青祓のネタ庫
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
≪ 勘は全てを知っている | | HOME | | 悪魔への対価 ≫ |
最初に気づいたのは誰だったのか。
目の前に黒いものが飛んでいる。
羽虫のようなそれは目の前を飛んでいき、消えていく。
そして、また別方向からそれがやってきては、視界を掠めていく。
こいつら邪魔だなぁ。
それが第一印象。
その黒いものこそ、菌類に付着する悪魔、コールタールだ。
こんなもの魔障を受けたら一番はじめに見る初歩悪魔。
入門悪魔といっても良いレベル。
志摩はあくびをしながら黒板を見た。
今は高校の授業中だ。周囲にいるのは完全なる一般人。
下手な行動はとれない。
志摩は改めて黒板を見た。
うむ、黒板の文字が、コールタールのせいでさっぱり見えない。
これは、授業を放棄しても良いレベルだ。
受ける気など毛頭なかったが、理由ができたことはなによりだ。
しかし、今日の彼らはおおすぎやしないだろうか。
志摩は、ポケットから携帯を取り出した。
もちろん、机の下に隠すことも忘れない。
メールを送ろうと思ったら、すでに何通かきている。
出会い系で遊んだから、また迷惑メールでもきているのだろうか。
送信者 坊
題名 まずいぞ
コールタールが教室の中にかなり入ってきとる。
今のところこっそり経で祓っとるけど、時間の問題かもしれん。そっちはどうや?
送信者 子猫さん
題名 僕もです
こっちも坊の方と対して変わらんと思います。
クラスの女の子の顔色がどんどん悪くなってきてます。
これ、奥村先生知ってはるんでしょうか。
志摩さんのとこはどうですか?
自分のクラスだけではなかった。
目を細めて確認すれば、窓の隙間から。扉の隙間から。
次々にコールタールが入ってきているではないか。
そして、これがほかのクラスでも起きている。
志摩はぞっとした。
何かが起きている。この数は尋常ではない。
あ、まずい。
コールタールが、このクラスで一番の狙い目美人にたかろうとしていた。
(あかん!)
志摩は、口元を教科書で隠して経を唱えた。
一瞬膨らんで、爆発するようにコールタールは霧散していく。
しかし、コールタールの勢いが止まることはない。
これは、大元を叩くしかないのかもしれない。
こいつらが好むものは、死体やゴミだ。
それを聖水で清めれば或いは。
志摩は、急いでメールを打った。
送信者 志摩 れんぞーの方
題名 こっちもまずいですわ!
今、経で祓ったんですけど、数が多すぎです。
一旦集まりましょう。まずい気がします。
程なくして、勝呂と子猫丸から了承の返事がきた。
志摩は、体調が悪いと言って教師の許可を得て教室を出る。
何人か、顔色の悪い生徒がいた。
たぶん、志摩が出たことで保健室に行く生徒が何人か続くだろう。
我慢はせんほうがええで、と思いつつ教室を後にした。
コールタールの数は、さっきよりも多くなっている。
廊下に広がるコールタールを避けながら、志摩は待ち合わせ場所に指定した階段の踊り場に向かった。
途中、誰かが男子トイレに入っていく姿が見えた。
どうも、見かけたことがあるような雰囲気の生徒だ。
しかし、コールタールの集団に遮られて、顔がよく見えない。
志摩は、階段を下りながら、雪男と燐に連絡を取ろうと思った。
あの二人には伝えておいたほうがいいだろう。
「志摩!」
「志摩さん!」
階段の踊り場には、先に勝呂と子猫丸が着いていた。
「お二人とも、大丈夫でした?」
志摩は、合流した二人に奥村兄弟に連絡を取ろうと言った。
しかし、勝呂がそれに首を振る。
「アカンかった。この少しの間に電波通じんくなっとる。試してみ」
「え、嘘!?」
志摩は、携帯の電波を確認する。もう圏外になっていた。
「場所によってはまだ通じると思うが、瘴気のせいやろう。
一応、俺と先生は特進科で階が一緒やから、先生のクラスの前通っといた。
たぶん、先生なら気づく」
階段の方も、空気が悪くなってきた。
紫色の瘴気が充満してきている。これを吸い込むのは、やはりよくない。
勝呂は口元を押さえて踊り場に設置されている窓を開けた。
こちらの方角の空気はまだ汚染されていないらしい。新鮮な空気が流れてきた。
三人は窓から顔を出して、空気を吸う。
階段でこうなのだ。密閉されている教室の中を想像してぞっとした。
後ろから階段を降りる音が聞こえた。
「三人とも、大丈夫ですか!」
