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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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テンカウント

「質問です。キスとはどういうものでしょう?」
「はい、口と口がくっつく動作だと思います」
「なるほど、正解です」
「ありがとうございます」
「では、先ほどの俺と奥村君がした口と口がくっつく動作はキスですね?」
「違います」

「何がちゃうねん!」

志摩は怒って、教科書で燐の頭を叩く。
いてぇ、という声と共に燐は椅子から転がり落ちた。

「あんなもんノーカンだ!ノーカン!!」

燐は赤くなった額を抑えて志摩に訴えた。
夕暮れの教室の中、二人はいがみ合っている。
それというのも、高校の授業の移動教室で燐と志摩がたまたま遭遇したのが原因だ。
今まで高校の授業の時には遭遇しなかったし、
丁度いいから二人で一緒に祓魔塾に行こうという話になった。
しかし、二人が誰もいなくなった教室で暇を潰していた時。
事件は起こった。

「奥村君、もう少し右」
「ちょ、動かすなよ」

二人で、掃除用具入れの上に雑誌があることに気づいた。
普通の雑誌なら、わざわざあんなわかりにくいところに置いたりはしないだろう。
用具入れと天井の間に出来ている隙間と影に絶妙に隠されている。
二人の意見は一瞬で一致した。

これは
エロ本に違いないと。

二人は雑誌を取る為に奮闘した。
志摩が燐の乗る椅子を抑え、燐が手を伸ばす。
お金持ち学校なだけあって無駄にでかく高い掃除用具入れは、
燐が椅子に乗って手を伸ばすことでようやく上に背が届く。
背の高い志摩にさせなかったのは、志摩はエロ本を手に入れた瞬間に
どこかに行きそうだと踏んだから。

奥に手を伸ばし、届け俺のエロスと心で叫ぶ。
ぎりぎりで奥に手が届いた。

「とれた!」

雑誌を取った勢いで、思わず後ろにのけぞった。
バランスを崩して、そのまま後頭部から床に倒れかける。
「奥村君!」
志摩は、燐の背を支えようと腕を伸ばす。
が、いきなり倒れこんでくる相手を掴むのは至難の業だ。
二人でもつれ合ううちに、志摩が強引に燐の手を引っ張って自分の方へと
引き寄せる。
そのまま、二人で床に倒れこんだ。
同時に、ガシャン。と燐の乗っていた椅子が床に落ちる。
志摩は必死だったので。
それこそなりふり構わずに燐を抱きしめていた。
その時に、そう。ほんの少し唇同士が触れあった。
感触はお互いに感じあっている。

これをキスとするか、しないか。両者の意見はまっぷたつに割れた。

「唇触れたらキスやろ!」
「違う!あれは、その。事故だ!
俺のファーストキスはこんな事故で亡くなってしまう命じゃないんだ!」
「え、はじめてやったん・・・?」

ぽかんとした顔の志摩。燐はしまったと思うがもう遅い。
経験なしを自己申告してしまうなんて。
燐は青くなったり赤くなったりと明らかに動揺している。

「なし!今の発言なし!」
「うん、俺はそれでもいいけど・・・」
「あ!なんだよその目!俺のことを哀れむように見るのはやめろおお!」
「あかん。奥村君それは被害妄想や」
「じゃあななん、なんだよその俺を見る目!」
「えーっと濡れた瞳?で君を見つめているだけや」
「やめてくれ」
「ごめん、それは無理。俺ドライアイやねん。
君を見つめて俺の瞳を濡らす治療をやな・・・」
「変な口説き方すんなよおおおお!」

背を見せて震える燐の肩を掴んで、志摩は優しく宥めた。
「奥村君、奥村君」
よしよし、大丈夫やで。さっきのは口がすべったんやろ?
俺もちゃんとわかってるって。
ほら、慌ててるとろくなことにならんし。
こっちむいて。ちょっと落ち着こうな?

