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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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雪と蝋燭

雪が降っている。
それは視界を覆いつくすように空から舞い降りてきて、志摩の身体を冷やした。
日が暮れる頃から降り出してきた雪は、深夜の今うっすらと地面に積もっている。
志摩が歩くたびにそこには薄い足跡がつく。
視線が雪の上を辿る。
志摩より先に残された足跡。
その足跡を追いかけるように志摩はゆっくりと歩き出した。

雪に埋もれていてわかりにくいが、視界の端にメリーゴーランドがあるのが見えた。
その横にはジェットコースター。季節はずれだがアイスクリーム屋の看板も見える。
メッフィーランドのマスコットキャラも雪に埋もれている。
はぁ、と吐いた息が白い。
聖十字学園の中に設置されている遊園地は、雪の為閉園している。
人の侵入を拒む柵を越えて、誰もいない遊園地をわざわざ歩く。
理由は簡単。呼ばれたからだ。
足跡の終わりが見えた。

「奥村君どうしたん」

ベンチに座って空を見上げる燐を見つけた。
肩には雪が降り積もっていて長時間そこに留まっていることがわかる。
志摩はポケットから携帯電話を取り出して、画面を燐に向けた。
画面のライトが暗闇を緑に照らす。

「呼ばれたから来てみた。探すの苦労したんやでー」

画面には燐から届いたメール。『今日夜空いてる?』のひと言だけ。
燐は雪雲に覆われた空から視線を外し、志摩を見る。
「・・・来るとは思わなかった」
「呼んだの奥村君やんか」
志摩は燐の隣に座る。ベンチには雪が積もっていたのでそれを手で振り払ってから座った。
するとベンチの真ん中辺り、なにか冷たくて固いものに触れた。
円柱。というか、雪を円状に固めたもので、円の上には小さな雪玉がいくつも乗っている。
暗闇で見えにくいが、この形には見覚えがある。
「ケーキ?」
「うん、当たり」
手先が器用な燐のことだ。明るいところで見たらちゃんとしたケーキに見えるのだろう。
だが、暗闇で見るそれは子供が雪玉をかき集めて作ったような歪な形に見える。
色もなく白い。触ってみたら、やっぱり冷たくてただのケーキの形をした雪だ。
雪のケーキを間に挟んで、ベンチの上で二人は隣り合って座っている。
目の前は暗くて、寒い。
燐はポケットからろうそくを取り出して、その雪のケーキの上に差した。
燐がろうそくに指をかざすと、ろうそくの上に青い焔が灯る。
青い焔がケーキの上に書かれた文字を照らす。
『Happy Birthday』
これは、誕生日のケーキだ。

「奥村君」
「なに」
「今日、誕生日?」
「うん」
「ごめん気づかんかった」
「・・・今日雪男が任務でいなくてさ。一人で祝うのもあれかと思って」
「うん」
「雪男の誕生日」
「え、奥村君もやん。双子なんやし」
「・・・・・・ああ、そういやそうか」
「奥村君、そういうの奥村先生にいうたら怒られるで」
「う、そうかな」
「そうやな」

青い焔が雪の中でゆらめく。

今日は奥村君の誕生日で、奥村先生の誕生日。
そして、俺のじいさんと一番上の兄貴の命日。

「メールしてごめんな」
「なんで?」
「今日、お前んち法事なんじゃねぇの」
「だいじょうぶや、俺の家な大家族やから。俺くらいおらんくても気づいてへんから」

じいちゃんと一番上の兄の記憶ははっきり言ってない。
なぜなら俺が赤ん坊の頃の話だから。
家族が死んだのは事実。
だけど、これくらいのことしたくらいでバチは当たらないだろう。
ごめんな、じいちゃん。兄貴。
正月には墓参りにいくから堪忍してや。
燐の冷たくなった手を握る。




「奥村君、誕生日おめでとう」




ケーキの上の焔が消えた。

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