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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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ネクタイ結ぶのお上手ですね



目を覚ませば、満天の星空が天井に広がっていた。
肌寒い。そう思いながら目を覚ます。
いや、超寒い。俺は布団を蹴り飛ばして寝てしまったのだろうか。
燐は、むくりと起き上がった。
そして、布団の在り処を探すために床の方を見た。
そこにはまた星空が広がっている。
いや、上下ともに星空?おかしいな。
俺は夢でも見ているのだろうか。
よくよく見てみれば、下に広がる星は家々から漏れる光のようだった。
すごい、こんなに地面が遠く見える。

「お目覚めのようですね?」
「うわわ!」

地面から、物凄く離れたところにいることに気づいた燐は、思わず声がした方に縋ってしまった。
こんな場所から落ちたら、いくら悪魔でも死んでしまう。
本能的に感じた恐怖に身がすくむ。震えたことがわかったのか。
燐の腰に腕が廻る感触が。ぎゅうっと抱き寄せられる。

「意外と積極的ですね奥村君」

声の主が誰か理解した燐は、べりっとその腕を引き剥がした。
メフィストは、残念だ。と言葉とは裏腹に感情の察せられない声で燐に言う。
燐は、メフィスと距離を取るために後ずさった。
二人は、メフィストの出したピンクのソファにいるようだ。
端と端。限界まで離れても、ソファの長さ以上に離れることができない。
下には、星空と間違うほどに離れた地上の風景。
燐は、ソファの背をしっかりと持つ。まだ、死にたくは無い。
メフィストの気まぐれでソファを動かされれば振り落とされかねない。
眠気などすっかりと消えてしまった。
メフィストは、指を鳴らして紅茶のセットを呼び出した。
紅茶をカップに注ぎ、そのまま燐に差し出す。
カップはふよふよと中身を零さないように、空中を漂っている。

「飲むといいですよ、体が温まります」
「いらねーよ!お前の出すものは信用できん!」

メフィストは、燐のことを驚愕のまなざしで見つめる。

「貴方、警戒心なんてあったんですか。知りませんでした」
「馬鹿にすんな。俺だってそれくらい・・・」
「はい、あーんして」

思わず開いた燐の口に、紅茶が投入される。
あ、美味しい。そう思ったら喉が自然と紅茶を飲み込んでいた。
燐は、口元を押さえて蹲る。騙された。
でも、実に美味しかった。

「ちょっとは体が温まったでしょう」
「・・・まぁな」

燐は、ソファに座りなおす。上も下も、闇と星で埋め尽くされている。
隣には、怪しげな男が一人。
確か、自分は寮のベッドで寝ていたはずだ。
朝から雪男もシュラも、勿論塾の友達の姿も見えなくて、
携帯で連絡しても不在ばかり。燐はそれが寂しかった。
いつもなら、誰かしら連絡が取れるのに。
しかし、それも仕方がないか。とも思う。
勝呂達にとっては家族の命日で。祓魔師にとっては屈辱の出来事。
不貞腐れた燐は、寮のベッドで寝て。気がつけばこの空の上にいる。

「なんで俺はここにいるんだよ」
「いえね、貴方を監禁するという話があったんですよ」
「は?」

メフィストは、驚く燐を放置して淡々と話を進めた。

「本当は、クリスマスにしようかという話もあったんですが。
ヴァチカンも忙しかったのでお流れになったのです。でも、ここ数日で流れが変わりまして。
青い夜に関わるものを排除しようという形になったんですよ。
本日27日に奥村燐を監禁せよという話になりました。だから貴方はここにいます」
「俺、監禁されてんの?」
「ええ、空中の檻の中にね。ここから落ちたらいくら貴方でも死ぬでしょう」
「それ、皆は・・・」
「多分、今頃下は大騒ぎなんじゃないですか?貴方が消え、監禁するという話だけが歩き出している」

雪男や、皆にとっては寝耳に水だろう。寮にいるはずの自分は消え、どこにいるかもわからない。
携帯も、寮に置いたままだ。
燐は、眉間に皺を寄せた雪男の顔を思い出す。心配させているかもしれない。
戻らないと。燐は、身を起こした。
上空何百メートルだろう。ここから飛び降りたら。想像して寒気がした。
メフィストは下を見る燐が気に入らなかったのか、指を鳴らした。
燐の視界が煙に包まれる。気がつけば、メフィストの膝の上に跨っていた。
メフィストと視線が絡む。メフィストは、燐のネクタイを引っ張って顔を近づける。

