青祓のネタ庫
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「この浮気者」
絶対零度の青い瞳が、自分を見下ろしている。
青い瞳の中に宿る赤色の光彩がまるで燃えているかのような印象を受けた。
その振り切った右手の平の跡は、くっきりと自分の頬についているはずだ。
じんじんと痛む頬を押さえながら、勝呂は思った。
どうしてこんなことになってしまったのだろうかと。
***
勝呂は、朝のジョギングを終えて寮に戻ろうとしたところで何かの視線を感じた。
視線の方向に目を向けると、ただの茂みしかない。
なにかがいたような痕跡はなかった。
勝呂は疑問に思いながら、首を傾げる。
確かに、誰かに見られていたような感じがしたのだ。
気になって、茂みの向こうをのぞいたりもしたが、なにもない。
「・・・気のせいやろか」
正体は分からないがあまりいい気分ではない感触だった。
ねっとりとした。というか。自分を見ている。と伝えるような。そんなメッセージを感じたのだ。
悪魔の類なら自分で祓うことも考えた方がいいかと勝呂は腕につけている数珠を鳴らした。
祓魔師は、多かれ少なかれ悪魔から恨みを買うものだ。
悪魔が報復目的で祓魔師を襲う例も過去何件も起きている。
それは正式に祓魔師になっていない候補生でも同じことが言えるだろう。
悪魔にとっては、祓魔師よりも候補生の方が抵抗力が弱い分狙いやすいのかもしれない。
勝呂はそう考えて、ふうとため息をついた。
これでも、あの不浄王と一戦やって生き残ったのだ。
ちょっとやそっとのことでは動揺しない。
今ならリーパーと向き合っても尽き従わせるくらいの度胸もついた。
そう。悪魔を祓う者は、それ相応の覚悟を持たなければならない。
それは、自分が悪魔に恨まれることも。自分の周囲の人間を悪魔に襲われることも指す。
だから、祓魔師の家族が自衛の為に祓魔師になることも決して珍しいことではない。
勝呂は、少し考えて今のところ害はなさそうだったので、放っておくことにした。
実害はまだない。それに、正体もわからない。対策の取りようもなかった。
「・・・ってあかんわ。今日祓魔塾でテストあるんやったわ。帰って勉強せな」
時計を確認して早足で駆けた。
なんなら、塾の先生なり誰かに相談することだってできる。
勝呂はひとまず、携帯電話で日付とメモを残しておいた。なにかあった時の為にデータは必要である。
勝呂は候補生にも関わらず、日常生活でもとても優秀な祓魔師としての行動をおこしているのだが、
本人はそれを特に気にしないままさっさと新男子寮の方へと戻っていった。
勝呂の目標は、魔神を倒すことである。
その為には一つでも多くの経験を積むべきなのだ。
それに、目標の為には努力を惜しんではいけない。
雪男が勝呂の様子を見るたびに、兄に爪の垢を煎じて飲ませたいと言うくらいだ。
勝呂の日常はこんな具合にストイックかつストイックにできている。
***
体育の授業中のことだった。
今日の授業内容は走り高跳びだった。
助走をつけて地面をかけ、棒を落とさないように身体をジャンプさせる。
勝呂がジャンプした瞬間。なにか視線を感じた。
ねっとりと自分を見る視線。
クッションに着地して、すぐに起きあがる。
しかし、そんな視線の主など誰もいなかった。
クラスメイトなどは、よくあんなにとべるなぁと感心した声しか上げていない。
クラスメイトではない。外部か。
勝呂は何事もないように装っているが、内心集中できない違和感を覚えている。
次の順番があるのでひとまず歩いて、そのままクラスメイトが並んでいた列の一番後ろに戻った。
「恨み買われるようなことは・・・特には・・・」
勝呂は背後になにかがいる気配を感じて、腕を伸ばす。
ねじり上げはしなかったが、相当力が入っていたのは確かだ。
「いてぇ!」
声に聞き覚えがあった。勝呂は背後の主を確認すると慌てて手を離した。
「なんや奥村かいな」
「いきなりなにすんだよ!」
「・・・俺の後ろに立つなや」
「どこのゴルゴだ!」
いてぇとさする燐の腕には勝呂の腕の跡が残っていた。
燐の腕は他のクラスメイトと違ってかなり白い。手の跡も残りやすいようだった。
悪魔に目覚めてから若干肌の色も薄くなったらしい。悪魔の身体は人間の目を惹くようにできている。
それは言葉、身体、仕草、全てで人間を引き寄せようという悪魔の本能からきているようだ。
燐本人にとっては別に人間をどうこうしようなどど思ったことは一度もない。
悪魔は人間の目を惹くようにできている。
しかし、その悪魔を見て人間の方がどう感じるかによって悪魔はその姿を変えるということだ。
勝呂は体操着姿の燐の身体を見た。
ハーフパンツから覗く足は細く白い。