燐は動揺しすぎて警戒心を忘れ、言われるままに振り向いた。


「いただきます」


そのときの志摩の顔はまさに獣だった。
燐の顔を掴んで、情緒のかけらもなく唇に噛みついた。
反抗される前に足払いをかけて、その場にもろとも倒れ込む。
もう、喧嘩としかいいようのない荒ぶるキスシーン。

「んー!!むぐーー!」

志摩に唇を奪われたまま、燐は叫ぶ。
だが、志摩も譲れない一線と言うものがある。
どや、これで事故では済まされへんぞ。
これが既成事実という奴や。

「ん・・・!う・・・・・!!!」

燐のもがきが段々と小さくなってきた。
結構苦しそうに床をバンバンと叩く。
手がぱたりと床に倒れた。やがて、燐は動かなくなった。
酸欠だ。
志摩は、ようやく口を離して倒れる燐の顔と、
近くに転がるエロ雑誌を見てつぶやく。

「俺の勝利や・・・!」

志摩は戦利品のエロ雑誌を服の中にしまって、
もう一度燐の唇を触って確かめる。

「これでツーカウントや、なかったことにはさせへんで?」

時計をみれば、塾開始30分前。
これは、丁度いい時間。
志摩は、倒れる燐に何度も口付ける。

繰り返して、9回目。

そこで、強制的な人工呼吸で目覚めさせられた燐が言った。

「ぎ、ギブアップ・・・」

志摩の口を手で押し退けて、もう無理だと訴える。
志摩は、その手にもキスをして。悪い顔をして言った。


「残念やったな奥村君。君の瀕死のファーストキスは、
テンカウント目であの世行きや」


もう一度押さえ込んでキスしたら、殴られた。
強引に奪ったキス。半泣きの燐。
不覚にも胸がときめいた。
殴られた瞬間に見えた映像。

死んだじいちゃんと兄貴が手を振っていた。

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ありがとうございます


携帯から投稿したのはもう修正済でっす。
やっぱりスマートなフォンにするべきかしら。悩む。
でも携帯にしろスマートさんにしろ文章打ちにくい。

あ、ここ数日ありがたいコメント頂いてまして、とても嬉しいです。もぐもぐ。
っていうかコメントは全部嬉しいです。ありがとうございます。むしゃむしゃ。
責任をとって結婚の申し込みをセネバダと腹を括った次第です。

明日はお友達のご好意に甘えてインテ行って来ます。
いつの間にか青祓ががっつんがっつん増えててすごいなぁ。
ここ開設した当初はジャンル自体が40サイト↑↓とかだったからなぁ。
と昔を懐かしんでもみたり。

最近ア行の彼らが気になります。
アーサーとアスタロトです。
アスタロトと白鳥君の関係をどうするかが悩みますね。
何にしても燐のことを若君と呼んでくれる数少ない貴重な戦力です。
アーサーはアニメで登場した瞬間にああこいつ下着履いてないなという
衝撃を受けましたからね。まったくもってけしからん。もっとやれ。
三賢者による賢者タイムに突入で私の頭はフルボッコです。
あ、これアニメの感想になってるわ。
最近の5時アニメってすごい。

強制投稿

うおー、携帯からの強制投稿やりにくい!見にくい!

ただ今帰省中なので明日帰ったら直します。すみません。
携帯死にそうです。
やりにくいー!

謝罪のいろは


「志摩のところって兄弟喧嘩したときどうしてる?」
「え?先生と喧嘩でもしたん?奥村君」

塾が終わった後の帰り道で燐は志摩に質問した。

別に喧嘩をした訳ではない。
ただ、最近雪男と喧嘩をする時はお互いにムキになりすぎて
結果、喧嘩が長引く事が多々あった。

雪男は陰湿な一面がある。

塾の宿題を燐だけ増やしたり、授業中に当てるのは勿論。
燐がとっておいたゴリゴリ君を誘拐したりと犯行が
次第にエスカレートしていくのだ。
兄としては悔しいが、毎回雪男にやられる嫌がらせも勘弁して貰いたい。

だからこそその前に手を打ちたい、というわけだ。

「喧嘩はしてないけど、喧嘩を長引かせない喧嘩の仕方ってあんのかなーって
思ってさ。ほらお前の所兄弟多いじゃん?」
「あー、確かに。喧嘩長引くと嫌やんなあ。得に先生ねちっこそうやし」
「だろー!やっぱり志摩はわかってくれるか!」
「頭いいとそういう所にも頭回るしな。柔兄がそうやったわー」