「逃げるのですか」
「戻るだけだ」

燐はメフィストから距離を取ろうとする。そんな燐の態度がメフィストは気に入らない。
メフィストは燐の肩を後ろに押した。このままだと燐は背中から空中に真っ逆さまだ。
夜の風が冷たい。

「命令が聞けないんですか」
「なんか、お前の言うことは信用できねーんだよな」

燐は、メフィストの話の不自然さに気づいている。いきなりそういう話になることも
燐の身の上を考えればないわけでもない。
だが、今回の話は実に内容が曖昧だ。
監禁する話になれば、それこそ京都の時みたく
強力な使い魔に燐を監禁させればいいのに、メフィストはそうしない。
燐の体はいまやネクタイ一本で支えられている。メフィストがネクタイを放せば。

「地面に真っ赤な花が咲きますね」

メフィストは言葉を続ける。

「選んでください」

落ちるか、もしくは監禁されるか。
実に理不尽な二択だ。
燐は答える。

「帰るに決まってるだろ」

メフィストは笑いながらネクタイを手放した。
燐は真っ逆さまに落ちていった。




ぼふん、という音がして、燐は布団の上に落ちた。
柔らかい。この感触は地面に激突した感触ではない。
混乱していると、頭上から声が聞こえてきた。
「兄さん!?どこ行ってたんだよ!」
「え?あれ?俺・・・空から落ちたんだけど」
「寝ぼけてるの?ほら、行こう」
「え?どこに」
「僕らの誕生日のパーティだよ。塾の皆が開いてくれるって話だったでしょ。
ほら、服着替えて!制服でいいから」

燐は雪男にされるがままに着替えされられ、祓魔塾の教室に入った。
そこには兄弟を出迎える塾のみんなが。そしてメフィストがいた。

「誕生日おめでとう!!」

口々に祝われて、燐はほっと安心した。
メフィストも燐のことなど我関せずといった態度だ。
あれは夢だったのだろう。あの空は寒かった。
こんなにあたたかいところに入れる自分は幸せだ。
ケーキを食べて、皆で笑いあう。

燐の背後から、声が聞こえてきた。


「あれだけ引っ張ってもほどけないなんて、ネクタイ結ぶのお上手ですね」



メフィストは燐のネクタイにそっとキスを贈る。

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1月8日インテックス大阪参加します

クリスマスっていうか、来年のことですがお知らせです。
2012年1月8日開催のインテ参加します。

場所は、4号館 ケ-53α
「CAPCOON7」です。

とりあえず、作成途中ですがサンプル上げておきます。
また画像データとか用意しますが、お知らせ的なサンプルです。
さーて、あとは細々としたことをやっていかないと!
頑張れ私。終わらせろ私!何事もないように祈ってます・・・



さて、週1でやれるだけ更新しようと決めたのも、去年の今くらいでした。
アレから1年間、週1更新・・・目標は達成できましたよ!
少しくらいは、皆さんを楽しませることができたでしょうか。
この前の拍手は、皆さんと心が一つになったのか801回拍手を頂きました。
そして、今回の更新でss本数が108本目です。

801で108
この煩悩の数は、除夜の鐘でも祓えないと信じてる。
ありがとうございました。
これからもよろしくお願いします。

まずはやれることやってきますー



2012年1月8日発売予定「CLOVER」サンプル1

目の前にいるこどもは言った。
悪魔がいるんです。怖い悪魔が。
どうすればいいですか。
俺は、こどもに向けていった。
「大丈夫、なにも怖がることはない。君の家族がきっと君を守ってくれるよ。
そうだ、それでも不安だっていうのなら、なにかお守りをあげようか」
俺が、懐を漁っていると、こどもは言った。
よつばのクローバー、ありますか。
こどもは四つ葉のクローバーが魔除けのお守りになるとは知らないはずだ。
きっとこどもが目にしやすい、比較的ポピュラーな幸運の花が思い浮かんだのだろう。

「それならちょうどいい。ここに四つ葉のクローバーのお守りがあるんだ。
このクローバーがきっと君を守ってくれる。何か起きたら、またくるといい。
そのときは俺たち祓魔師がなんとかしてやる」

