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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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語り継ぐこと


燐の首筋には一本の刃が向けられていた。
それは魔剣カリバーンと呼ばれるものであり、
アーサー=オーギュスト=エンジェルという
祓魔師として最高位に位置する聖騎士が所持する剣である。

ここは正十字学園だ。祓魔塾を擁する学園に彼がいること。
またその剣があることにはなんの違和感も無いだろう。
だが、ここで問題なのは昼間の学園内でしかも一般生徒が行き交う階段の踊り場で
アーサーと燐が対峙していることだ。
幸い今は授業中だから、廊下に人はいない。
だが、あと30分もすれば授業が終了する時刻だ。
30分でこの事態が収集するとは思えなかった。
階段の踊り場で首を絞められながら剣を向けられることになろうとは、燐は全く考えていなかった。
そして、思わず言った。

「TPOを考えろ・・・!」
「それは貴様だ、何故ここにいる」
「ここは学校で、俺は高校生だからだよ!」
「そうではない、この時刻にいるということはサボりだろう。
よって魔神の胤裔は誅滅する!」
「理屈がわからん!」
「風紀を乱した!罪だ!」
「お前は風紀委員にでもなったつもりか!」

燐は炎を出して抵抗しようにも、どこに生徒の目があるかわからない以上出すことはできない。
燐は周囲に視線を配るが、誰もいなかった。
廊下の方から英語のリスニングに使うCDの音声だけが響いている。
燐は、別にサボろうとしたわけではない。
ただ単に、トイレに行きたかったから先生の許可を貰ってトイレに行った。
トイレから教室に帰ろうとした帰り道を、アーサーに襲撃されたのだ。
燐に落ち度は全く無い。あるとすれば時間と場所と場合も構わずに襲い掛かってきたアーサーだ。

「一般人に見つかったらどう責任とるんだよ!」
「今は授業中だ、大丈夫だ問題ない」
「あるだろ!授業終わったら階段の踊り場で生徒が死んでるんだぞ!
完全に警察沙汰の上に正十字学園七不思議とかにカウントされるに決まってる!
俺は嫌だぞ!」
「階段の踊り場の怪談か」
「ふざけんなコラ」
「魔神の仔の最期には相応しいな」
「そんなアホな死に方嫌だ!」

燐はアーサーの腕に手をかけるが、それよりも先に剣が首筋に刺さった。
紅い筋が皮膚を伝って落ちる。
これはいよいよヤバイ。
アーサーは本気で白昼堂々燐を惨殺しようとしている。

トイレに行って、逝くなんて嫌だ。

誰か、誰か助けてくれ。雪男、シュラ。

俺、このままだと何時までたってもトイレから戻ってこない奥村君
なんていう称号を得ちまう。
クラスでそんな目で見られたら俺は一体どうしたら。

燐も相当切羽詰まっているため、考え方がおかしくなり始めた頃。
アーサーは教室から漏れる音を聞いてふと剣を刺す腕を止めた。

「意外と懐かしくなるものだな。高校の授業というものは」
「え、お前高校生だった時あるのか?」
「当たり前だろう。とはいっても、俺が通っていたのは海外だがな」
「じゃあなんで、今ここでこんなことしてるんだ?」
「どういうことだ?」
「いや、高校行ってるのに。なんでそんな常識がないのかと・・・」
「何を言う、俺は飛び級で大学も早くに卒業したエリートだぞ。どこに常識が無い」
「高校で俺を殺そうとするところが」
「大丈夫だ、証拠隠滅は抜かりなく行なう」
「髪の毛そこに落ちてるぞ。鑑識に見つかるだろ」
「後で拾っておくことにしよう」

それじゃあ指紋が着くだろう。
どこが抜かりないんだよ・・・と燐は自分が死んだ後のことがすごく気になりだした。
どこかで劇的に死ぬんじゃなくて、こんなアホに殺されるなんて。
燐の死後、燐をトイレに送り出した教師はテレビのインタビューにこう答えるだろう。
『私が奥村君をトイレに行かせなかったらこんなことには・・・』
クラスの女子はこう答える。
『奥村君、トイレに行くって言ってから戻ってこなかったの』
『結構長い時間行ってたから、お腹でも壊しているのかなって言ってたんだけど。
まさか、階段でお腹(内臓的な意味で)を出して死んでるなんて・・・』