志摩は何か過去の出来事を思い出したのか、涙が止まらなくなっていた。
成る程、志摩も苦労したらしい。

「で、方法ある?」
「うん、あるにはある。発案者は金兄やけどな。
あ、でも使い所は間違ったらあかんよ?」
「なんで?」
「火に油注ぐ結果になったこともあったからな」

そうして志摩は、燐にこっそりその方法を伝授した。



志摩と別れた後。
部屋に戻ろうとドアノブに手をかけたら、中から悲鳴が聞こえてきた。

『やめてー!』
「こら大人しくして」
『やー!おれのたいせつなものなのー!
りんー!りんー!』
「こら、ヌルヌル動かないの」
『やー!』
「…何やってんだお前ら」

燐がドアを開けると、ベットの上でヌルヌル動くクロと
そのクロを押さえる雪男がいた。
一体何事かと思っていると、雪男の手に爪切りがあるのが見えた。
成る程、クロの抵抗も頷ける。
燐を無視して、雪男とクロはお互いに譲る気配を見せず、
戦いはヒートアップしていく。

「あいた!ひっかくなよクロ!」
『ゆきおがわるい!やなことするからー!』
「ちょっとは爪切らないと僕らの服が穴だらけになるだろう!」
「いや、落ちつけよお前ら!」

見兼ねた燐が雪男の持っていた爪切りを取り上げた。

「なにするのさ!」

燐を見上げる雪男の形相はかなり怖い。
燐は必死すぎる雪男に若干引きつつ、とにかく宥めることにする。

「何があったんだよ…」
「どうもこうもないよ、
帰ってきたら僕の祓魔師のコートでクロが爪とぎしてたんだよ。見てよこの穴!」

見れば、確かに複数の穴がコートに空いていた。
とはいっても小さな穴だ。

「…気にしすぎじゃね?」
「違うよ、その横」

横に視線をずらすと、
臍の辺りに切れこみが入っていた。
確かにこれは深い。
布がめくれているので、これは見方によっては…

「臍出しコートか?」
「わかってくれた?まあ上半身裸でコートは着ないけどさ…」
「え?でもこの前裸コートだったよな?」
「あれは誰かさんが炎で服燃やしたからだろ」
「…うっ」

そこをつかれると、燐には何も言えない。
雪男がクロの爪切りを再開しようとすると、今度はクロが口を開いた。

『あれはおれじゃない!りんがやったんだろー!』
「…え」

クロが言うにはこうだ。
朝起きて、燐が腕を回していると丁度かけてあったコートに
燐の手が当たったらしい。

すぱっとコートが切れていたとクロは訴える。

燐は自分の手をみた。

おお、なんてことだ。
爪が伸びている。

燐の爪は悪魔の爪だ。
それこそ祓魔師のコートだって軽く裂けるだろう。
嫌な汗が一気に噴き上げてきた。
燐は何も言わず、部屋から逃げようとした。
雪男はそれに足払いをかけて阻止する。

燐が床に倒れこんだ。

「雪男。お、俺はなにも…」
「怪しいな。クロの言葉はわからないけど兄さんは怪しいな」

クロを離した雪男は、今度は燐ににじり寄ってきた。
クロは開放された瞬間に全力でドアから逃げていった。
もう言い訳の仕様もない。
怒れる雪男は爪切りをカチッカチッと鳴らしながら
仰向けに転がる燐の上に跨がった。

正直怖い。怖すぎる。

雪男は燐の手を取って、コートの切れ目と燐の爪を照らし合わせた。

ピッタリだ。

「…で、何か反論は?」

冷めた笑顔の雪男を見て、燐は志摩の言葉を思い出す。
使い所は、そう。
今かもしれない。

燐は意を決して言った。



「そ…某が悪うございました!」



「…は?」

呆然とする雪男に燐は更に言葉を続けた。

「何分、右も左も解らぬ若輩者故、貴殿のお怒りもごもっともで御座ろう。
しかし、だかしかし!某にも悪気があった訳ではございませぬ!
不慮の事故なので御座る!許してくれとは申せませぬが、せめて。
嗚呼せめて御慈悲を!雪男様!お代官様!代官山様!」

