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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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正十字学園の恋人5


勝呂は燃えていく赤い視界の中、燐の耳元に唇を寄せた。
それは、悪魔の記憶を覗き見ていた時に知った、悪魔の致死説ともいえる言葉だった。
燐はその言葉にはっとした表情を取った。
まだ、勝呂には意識がある。燐は燃える勝呂をものともせずに、抱きしめた。
勝呂の呼吸は荒い。中にいる悪魔が、カルラの炎でのたうちまわっていることがわかる。
しかし、まだ勝呂の体から離れようとしない。しつこい悪魔だ。燐は怒鳴った。

「勝呂から出ていけ!!クソ野郎!!」

悪魔は燐の放つ圧力と、カルラの炎に耐えられなかったのだろう。
半分だけ、悪魔はその実体を表した。
黒い、ドス黒い塊だ。人間の魂はここまで黒くなれるのかというくらいの漆黒の塊だった。
下級や、中級レベルではない。この悪魔は、堕ちるところまで堕ちた魂のなれの果てだ。
上級にも匹敵する黒い力を持っている。
叶わなかった恋。憎いと想う心。異常な性愛と執着。
それは、なおも勝呂の体から離れようとしない。
勝呂は、燐に向かって叫んだ。

「やれ!!奥村!!!俺に構うな!」

燐は一瞬躊躇するが、勝呂の言葉を信じ、手のひらを降り上げた。
同時に、勝呂の頬に衝撃が走る。痛い。しかし、我慢だ。
勝呂はかすれる視線で燐を見つめた。
絶対零度の青い瞳が、自分を見下ろしている。
青い瞳の中に宿る赤色の光彩がまるで燃えているかのような印象を受けた。
その振り切った右手の平の跡は、くっきりと自分の頬についているはずだ。

勝呂が感じた痛みは悪魔も感じているらしく、低くうなる声が背後から聞こえてきている。
燐は絶対零度の瞳で、背後の悪魔に向かって言った。
勝呂が伝えた、悪魔の致死説だ。

「この、浮気者」

悪魔は―――男は、生前燐に似た男子高校生に振られたことが心残りだった。
恋心はいつしかストーカーまでレベルアップし、相手に対しての執着はもはや呪いとも呼べるほどだった。
メッフィーランドで高校生にすがりついても、ほんの少しの接触も許されないほど男は嫌われていた。
だから、男は男子高校生への思いを振り切るためにあるお願いをしていたのだ。
この、浮気者。と言ってくれと。
そうすれば、男の頭の中で男と男子高校生は一度つき合っていたことになる。
妄想上の設定をなんとか壊したくなかった男は、
自分の浮気によって振られてしまったのだという新たな設定を生み出した。
そうして、振られたことで一度男子高校生との妄想に区切りをつけ、
次のターゲットを見つけようと思ったのだ。
だが、その言葉を得ることもなく男は死んでしまった。
男の妄想に区切りをつけるための言葉が、男にとっての致死説だったのだ。

勝呂の体から、黒い影が剥がれ落ちて消えていく。
カルラの炎を纏ったまま、勝呂は倒れ込んだ。
燐はそんな炎に包まれた勝呂を倒れる前に抱き止めた。

炎は少し熱かったが燐を焼いたりはしない。それよりも、勝呂のことが心配だ。
悪魔に憑依されたあげくに、カルラを使い、燐にビンタされた。疲労していないはずがない。
燐は不安げな声で勝呂に話しかけた。

勝呂の頭の中では、男の過去が浮かんでは消えていた。
もう少し落ち着けば、完全に消えるだろう。
男の視線から見た男子高校生は、確かに燐に似ていた。
勝ち気な瞳で、怯えたような表情で。それでも立ち向かっていくようなそんな姿を見ていた。
目を覚まさなければ。記憶の中の高校生ではない。
目の前にいる奥村燐を、見つけたかった。

「勝呂、大丈夫か?なぁ勝呂・・・」

声が聞こえる。自分を心配する声だ。
お前こそ大丈夫だったのか、悪魔に。
俺の姿を借りた悪魔に襲われて。怖かったんじゃないか。
勝呂は、答えるように燐の背中を抱きしめた。