そして、開いた上着からは鎖骨が顔を出しており、心なしか袖口は長かった。
「なんやお前着ているもんがえらいでか・・・」
「お前は!俺を!怒らせたッ!!」
燐に胸ぐらを捕まれつつも、勝呂はにやけた顔を押さえなかった。
体操着の名前は奥村になっていた。たぶん、燐は体操着を忘れたのだ。
そして、同じ名前の雪男から借りたのだ。
しかし身長差はどうしようもない。サイズの違いは多少、しょうがない面がある。
笑っている勝呂がむかつくのか、燐はぷりぷりと怒っていた。
それが、やはりおかしくて笑ってしまう。
笑ったおかげだろうか、先ほどまで気になっていた視線が今はなくなっている。
燐はひとまず落ち着こうと思ったのか、勝呂の胸倉から腕を外した。
「そういえば、ウチとお前のクラスが授業被るのって珍しいこともあるもんやな」
「ん?ああ、そういやそうだな。暇だからこっちの授業も見てたんだけど、
やっぱ勝呂かっけーよなぁ。あんな綺麗に高跳びすんだもんなぁ」
燐にきらきらとした目で見られて、勝呂は居心地が悪くなった。
燐は、勝呂にあこがれている。
男らしい背に、男らしいがっしりとした身体。
力は燐の方があるが、それは悪魔の力があるからだ。
燐は、見た目も中身も男っぽい者に強いあこがれを抱いている。
そして、勝呂はそんな目で見られることが悪くないなぁと思っていた。
でも、悪くないなぁと思っていても。恥ずかしいものは恥ずかしい。
「なんや、変なとこ見んなや」
「別に変じゃねーじゃん、かっこよかったぞ」
「恥ずいこと言うなや・・・それに、お前のが高く飛べるんとちゃうんか?」
「ん、ああ。まぁ飛ぼうと思えばたぶん校舎くらい軽く飛べるだろうな」
燐は指を校舎に向けた。5階建てくらいは軽々いけるらしい。
高跳び選手もびっくりだ。
しかし、それをこの場ですることはできない。
人間が飛べるのは、できて2メートルくらいだろうか。
体育の授業のようにもろに個人の能力が露呈される場面で
悪魔の身体能力を抑えるのはなかなか難しいようだ。
「一回ミスって陸上でいい成績出してさぁ、部活に入らないかって揉めたことあるんだよな」
もちろんメフィストが揉み消したらしいが、
それ以来燐は体育の授業には気を付けているようだ。
こちらに来たのも、さっきいい成績を出しそうになったのでちょっと抜けてきたらしい。
祓魔の裏の世界でも目をつけられているのだ。
せめて表の世界でくらいは大人しくしておきたい。
「だからってサボんなや」
「大ジョブだって、また戻るし。ああ、そういや雪男っていんのか?」
「いや、俺と先生は別のクラスやで。知らんのか?」
「あ、そうか。じゃあもう少しいよう。雪男朝からモノ無くしたみたいで
すんげぇカリカリしてたんだよ。見かけてもあんま近寄らないほうがいいぞ」
「だからサボんなや・・・って先生が?珍しいな」
「だろー」
あの慎重な雪男がモノを無くすとは珍しい。
燐ならよくわかるのだが、それを言うとまた怒られそうなので黙っておいた。
勝呂はあたりを見回した。不思議と、ねっとりと見られていた視線の感触はない。
最後の一人が高跳びを終えたところでチャイムが鳴って、授業が終わった。
燐と勝呂は特に片づけをする必要もなかったので、そのまま二人で下駄箱に向かった。
途中で、子猫丸と志摩とも合流して四人で話ながら教室に戻ろうとした。
異変に気付いたのは、志摩だった。
「あれ、坊なんかげた箱に入っていますよ」
志摩は、勝呂の下駄箱に入れられていた紙を指差した。
折りたたまれているようで、中身は見えない。
真っ白いコピー用紙のようだった。
一瞬以前貰ったことのあるラブレターを思い出して背筋が凍った。
「うおおおお!奥村君!坊がラブレターをッ」
「アホか!んなわけあるかい!」
「勝呂モテるんだなー」
「奥村もなんかあれな目で見るのやめぇ!!」
からかわれる視線を避けようと、勝呂は乱暴にコピー用紙を掴む。
以前貰ったラブレターは丁寧に便箋に入っていた。
流石にラブレターをこんな荒っぽく入れる女子はいないだろう。
勝呂はちょっと緊張しながら、折りたたまれた用紙を開いた。
大方ゴミか何かだろう。中身を確かめて、ぎょっとする。
「これって・・・」
四人は顔を突き合わせた。
題名には、『第12回悪魔薬学小テスト』と書かれている。
問題がずらりと並び、選択問題には答えまで書いてあった。
「あ、これ雪男がなくしたって朝言ってたやつじゃね?」
それが、なぜ勝呂の下駄箱に入っているのだろうか。
燐や志摩たちは首を傾げているが、
勝呂は、真っ青になって自分の朝の言葉を思い出していた。
『今日祓魔塾でテストあるんやったわ。帰って勉強せな』
そして、今日感じていた視線。視線。視線。
視線の主は、確実に存在している。
ひごろのつかれのこうげき!
