青祓のネタ庫
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鹿子草はどうだ。
ぜんぜん足りません!
きみは湯を沸かしてくれ!
菖蒲がないぞ!どこへいった!?
怒号と混乱する声が響く。
ここは、学園から少し離れているグラウンドに設置された救護テントだ。
重症者は騎士団に連なる魔障専門病院に連れていくしかない。
しかし、病院も大量の人数を受け入れるようにはできてはいない。
まずは応急処置をしたうえで、重症患者。要治療患者。
軽傷者とそれぞれにわける必要がある。
つまりは、患者の優先順位をつけるということだ。
祓魔師は万年人手不足だ。
それに、すべての祓魔師が医工騎士の免許を持っているわけではない。
少ない人数で的確に患者をさばく技術がなければ、野戦病院のようなこの状況を乗り切ることはできない。
必然的に、医工騎士達の声にも余裕がなかった。
「・・・なんだかすごく荒れてるね出雲ちゃん」
「仕方ないわ。学園中が巻き込まれたんだもの。運ばれてくる生徒の数も多いし。余裕がないんだわ」
出雲は、朴から受け取った薬草茶を学生の口もとに持ってきた。
こぼさないように慎重に飲ませて、簡易ベッドに寝かせる。
もう何回繰り返したことだろうか。
ベッドに入れずに、グラウンドの上でうずくまっている生徒もいる。
ひどい状況だった。
だが、祓魔塾に通う生徒として、弱音を吐くわけにはいかない。
「朴、まだ薬草茶はある?」
「少しだけ、これ補給できないかな?」
「・・・今は難しいわね。鹿子草も、菖蒲もない。どこも薬草が足りてないみたいなの。どうにかしないと・・・」
視線をあげると、塾からの要請で救護にきたしえみの姿が目に留まる。
一人で患者の手当をしているようだ。
朴は、ふと思いついたかのように言った。
「そうだ、杜山さんって使い魔からアロエだしてたよね?
あのニーちゃんっていう使い魔に出してもらうのはどうかな?」
「無理よ。あの子、前に魔法陣を悪魔に破られてから使い魔が呼べないみたいなの。
使えないんだから!」
怒る出雲に苦笑しながら、朴は冷静に考えていたことを言った。
「出雲ちゃん・・・私にはわからないんだけど、
使い魔って呼び出すコツみたいなものってあるの?」
「コツ・・・?まぁ私なりにあるけど」
その言葉を聞いた朴の目が輝いた。
「出雲ちゃん、それ杜山さんに教えてあげてよ!」
出雲の顔が一瞬ぽかんとして、一気に沸騰した。
「なんであたしが!」
「だって、この状況で薬草を補給できそうなの。杜山さんしかいないよ!
ねぇ!出雲ちゃん!」
「あ、あたしが教えてどうこうなるわけでも・・・」
出雲は目をそらした。手工騎士の悪魔を呼び出す力は才能によるものだ。
その分、本人のメンタル面や体調に大幅に左右される。
それにやり方にかなり個人差が現れるのも特徴の一つだ。
ある手工騎士にとってはいい方法でも、別の手工騎士にとっては向かないことだってある。
それを、出雲は懸念していた。
私が教えて、本当に大丈夫なのだろうか。と。
「出雲ちゃん、杜山さんのことやっぱり心配なんだね」
「だ、だれがあんな奴!」
「わかるよ。私出雲ちゃんと友達だもの。でもね」
朴はひと呼吸おいて、応えた。
「私、絶対にそのほうがいいって信じてる。
出雲ちゃんなら杜山さんの助けになれる。
私は、出雲ちゃんも杜山さんも信じてる。だって、それが友達でしょう」
私には何の力もないから。と朴は少し笑った。
出雲は、少し考えてポケットから魔法陣を描いた紙を取り出した。
それを持って、ずんずんとしえみの方へ向かう。
「ちょっとあんた!」
「うわあわ!はい!!」
いきなり話しかけられてびっくりしたのだろう。
しえみはろれつが回らなくなりながらも、出雲の方を向いた。
「神木さん、どうしたの」
「どうしたのじゃないわよ!あんた、この状況わかってる!?
あんたの使い魔が活躍する時じゃない!なんで出さないのよ!」
「ご、ごめんなさい・・・あれから、少しだけど呼べるようにはなったの。
でも、タイミングがまちまちで・・・」
しえみはおろおろと説明をした。
つまり、全く呼べなくなった訳ではないが、そのタイミングが掴めないらしい。
しえみは申し訳なさそうに謝罪した。
「ごめんなさい。私の力不足で・・・」
出雲は、しえみの言葉など聞きたくないとばかりに祝詞を唱え始めた。
「稲荷の神にかしこみかしこみ申す・・・」
攻撃されるのだろうか。体が固まる。しかし違った。
祝詞が唱え終わった瞬間、光に包まれて白狐が2体召還された。
「あんたねぇ!びくびくせずに、呼んでみなさい!
ほら、あたしがやったみたく!薬草ないと迷惑なのよ!」
出雲の言葉は不器用だが、その裏に隠された感情をしえみは理解できた。
出雲の言葉に喚起され、しえみも覚悟を決める。
「やってみる」
「そうよ、がんばりなさい」
「そうだ、神木さん。これだけは聞きたいの。呼び出すときのコツってなにかあるかなぁ?」
何回か呼び出しても安定しない。それでは意味がない。
しえみはアドバイスを出雲に求めた。これには応えなければならないだろう。
出雲はしばし考えた。そして、胸を張って応える。
「勘よ!!!!」
勘なんだね。わたしもやってみる!
としえみも精神を集中させた。
朴は、ああ、勘なんだね出雲ちゃん。
と友のアドバイスになんともいえない苦笑を浮かべた。
後は、この二人にまかせよう。
召還の類は朴にとっては専門外だ。
朴は、薬草茶が入ったやかんを置いて、側にあった患者名簿を見た。
目の前にいる患者がどこの誰なのかも確認することも大事な仕事だ。
目の前にいるのは、1学年上の高校2年生か、と彼の持っていた学生証と照らし併せて確認する。
そして、名簿をめくると、まだ連絡の取れていない学生の一覧があった。
こういった非常事態には引率の教師が学生の点呼を行い、それを学年主任に報告することになっている。
魔障にかかった生徒、無事な生徒、病院に送られた生徒。
それがいったい何人いて、誰が無事で誰が負傷したのか。
正確な数を把握するまではまだ時間がかかるだろう。
生徒数が多いのもあるが、こういった集団感染などの事態は過去に例がない。
教師の側も戸惑っているのが現実だ。
名簿をめくっていくと、朴はそこに知った名前を見かける。
「奥村君・・・?」
そこには、1学年奥村燐という名前があった。
彼の行方がわからないということは、どういうことなんだろう。
双子の奥村先生や、志摩君達は連絡先を知っているだろう。何かあったのだろうか。
屍に襲われた自分を助けてくれた時も思ったが、彼はとても優しい。
きっとこういう事態には真っ先に元凶の元に飛び込んでいきそうだ。
その姿が目に浮かぶ。
朴は、奥村君大丈夫なのかなぁとぽつりと口にした。
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