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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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十二月二十七日の十一時



なんという理不尽だろうか。

雪男は落ち込みながら、寒い道をとぼとぼと歩いていた。
本当なら、今日は祓魔師の仕事はなかったはずなのだ。
祓魔師は人手不足とはいえ、休日や有給が認められていないわけではない。
立派な職業のひとつであるわけなので、休日がなければ労働基準法に引っかかってしまう。
ただ、労基局に駆け込んだとしても「悪魔の退治に追われて休日が取れません」という祓魔師の
切実な願いが届くかどうかはわからないが。
労基局の人間にも祓魔師のOBを入れるべきだという意見が多少あるのも仕方ないのかもしれない。
普通の人に悪魔は見えないのだから。
ああ悔しい。雪男はため息をついた。

今日は雪男と燐の誕生日だった。
塾が終わった後に、塾生たちとささやかなパーティをすることはできた。
そして寮に戻れば兄の手料理が待っていたはずだったのだ。
雪男の好物と燐の好物が入り交じり、燐が前日から一生懸命に作ってくれたケーキもあった。

寮に戻る前に、雪男のケータイに悪魔から連絡が入った。

「奥村先生☆仕事ができました☆」

それはもう必死に断った。今日くらい休みたかった。
クリスマスも働かされて、年末年始も残業三昧。やっととれた休みを死守したかった。
でも、雪男の称号は医工騎士である。人命が掛かっていると言われてしまえばそれまでだ。
恐る恐る燐に問えば、燐は笑って送り出してくれた。

おう、いいぞ行って来いよ。待ってるからな。
うん、早く帰るからね。

兄弟が交わす会話ではないのだが、燐は雪男の胃袋を握っているので仕方ない。
雪男は急いで仕事場に向かった。
すると、そこには夫婦喧嘩の修羅場があった。
夫の仕事中に、悪魔に取り憑かれた間男が妻を誘惑したらしい。
妻は揺れる心を抑えながらも、クリスマスにも年末にも毎年帰ってこない夫に寂しさを覚えていた。

奥さん、いいじゃないですか。どうぜ旦那は今日も帰ってきませんぜ。
ああ、駄目です水道屋さん。私はそんな不義理は果たせません。
今ここにいない旦那さんよりも、私は貴女に甘い言葉もやさしい誘惑もかけて
あげることができますよ。さぁ。私の元に堕ちて来て下さい。
ああ、だめです!

どこのAVだ。と志摩がいたなら言っただろう。
そして、志摩が医工騎士の資格を持っていたなら意気揚揚として行っただろう。
世の中には適材適所という言葉がある。
間違いなく、今回は雪男に向いていないタイプの仕事だった。
雪男は夫と妻と悪魔の間に立って狂乱を阻止するという
十五歳にはきつい仕事をこなしてきたのだ。これ、そもそも高校生に振っていい仕事じゃない。
旦那が呟いていた言葉が、耳に残る。
寂しい想いをさせているって、気づかなかった僕も悪かったのかもしれない。
その言葉を聞いた雪男は、どきりと心臓がはねた。
脳裏に浮かんだのは、クロと二人で寮の一室でぽつんと待っている燐の姿。
その背後に忍び寄る、ピンク色の悪魔。

「今日奥村先生は帰ってきませんよ、さみしいでしょう。
さあ私の屋敷で楽しく過ごしませんか奥村君。メインデッシュは君だ」
「メインデッシュ?俺は食べられねーぞ」
「悪魔には色々な楽しみ方があるのですよ、フフフ」

想像してぞっとする。
メフィストならやりかねないのがまた怖い。
自然と早足になって、最後の方は全力疾走だった。
寮の前について、上を見上げる。今にも雪が降りそうな空だ。
部屋の明かりはついていた。
そして、食堂の方にも。雪男はほっとして、扉を開けた。
ガラスが割れる音が響く。誰かが争う音が聞こえてきた。
食堂に近づくにつれて、音は大きくなっていった。

メフィストッ!やめろって言ってんだろ!

燐の声が聞こえてきて、雪男は確信した。
誕生日の日に、間男が紛れ込んでいる。悪魔なので、魔男と言ってもいいかもしれない。
いや、悪魔だから悪魔男か。とにかく大変である。
疲れた頭を抱えて、雪男は食堂に飛び込んだ。そこには。

「やー!!いぬがおれのごはんたべたああ!」
「うるさい猫又ですね!いいじゃないですかちょっとくらい!」
「また作ってやるから喧嘩はやめろよ!」

そこには、エプロン姿の燐の下でわんわん、にゃんにゃん言い争う動物の姿があった。
燐は雪男の姿に気づいて、ぱっと明るい顔になる。

「よう、おかえり!」
「ただいま、何事?」
「メフィストが来てさー、雪男いないなら一緒に屋敷行こうって言われたんだけど。
俺断ってたんだ。そしたらメフィストが用意してたごはん摘み食いして・・・」

言われた言葉にぞっとした。あと一歩帰るのが遅かったら雪男の想像が現実のものに
なっていたかもしれない。間男の退治には、寂しさを紛らわすペットがいいのかもしれない。
クロには後でマタタビ酒を献上しなければならない。

「クロ、よくやった・・・」
「ほら。皆席に着け―!喧嘩は終わりー」

雪男と燐は席に着いた。
雪男の膝の上には、クロが。燐の膝の上にはメフィストが座った。
何故当然のようにメフィストがいるのかがわからない。

「後見人が、子供の誕生日を祝ってはいけない決まりはありませんよ」
「ごはん食べたいだけじゃないんですか」
「そうとも言います」

燐は笑って、まぁいいじゃん。と言っているので雪男はもう何も言わないことにした。
兄の姿がとても、嬉しそうだったからだ。やはり寂しい想いはさせていたのだろう。
その主悪の根源はメフィストなのだから、後でとびきりの嫌がらせはさせてもらおうと思う。

「ぎりぎりになったけど、雪男誕生日おめでとう!」
「兄さんも、誕生日おめでとう」

ジュースで乾杯をして、家族で遅い誕生日会を開いた十二月二十七日の十一時。
外には、細かい雪が降り始めていた。

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