こんぶはしんでしまった!
ありがとうございました_(x3 」∠)_ ガクリ
「俺、告白すんのやめる」
志摩はきっぱりと言い切った。
燐も、そして雪男もぽかんとした顔をしている。
こういう部分では双子だ。顔がそっくりだった。
「俺は奥村君の死を背負うとか、そんな先生みたいな覚悟はないわ。
俺は、奥村君に死んで欲しいわけやない。もっと一緒に遊びたいし、ご飯だって食べたいし。
あ、手作りやったら尚可やけど、奥村君いまスケスケ状態やから、作れるんかな。
無理かな。それやったら、どっかご飯でも食べにいくんでもええわ。
またあの木陰に行こう。これから学校だって始まるやろ。たぶん。
校舎壊れとるけど、また建て直せるはずや。魔神はおらんようになった。
でも、奥村君がおらんようになるんはいやや。
奥村君が消えてまうんやったら―――俺は言わへん」
一生言わへん。
それが、志摩が決めた覚悟。
告白をしない覚悟、それを告白した。
燐は、それに答えを返す。
「ありがとな、志摩」
燐の身体が青い炎に包まれて、燃えていった。
***
「人の気持ちとは、誰が決めるのでしょうか」
メフィストは言葉を発した。
「自分がなにを好きで、しかもその理由を理論立てて語れる人はそうはいません。
まぁ、そもそも理論上で語れる気持ちなど、アンドロイドに組み込まれた数式みたいなものでしょうけど。
答えを出すのも、理由を決めるのも、自分自身でしかない。
ただ、気持ちを自分でコントロールできたのなら、人は悪魔堕ちなどしませんがね。
つまり、人間の気持ちは自分ではどうにもできない面も持っている。
そして気持ちとは、定義付けもなく曖昧だ」
メフィストは、視線を合わせた。
「奥村燐君、あなたは今どんな気持ちですか?」
弟と友人に致死節を言われ、死にそうになっても、燐は二人を恨んだりはしなかった。
燐は、雪男のことを大切に思っていたし。志摩のことも大事だった。
だから、二人の答えを聞くことが、自分なりの精一杯の誠意だと思ったのだ。
だから、死ぬことがわかっていても、答えたかった。
けれど、その時どんな気持ちだったかと聞かれれば、返答に困る。
必死だった。とでも言うべきなのだろうか。
「うーん、とりあえず離して欲しいかな・・・」
両サイドを志摩と雪男に挟まれて、燐はうんうんと頭を悩ませた。
志摩と雪男はその姿を食い入るように見ている。
その腕はがっちりと燐の身体を押さえている。
ここにいるのを何度だって確かめたいようだった。
「奥村君が慣れない頭を使って爆発しそうですよ、お二人とももう離してはいかがですか」
「いや」
「でも」
「奥村君はどこにも消えませんよ、それはお二人もよくわかっているでしょう?」
メフィストは燐を指さした。
燐は、告白に答えた瞬間に青い炎に包まれて燃え尽きていった。
しかし、燃え尽きたのは『燐自身』ではなかった。
「まさか人間に戻るなんて思わなかったなぁ」
燐は耳も丸くなり、牙も、しっぽもなくなった。
中学時代まで過ごしていた、『人間』の姿になっている。
燐は今まであったしっぽがなくなったことに違和感があるのか、そわそわと動いている。
どうにも、後ろの方が落ち着かない。
「貴方は半分悪魔で半分は人間だ。
おそらくですが、致死節は奥村君の『悪魔』としての部分を殺したのでしょう。
人間に致死節などありませんから、今貴方に残ったのは『人間』としての部分だ。
身体が物質界に存在しているぶん、他の悪魔と同じように憑依が解けて
消えたりしなかったのが幸いでした」
雪男の告白によって致死節に侵された燐は、一回死んでいる。
燐の致死節は、『好きなものから贈られる「好き」という言葉』だった。
雪男の告白は、それに該当する。燐もそれに答えたから死んだのだ。
では、志摩の告白はどうだろうか。
志摩は最後の最後で告白をしない選択を選んだ。
志摩の言葉は燐に直接死を与えたりはしなかった。
しかしそれは燐が志摩のことを好きではなかった理由にはならない。
燐の心に、志摩を慕う気持ちがまったくなかったと言えるだろうか。
答えは否だ。その気持ちは、好きという言葉で語れるほど育ってはいない。