こどもは、四つ葉のクローバーのお守りをぎゅっと握りしめた。
そして、恐々とした顔でつぶやいた。
また、ここに来ていいですか。

「おう!いいぞ。待ってるからな!」

頭をがしがしとなでてやった。

俺たち祓魔師は、悪魔払いから、闇に怯えるこどもの世話まで。
分け隔てなく救いの手をさしのべる。
そんな職業だ。
俺は、そんな職業について早ウン十年。
今では、聖騎士なんていう役職についている。





「うわ、つめた!」
雪男は頭に突然降り懸かってきた水に顔をしかめた。
頭上を見上げれば、そこには瓶詰めで置いておいた聖水が。
床に座ったまま荷造りの作業をしていたので、倒れたことに気がつかなかったのか。
雪男は濡れた髪をかきわけて顔にかかっていた液体を拭った。
冷たい液体をかぶったせいだろうか、妙に頭がすっきりしている感覚がある。
眼鏡にかかっていた水滴を拭って、かけなおす。
聖水は、蓋をしていたにも関わらず全部こぼれてしまったようだ。

「あーあ、これ高濃度の聖水だから貴重だったのになぁ」

もったいないことをしてしまった。と肩を落とす。
二年前に祓魔師の試験に合格してから、
こういった祓魔道具は経費で落とせるようになった。
しかし、だからといってあまり高価なものを大量に買えるわけでもない。
位としては中一級になったが、一個人、経費で買える金額にも
ちゃんと上限があるのだ。
聖水は、また祓魔屋で購入するしかないなぁと考えた。

確か、まだ経費には若干の残りがあったはず。

それを考えて、雪男は聖水をこぼしたことにまたちょっと落ち込んだ。
覆水、盆に返らず。とはこのことだろうか。
とりあえず、荷造りしていた箱にガムテープを貼って蓋をした。
立ち上がって周囲を見回せば、部屋の中が妙にがらんとしていることに気づく。

「あとちょっとで、この部屋ともお別れなんだなぁ」

雪男は感慨深げにつぶやいた。
ここは、雪男が生まれてから今までを過ごした思い出深い修道院の一室だ。
家族と、修道院の修道士達に囲まれて過ごした、雪男の家だ。

春からは正十字学園の寮に住むことが決まっている。
そこでは、高校生をしながら祓魔師として過ごす二重生活が待っている。
自分で選んだ道だが、高校は成績優秀者が
集められた特進科に通うことになる。
大変そうだなぁと雪男はため息をついた。
まぁ、別段深刻には考えていないのだが。
雪男はぞうきんをとって、机の上のこぼれた聖水をふき取った。
小瓶はまた別の機会にでも使えるだろうからとっておこう。
雪男は荷造りと、掃除の終わった部屋を後にした。
リビングの方に向かうと、ちょうど仕事を終えた神父と出くわした。

「おう、雪男荷造り終わったのか?」
「うん、あとは送ってもらうだけで大丈夫だよ。神父さんは仕事終わったの?」
「ああ、仕事とはいっても、悪魔が見えるって怯える女の子の相談役さ。
勘が鋭い子みたいで、実際には見えていないようだったがな。
あいつには頼れる両親もいるようだったし、お守りだけ渡しておいた」
「そうか、魔障にかかってないのなら大丈夫そうだね」
「ああ、また悩み事があったら聞いてやれば楽になるだろう」

神父こと藤本獅朗は表ではただの修道院の神父だが、裏では祓魔師の最上級の資格を持つ聖騎士だ。
そんな藤本の携帯が着信を告げる音を奏でた。

「もしもし」

あ、仕事モードだ。と雪男は思った。
きっと祓魔師関係の仕事の方だろう。
この顔をしている時の神父は、堅い表情をしている。
それがわかったから、雪男は何も言わずにただ神父の表情を眺めた。
普段の父親らしい神父もいいが、この真剣な表情が、結構好きだった。
それくらいには、雪男は神父のことを尊敬している。
数回相手とやりとりをして、藤本は携帯を切った。

「これから仕事?」
「ああ、どうも支部の方でトリプルC濃度の貯水層がやられたらしい。
あれも、貴重だからな。俺が出て見ることになった」
「聖騎士様も大変だね」
「すまないが、ちょっと様子を見てくる。後のことは頼んだぞ」

藤本は、足早に玄関に向かっていった。
祓魔師の仕事は、年中無休といっていい。
でも、今回はあまり時間をとられそうもないな、と雪男は思った。
トリプルC濃度の聖水は、位の高い聖職者の洗礼で作ることができる。

