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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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背面の悪意


「アーサー、あの子を見て」
「あの子?」

カリバーンに言われた視線の先には、憎き魔神の落胤。
奥村燐がいた。

先ほどまで、森の中にいた悪魔と一戦交えていたようだ。
周囲には奥村燐とチームを組んでいた祓魔師の姿もある。
だが、仲が良いとはいえないようだ。
奥村燐は、位はまだ候補生。
今回の任務では候補生は後方支援となっているが、奥村燐の戦闘能力はそこらの祓魔師よりも数段上だ。
だから、人手の足りない任務には大抵かり出されることになる。
任務事態は簡単だ。この森に潜む、悪魔を狩ること。
悪魔自体は、ゴブリン族なので大したことはない。
ただ、数が尋常ではないのだ。
なんでも、森の環境がゴブリンが育つには最適の環境だったらしく正十字騎士団が気づいた時には
有象無象のゴブリンの都のごとくなっていたらしい。
ゴブリン、といえば地の王の眷属だ。
地の王、アマイモンもゴブリンの中でも上級に位置するヘビモスを連れている。
アマイモンはさすがに現れないだろうが、森のゴブリンの中にヘビモスが混ざっていればやっかいなことになる。
そのため、上級の祓魔師。
聖騎士のアーサーが任務に同行することになった。

実の所ヘビモスについては、あくまで周囲への建前だ。
魔神の落胤が暴走した場合に排除できる存在。
それが、必要だったということ。

奥村燐の監視役のシュラと雪男は、別の隊を率いてこちらと同じようにゴブリンを排除している。

つまり、ここには奥村燐の味方と呼べる存在はいない。

アーサーは、特に気にすることもなく別の祓魔師に声をかけた。
ここの浄化作業はおおむね方がついた。
もっと深部へと足を進めよう。
そういって、アーサーは祓魔師とともに森の奥に入っていく。
ちらりと見た奥村燐は、後ろから遅れながらついてきているようだった。
その足取りは、重い。
アーサーはため息をついてつぶやいた。

「やせ我慢がいつまで続くかな」
「どうかされましたか?」

部下に話しかけられたが、答えるつもりもなく。
なんでも。とだけ言って、先を行く。


ほどなくして、またゴブリンの群に出会った。
予想通りというか。想定していた最悪の事態が起きる。
ゴブリンの中に、ヘビモスが混ざっていたのだ。
そのヘビモスは、森に潜む群のボスのようだった。
これを叩けば、統率のなくなったゴブリンを排除することはたやすい。
アーサーは、ヘビモスに刃を向ける。
同じく燐も、倶利伽羅をふりかざした。周囲の祓魔師が怖じ気付く。
仕方ないことだ。魔神の炎とはそれほどまでに恐ろしいものなのだ。

「ちょこまかと面倒な奴だ!」
「ちょ、危ねぇ!そこどけ!金髪ハゲ!」
「黙れ、俺はハゲてなどいない!貴様こそ邪魔だ!」

背後から、竜騎士と手騎士の援護を受けて、二人はヘビモスに手傷を負わせていく。

そして、聖騎士と魔神の落胤に追いかけられて、ヘビモスは追いつめられた。
二人に挟まれ、逃げ場はない。
あとは、タイミングを見て切り込むだけだ。

そんなとき、いきなり燐が地面に膝をついた。

「え?」

燐自身も想定外というか。想像していなかったらしい。
自分の体に驚いている、という風だ。
ヘビモスは、空いた隙を、逃げ場を逃さなかった。
燐に向けて牙を向けて襲いかかってくる。
燐は迎撃しようとするが、体に力が入らないようだ。
倶利伽羅で防ぐことは間に合わない。
せめてもの防御だろうか。青い炎が燐の体を守るように包み込む。
アーサーは舌打ちをして、剣をヘビモスへと向けた。



「兄さん、大丈夫かな」

雪男は、燐がいる隊とようやく合流することができた。
燐と同じ部隊の竜騎士から話を聞けばアーサーと燐はヘビモスを追って森の奥へ行ったという。
近づくなら、注意したほうがいいという竜騎士の助言を受けながら雪男は足を進めていった。
今回の任務では、シュラと雪男が燐と引き離されるような組分けになっている。
何者かの悪意を感じるようなそれを、燐は特に気にしていないようだった。
しかし、燐の隊には悪魔を毛嫌いしているアーサー=オーギュスト=エンジェルがいる。

なにかあってからでは遅いのだ。

雪男は、燐のことが心配で足早に燐達の後を追いかけた。
視線の先。森の奥。
そこには、白い祓魔師のコートと正十字学園の制服を着た人物の影が見えた。
雪男は、声をかけようとした。
しかし、その前に。
制服を着た人物が倒れ込む姿が見えた。