友人と呼べる関係の好きでとどまっているかもしれない。
燐の心には、雪男を思う気持ちと志摩を思う気持ちがあった。
雪男は、誰よりもそばで燐を見ていたからこそ、それに気づいてしまった。
致死節にあたる好き、とは、燐の心の中のどの気持ちに該当するのか。
人の心は曖昧だ。自分でコントロールできるものではない。
燐の心が全て雪男だけに傾いていたのなら、最初の一言で燐は死んだはずだ。
だから志摩の発した言葉の欠片は、確かに燐をこちらに引き留める楔となったはずなのだ。
「俺は、まだまだこれからやっていうことやな」
志摩はほくそ笑んだ。燐の中に宿る成長途中の気持ちをどう育てるか。
志摩が雪男を出し抜くチャンスだ。
そうはさせまいと雪男も笑顔で答える。
「告白する覚悟もないのに、よく言いますね」
「告白するだけが全てやないですやろ先生。
俺は奥村君を死なせたないから、告白せぇへんかった。
だから告白できん分。それ以外の言葉で奥村君に振り向いてもろたらええんや。
気持ちを伝える言葉はひとつじゃあらへん。
奥村君世話焼きさんやから、弟っぽい子好きやろ?
俺、真ん中っ子やから甘え方も甘えさせ方も知っとるよ。ええ物件やでー」
「・・・俺はお前等を喧嘩させるために命賭けたわけじゃねー」
燐がぼやいたが、二人には聞こえていないようだ。
二人とも、譲るつもりは毛頭ない。
「これでようやくフェアな戦いになったわけですね」
メフィストは二人を見てニヤリと笑いながら、燐に問いかけた。
「そういえば、貴方青い炎は使えるんでしょう?」
「おう、人間の体だけど使えるぞ」
悪魔として死んだのに、人間として生きている。
しかし、持って生まれた青い炎は相変わらず健在のようだ。
「魔神が死んだとはいえ、青い炎は虚無界を照らす命の炎のようなもの。
そうそう簡単に尽きたりはしません。倶利伽羅は物質界と虚無界を繋ぐゲートも同然です。
悪魔の心臓がない今。心臓を介して炎を供給するのではなく。倶利伽羅を介した。
例えるなら、召還。今の貴方は、さしずめ『青い炎を倶利伽羅から召還する人間』といったところでしょうか。
こちらも私にとってはお得な物件です」
「なにが」
「おもちゃという面で」
「俺はお前に遊ばれる気はねーからな!!!」
「大丈夫、気づかないだけです」
「全然よくねーよ!」
燐は激高した。せっかく助かったのに、全然助かった気分になれない。
メフィストにかかれば日常生活も命がけになりかねない。
そんなほくそ笑むメフィストを警戒してか、雪男が燐を庇うように前に出た。
そして、雪男は背中ごしに燐に質問する。
「ねぇ兄さん、一つだけ聞きたい。あの時僕に答えようとしてくれた言葉には続きがあるの?」
俺も。と答えた言葉の続き。
燐が二人をどう思っているのかを確かめる為の言葉。
「ああ・・・」
雪男はそれを聞きたかった。しかし、止めたのは志摩だった。
「結論を出すのはまだ早いでー!俺が奥村君を口説いてからでもその言葉の続きは遅くないはずや!」
「志摩君は少し黙っててくれないかな・・・僕も兄さんに負担をかける気はない。
だから、いつかその言葉の続きを聞けるように僕もがんばるさ」
そこには、以前のように追いつめられた雰囲気はなかった。
メフィストは変わりましたね、三人とも。とつぶやいた。
「人間の君たちに質問です、告白とはなんのためにするのだと思いますか?」
志摩は思った。踏み切れない自分が覚悟を決めるためではないかと。
雪男は思った。相手に自分を見て欲しかったからではないかと。
悪魔からの問いに、燐は答えた。
「・・・うーん、新しい関係を築きたかったから。とかじゃねーの?」
志摩は、友達という関係から。雪男は弟という関係から。
一歩を踏み出したかったから言った。
燐はそう思っている。
志摩と雪男は一瞬きょとんとした顔をしたが。
少しだけ笑って、お互いに視線を合わせた。
思っていることは同じらしい。
だからいつだって前を向く、奥村燐が好きなのだ。
「怖いけど先生には負けへんで」
「僕も君に負ける気は更々ないね」
「いや、だから喧嘩すんなよ」
「なんだったら今ここで白黒はっきりつけてもいいんじゃありません?