藤本は、祓魔師としては最高位の聖騎士だ。
濃度の高い聖水は、ちょっとのコールタールが混ざり込んだだけでも反応を示してしまう。保存する時には気を使うデリケートな代物だ。
だからこそ、高位の聖職者が定期的に管理をする必要があった。
今回、たまたま上位の祓魔師が出払っていたので、
神父にお鉢が回ってきたということだろう。
きっと貯水層の聖水に洗礼をするだけだから、すぐに終わりそうだ。

雪男は残りの片づけをするために、リビングにおいてあったゴミ袋を手に取った。
いらないものは、朝のうちにまとめてゴミに出しておいた。
残りは、着れなくなった服とかかな、と思っていると。
ミサを終えた修道士達がリビングに集まってきた。

「おう、雪男。片づけすんだのか?」
「だいたいね。あとはゴミ出しくらいかな」
「あんなにちっちゃかった雪男がもう高校生とはなぁ」
「雪男がいなくなっちまうと。ここも、寂しくなるなぁ」
「藤本神父なんか、泣いちゃうんじゃないか?」

修道士達は口々に寂しいなとつぶやく。
雪男はそれに苦笑した。
自分がいなくなっても、まだ双子の兄が残っている。
まだ面倒事は山のように残っているだろうに。
でも、かまわれて悪い気はしなかった。

「僕は寮に入ってしまうからここから出るけど、
まだ手の掛かる兄さんが残っているし、寂しくはないと思うよ。
そういえば、兄さんの姿を見かけないけど、どこかに出てるのかな」

雪男は窓の外を見た。ゴミ収集車はまだ来ていない。
早く片づけた方がいいかなぁ。と思っていると、修道士達が怪訝な顔をしていった。

「なにいってんだ?雪男」
「え?いや、ゴミ早く片づけたほうがいいかなぁって・・・」
「違う違う。お前に兄ちゃんなんていないだろ?なにいってんだ?」

雪男の手が止まった。
冗談にしてはタチが悪い。
しかし、見上げた修道院の仲間の顔は、それが「当たり前」という表情だ。
何を言っているんだろう。雪男は狐につまれたような気分になった。

「まだ四月一日には早いでしょう。冗談はやめてよ」
「いや、お前春休みボケでも起きたのか?」
「違う!僕の双子の兄さん。奥村燐のことだよ!忘れたの!?
一体どうしちゃったのさ!!」
「だ、だったら。お前の部屋見て見ろよ。お前、ずっと一人部屋じゃんか」

言われて、そんなはずないと叫んで、急いで部屋に戻った。
扉を開けて、確認する。
二段ベッドがひとつと、机が2つ。
あとは、雪男が片づけてしまったので、なにもない。
二段ベッドも確認したが、そこから兄の布団はなくなっていた。
机の引き出しにもなにも入っていない。
二つの物が揃えられてはいるが、確かにこれは2人部屋とは言い難い。
まるで、ここには最初からだれもいなかったかのような。

がらんとした空間だ。
そんなの嘘だ。兄さんがいなくなるわけない。
雪男は、荷造りを終えた段ボール箱をひっくり返す。

「そんなわけない・・・そんなわけ」

中学校のアルバムを開けた。兄がいるなら、同じ中学に通っているはず。
名簿の一覧をみたが、そこに名前はない。
小学校の時はどうだろう。
探したが、どの段ボール箱に入っているのかがわからない。
写真は、アルバムは。
雪男は、燐の思い出を探した。
段ボール箱を探して、兄が使っていたノートや教科書がないかもみた。
なにもない。

どうして。
どうして。

混乱する。
兄はいないというみんなの言葉が信じられない。
雪男の記憶では、兄が笑っている表情がすぐに浮かんでくるのに。
ふいに思い出した記憶の中の兄は、幼い姿のままだった。
雪男は、手に握っていたゴミ袋のくしゃっとした感触で我に返った。

「ゴミ・・・まさか・・・」

雪男は青い顔をして、修道院の玄関を飛び出した。
それを見ていた修道士達は、なおも怪訝な顔で全力で走る雪男を見送った。

「どうしちまったんだ?雪男」
「さぁ」

修道士達は、雪男がなにをしたいのか、さっぱりわからなかった。



花の命は短くて



あ、まずい。
と思ってとっさに隠れた。
扉から、人が入ってくる。


「おや?誰かいたような・・・」
メフィストは自分の執務室に入り、扉を閉めた。
どうも、自分の机の前に置かれている応接用の机の前に、
誰かがいたような気がしたのだが。
メフィストは急いで、その机の前に置かれているものに手を伸ばす。
これを誰かに見られては大変だ。
それを自分の懐にしまおうとして気づく。
位置が、変わっている。
メフィストは、ソファの後ろに向けて声をかける。

