範囲の浄化作業だった。
あの後、まもなくしてシュラが燐たちと合流した時のことだ。
シュラの服は、ぼろぼろだった。声も疲れている。
「おー、親玉は倒したみたいだにゃー」
「シュラさん、どこに行ってたんですか?」
雪男が質問すると、シュラが雪男たちに鋭い視線を向けた。
「どこ?だってよ!おまえらな!アタシは言ったよな!!魔法陣を破壊しつつ、燐を捜索しろって!
魔法陣の破壊が中途半端だったおかげで、こっちは一人で陣を壊しまくってたんだぞ!」
旧校舎が倒壊したため、魔法陣の捜索と破壊は中途半端だった自覚は雪男たちにはある。
シュラはあの時、出来る限り外を見て回る。と言っていた。
そう、校舎の外にも、魔法陣は大量にあった。
壊された校舎の中でも、壊れずに存在している陣もあったのだ。
だから、アスタロトは物質界に存在していた。
燐を拉致することにかけては藤堂並に燃えている悪魔。
正直二度とお目にかかりたくない。
「あ・・・そうか、アスタロトが途中で消えたのって」
「アタシが陣全部壊したからに決まってるだろ!おまえ等全員爪が甘い!
罰として、ここら一帯の浄化作業は塾生だけでやってもらうからな!
覚悟しとけよ!」
ふん、とシュラが言ったところで、燐が手を挙げた。
「シュラ」
「なんだ」
「お・・・れ、もうギブアップ・・・」
燐が卒倒した。
当たり前だ。
血は限界まで抜かれ、藤堂との戦闘をこなし。
あげくアスタロトを追い返すとこまでやった。
いくら燐の体力が宇宙だといっても、限度がある。
この上、浄化作業までやってたら確実に寿命を削る。
燐は悲鳴を上げる身体の言うことを素直に聞いた。
もう無理。
あわてたのは雪男たちだ。
「ちょ、兄さん!まずい口からなんか出てる!!顔が土気色だ!!病院連れていかないと!」
「あかん、奥村しっかりせえ!!」
「・・・燐はいいわ。おまえ等だけで浄化作業やれ」
そうして、燐は病院にかつぎ込まれた。
燐の体質は特殊な為、個室で治療を受けることになった。
燐を病院にかつぎ込んだ後は、塾生たちは命令どうり浄化作業に従事していたのだ。塾生は燐のことが心配だった。
でも、命令を無視するわけにもいかない。
だから、交代でこうしてお見舞いに来ることにした。
少しすれば、志摩も戻るつもりだ。
雪男も、もう来るだろう。
雪男は燐の家族だ。
雪男は監督不行届きだと言われて、シュラの厳命で浄化作業をしていた。
しかし、燐が落ち着いたらそばにいてもいいとも言われている。
塾生もそれを了承している。家族が怪我しているのだ。
代わってやれることは代わるつもりでいた。
志摩は、燐の病室の前に来る。
さて、あの子は大丈夫だろうか。
点滴を受けてからはずいぶんと顔色がよくなっていた、と先に見舞に来た勝呂が言っていた。
志摩は、病室の名前を確認して、扉を開けようとした。
が、できなかった。
扉の前には、あるプレートが張り付いていた。
『面会謝絶』
志摩は、絶句する。どういうことだ。
勝呂が見舞いに来て、志摩が交代でここにくるまで、そう時間はたっていない。
その間に容態が急変したとか?
バカな。志摩は、扉が開かないかひねってみたが、開かない。
鍵がかかっている?そんな。そこまで悪いのか。
扉に耳を当ててみれば、中からは機材が動く音と怒号が聞こえてくる。
志摩の顔が真っ青になった。
燐は、大丈夫だと思っていたのだ。
彼は悪魔だから、傷の治癒が早い。今回も、無事だった。
そこに、甘えはなかったか?
志摩は急いで携帯を開いた。扉が開く気配はない。
数コールの後、相手が出た。
『もしもし?』
「先生!奥村君が・・・!!」
『志摩君?え、兄に何かあったんですか?』
「今ッ・・・今、奥村君の病室の前におるんですけど、面会謝絶ってあって!」
志摩の混乱した声が、雪男に届く。
声色を聞いて、雪男もただ事ではないと悟った。
「今行きます!」
面会謝絶、と書かれたプレートの扉が開いた。
別に、中から医者が出てきたとか機材が搬出されたとかいう訳ではない。
雪男が鍵を使って、一直線に病院へと飛び込んできたわけだ。
その証拠に、雪男の背後には青い空と旧校舎の瓦礫があった。
ぽかんとした出雲の顔も隙間から見えた。扉は一瞬で閉められる。
「ぎゃあああああああ!!出たーーー!!!」
「それよりも、今の話本当ですか!??」
雪男もかなり焦っているので余裕がない。
たぶん、自体に気づいた仲間は後から来るだろう。
ただ、いくら急いでるからと言ってなにも、その病室の扉から出現することはないとは思うが。
雪男がもう一度問いかける。
「志摩君、兄は?」
「た、たぶんこの扉の中に・・・」
志摩が指し示した扉を、雪男が開けようとする。
がしゃん、という音が部屋の中から響いてきた。
曇りガラスの向こうに、青い炎が光って消えた。
「兄さん!!」
「奥村君!!!」
返事は返ってこない。
扉は、閉まったままだ。
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