奥村君は人間になったのですし、告白しても死にませんよ。たぶんね」
「たぶんなのか!?」
燐はメフィストにまた文句を言った。
悪魔が人間になって生き残ったケースは前例がない。
青い炎が操れる人間がいないように、
燐が青い炎が使えなくなって完全に人間になる時がくるのかもわからない。
志摩と雪男の心の中には、まだ燐が死にかけた姿が焼き付いている。
人は経験しなければ学ばない。なくしかけて学んだことがある。
でも。魔神はいなくなった。燐もきっと消えたりしない。
焦ることはないのだと二人は気づいている。
「これからこれから」
「ですね」
と、言いつつ、お互いの足を踏みそうになったのは余談だ。
戦いはすでに始まっている。
告白して、昨日までの関係にさよならをしよう。
そして、好きなんていう一言じゃ語れないくらいの戦争をするんだ。
「明日から学校始まるし、今のうちにリクエストや!
奥村君のお弁当おいしいんやもん。俺、肉がええわ!」
「残念。僕は魚がいい。久しぶりに兄さんのごはんが食べたいな」
「じゃあお前等じゃんけんしろ」
燐が笑って、二人に答えた。
長生きしないとなぁと思った。
昼休憩中に木陰でじゃれあう、そんな三人の関係とは当分さよならはできなさそうだ。
いつもぱちぱちありがとうございます!
いっつも更新にかまけてて、お返しできない拍手を返信です!
遅くてすみませんorz
空パチの方も、返信不要の方もありがとうございます!
にゃん太さんのお言葉に甘えさせていただきます(土下座
更新ばっかしてて見てもらえているのかが若干不安だったのですが、
ありがたいことですね・・・泣
> 01/03 23:59 私も konbuさんの通販に賛成です~様
励ましのお言葉のおかげで通販も、実行してみました。
皆様に十分に行き届いたかは自信がありませんが、
励ましのお言葉ありがとうございます!泣
> 01/04 00:34 いつも楽しく拝読させて頂いております!
東北住まいの私にとって関西は外国にも等しいので~様
通販の重要性を痛感致しました。通販はしてみましたが
お手に届いているかどうか・・・ドキドキ 励ましのお言葉に感謝です!
> 01/09 03:01 インテお疲れ様でした!そして通販、諦めないで下さい!!!様
うおおお、励ましのお言葉で通販への一歩が踏み出せました!
ありがとうございます。次は、次こそはもっと面白いもの出せるように
したいと思います泣 コメントありがとうございます!泣
> 01/14 17:18 リクエスト募集期間に勝呂×燐希望した者です!
リクエスト部屋覗いて悶えました~様
リクエストありがとうございます!まさかコメント頂けるとは思わなかった!
勝呂と燐の組み合わせ大好きなんですよ!
もっとこの二人のお話増やせるように頑張りますねー^^
白鳥君と燐の二人も布教できたようで嬉しいです。
> 01/15 20:38 インテでCLOVERを買わせていただきました^^~様
ぎゃああああ、恥ずかしいですがありがとうございます!!
なんともミスが多くて申し訳ない一品ですが、コメント頂けてちょっと元気でました。
次への励みにさせて頂きますね!しかし恥ずかしいいいいい!
> 01/22 20:24 ikura様
あわわ、素敵と言っていただけるとは・・・!
気に入っていただけるお品があってなによりです!
コメント頂けるとやっぱりうれしいです^^
> 02/02 13:46 いつも面白い小説をありがとございます~様
面白かったですか!よかったです///
もっと面白いと言って頂けるように、がんばります^^
> 02/02 13:38 燐受大好きです♪ここのサイト様のおかげでアスタロトもむちゃおいしいですv~様
アスタロトさんいいですよね!布教活動の成果が出ているようで安心です!同志様!
よろしければまたお越しくださいませ~^^
> 02/04 06:16 おはようございます。
週末の更新とともに通販開始を楽しみにしていたのですが~様
おおう、通販分売り切れてしまい申し訳ありません泣
今の所再販はちょっと難しいかなと考えております・・・orz
次回本を作った際にはもう少し大目に刷らせて頂きますね
> 02/20 00:22 > 02/20 00:13 長編は楽しく読ませて頂きました^^~
奥村くんちの家庭の事情のメフィ燐?もよかったです!~様
3つコメント頂きました!文脈的に同じお方ですかね?