「誰が代官山だ!」

ばし、と頭を叩かれた。
燐は痛む頭で考える。くそ、使い所を間違えたか。

志摩家では、喧嘩が始まる前に阿呆みたいな言葉を言い合うことで、
喧嘩を回避すると言っていた。
その口調は多岐に渡り、オネェ言葉。時代劇口調からネット用語まで対応可能らしい。

しかし悲しいことに、これを笑って済ませる関西のノリが泣ければ
この謝り方は成立しないのである。

燐と雪男は南十字の修道院育ちであった。


「くそ、オネェ口調の方がよかったか…」
「とりあえず、謝る気があるのかはっきりして貰おうか」
「ごめんなさい」
「よし。謝罪は受け入れよう。じゃあ次はお仕置きだ」
「な、なんだってー!」
「もないでしょう。人のコート駄目にしといて」

雪男は手を伸ばして、燐の手を取った。伸びた爪をパチリと爪切りで切った。

そう、深爪ギリギリの深さだった。

「い、嫌だやめろ!お前の切り方怖い!」
「どのくらいで血が出るだろうね?」
「やめろー!」
「冗談だって。まあお仕置きだしね。両手両足ともやってあげるから覚悟して」
そして、雪男は思いついたかのように燐に言った。


「大人しくしておれば、悪いようにはせぬわ…」
「…お、お戯れを……!」

その後しばらく、602号室からは燐の悲鳴が聞こえてきたという。

悪魔に憧れて



深夜に腹の上に乗る重い存在に気づく。
手をやって、それに触る。それは黒い毛で覆われていた。
なんだ、またクロが俺の布団にもぐりこんできたのか。
深夜になると人肌が恋しくなるのか、猫又のクロはよく燐に寄り添って寝たがった。
しかし、腹なんていう場所じゃなく、枕元で寝てくれればいいものを。
クロは自分の寝やすさを優先するため、
大抵燐が寝苦しい態勢をとらされることになる。
足の間だったり、腕に寄り添ったり。
それに意外と長時間そこにいられると重い。

勿論、クロのことは可愛いと思っている。思っているが。
深夜に起こされるのはやっぱり、ちょっと迷惑だ。

腹の上の感触をわしわしと撫でてみた。相手は特に動かない。
こうすれば大抵クロは起きて、枕元に移動してくる。
今日は、熟睡しているのだろうか。仕方がない。
明日は休みだし、まぁ別にいいか。と考えて、クロの体をもう一度撫でた。
クロの体はすらりとした、猫らしい滑らかな体つきだ。
しかし、何度触っても腹の上のクロからはゴツゴツとした骨ばった感触しかしない。

これはどういうことだ。

手を下の方に伸ばせば、毛の感触がなくなった。
クロ、お前毛が抜けたのか。換毛期か。脱毛か。なんてことだ。
燐は閉じていた目を開けた。
そこには可哀想に、毛の抜けたクロの体。は、なかった。
燐は自分で見た光景が信じられなかった。

「・・・ゆき・・・お?」

燐の腹の上に頭を乗せて、狭いベットに潜り込んでいるのは。
向かいのベットで寝ているはずの弟。雪男だった。
夢かと思って、向かいのベットを見てみた。
雪男のベットにはクロが悠々と体を伸ばして寝ていた。その広さが羨ましい。
燐は足を動かそうとしたが、雪男の身体が乗っているため動かせない。
しかも、寝返りを打とうとしても雪男が燐の腰をがっちりと掴んでいるため
態勢変更も無理だ。

「おい、雪男。雪男。お前任務で、どうせ夜遅くに帰ってきて疲れてんだろう?
お前のベットで寝たほうがいいんじゃないか?」

小声で話しかけるが、雪男は燐の腹に顔を埋めたまま動かない。
ゆきお、と声をかけて唯一動く手で、肩を揺すった。
雪男が起きる。目が合った。

「雪男」
「兄さんうるさい」

今度は胸の方までよじ登ってきて、そこに顔を埋められる。
声をかける暇もなく、聞こえてくる寝息。

こいつ、そのまま寝やがった。

先ほどよりも動けなくなって、燐も諦めた。
窓の外に目を向ければ、まだ月が昇っている。
窓の鍵は、いつもなら開いているのに閉まっていた。
雪男が閉めたのだろうか。
そう思っているうちに、眠くなってきてしまう。
快適な安眠は望めないが、そのまま目を閉じた。
明日の朝にはいくらなんでも雪男はどいているだろう。
こいつ、俺より起きるの早いし。
程なくして、二人分の寝息が部屋に響いた。