「出てきなさい、いるんでしょう?」
「・・・にゃはーバレたか」

ソファの影からにょっきりと顔を出したのは、シュラだった。
人の部屋に勝手に入っておきながら、彼女は悪びれる様子もなく
どかっとそのソファに座る。

「悪い悪い、用があったんだけど留守だったもんで」
「・・・だからって勝手に入るのは淑女としてどうかと」
「いいじゃんよー、それは置いといてー。っていうかお前。それなんだよ?」

シュラが指し示した物。メフィストはまずい、といった表情を隠さない。
机の上に広げられているのは、冊子に閉じられたなにか。
シュラは、一冊を既に手にとっている。
目にも留まらぬ早業だ。メフィストが止めるまもなくシュラはそれを開く。

「・・・誰この金髪少女」
「ちょ!勝手に見ないでくださいよ!!」
「お前いい年してこんな女の子に手を出そうとしてるのか・・・!?
犯罪者!悪魔!!」
「私が悪魔なことくらい知ってるでしょう!誰がいつ手を出すといいました!?
違いますよ!失礼な!」

メフィストがシュラから冊子を奪い返す。
なぜこんな少女の写真をメフィストは持っているのだろうか。
いい年したおっさんが持ってていいものでもないだろうに。

ピロリーン。

愉快な電子音が部屋に響く。
シュラは、携帯で写真をとっていた。
携帯電話には、少女の写る写真を持ったメフィストの姿が。
メフィストは携帯に向けてピンクの傘を向けようとした。
シュラは、携帯を天空に向けて突き上げ、決定ボタンに親指を乗せている。

「動くな、証拠は頂いた。ヴァチカンから日本支部まで、
あることないこと吹き込まれたくなければ話しな」

上一級祓魔師の反射神経ならば、メフィストの魔術が発動するより早く
決定ボタンを押すだろう。

「・・・くっ、貴女年々藤本に似てきましたね」
「ほめ言葉だな」

メフィストは机を挟んで向かいのイスに腰掛けた。
机には、美少女の写真入りの冊子。
お互いに座ってそれを見つめる。
シュラは、携帯を手放さない。
メフィストは、重い口を開いた。

「・・・そもそもこれは少女ではありません」
「なに?合成なわけ?お前の好きな二次元?引くわー」
「・・・二次元の崇高な趣味を理解して貰わなくて結構。
これは、貴女もよく知る人物です」
「はぁ?こんな美少女知らねーよ」

こんな美人、一度見たら忘れられない。
シュラは、優秀な祓魔師なだけあって記憶力もいい。
自分の記憶に間違いがあるとは思えなかった。

「・・・アーサーです」
「は?」
「だから、この少女・・・と言っては語弊がありますが。
この写真は、貴女の上司。アーサー=オーギュスト=エンジェルです」
「は・・・はあああああああああ!!???」
シュラはもう一度写真を見た。

さらさらの金髪、澄んだ瞳。
極めつけの優しい微笑み。
あ、でも服は相変わらず全身白い。
この少女・・・いや美少年が数年後には
あの残念なイケメンに変わるのかと思うと、実に時の流れは無情である。
しかし、アーサーは今といい昔といい顔だけは一級だな。
と上司に対して大変失礼なことをシュラは思った。

「で、なんでお前があいつの写真持ってるんだ?まさか・・・」

シュラの携帯を持つ指がかち、かち。と揺れている。

くそ、この女。顔がにやついている。
おもしろいことを見つけたという表情だ。
悔しい、こんな上から目線でいい顔するのはメフィストの特権のはずなのに。
メフィストは、こうなったらこいつも巻き込んでやろうと腹を括った。

「これは、ヴァチカンのお偉いさんの持ち物ですよ」
「え?」
「貴女も聞いたことありませんか。なんといいますか、こう。
上層部に少年を愛するおじさんがいるという事実を」

シュラは、こいつ以外にもそんな少年趣味の変態いるんだなぁと感心した。
世の中には、まぁそういう趣味の人がいることも知っている。
しかし貴族的な位置の者ほどそういった禁忌の愛に目覚めてしまうのだろうか。
自分の上司が、そういう目で見られていたことを知って
なんともいえない気分になった。

