青祓のネタ庫
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おかしいな。
二人だった頃が思い出せない。
修道院にいたとき、二人だけで過ごした日は割と多い。
父さんは任務で忙しかったし、修道院にいる人達もあまり僕らに関わろうとしなかったから。
僕達は二人きりだった。
だからひとりじゃなかった。
雪が降る寒い日は、二人で手を握って父さんの帰りを待った。
迷子になった時も、二人で手を握って歩いた。
僕の右手は、いつも兄さんの左手を握っていた。
寒い。血色の悪くなった手をさすりながら、
燐は寮の部屋の扉を開けた。
部屋の中は暗く、雪男はまだ任務から帰っていないことがわかる。
間に合ったか、と燐は思う。
突然頭上が、ふわりと温かいものに包まれた。
「うわ!」
温かいものに触れる。暗くてわかりにくいが、
この感触はタオルだろうか。
「ごめん、兄さんがそんなに驚くとは思わなくて」
背後に雪男が立っていた。
燐をタオルで包んだ犯人だ。
燐は手探りで電気のスイッチを探してつけた。
目の前が明るくなる。帰ってたのか、と言おうとして燐は固まる。
雪男の表情は暗い。
「どうしたんだよ雪男・・・?」
「こんな夜遅くに雪まみれで帰ってきて、風邪引いたらどうするの」
雪男は燐を包んでいるタオルを取って、燐の頭を拭きだした。
心配をかけたのか。そう感じ取った燐は大人しくされるがままになっている。
時計を見てみたら、もう12時を回りそうになっていた。
「お前、いつ任務から帰ってきたんだよ」
「11時・・・半くらいかな」
「ついさっきじゃん」
「兄さんもう寝てるかと思って帰ってきたら、部屋にいないし。心配したんだよ」
雪男がタオルを取る。頭と、肩に積もっていた雪も拭えたので、先ほどよりずっと
身体が温かくなった。
「・・・悪かったよ。ってかさっき帰ってきたんならお前も身体冷えてんじゃねぇ?」
燐が雪男の手に触れた。
雪男ははっとした顔をしたが、すぐにその表情を隠す。
燐はそんな雪男に気づいていない。
雪男の手を握って、さすっている。
「ほら、お前もこんなに冷えてんじゃん。風邪ひくぞ」
「・・・さっきの兄さんよりましだよ」
「大丈夫だって、俺よりお前のほうが身体弱いだろ」
「昔と一緒にしないでよ」
「・・・はは、それもそうか」
燐の手が離れる。
雪男の手はさっきよりずっとあたたかい。
でも、雪男は気づいていた。
兄さんの手、左手だけ温かった。
その事実に心は冷え切っている。
昔は二人きりで過ごすことも多かった誕生日。
今日、兄は深夜にどこかへ行っていた。
帰ってきたとき、聞くことが出来なかった疑問。
兄さん、誰と会ってたの?
冷え切っていた身体とは違い、温かった左手。
昔、僕が握っていた兄さんの左手。
僕の右手は、いつも兄さんの左手を握っていた。
今は、別の誰かが。
「雪男、どうした?」
燐が心配そうな顔で雪男を見ている。
「なんでもない」
「でも、おまえ・・・」
雪男は燐を抱きしめた。
冷え切った身体が、心が、少しだけ温かくなった気がした。
「すげぇ、寂しそうな顔してるぞ」
雪男は、燐の右手を握った。
左手と違って、右手はとても冷たい。
だからこそ、雪男がこの手を暖めたかった。
「兄さん・・・誕生日おめでとう」
「お前もな、雪男」
この手を握るだけで、なにもかも繋ぎとめておくことができたらいいのに。
時計の鐘が12時を告げる。
僕達の誕生日が終わった。
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