「俺には、お前だけや」


呟いた言葉は、燐に届いていただろうか。
カルラの炎が消え、二人の間に沈黙が訪れる。
勝呂は目を瞑っていたが、しばらく燐が支えてくれていたおかげで体力は徐々に戻ってきたようだ。

だが妙な寒さを感じて、勝呂は目を開けた。
目の前には、鏡があった。ミラーハウスなのだから当たり前だ。しかし、問題はそこではない。

『お前達、いつまで裸のまま抱き合っているのだ?』

ぽこんと現れたカルラが、冷めた瞳で二人を見つめていた。
勝呂は呆然としていた。
視線を逸らしたくても、ここは全包囲死角なしの鏡張りだ。
裸のまま抱き合う二人が四方八方に映っている。

「う、うがあああああ!!!」

勝呂は燐の顔を手で覆い隠した。燐も状況に気づいたのか、顔を真っ赤にして震えている。
まずい、どうしてこうなった。勝呂が焦っていると、燐が慌てながら答えた。

「あ、あれだろ勝呂。お前も俺と同じで炎の扱いに慣れてなくて、
服まで燃やしちまったんだよな!ははは!」

二人は距離を保ちつつ、そのまま後ろを向いた。
正面から見るのは無理だ。余りにも動揺しすぎている。
しかも取り憑かれていたとはいえ、勝呂は燐に対して途中まで。
かなり際どいことまでやってしまっている。
視界の端に映る背中や、しっぽの生えた尾てい骨まで。その姿は勝呂の危うい理性を刺激した。
勝呂は、別にアブノーマルな趣味を持っていたわけではない。
悪魔が取り憑いたことで悪魔の視界で燐を見たことで。
きっと動揺しているのだ。と勝呂は自身を納得させようとした。
勝呂はストイックかつストイックにできているのだ。

『やれやれ、人間というのは実にまだるっこしい生き物だ。
自分の心を偽っているからこそ、悪魔に付け入る隙を作るのだぞ竜士』

カルラが勝呂の頭にのっかってつぶやいた。
燐にぶたれてじんじんと痛む頬に触れ、勝呂は思った。
どうしてこんなことになってしまったのだろうかと。
勝呂竜士はストイックかつストイックに生きてきた。
自分を律するからこそ悪魔に立ち向かえるのだとそう信じてきた。
だが、今回の結果はどうだ。

確かに自分は、奥村燐を手に入れたいと思ってしまった。
悪魔なんかに渡したくはないと。

勝呂は自分の身の内にあった自らも知らない感情を自覚した。
人は、聖人君子ではいられない。汚い心も醜い感情も人間を作る上で必要なものだ。
勝呂はそれを自覚し、受け入れたからこそ最後まで自分を律することができたのだ。
燐をこんな方法で手に入れたくはないと。強く思った。
その思いが、悪魔への抵抗力となった。

自らを縛るだけでは、人は成長しない。

勝呂は身を持って実感した。
自らを律しない悪魔に出会ったことで、勝呂は燐への想いを自覚することができた。


そこまではいい。


だが、現実問題二人は裸で全包囲鏡張りの状態だ。ラブホテルもびっくりの状況である。
ここの難問を突破しなければ今日の任務は完遂できないだろう。
勝呂が服まで燃やしてしまったのは、燐もコントロールするのに相当手間取ったあれだ。
勝呂はまだカルラと契約して間もないため、達磨のように自在にカルラを操るまではいっていない。
今回も、無我夢中で燃やしたようなものだ。従って服は燃えてしまった。もう戻ることもない。
まずは、外部に連絡を取らなければならない。
勝呂はちらりと背後を向いた。
勝呂と燐の間に、燐の携帯電話が落ちていた。
悪魔が燐に命じて床に置くように言ったものが、難を免れていたらしい。勝呂は燐に話しかけた。

「奥村、それで電話してくれへんか。誰かに服持って来てもらわなアカン」
「それもそうだな、じゃあ雪男に・・・」
「アカン!!待て!それはアカン!!!」
「え、なんで」
「なんでかわからんけどアカンねん!」

