青祓のネタ庫
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「この浮気者」
絶対零度の青い瞳が、自分を見下ろしている。
青い瞳の中に宿る赤色の光彩がまるで燃えているかのような印象を受けた。
その振り切った右手の平の跡は、くっきりと自分の頬についているはずだ。
じんじんと痛む頬を押さえながら、勝呂は思った。
どうしてこんなことになってしまったのだろうかと。
***
勝呂は、朝のジョギングを終えて寮に戻ろうとしたところで何かの視線を感じた。
視線の方向に目を向けると、ただの茂みしかない。
なにかがいたような痕跡はなかった。
勝呂は疑問に思いながら、首を傾げる。
確かに、誰かに見られていたような感じがしたのだ。
気になって、茂みの向こうをのぞいたりもしたが、なにもない。
「・・・気のせいやろか」
正体は分からないがあまりいい気分ではない感触だった。
ねっとりとした。というか。自分を見ている。と伝えるような。そんなメッセージを感じたのだ。
悪魔の類なら自分で祓うことも考えた方がいいかと勝呂は腕につけている数珠を鳴らした。
祓魔師は、多かれ少なかれ悪魔から恨みを買うものだ。
悪魔が報復目的で祓魔師を襲う例も過去何件も起きている。
それは正式に祓魔師になっていない候補生でも同じことが言えるだろう。
悪魔にとっては、祓魔師よりも候補生の方が抵抗力が弱い分狙いやすいのかもしれない。
勝呂はそう考えて、ふうとため息をついた。
これでも、あの不浄王と一戦やって生き残ったのだ。
ちょっとやそっとのことでは動揺しない。
今ならリーパーと向き合っても尽き従わせるくらいの度胸もついた。
そう。悪魔を祓う者は、それ相応の覚悟を持たなければならない。
それは、自分が悪魔に恨まれることも。自分の周囲の人間を悪魔に襲われることも指す。
だから、祓魔師の家族が自衛の為に祓魔師になることも決して珍しいことではない。
勝呂は、少し考えて今のところ害はなさそうだったので、放っておくことにした。
実害はまだない。それに、正体もわからない。対策の取りようもなかった。
「・・・ってあかんわ。今日祓魔塾でテストあるんやったわ。帰って勉強せな」
時計を確認して早足で駆けた。
なんなら、塾の先生なり誰かに相談することだってできる。
勝呂はひとまず、携帯電話で日付とメモを残しておいた。なにかあった時の為にデータは必要である。
勝呂は候補生にも関わらず、日常生活でもとても優秀な祓魔師としての行動をおこしているのだが、
本人はそれを特に気にしないままさっさと新男子寮の方へと戻っていった。
勝呂の目標は、魔神を倒すことである。
その為には一つでも多くの経験を積むべきなのだ。
それに、目標の為には努力を惜しんではいけない。
雪男が勝呂の様子を見るたびに、兄に爪の垢を煎じて飲ませたいと言うくらいだ。
勝呂の日常はこんな具合にストイックかつストイックにできている。
***
体育の授業中のことだった。
今日の授業内容は走り高跳びだった。
助走をつけて地面をかけ、棒を落とさないように身体をジャンプさせる。
勝呂がジャンプした瞬間。なにか視線を感じた。
ねっとりと自分を見る視線。
クッションに着地して、すぐに起きあがる。
しかし、そんな視線の主など誰もいなかった。
クラスメイトなどは、よくあんなにとべるなぁと感心した声しか上げていない。
クラスメイトではない。外部か。
勝呂は何事もないように装っているが、内心集中できない違和感を覚えている。
次の順番があるのでひとまず歩いて、そのままクラスメイトが並んでいた列の一番後ろに戻った。
「恨み買われるようなことは・・・特には・・・」
勝呂は背後になにかがいる気配を感じて、腕を伸ばす。
ねじり上げはしなかったが、相当力が入っていたのは確かだ。
「いてぇ!」
声に聞き覚えがあった。勝呂は背後の主を確認すると慌てて手を離した。
「なんや奥村かいな」
「いきなりなにすんだよ!」
「・・・俺の後ろに立つなや」
「どこのゴルゴだ!」
いてぇとさする燐の腕には勝呂の腕の跡が残っていた。
燐の腕は他のクラスメイトと違ってかなり白い。手の跡も残りやすいようだった。
悪魔に目覚めてから若干肌の色も薄くなったらしい。悪魔の身体は人間の目を惹くようにできている。
それは言葉、身体、仕草、全てで人間を引き寄せようという悪魔の本能からきているようだ。
燐本人にとっては別に人間をどうこうしようなどど思ったことは一度もない。
悪魔は人間の目を惹くようにできている。
しかし、その悪魔を見て人間の方がどう感じるかによって悪魔はその姿を変えるということだ。
勝呂は体操着姿の燐の身体を見た。
ハーフパンツから覗く足は細く白い。
そして、開いた上着からは鎖骨が顔を出しており、心なしか袖口は長かった。