「・・・おいどういうことだ」
翌朝、燐が目を覚ましても雪男は燐にべったりと張り付いたままだった。
一応、寝巻きから普段着に着替えている辺り燐よりは先に起きたのだろう。
しかし雪男は着替えて、普段の支度をして、また燐のいるベットにもぐりこんだ。
これには流石に寝苦しくなって、燐も起きた。
雪男は燐が着替える間も、ただひたすらに燐の首に腕を巻きつけて離れようとしない。
燐もいい加減めんどくさくなって、引き剥がすのを諦めた。
力はある為、雪男一人くらい背負っていても問題無く動ける。
だが、燐と雪男では身長差があるため、どうしても雪男の足を引きずって歩くようになる。
朝食の準備もこの格好のまま行なう羽目になった。
台所の角で、何回か雪男が足をぶつけていたが、この際我慢してもらおう。

「雪男ー」
「なに」
「今日の朝ごはんなにがいい?」
「さかながいい」
「そうか、焼くけどいいか?」
「うん」
「大根おろしもつけてやるからな」
「うん」

寮の階段を下りるとき、窓は全部鍵が掛かっていた。
しかも、カーテンのあるところは全部閉まっている。
普段なら朝の光に包まれる寮が、今は少し薄暗い。
いつもは開いている部屋の窓も閉まっていた。
これも全部、雪男がやったのだろう。

そうしてふと、燐は気づいたのだ。

「お茶は何がいい?ほうじ茶か。緑茶か」
「ほうじ茶」
「ご飯もいつもどおりでいいよな」
「うん」
「ほら、できたぞ雪男」
「おいしそう」
「だろ?」
「食べさせて兄さん」
「・・・しょーがねぇなぁ」

燐は、箸を取って魚の身を挟み、自分の肩の方に持っていった。
二人羽織みたいな体勢だが、離れない雪男にはこうして食べさせるしかないだろう。
咀嚼する音が耳元で聞こえてくる。

「相変わらず美味しいね」
「ありがとな」
「兄さん」
「なんだよ」
「離れて欲しい?」
「いいよ、今日一日くらい。兄ちゃんが甘やかしてやるよ」
「・・・甘えてるわけじゃない」
「はいはい」

背後の、雪男の頭を撫でてやった。
雪男は、この状態に満足しているらしいからいいだろう。
小さな頃、雪男は怖いこと、辛いことがあると、決まって燐にくっついて離れなくなった。
大抵背中に張り付くので、燐は雪男を負ぶったまま修道院をうろついていたことだってある。
中学にあがった頃からなくなったから、すっかり忘れていた。

こうなった雪男は燐から離れたがらない。
しかし、甘える自分を他の人に見られたくないという変な意地も持っている。
だから、雪男は燐に甘えようとする前日には窓の鍵からカーテンまで全部締め切るという癖があった。

燐が雪男の癖を思い出したのも、寮の窓やカーテンが閉まっていたからだった。

ご飯を二人羽織のまま全部食べ終えて、食器を食堂に置いておく。
片付けは後ですればいいだろう。
燐は、雪男の投げ出されたままだった足を拾って、持ち上げた。

所謂、おんぶの態勢だ。
先ほど足を投げたまま階段を下りたので、雪男の足は強かに階段に打ち付けられていた。
燐の足音と、がん、がん、ぐき。と背後から響く音。
流石に可哀想なので、今度はちゃんと持ってあがってやろう。

