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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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星間距離の縮め方


「あ、流れ星」
「え?どこ?」

志摩と燐は二人で夜空を見上げた。
しかし、星が落ちた形跡はもう見えない。
空に浮かぶ満点の星空があるだけだ。
「流れ星すぐ消えるから、気づいたときって大体見えないよな」
「そうそう、願い事三回もいえへんよね」
「前見た時は白かったけど、今回のは青く光って消えてたぞ」
「へー、ええなー俺も見たかったわー」
旅館の縁側に座って喋る。二人の間には切ったスイカが置いてある。
志摩はそれを一つ取って、食べた。
しゃく、とスイカを咀嚼する音が夏の庭に響く。
「うーん、ちょおっと乾いてて残念」
「これ、昨日切った奴だからな」
「なんで食べへんかったん?」
「なんかお前らの身内が言い争ってたから言いにくかった。
っていうかみんなで分けるために切ったんだよ」
「・・・あーうん。ごめんな」
「一人じゃ食えねーし。乾いたのしえみ達に食わせるには可哀想だし。
子猫丸と勝呂とは仲直りできてない。そこでお前だ」
「ひどい奥村君。俺は残飯処理係なん!?」
「いいじゃん。べつにまずいわけじゃねーだろ」
「そらそうやけど・・・」
「ほれ、食え喰え」
燐が手をひらひらと動かして、志摩にスイカを促した。
志摩はそれを横目で見て、また空に視線を向ける。
静かな虫の音色を聞きながら、星を見た。

「奥村君これ誰にもろたん?坊のおかみさんか誰か?」
「それは秘密」

燐はスイカを食べながら星を見上げた。
黄色に輝く星が見える。

「あの黄色の星なんだろ」
「金星ちゃう?」
「ああ宇宙人がいるのか」
「・・・奥村君、仮にも祓魔師目指しとるんやからそれはないやろ」
「なにが?」
「金星っていうたらルシファーの象徴。
で、そのルシファーいうたらサタンと同一視されとる存在やん」
「なんてこった、あの星は俺の親戚か」
「・・・うん、あながち間違った解釈でもないけどあってもないな」
奥村燐は何も知らない。祓魔師の家で育った志摩とは
大分違った環境で育ったらしい。
反応も何もかもそこらの一般人と変わらなくて、でもその存在は悪魔で。
なんともおかしな奴だと志摩は思っている。


「じゃあ、金星が奥村君やったら地球は奥村先生なんかな」
「なんで?」
「知らん?金星と地球って兄弟星って言われとるんよ」
「へー」
金星と地球はほぼ同じ大きさでできている。
地球も、生命の誕生がなければ金星のようになっていたのではないかという
仮説があるくらい近しい存在なのだ。
ただし地球とは違い、金星には二酸化炭素が充満し高温に熱せられた地表が
星を覆い尽くしているという死の星だ。
地球と似た存在なのに、決して交わらない。
生命の星と死の星。
人間と悪魔。
似通っているところが多くて、思わず志摩は笑った。自分の考えは意外と的を突いている。
「いきなり笑うなよきもちわりぃ」
「ごめんなー」
おそらく燐はこういった知識もないだろう。
中学校の授業もよくサボっていたと聞いている。


「じゃあ、俺と雪男の距離ってすっげぇ離れてんのかな」


ぽつりと燐が呟いた。
星と星の間は遠い。それこそ何億光年と離れているものもある。
地球から見て近くにあると思っていても実際その星同士の距離はとてもとても遠い。
こうして地球から眺めている時にはわからない。

「奥村先生となんかあったん?」
「別に、俺はやくアイツに追いつきてーって思ってるだけ」
「・・・ふうん」

やっぱりこの二人は星のようだ。と志摩は思う。
地球と金星はお互いに眺めたらとても遠い場所にある。
きっと、燐からしたら弟の方が先の方を歩いているように見えるのだろう。
だが志摩は知っている。
雪男だって燐の背中を追っていることに。
こうして二人を客観的に見れるからこそわかるのだろう。
この二人、お互い遠くにいると思っている割に外から見たら意外と近いところにいるというのに。
それこそ、地球と金星だって遠い遠い星から見たらこの夜空の星みたく
案外近くに見えているのかもしれない。
それと同じことだ。
主観をどこにとるか。客観的な視点をどこにとるかで
距離はこんなにも違って見える。
でも、それを横にいる燐に伝えようとは思わない。
「なぁ奥村君」
「なに」
スイカを口に含んだ。水っぽさと甘い汁が喉を潤す。


「地球が奥村先生で、金星が奥村君やったら
 俺流れ星になって奥村君に会いに行くわ」


地球はどうあがいても金星に近寄れない。
だったら俺は流れ星になって会いにいきたい。

だが、燐の反応は意外と薄かった。
「えー来んな」
「ひどい!なんで!」
燐が最後に残ったスイカを取って食べた。



「だって、星と星がぶつかったらお互い砕けて終わりだろ」
「あ、そっか」



どうやら星になっても距離のある関係のほうがいいらしい。

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