「奥村先生!」
三人が振り返ると雪男がいた。
学校にいるからだろう、いつもの祓魔師のコートを着てはいなかった。
手に携帯電話を持っていることから、連絡を取ろうとはしていたらしい。
先ほど勝呂が去った方向を見ていた雪男は、急いで教室を出てきたらしい。
雪男は、三人にポケットから取り出したマスクを渡した。
「この魔除けのマスクをつけてください。瘴気の中でも少しは動ける」
外から、サイレンの音が聞こえてきた。
「救急車?」
「ええ、学園内で瘴気が充満していることで、倒れる人が続出しているんです。
症状が軽ければこの場所から離れるだけで良くなることもある。
三人には、魔障症状のある生徒の学園内からの退去を手伝ってください。
重傷者は、担架で運んで。一般の救急隊員の人も救助に来てくれます。
指示の優先はその場にいる医工騎士が第一、第二は救急隊員。
優先順位をつけるように」
「誰もいないときは?」
「独自の判断で。しかし、その場合は必ず正規の祓魔師を探すようにしてください」
雪男は、症状の重い者の手当と同時に、原因の究明が任務としてあると言った。
「原因はなんなんでしょう?」
「わかりません、しかし、一般的な死体やゴミから発生する量とは明らかに違う。
誰かが意図的にやっているのかもしれない」
誰かが意図的に学園に仕掛けた。
一般人を巻き込んだ無差別な攻撃方法だ。
勝呂は胸くそ悪ぃとつぶやいた。
みんな、心中は同じだろう。
「あのぉ出雲ちゃん達は大丈夫なんですか?」
「神木さん達は一足先に救急テントで手伝ってもらっています。大丈夫ですよ」
聞くと、塾を辞めたが悪魔の見える朴も応援で手伝っているそうだ。
そうなると、残りは。
「奥村君は?」
「兄さんは・・・」
階段をばたばたと駆けあがる救急隊員が4人の前を通った。
「君達、大丈夫かい!?」
雪男は階級証を見せて言う。
「僕は祓魔師です、この3人は祓魔塾の生徒です。
今回の事態についての対処は心得ております。一般人の保護をお願いします」
上の階から悲鳴が聞こえてきた。
事態はまずい方向に動いているようだ。
廊下の方にも、ストレッチャーを持った隊員が動いていた。
雪男と話していた救急隊員も「気をつけて」と言い残し急いで現場へと向かう。
上の階からまた別の声が聞こえた。
すまない、タンカを貸してくれ!!この少年の症状はかなり重篤だ!
その声に、ストレッチャーを持った救急隊員が応えている。
4人は表情を険しくした。被害が出ているようだ。
雪男は携帯電話を見た。圏外だ。
「兄とは、連絡がまだついていないんです。誰か兄からの連絡ありましたか?」
三人は首を横に振る。
志摩は、雪男に提案した。
「もしかしたら、もう誰か連絡来てるかもしれませんよ。
今圏外やし。なんやったら窓の外に携帯かざしてみませんか?」
4人は携帯を正気の少ない窓の外に向ける。
すると、雪男の携帯に着信があった。
時間的に、少し前に送られたようだ。
雪男の携帯が既に圏外だったため、受信ができていなかった。
送信者 奥村 燐(兄さん)
題名 なんかおかしいぞ
教室にコールタールがいっぱいいる。
トイレから見たけど、
コールタールが発生してる場所がわかった。
誰かがひょういされてからじゃ遅いし、先に行ってる。
たぶん、旧校舎のほうだ。
「「あんのバカ!!!」」
メールを見た雪男と勝呂は、そろって激高した。
志摩は、奥村君って変わらんなぁと身を震わせる。
きっと、見つかったら二人からこってりと絞られるだろう。
そうして、志摩が見たトイレに入っていった人物が燐ではないかと気づいた。
「仕方ありません。僕は急いで旧校舎に向かいます。
君たちは、さっき言ったように魔障者の搬送を」
「先生、奥村見つけたら俺も言いたいことがあります」
「ええ、そのときは勝呂君にもつきあってもらいましょうか」
そうして、それぞれに解散した。
志摩は気になって、一応トイレも確認したけれど、燐は既にいなかった。
途中で、全身を毛布で包まれたストレッチャーに乗った人ともすれ違った。
だいぶ、症状が重い人も出ているらしい。
廊下にも、生徒が何人かぐったりと倒れている。
志摩は、覚悟を決めた。
よし。まずは、女子生徒からの救出だ。
姿の見えない燐のことも心配だったが、燐は、悪魔だし。
瘴気の中でもきっと大丈夫だろう。
それが、みんなの共通の認識だった。
≪ 勘は全てを知っている | | HOME | | 悪魔への対価 ≫ |