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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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謝罪のいろは


「志摩のところって兄弟喧嘩したときどうしてる?」
「え?先生と喧嘩でもしたん?奥村君」

塾が終わった後の帰り道で燐は志摩に質問した。

別に喧嘩をした訳ではない。
ただ、最近雪男と喧嘩をする時はお互いにムキになりすぎて
結果、喧嘩が長引く事が多々あった。

雪男は陰湿な一面がある。

塾の宿題を燐だけ増やしたり、授業中に当てるのは勿論。
燐がとっておいたゴリゴリ君を誘拐したりと犯行が
次第にエスカレートしていくのだ。
兄としては悔しいが、毎回雪男にやられる嫌がらせも勘弁して貰いたい。

だからこそその前に手を打ちたい、というわけだ。

「喧嘩はしてないけど、喧嘩を長引かせない喧嘩の仕方ってあんのかなーって
思ってさ。ほらお前の所兄弟多いじゃん?」
「あー、確かに。喧嘩長引くと嫌やんなあ。得に先生ねちっこそうやし」
「だろー!やっぱり志摩はわかってくれるか!」
「頭いいとそういう所にも頭回るしな。柔兄がそうやったわー」

志摩は何か過去の出来事を思い出したのか、涙が止まらなくなっていた。
成る程、志摩も苦労したらしい。

「で、方法ある?」
「うん、あるにはある。発案者は金兄やけどな。
あ、でも使い所は間違ったらあかんよ?」
「なんで?」
「火に油注ぐ結果になったこともあったからな」

そうして志摩は、燐にこっそりその方法を伝授した。



志摩と別れた後。
部屋に戻ろうとドアノブに手をかけたら、中から悲鳴が聞こえてきた。

『やめてー!』
「こら大人しくして」
『やー!おれのたいせつなものなのー!
りんー!りんー!』
「こら、ヌルヌル動かないの」
『やー!』
「…何やってんだお前ら」

燐がドアを開けると、ベットの上でヌルヌル動くクロと
そのクロを押さえる雪男がいた。
一体何事かと思っていると、雪男の手に爪切りがあるのが見えた。
成る程、クロの抵抗も頷ける。
燐を無視して、雪男とクロはお互いに譲る気配を見せず、
戦いはヒートアップしていく。

「あいた!ひっかくなよクロ!」
『ゆきおがわるい!やなことするからー!』
「ちょっとは爪切らないと僕らの服が穴だらけになるだろう!」
「いや、落ちつけよお前ら!」

見兼ねた燐が雪男の持っていた爪切りを取り上げた。

「なにするのさ!」

燐を見上げる雪男の形相はかなり怖い。
燐は必死すぎる雪男に若干引きつつ、とにかく宥めることにする。

「何があったんだよ…」
「どうもこうもないよ、
帰ってきたら僕の祓魔師のコートでクロが爪とぎしてたんだよ。見てよこの穴!」

見れば、確かに複数の穴がコートに空いていた。
とはいっても小さな穴だ。

「…気にしすぎじゃね?」
「違うよ、その横」

横に視線をずらすと、
臍の辺りに切れこみが入っていた。
確かにこれは深い。
布がめくれているので、これは見方によっては…

「臍出しコートか?」
「わかってくれた?まあ上半身裸でコートは着ないけどさ…」
「え?でもこの前裸コートだったよな?」
「あれは誰かさんが炎で服燃やしたからだろ」
「…うっ」

そこをつかれると、燐には何も言えない。
雪男がクロの爪切りを再開しようとすると、今度はクロが口を開いた。

『あれはおれじゃない!りんがやったんだろー!』
「…え」

クロが言うにはこうだ。
朝起きて、燐が腕を回していると丁度かけてあったコートに
燐の手が当たったらしい。

すぱっとコートが切れていたとクロは訴える。

燐は自分の手をみた。

おお、なんてことだ。
爪が伸びている。

燐の爪は悪魔の爪だ。
それこそ祓魔師のコートだって軽く裂けるだろう。
嫌な汗が一気に噴き上げてきた。
燐は何も言わず、部屋から逃げようとした。
雪男はそれに足払いをかけて阻止する。

燐が床に倒れこんだ。

「雪男。お、俺はなにも…」
「怪しいな。クロの言葉はわからないけど兄さんは怪しいな」

クロを離した雪男は、今度は燐ににじり寄ってきた。
クロは開放された瞬間に全力でドアから逃げていった。
もう言い訳の仕様もない。
怒れる雪男は爪切りをカチッカチッと鳴らしながら
仰向けに転がる燐の上に跨がった。

正直怖い。怖すぎる。

雪男は燐の手を取って、コートの切れ目と燐の爪を照らし合わせた。

ピッタリだ。

「…で、何か反論は?」

冷めた笑顔の雪男を見て、燐は志摩の言葉を思い出す。
使い所は、そう。
今かもしれない。

燐は意を決して言った。



「そ…某が悪うございました!」



「…は?」

呆然とする雪男に燐は更に言葉を続けた。

「何分、右も左も解らぬ若輩者故、貴殿のお怒りもごもっともで御座ろう。
しかし、だかしかし!某にも悪気があった訳ではございませぬ!
不慮の事故なので御座る!許してくれとは申せませぬが、せめて。
嗚呼せめて御慈悲を!雪男様!お代官様!代官山様!」

「誰が代官山だ!」

ばし、と頭を叩かれた。
燐は痛む頭で考える。くそ、使い所を間違えたか。

志摩家では、喧嘩が始まる前に阿呆みたいな言葉を言い合うことで、
喧嘩を回避すると言っていた。
その口調は多岐に渡り、オネェ言葉。時代劇口調からネット用語まで対応可能らしい。

しかし悲しいことに、これを笑って済ませる関西のノリが泣ければ
この謝り方は成立しないのである。

燐と雪男は南十字の修道院育ちであった。


「くそ、オネェ口調の方がよかったか…」
「とりあえず、謝る気があるのかはっきりして貰おうか」
「ごめんなさい」
「よし。謝罪は受け入れよう。じゃあ次はお仕置きだ」
「な、なんだってー!」
「もないでしょう。人のコート駄目にしといて」

雪男は手を伸ばして、燐の手を取った。伸びた爪をパチリと爪切りで切った。

そう、深爪ギリギリの深さだった。

「い、嫌だやめろ!お前の切り方怖い!」
「どのくらいで血が出るだろうね?」
「やめろー!」
「冗談だって。まあお仕置きだしね。両手両足ともやってあげるから覚悟して」
そして、雪男は思いついたかのように燐に言った。


「大人しくしておれば、悪いようにはせぬわ…」
「…お、お戯れを……!」

その後しばらく、602号室からは燐の悲鳴が聞こえてきたという。

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