初期の方の作品なのですが、結構人気あるようでうれしいです^^
ありがとうございます!
> 02/20 00:09 短編・中編はどこから読めばいいですか?~様
目次を順番の表示と年ごとに分けてみました!コメントありがとうございます!
> 03/12 06:20 告白して証明、無茶切なくて無茶よかったです!燐くんもですが志摩くんも切ないな…!様
告白してシリーズへのコメントありがとうございます!
こんなに反応頂けるとは、続き書いてよかったです^^
> 03/12 00:45 片瀬眞生様
うおお、長文でのコメントありがとうございます。
見ている方の視点がわかるので、すごくありがたいです。
告白シリーズは三人の関係性ですべてが進んでいるので、関係性へのコメント頂いて感動しました。
もしかして、アンケートの時にもお答えいただいてましたか?
違ったらすみません汗 ご期待にお答えできるかはわかりませんが、これからも書きますね!
> 03/20 20:52 告白シリーズ(シリーズと勝手に言ってすみません)続きが楽しみです!様
ありがとうございます!シリーズなってますので、大丈夫ですよ^^
> 03/26 13:56 ひええ告白してシリーズ激動ですね!
凄く好きなシリーズなので毎週の更新が無茶嬉しいです!様
週一更新頑張ってまーす^^ あなたの言葉が私の糧です!感謝です!
> 03/27 23:55 いぶ様
悪魔への対価、気に入って頂けてうれしいです!
ストーリー物が多いサイトとなっておりますが、少しでも面白いと思って頂けたなら
ありがたいことです。
> 03/27 00:21 笑えますv様
よかった!皆様の笑顔が私を動かす笑
> 04/08 16:16 拍手ネタ、大いに笑わせて頂きました!~様
拍手ありがとうございます!気に入って頂けて嬉しいです^^
クローバーの再販は今の所難しいです・・・すみません汗
頂いた元気で次の作品も頑張りますね!
> 04/15 21:17 こちらのお話達が大好きです。
拍手品もおもしろおかしく読ませていただきました。様
大量生産の作品群となっておりますが、面白く読んで頂けてしあわせです^^
よろしければ、またお越しください!お待ちしております!!
「奥村君・・・?」
志摩は見間違いかと思った。
確かに、ここから声が聞こえてきたのに。
それなのに、そこには誰もいなかった。
視線をあげれば、黒いコートの人物が目に入った。
その人物は、ゆっくりと志摩の方を振り返った。
「志摩君・・・?」
「先生」
その様子で、すべてを悟った。
俺も。直前まで聞こえていた燐の声が、いまはどこにもない。
さっきまで、ここにいたのに。
いたはずだったのに。
志摩は今まで聞いたこともない声で、雪男を怒鳴りつけた。
「あんたが言うたんか!!!先生!!!」
「志摩君・・・」
「知らんかったとは言わさへんぞ!先生は知ってたはずや!!
先生が言うたら、告白したら・・・ッ!奥村君が消えてまうって、先生は知ってたくせに!!!!」
「・・・君も。知っていたんだね・・・そうか、だから兄さんは」
「なんでや!わかってて、なんで・・・」
志摩は、燐に言えなかったことがある。
燐はあのとき、雪男には言わないでくれと言った。
だから、志摩は雪男には言わなかった。
「僕は、フェレス卿から教えてもらっていた。君は、たぶん違うんだろうね。
兄さんからか。兄さんは僕には隠すくせに、君には言うんだね」
雪男は不快そうな顔を隠さなかった。
志摩は、燐との約束通り雪男には言わなかった。
だから、メフィストに教えたのだ。
メフィストに教えれば、おのずと雪男には伝わるだろうと踏んでのことだ。
兄弟の距離が空いて燐の致死節の事情を知っていれば、雪男は燐から離れると思った。
燐は、死なないと信じていたのに。
全部台無しにしたのは、この目の前にいる男だ。
結果は、わかってしまった。
燐はここにはいない。
つまり、燐は志摩のことを好きではなかった。
最後まで、弟のことを好きだったのだ。
燐の致死節がそれを証明してしまった。
志摩は、何度も燐に好きだとささやいた。
それは紛れもない志摩の本当の心から出た言葉だったのに。
やさしく包むような言葉では、燐を救うこともできなかったのか。
少しも心を動かすことはできなかったのか。
「なんや、気にいらんって顔してはりますね。
奥村君のこと全部独り占めにして、あまつさえ殺しておきながら、