「昔のアーサーは、それはもうすごかったらしいんですよ」
「美形っぷりが?」
「そうです、振りまく可憐な仕草に洗練されたマナー。
純粋培養とはよくいったものですよね。
お偉いさんは、その頃のアーサーが忘れられないそうなんですよ。
今や彼はそこらの悪魔なんか目じゃないくらいの豪傑ですしね。
時の流れとは恐ろしい、と涙を流している方もいました」
「ああああああ」

知りたくなかったなぁああとシュラは思った。
次ヴァチカンに戻ったとき、どんな顔して上の者と会えばいいのだろう。
お前か?お前なのか?
と犯人探しをしてしまいそうで怖い。
その時、自分は笑わずにいられるだろうか。恐ろしい。

「こんなに写真があるなんて、あいつほんとに顔だけが取り柄・・・」

シュラが机にあった冊子の一冊を手にとって、中を見た。
そして、おもいっきり冊子を閉じた。
今、非常にまずいものを見てしまった。
自分の目を疑うものを。

「おい・・・これ」
「・・・ええ、彼らの次のターゲットです」

そこには、アーサーの写真に混じって、奥村燐の写真があった。
なぜここに燐の写真が。
あいつはアーサーと違って純粋培養ではないし、不良だし。
ヴァチカンが憎む魔神の落胤なのに。

「顔か」
「そして、魔神の落胤という部分も禁忌好きの心をくすぐるらしくて・・・」
「あの二人の共通点って、本当に・・・あれか、頭が残念だと顔がよくなるのか?」

「しかも、燐君の場合悪魔ですから、
おそらく今後成長は緩やかなものになるでしょう。彼らの理想なんですよ」
「永遠の15歳?」
「少なくともお偉いさんが生きている間はね」

あれか、これはヴァチカンのくだらないタイプの密命か。
メフィストはヴァチカンのお偉いさんの美しいものを愛でる趣味を満たすために、
写真の斡旋を頼まれているのだ。
シュラは、本題を聞いた。

「で、いくらだ?」

メフィストは、シュラに向けて指を立てた。
その金額にシュラは驚愕する。
なんてことだ、あの馬鹿弟子。
こんなに金になるなんて。
さすがヴァチカンの金持ちは規格外だ。

「じゃあ、私の携帯の写真も混ぜるか?解像度いいぞ」
「お、貴女もいける口ですね。こうなれば一蓮托生です、儲けは山分けで」
「お前も悪よのう」
「いえいえお代官様ほどでは。それに、秘蔵の写真は渡しませんしね。
ここにあるのはそれこそランク外写真ばかりでして・・・」

大人二人の悪い話がまとまろうとしたところで。
しゃらん、という刀を抜く音がシュラの背後から聞こえた。
しかも、青い光が見える気がする。
シュラの向かいに座るメフィストは、もろにその姿を見てしまった。
青い炎を纏い、こちらに向けて倶利伽羅を振りおろそうとするその姿。

「おーまーえーらああああ!!!!!」
「ぎゃあああ!燐君どうしてここに!!」
「にゃああ!!燐、違うんだこれは!!」

実のところ、燐はシュラがくる前からメフィストの部屋に用があってきていた。
シュラが入ってきたことで、思わず隠れ、
更にシュラがメフィストが来たから隠れた。
燐がいるとは知らない二人は、やりたい放題だった。
交わされようとしていた自分を売る会話という名の商談。許せるはずもない。

「てめぇら写真だせ!!全部燃やしてやる!!」

メフィストの部屋が、青い炎に包まれた。
もちろん、写真は一切合切燃やされて、
画像データすら残すことも許されなかったという。

背面の悪意


「アーサー、あの子を見て」
「あの子?」

カリバーンに言われた視線の先には、憎き魔神の落胤。
奥村燐がいた。

先ほどまで、森の中にいた悪魔と一戦交えていたようだ。
周囲には奥村燐とチームを組んでいた祓魔師の姿もある。
だが、仲が良いとはいえないようだ。
奥村燐は、位はまだ候補生。
今回の任務では候補生は後方支援となっているが、奥村燐の戦闘能力はそこらの祓魔師よりも数段上だ。
だから、人手の足りない任務には大抵かり出されることになる。
任務事態は簡単だ。この森に潜む、悪魔を狩ること。
悪魔自体は、ゴブリン族なので大したことはない。
ただ、数が尋常ではないのだ。
なんでも、森の環境がゴブリンが育つには最適の環境だったらしく正十字騎士団が気づいた時には
有象無象のゴブリンの都のごとくなっていたらしい。
ゴブリン、といえば地の王の眷属だ。
地の王、アマイモンもゴブリンの中でも上級に位置するヘビモスを連れている。
アマイモンはさすがに現れないだろうが、森のゴブリンの中にヘビモスが混ざっていればやっかいなことになる。
そのため、上級の祓魔師。
聖騎士のアーサーが任務に同行することになった。