燐は、雪男を背負ったまま一歩ずつ部屋に向かって上がっていった。

こつん、こつん、こつん。
ゆっくりと、二人の体重を乗せた足音が響く。

「なぁ雪男」
「なに」

負ぶっているので、雪男の表情は見えない。
燐の表情も、雪男からは見えない。
きっと、この態勢が二人にとっては一番いい。

「なにか、辛いことでもあったのか?」

階段の踊り場で、燐の足が止まる。
カーテンの隙間から、朝日が漏れて二人の影を映し出した。
背後から、くぐもった声が聞こえてくる。

「夢を・・・見たんだ」
「へぇ、どんな?」

少し間をおいて、雪男は答える。

「兄さんが死ぬ夢」

そうか、と燐は答える。

「俺、いつ死んでもおかしくないもんな」
「そんなことない」
「そうか?」
「僕がそうさせない」
「・・・そうか」
「続きがあるんだ」
「うん、俺が死んで・・・お前はどうした?」

思い出すのも辛い。
血の海に沈む兄、胸を倶利伽羅で刺し貫かれていて。
呼吸はない。顔もどんどん血の気が失せていって、身体も冷たく染まっていく。
自分は泣いて叫んで、兄の名を呼ぶのに、二度と答えてはくれない。
笑ってもくれない。
兄さん、兄さん。嫌だ。目を開けて。
一人にしないで。兄さん。
雪男の慟哭は兄の死を引きとめることはできなかった。
そうして、燐の死体に縋って泣く雪男の背後で、声が聞こえてくる。

『ようやく死んだのか。忌々しい魔神の息子め』

雪男は振り返る。そこには正十字騎士団の祓魔師たちが、いた。
彼らは、口々に言う。


お兄さんが死んでよかったじゃないか、これで君は自由だよ。

そうさ、優秀な君に、あんな悪魔の兄なんかいらないんだよ。

君は我々と同じ人間だろう。

悪魔を殺す、祓魔師だろう。

そんな君が、どうして悪魔ごときの死で涙を流すんだい。


違う、違う、違う。
僕はお前らとは違う。
兄さんを殺す、祓魔師になりたかったわけじゃない。
兄さんを守る、祓魔師になりたかったんだ。
僕は、お前らとは違う。
お前らか。
お前達が兄さんを殺したのか。
コレがお前達の正義か。
両親は既に亡く。優しかった養父も殺され。
僕に残された、たった一つの家族までも笑って奪う。
雪男は憎しみの篭もった瞳で、騎士団を見つめる。


「だから、僕は・・・」
「雪男」


燐はその先を雪男に言わせなかった。
祓魔師が憎しみを宿した時、心は闇色に染まり神を呪う、悪魔堕ちとなってしまう。
長い騎士団の歴史の中でも、決して前例が無いわけではない。
雪男の心は、燐を失うことで壊れてしまう。
燐を失うことになるのは、悪魔のせいではない。
騎士団のせいで死ぬことの方が、はるかに可能性が高いのだ。

「なぁ雪男。お前は悪魔になんかなるなよ」
「兄さん・・・」

「俺はさ、お前が羨ましいんだ。
頭良くて、スポーツできて、背も高いし、女の子にモテる。
俺の自慢の・・・『人間』なんだ」

「・・・にいさん」

雪男は耐えられなくなって、視線を下に落とした。
影が見える。重なる二人の影から伸びた、一本の尻尾。
人間には無い、悪魔の尻尾。
こうしてみると、まるで雪男から生えているみたいにも見える。


「人間は、悪魔になれても。悪魔は人間にはなれねーんだからさ」


母さんから貰った身体。大事にしろよ。


言われて、僕は返す言葉も無い。
兄さんは、僕を背負って歩き出す。
階段を上る音と、兄さんの鼓動。
兄さんは、生きている。
そうして、僕も生きている。

「兄さん、明日にはいつもの僕に戻るよ」
「うん」
「だから、今日はこのままでいい?」
「いいよ」

兄さんの背からから降りようとも思った。
けど、降りたら僕の影から悪魔の尻尾はなくなってしまう。
こうしている時だけでも、兄さんと同じでいたいと思う僕は。
醜くて、きっと、弱い。

兄さんが羨ましいと言う人間は、こんなにもちっぽけだ。

何度確かめたって、僕に悪魔の尻尾はない。


そう、僕は人間だ。
ちっぽけで弱い。ただの人間なのだ。


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