「・・・え」

雪男が駆け寄った現場には。

惨殺されたヘビモス。
そして、腹を刃物で斬られて倒れる兄の姿があった。

傍に立っていたアーサーがカリバーンの刀身についた血を払い鞘に納めている。
アーサーの足下には、銀弾のようなものが転がっていた。
援護射撃をしていた竜騎士が放ったものだろうか。
戦闘の現場ではよくあることだ。森の中には至る所に転がっている。
しかし、そんなことよりも。

雪男は燐に駆け寄った。
そして、アーサーと燐の間に自分の体を滑り込ませる。
アーサーを、これ以上燐に近寄らせたくなかった。

「なにをしているんですか!!!」
「なに?おかしなことを言うな奥村雪男。祓魔対象を処分した。それだけだろう?」
「・・・祓魔対象は、ヘビモスだけだろう!!兄になにをした!!!」
「別に、ヘビモスが奥村燐を標的にしていたから、斬っただけだ・・・
これに懲りたら次回から俺の手をわずらわせないことだな。任務は終わりだ。
その荷物の世話くらいお前が見るといい」

つまり、アーサーはヘビモスもろとも燐を斬ったということだ。
味方であるはずの者に、燐は斬られたのだ。

「貴様・・・!!」

雪男は、反射的に腰のホルスターに手が伸びそうになる。
撃ってやりたい。家族を傷つけた奴が許せない。
しかしそれを止めたのは、傷ついた燐の手だった。

「雪男、やめろ」
「兄さん・・・!大丈夫なの!?」
「ああ、ちょっとふらつくけど。もう治ってる。心配いらねーよ」
「でも!」

見れば、もうアーサーはいなくなっていた。
森の中、見える範囲には人影はもうない。
祓魔師達を率いて別の場所に向かったようだ。
雪男は、燐の腹の傷を見る。傷は塞がっていたが、制服に飛び散った血が生々しい。

雪男の痛々しい表情を見て、燐は大丈夫だよ。と雪男に声をかけた。

「心配すんなって。むしろ、さっきより調子いいんだ。ほら、戻ろうぜ」
「・・・なに?どういうこと」
「さあな」
「言ってよ兄さん」
「あいつには礼を言う必要はないってことだ。痛かったし」
「当たり前でしょ!なんでお礼なんだよ!軽くて文句、重くて同じ目にあわせてやろうか!くらいは言いたいよ!」
「いや、同じ目にあったら、あいつ一応人間だから死ぬんじゃね・・・?」

つまり、遠回しに死ね。といいたいのだろうか。
燐は、腹をさすりながら歩きだした。
足取りは軽い。歩きながら、地面に落ちていた銀弾を石ころのように蹴りとばす。

そして、雪男に聞こえないようになるほどな。とつぶやいた。



「アーサー、あの子を見て」
「あの子?」

カリバーンに言われた視線の先には、憎き魔神の落胤。
奥村燐がいた。

「あの子、様子がおかしいわ。どうも、お腹の中になにかあるみたい」
「なんだ、妊娠か?」
「ちがうわ」
「冗談だ」
「あの子・・・お腹の中に銃弾、あるみたい。だから調子が悪そうなのね」

カリバーンは魔剣だ。同じく魔に属する者として悪魔のことがわかる。
アーサーはいつもはカリバーンのこの力を悪魔の探索に使っていた。
この力で奥村燐のことについてわかるとは想定外だったが。


「大方、援護射撃・・・だろうな。ふ、あいつにとっては援護とは言い難いか」


援護射撃の中に混ざっていた。悪意ある一弾。

誰がやったかなど、アーサーには興味はない。
同じ隊の者かもしれないし、そうではないかもしれない。
それでいい。
青い夜で、家族を失った祓魔師は多い。
その悪意が、魔神の落胤である奥村燐に向かったとしてもなんらおかしいことではない。
奥村雪男が燐を傷つけられて感じたことを、誰かが腹の底で思っていた。
そういうことだろう。

奥村燐が決めた、悪魔が祓魔師を目指すという道は茨の道だ。

その悪意の牙が降り懸かった。それだけのこと。

「でも、いいの?アーサー。やり方は乱暴だったけど、あの子のこと助けてあげたんでしょう?」
「俺にとってはどうでもいいことだ」
「そう、ならいいわ」

ヘビモスが奥村燐に向かったのは偶然だ。
ヘビモスごと燐を斬って、腹の中にあった銀弾を摘出した。
悪魔の治癒能力は高い。
銀弾が体内に残ったままだったので、燐は体調が悪かったのだ。
そして、燐は撃たれたことを周囲に黙っていた。
言えなかった、という事情もあったのだろうが。


助けを叫べないのなら、助けがいらないくらい強くならなければならない。
それができないなら、潔く俺に殺されろ。


「お前が警戒するのは、前に立ちふさがる悪魔ではない・・・背後に庇う人間だ」


アーサーのつぶやきは、誰の耳にも届かずに森の奥へと消えていった。

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