実の所ヘビモスについては、あくまで周囲への建前だ。
魔神の落胤が暴走した場合に排除できる存在。
それが、必要だったということ。

奥村燐の監視役のシュラと雪男は、別の隊を率いてこちらと同じようにゴブリンを排除している。

つまり、ここには奥村燐の味方と呼べる存在はいない。

アーサーは、特に気にすることもなく別の祓魔師に声をかけた。
ここの浄化作業はおおむね方がついた。
もっと深部へと足を進めよう。
そういって、アーサーは祓魔師とともに森の奥に入っていく。
ちらりと見た奥村燐は、後ろから遅れながらついてきているようだった。
その足取りは、重い。
アーサーはため息をついてつぶやいた。

「やせ我慢がいつまで続くかな」
「どうかされましたか?」

部下に話しかけられたが、答えるつもりもなく。
なんでも。とだけ言って、先を行く。


ほどなくして、またゴブリンの群に出会った。
予想通りというか。想定していた最悪の事態が起きる。
ゴブリンの中に、ヘビモスが混ざっていたのだ。
そのヘビモスは、森に潜む群のボスのようだった。
これを叩けば、統率のなくなったゴブリンを排除することはたやすい。
アーサーは、ヘビモスに刃を向ける。
同じく燐も、倶利伽羅をふりかざした。周囲の祓魔師が怖じ気付く。
仕方ないことだ。魔神の炎とはそれほどまでに恐ろしいものなのだ。

「ちょこまかと面倒な奴だ!」
「ちょ、危ねぇ!そこどけ!金髪ハゲ!」
「黙れ、俺はハゲてなどいない!貴様こそ邪魔だ!」

背後から、竜騎士と手騎士の援護を受けて、二人はヘビモスに手傷を負わせていく。

そして、聖騎士と魔神の落胤に追いかけられて、ヘビモスは追いつめられた。
二人に挟まれ、逃げ場はない。
あとは、タイミングを見て切り込むだけだ。

そんなとき、いきなり燐が地面に膝をついた。

「え?」

燐自身も想定外というか。想像していなかったらしい。
自分の体に驚いている、という風だ。
ヘビモスは、空いた隙を、逃げ場を逃さなかった。
燐に向けて牙を向けて襲いかかってくる。
燐は迎撃しようとするが、体に力が入らないようだ。
倶利伽羅で防ぐことは間に合わない。
せめてもの防御だろうか。青い炎が燐の体を守るように包み込む。
アーサーは舌打ちをして、剣をヘビモスへと向けた。



「兄さん、大丈夫かな」

雪男は、燐がいる隊とようやく合流することができた。
燐と同じ部隊の竜騎士から話を聞けばアーサーと燐はヘビモスを追って森の奥へ行ったという。
近づくなら、注意したほうがいいという竜騎士の助言を受けながら雪男は足を進めていった。
今回の任務では、シュラと雪男が燐と引き離されるような組分けになっている。
何者かの悪意を感じるようなそれを、燐は特に気にしていないようだった。
しかし、燐の隊には悪魔を毛嫌いしているアーサー=オーギュスト=エンジェルがいる。

なにかあってからでは遅いのだ。

雪男は、燐のことが心配で足早に燐達の後を追いかけた。
視線の先。森の奥。
そこには、白い祓魔師のコートと正十字学園の制服を着た人物の影が見えた。
雪男は、声をかけようとした。
しかし、その前に。
制服を着た人物が倒れ込む姿が見えた。

「・・・え」

雪男が駆け寄った現場には。

惨殺されたヘビモス。
そして、腹を刃物で斬られて倒れる兄の姿があった。

傍に立っていたアーサーがカリバーンの刀身についた血を払い鞘に納めている。
アーサーの足下には、銀弾のようなものが転がっていた。
援護射撃をしていた竜騎士が放ったものだろうか。
戦闘の現場ではよくあることだ。森の中には至る所に転がっている。
しかし、そんなことよりも。