勝呂の第六感が雪男を呼んではいけないと告げている。
いくら勝呂が優等生で通っているとはいえ、この状況を作り出したのは紛れもなく勝呂だ。
燐に近づく不埒な輩。志摩と同じような扱いを受けるのだけはごめんだった。
燐は炎で燃やしてもパンツを残していたが、勝呂はパンツすら残らない全裸な分余計に性質が悪いと思われそうだ。

「ここは子猫丸辺りに頼むしかないやろ」
「でも、あいつの服借りれないだろ。小さいし」
「それ本人の前で言いなや・・・宝、も無理や論外や。残るは志摩か」
「サイズ的には借りれるぞ」
「ただ・・・暴走する気配がするわ」

うっわ、うっわ。なんですの坊と奥村君。
人のこと散々エロ魔神やなんや言うてたくせに、今一番。
いや、今年一番の破廉恥な格好してはるんは二人でっせ。
うぷぷ。どないしたりましょうか。
こっちの鏡に映ってはる二人写メして実家の方に送っておきましょうか。
みんな坊が童貞捨てた言うて、正十字乗り込んできますよ。
お赤飯が黒い猫の便でやってきますよ!うひょひょ~

究極の選択ではあるが、行動を起こす前に死ぬ気で止めれば被害は少なさそうだ。

「・・・背に腹は変えられんわ。志摩呼ぶか」
「俺もなんとなく想像ついた」

二人は少しだけ笑って、同時にくしゃみをした。
流石に長時間裸でいるのは寒い。
勝呂が燐の方を振り返ると、燐は腕をさすりながら携帯電話をいじっていた。
おそらくそう時間はかからずに助けは来るだろう。
勝呂が視線を戻すと、鏡に黒い影が映っているのが見えた。
ゴブリンだ。任務で追っていた駆除対象が、まさかミラーハウスの中まで入りこんでいるとは。
ゴブリンは何かから逃げているかのような必死の形相だ。
そのゴブリンが向かう先には燐がいる。まずい。このままいけば燐が襲われてしまう。

「稲荷の神にかしこみ申す!!!!」

牙は二人に届く前にかき消えた。
鏡の中に、黒髪の少女が映る。
ゴブリンを駆除するためにミラーハウスに入ってきた出雲だった。
勝呂は助かった。と思うと同時に。

「まったく、あんた達なにちんたらやって・・・ってきゃあああああああああ!!変態ゴリラ―――ッ!!!」
「待て、誤解やああああああああ!!!!」

燐を庇うために、勝呂は燐の上にのしかかっていた。
そう、全裸で。
ミラーハウスには全裸で同級生にのしかかる勝呂と全裸で押し倒されている燐が映し出されていた。
これはもはや視界の暴力に等しい。
出雲は喉の奥から絶叫を響かせ、半泣きで走り去っていった。
おそらく、数秒で雪男がここにたどり着くだろう。そしてこう言うのだ。

「今回は悪魔・・・フェアリーの仕業だったようですね。
知ってますかフェアリーって俗語で同性愛の男っていうんです!
いい意味じゃないのでよい子は使用しないように!!」

響く銃声まで想像できた。おそらく自分の命は持って数分だ。
勝呂の下にいる燐が、身じろぎをした。
そうだ、いつまでも下敷きにしているわけにはいかない。
勝呂が離れようとすると、燐が勝呂の手を離れないようにそっと握った。
燐は震える声でつぶやく。

「お、おれもだよ」

燐の顔は真っ赤だった。
それは全裸である恥ずかしさとは少し趣が違うようだ。

「あ?なにがや?」
「お前が言ってくれた言葉・・・ってああ!もういい!!」

勝呂は、それが燐の答えだと知った。
自分の言った言葉を思い出す。

『俺には、お前だけや』

勝呂の顔に、熱が集まる。
言葉は、確かに燐に届いていた。

明蛇の皆。おとん、おかん。
京都から離れて早数か月。
お互い全裸のミラーハウスでの告白となりましたが。


正十字学園で恋人ができました。



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