ダメだ。やはり俺はここでは死ねない。

俺は教室に帰って、トイレに関わったことで死んだのではないと証明しない限り死にたくない。
いや、初めから死にたくなんかないけど。
燐は覚悟を決めた。そうして、アーサーに最期の質問をした。

「これだけは答えろ」
「なんだ?」
「お前、頭いいんだよな?」
「ああ」
「いちたすいちは?」

「たんぼの田」

ダメだ、こいつ頭はいいけど知恵が無い典型的な例だ。
何を言っても無駄だと悟った燐は、一気に炎を出して抵抗をはじめた。
今まで大人しかった者が急に抵抗を始めたことで、アーサーも一瞬怯む。
その隙に、燐は叫んだ。
「雪男―――!助けてく・・・むぐぅ!!!」
口元を押さえられ、踊り場に押し倒される。
青い炎は二人を包むが、燐は倒された衝撃で一瞬意識が飛んだ。
炎は収束してしまう。
次に燐が目を開くと、もう口から言葉が出なかった。
「やってくれるな奥村燐」
「むー!!むーーー!うう!!」
口を手の平で押さえられて、何も言えなかった。
燐の目が恐怖で染まる。
嫌だ、誰か。父さん、雪男。俺は・・・


「兄さん!!」
雪男が発砲した。銃弾はサイレンサーつきで、音はあまり出なかった。
その音も、授業終了のチャイムの音にかき消される。
銃でけん制されたアーサーは燐から飛びのく。
ガシャンとアーサーの背後の窓ガラスが銃弾で割れた。
音を聞きつけたのか、ばたばたと廊下を走る教師の足音が迫る。

「よく駆けつけたな奥村雪男。授業はどうした」
「移動教室だったもので。その帰りです」

雪男は燐の手を引っ張って、自分の背後に隠した。


「今日のところはここまでだな。次はないと思え」


そういって、アーサーは割れた窓ガラスから、外に降りていった。
ここは5階だが、アーサーのことだ。死にはしないだろう。
しかし、窓の外から悲鳴が数回聞こえてきた。
雪男は背後から聞こえてくる足音の近さに気づき、銃を素早く隠す。
駆けつけてきた教師は雪男に問うた。


「奥村君・・・!今の全裸の男は一体!?」


「どうやら変質者が紛れ込んだようですね。兄はその変質者と最初に遭遇したようです」
「何、大丈夫かね?」
「・・・なんとか」
「先生、兄は動揺しているようです。保健室に行っても?」
「あ、ああかまわない。警察を呼ぶべきだな」
「はい。それと理事長にもお伝えした方がよろしいかと」

雪男は燐の手を引っ張って、階段を下りていった。後処理は教師がやってくれる。
階段の窓から外を見ると、遠くの方に金色の光が見えた。きっとアーサーだろう。
「全裸で颯爽と駆けるとか、アイツにしかできねぇよなぁ・・・」
「兄さん、大方炎を出して、服だけ燃やしたんだろ・・・」
「全裸で伸し掛かられるとか恐怖以外の何者でもないな」
「パンツまで燃やさなくてもよかったんじゃない?」
「いや、俺は燃やしてない。つまり、あいつ履いてないんだ」
雪男はなんともいえない顔をした。
燐もなんともいえない顔をした。
「・・・とりあえず、助かったぜ雪男」
「移動途中に兄さんの悲鳴が聞こえたからびっくりしたよ、間に合ってよかった」
「流石俺の弟だ」
「まぁ、全裸の男に伸し掛かられる兄という恐怖映像を見たけど」

雪男の眼鏡がきらりと光った。
その後、雪男の策略によりアーサーの名は学園に語り継がれることになる。
アーサーが落下したシーンを目撃した生徒が多数いたため、信憑性も増した。
正十字学園七不思議の一つに、落下する全裸男という怪談話が追加されたことを、アーサーは知る由もなかった。

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