それでも足りんいうんか。あんたは」
志摩は、長いものには巻かれるタイプだ。
だから、雪男のような優秀で頭の切れるものに怒鳴り散らすなど、本来なら絶対にしない。
のらりくらりと面倒を避けて生きれればいいと思っていた。
そんな志摩を動かしたのは、燐だ。
燐に死んでほしくなかった。
できることなら笑ってほしかった。
だから、揚げ足をとるようなまねをしても。
悪魔の理事長に情報を流してでも。
こんな結末を止めたかったのに。
「君は、僕を過大評価しすぎなんじゃないかい」
雪男は志摩につぶやいた。
そこには何の感情も見いだせない。
ただ、本心で語っているだろうことは察せれた。
講師も、上一級祓魔師の肩書きもない。
ただの奥村雪男の言葉だ。
「僕が、自分に正直に生きようと思った結果がこれだよ。
嘘をついているうちは一緒にいれて、やめた途端に兄を傷つける。
兄さんは・・・それでも僕に答えてくれたけど。期待していたんだ。なにかが、僕にも。
僕たちにも残るんじゃないかって思ってたのに、ただ一緒にいることもできないなんて・・・ッ」
両親は亡く、養父は殺され。
ただ一人の家族に好きということも許されないなんて。
君がうらやましい。そう言われた気がした。
雪男にとってはただ優しく包み込む言葉すら許されなかった。
言えば、燐が傷つくから。致死節を知ってからは、言わなかった。
雪男は燐が好きだった。
その感情は本当だった。
兄に幸せになってほしかったし、死んでほしいわけでもなかったのだ。
でも、それでも。
「奥村君の死を先生だけのものにしたかったんは、間違いなく先生のエゴや。
だから言うたんやろ」
「そうだよ、だから僕はここにいるんだ」
いつか、兄が悪魔として目覚めた時、雪男は兄を殺す覚悟を決めた。
その死を背負う覚悟を持って。
守りたいのに、殺すかもしれない矛盾を抱えて祓魔師の道を選んだ。
きれいな気持ちだけで、歩いてきたわけではない。
雪男は、自分のことを聖人君子だと思ったことはただの一度もない。
それどころか、悪魔としての本質には、燐よりも自分の方が近いと思っていたくらいだ。
「でも、僕が兄さんに告白しようと思ったきっかけは、間違いなく君だよ」
一年前の。あの昼休憩の頃からだろうか。
燐は雪男ではない、どこか違う場所を見ていることがあった。ここではない。
自分ではないものを見ている。
なんで、僕には言ってくれないのさ。
その視線の先にあるものを、雪男は言われなくともわかってしまった。
兄のことを一番近くで見てきたのだ。だから、イヤでもわかってしまった。
わかりたくなんか、なかった。
だから、消えてしまうとわかっていながら言ったのだ。
「でも、兄さんはまだ生きてる」
志摩は雪男の言葉に顔をあげた。
他の悪魔と同じように、体も消えてしまったのだと思っていたが。
燐は悪魔と人間のハーフだ。当然、普通の悪魔とは勝手が違う。
燐は倶利伽羅を入り口として、炎は虚無界に。身体は物質界に存在している。
物質界に存在する「身体」が、忽然と消えてしまうものだろうか。
かたちあるものは、そう簡単には消えはしない。
二人の視線が、燐がいた木陰に向かう。
そこには、誰もいない。はずだった。
だが、今ならわかる。
「いるんでしょう、フェレス卿」
雪男が呼びかける。志摩が睨みつけた。
燐がいた場所にピンクの煙に包まれた悪魔が降り立った。
***
「お二人とも、怖いお顔をなさっていますね」
メフィストは、動じた様子もなく燐がいた場所に立っている。志摩は、一年前。
魔神の物質界への侵攻がわかった時点で、メフィストに燐の秘密を打ち明けている。
人を駒のように操るメフィストのことだ。
その秘密すらも利用して盤上を操作していたとしても頷ける。
メフィストは、自分の快楽に忠実だ。
悪魔らしい振る舞いをする自分たちの上司を、雪男と志摩は睨みつけたままだ。
「この致死節は、双方の言葉があって初めて成立するものです。
先生は言って、奥村君は答えた。しかし、彼はまだ生きている。この意味がわかりますか」
志摩が聞いたのは、「俺も」という言葉だけだ。
もしも。もしも。
その言葉に続きがあったのなら、どうだろう。
志摩の冷えた心に一筋のあたたかい光が射した。
燐は、生きている。
同じ時に生まれた双子である雪男が言うのだ。
おそらく燐が生きているのは間違いないだろう。
志摩は、燐が生きていたことがうれしかった。
死ねば、その死は永遠に雪男のものだ。