雪男は燐に駆け寄った。
そして、アーサーと燐の間に自分の体を滑り込ませる。
アーサーを、これ以上燐に近寄らせたくなかった。

「なにをしているんですか!!!」
「なに?おかしなことを言うな奥村雪男。祓魔対象を処分した。それだけだろう?」
「・・・祓魔対象は、ヘビモスだけだろう!!兄になにをした!!!」
「別に、ヘビモスが奥村燐を標的にしていたから、斬っただけだ・・・
これに懲りたら次回から俺の手をわずらわせないことだな。任務は終わりだ。
その荷物の世話くらいお前が見るといい」

つまり、アーサーはヘビモスもろとも燐を斬ったということだ。
味方であるはずの者に、燐は斬られたのだ。

「貴様・・・!!」

雪男は、反射的に腰のホルスターに手が伸びそうになる。
撃ってやりたい。家族を傷つけた奴が許せない。
しかしそれを止めたのは、傷ついた燐の手だった。

「雪男、やめろ」
「兄さん・・・!大丈夫なの!?」
「ああ、ちょっとふらつくけど。もう治ってる。心配いらねーよ」
「でも!」

見れば、もうアーサーはいなくなっていた。
森の中、見える範囲には人影はもうない。
祓魔師達を率いて別の場所に向かったようだ。
雪男は、燐の腹の傷を見る。傷は塞がっていたが、制服に飛び散った血が生々しい。

雪男の痛々しい表情を見て、燐は大丈夫だよ。と雪男に声をかけた。

「心配すんなって。むしろ、さっきより調子いいんだ。ほら、戻ろうぜ」
「・・・なに?どういうこと」
「さあな」
「言ってよ兄さん」
「あいつには礼を言う必要はないってことだ。痛かったし」
「当たり前でしょ!なんでお礼なんだよ!軽くて文句、重くて同じ目にあわせてやろうか!くらいは言いたいよ!」
「いや、同じ目にあったら、あいつ一応人間だから死ぬんじゃね・・・?」

つまり、遠回しに死ね。といいたいのだろうか。
燐は、腹をさすりながら歩きだした。
足取りは軽い。歩きながら、地面に落ちていた銀弾を石ころのように蹴りとばす。

そして、雪男に聞こえないようになるほどな。とつぶやいた。



「アーサー、あの子を見て」
「あの子?」

カリバーンに言われた視線の先には、憎き魔神の落胤。
奥村燐がいた。

「あの子、様子がおかしいわ。どうも、お腹の中になにかあるみたい」
「なんだ、妊娠か?」
「ちがうわ」
「冗談だ」
「あの子・・・お腹の中に銃弾、あるみたい。だから調子が悪そうなのね」

カリバーンは魔剣だ。同じく魔に属する者として悪魔のことがわかる。
アーサーはいつもはカリバーンのこの力を悪魔の探索に使っていた。
この力で奥村燐のことについてわかるとは想定外だったが。


「大方、援護射撃・・・だろうな。ふ、あいつにとっては援護とは言い難いか」


援護射撃の中に混ざっていた。悪意ある一弾。

誰がやったかなど、アーサーには興味はない。
同じ隊の者かもしれないし、そうではないかもしれない。
それでいい。
青い夜で、家族を失った祓魔師は多い。
その悪意が、魔神の落胤である奥村燐に向かったとしてもなんらおかしいことではない。
奥村雪男が燐を傷つけられて感じたことを、誰かが腹の底で思っていた。
そういうことだろう。

奥村燐が決めた、悪魔が祓魔師を目指すという道は茨の道だ。

その悪意の牙が降り懸かった。それだけのこと。

「でも、いいの?アーサー。やり方は乱暴だったけど、あの子のこと助けてあげたんでしょう?」
「俺にとってはどうでもいいことだ」
「そう、ならいいわ」

ヘビモスが奥村燐に向かったのは偶然だ。
ヘビモスごと燐を斬って、腹の中にあった銀弾を摘出した。
悪魔の治癒能力は高い。
銀弾が体内に残ったままだったので、燐は体調が悪かったのだ。
そして、燐は撃たれたことを周囲に黙っていた。
言えなかった、という事情もあったのだろうが。


助けを叫べないのなら、助けがいらないくらい強くならなければならない。
それができないなら、潔く俺に殺されろ。


「お前が警戒するのは、前に立ちふさがる悪魔ではない・・・背後に庇う人間だ」


アーサーのつぶやきは、誰の耳にも届かずに森の奥へと消えていった。

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