「なんやお前着ているもんがえらいでか・・・」
「お前は!俺を!怒らせたッ!!」
燐に胸ぐらを捕まれつつも、勝呂はにやけた顔を押さえなかった。
体操着の名前は奥村になっていた。たぶん、燐は体操着を忘れたのだ。
そして、同じ名前の雪男から借りたのだ。
しかし身長差はどうしようもない。サイズの違いは多少、しょうがない面がある。
笑っている勝呂がむかつくのか、燐はぷりぷりと怒っていた。
それが、やはりおかしくて笑ってしまう。
笑ったおかげだろうか、先ほどまで気になっていた視線が今はなくなっている。
燐はひとまず落ち着こうと思ったのか、勝呂の胸倉から腕を外した。
「そういえば、ウチとお前のクラスが授業被るのって珍しいこともあるもんやな」
「ん?ああ、そういやそうだな。暇だからこっちの授業も見てたんだけど、
やっぱ勝呂かっけーよなぁ。あんな綺麗に高跳びすんだもんなぁ」
燐にきらきらとした目で見られて、勝呂は居心地が悪くなった。
燐は、勝呂にあこがれている。
男らしい背に、男らしいがっしりとした身体。
力は燐の方があるが、それは悪魔の力があるからだ。
燐は、見た目も中身も男っぽい者に強いあこがれを抱いている。
そして、勝呂はそんな目で見られることが悪くないなぁと思っていた。
でも、悪くないなぁと思っていても。恥ずかしいものは恥ずかしい。
「なんや、変なとこ見んなや」
「別に変じゃねーじゃん、かっこよかったぞ」
「恥ずいこと言うなや・・・それに、お前のが高く飛べるんとちゃうんか?」
「ん、ああ。まぁ飛ぼうと思えばたぶん校舎くらい軽く飛べるだろうな」
燐は指を校舎に向けた。5階建てくらいは軽々いけるらしい。
高跳び選手もびっくりだ。
しかし、それをこの場ですることはできない。
人間が飛べるのは、できて2メートルくらいだろうか。
体育の授業のようにもろに個人の能力が露呈される場面で
悪魔の身体能力を抑えるのはなかなか難しいようだ。
「一回ミスって陸上でいい成績出してさぁ、部活に入らないかって揉めたことあるんだよな」
もちろんメフィストが揉み消したらしいが、
それ以来燐は体育の授業には気を付けているようだ。
こちらに来たのも、さっきいい成績を出しそうになったのでちょっと抜けてきたらしい。
祓魔の裏の世界でも目をつけられているのだ。
せめて表の世界でくらいは大人しくしておきたい。
「だからってサボんなや」
「大ジョブだって、また戻るし。ああ、そういや雪男っていんのか?」
「いや、俺と先生は別のクラスやで。知らんのか?」
「あ、そうか。じゃあもう少しいよう。雪男朝からモノ無くしたみたいで
すんげぇカリカリしてたんだよ。見かけてもあんま近寄らないほうがいいぞ」
「だからサボんなや・・・って先生が?珍しいな」
「だろー」
あの慎重な雪男がモノを無くすとは珍しい。
燐ならよくわかるのだが、それを言うとまた怒られそうなので黙っておいた。
勝呂はあたりを見回した。不思議と、ねっとりと見られていた視線の感触はない。
最後の一人が高跳びを終えたところでチャイムが鳴って、授業が終わった。
燐と勝呂は特に片づけをする必要もなかったので、そのまま二人で下駄箱に向かった。
途中で、子猫丸と志摩とも合流して四人で話ながら教室に戻ろうとした。
異変に気付いたのは、志摩だった。
「あれ、坊なんかげた箱に入っていますよ」
志摩は、勝呂の下駄箱に入れられていた紙を指差した。
折りたたまれているようで、中身は見えない。
真っ白いコピー用紙のようだった。
一瞬以前貰ったことのあるラブレターを思い出して背筋が凍った。
「うおおおお!奥村君!坊がラブレターをッ」
「アホか!んなわけあるかい!」
「勝呂モテるんだなー」
「奥村もなんかあれな目で見るのやめぇ!!」
からかわれる視線を避けようと、勝呂は乱暴にコピー用紙を掴む。
以前貰ったラブレターは丁寧に便箋に入っていた。
流石にラブレターをこんな荒っぽく入れる女子はいないだろう。
勝呂はちょっと緊張しながら、折りたたまれた用紙を開いた。
大方ゴミか何かだろう。中身を確かめて、ぎょっとする。
「これって・・・」
四人は顔を突き合わせた。
題名には、『第12回悪魔薬学小テスト』と書かれている。
問題がずらりと並び、選択問題には答えまで書いてあった。
「あ、これ雪男がなくしたって朝言ってたやつじゃね?」
それが、なぜ勝呂の下駄箱に入っているのだろうか。
燐や志摩たちは首を傾げているが、
勝呂は、真っ青になって自分の朝の言葉を思い出していた。
『今日祓魔塾でテストあるんやったわ。帰って勉強せな』
そして、今日感じていた視線。視線。視線。
視線の主は、確実に存在している。
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