でも、生きているならその先はわからない。
もしかしたら。と期待してしまう志摩の心は、まさしく人間のものだった。
「人の営みは中道にして病みやすいといいますが、貴方たち二人は普段の生活では取り繕って自身の欲を隠すのに。
奥村燐君に対してだけは自身の欲に正直に生きていらっしゃる。なかなかに見物ですね」
殺してまで手に入れようとするなんて、どこの悪魔だ。
そう本物の悪魔から言われているようで、二人とも反論の言葉はなかった。
「勘違いしないでください、私はそれを否定などしませんよ?むしろ、肯定している」
「兄は、貴方になにか言ったんですか」
「いいえ、奥村君は最後まで自分でなんとかしようとしていました。
私は貴方達にほんの少しの猶予を与えようと思っただけです。
しゃしゃり出たのは私個人の意志ですので、お間違えのないよう」
メフィストは、燐のことを最高のおもちゃだと思っている。
自分の予測のつかないことをしでかす玉手箱を、みすみす手放したくないとも思っている。
しかし、どんな結末を迎えるにせよ、選ぶのはメフィストではない。
「この致死節は、どちらか一方だけでは成立しません。戦いは、フェアであるべきだ」
そう言い残すと、メフィストはピンク色の煙とともに姿を消した。
ちゃりんという音がした方向を見ると、燐がいた木陰に一本の鍵が残されている。
一番近くにいた志摩がそれを拾った。
それは鈍く光って、志摩の手の中で存在感を示している。
おそらく、この鍵の向こうに燐がいる。
どんな状態かはわからないが、確かに生きて、そこにいるだろう。
雪男は、燐に告白をした。
しかし、この関係は二人だけでは終わらない。
志摩が告白をして、三人になることでようやくスタート地点に立てるのだ。
雪男は、一番近くに見えたドアを指し示した。
二人はのろのろと距離を置いて、そのドアの前に来る。
鍵を開けるのは、志摩の役目だ。
志摩はごくりと唾を飲んで、鍵を差し込んだ。かしゃん。と鍵が開く音が聞こえる。
この先に燐がいる。
しかしその先にあるものは、なんだろうか。
志摩は答えを出せぬまま、ドアを開いた。
***
そこには、まるで先ほどの木陰のような風景があった。
違うのは、地面に咲いている花が一面青い花であることだろうか。
青い花と、一本の木陰。
その中を志摩が先に歩き、後ろから雪男が歩いてきていた。
先に声をあげたのは雪男だった。
「兄さん!!!」
駆ける雪男の後をついていった。
そこには、燐が横たわっていた。
二人を見て、燐は薄目を開けた。
生きているが、存在が消えかかっているような。
そんな朧気な印象を受けた。
生気がなくなってきている。死のにおいがする。
燐は駆け寄ってきた雪男に視線をやらず、志摩だけに目を向けていた。
「奥村君・・・?」
「兄さん?」
燐に雪男の言葉は聞こえていないようだった。
志摩は疑問に思い雪男のいる方向を指し示した。
しかし、燐には雪男の姿は見えていないようだった。
雪男が手を握ろうとしても、その手は雪男の手を素通りしていく。
雪男は燐に認識されることも、触れることもできない。
致死節は成立しなかった。しかし、その代償はもたらした。
雪男の手が、ぐしゃりと地面に咲く青い花を握りつぶした。
志摩はその手を見て、そして燐に視線を合わせる。
「なぁ奥村君、先生。君に告白したんやな」
「・・・ああ、やっぱりこうなっちまったなぁ」
「あかんな、ごめん。うまく言葉にならへん。なんやろ、奥村君が先生のこと好きやって俺知っとったはずやのに」
「・・・なぁ志摩、俺は約束は守る男だ」
「え」
「言えよ、言っていい。だから、俺はここにいるんだ」
その言葉の続き、聞いてやるから。
二人にした約束を、燐は守ろうとしている。
雪男の言葉を、燐は聞いた。
次は志摩の番だ。
だから、志摩もそれに答えるべきだ。
聞いて欲しいと願ったのは、志摩なのだから。
考えた。考えた。
ここで俺が言うたら、奥村君はどうなってまうんやろ。
消えてしまうんやろか。先生は自分の気持ちを言うた。
こんな気持ちやったんやろか。
ぐちゃぐちゃの気持ちの中思い出したのは、自分を守って死んだ兄のこと。
そして、その死を無駄にしてはならないと言われ続けた言葉の数々。
死を背負う意味を、志摩は知っている。
残された家族がどう考えるのかを。
その死の重さも、なにもかもを。
「奥村君、聞いてくれる?」
志摩は口を開いた。
燐はそれを黙って聞いた。