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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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正十字学園の恋人3

「なぁ、勝呂どこ行くんだ?」

燐は不安そうな声色を隠さなかった。
いつもの勝呂なら行動する前に説明してくれたし、燐が聞けば答えてくれた。
それなのに今は燐のことを無視しているかのように言葉を聞いてくれない。
しかし、掴まれた手を振り払うことは考えなかった。
なにか、理由があるのだろう。と燐はそう自分を思い込ませることにした。

(にしても、勝呂の奴なんかいつもと違ェような気がすんだよな・・・)

友達に警戒感を持つなど普段なら考えられない。
ましてや相手は誠実と真面目の塊。勝呂竜士なのだ。
しかし、燐の勘は何かを感じ取っている。
自分の勘を信じるべきだろうか。
いや、友達のことを信じてやるのも友達の役目だろうか。
燐は慣れない頭を使ってぐるぐると考えたが、答えはすぐには出なかった。

程なくして、アトラクションの一つであるミラーハウスにたどり着いた。
ここは鏡でできた迷路だ。鏡の反射で進むべき道がわかりにくくなっており、
入ればすぐに脱出するのは困難だろう。
躊躇する燐の腕を引っ張って、勝呂は迷いなくミラーハウスに足を踏み入れた。
その行動には、さすがの燐も焦った。

「勝呂、待てよ!こんな位置が分かりにくいとこで襲われたら不利になるぞ!」
「ここの中にゴブリンがいた」
「え、本当か?俺そんな気配なにも・・・」
「来い」

中に一歩入れば、そこからはもう方向感覚なんかなかった。
前も後ろも右も左も鏡。鏡。鏡。
勝呂の手が、するりと燐から離れる。慌てたのは燐だ。
急いで勝呂の後を追おうとするが、目の前にあったのは鏡だった。

「いてぇ!!」

ごん、という大きな音を響かせて燐はしりもちをつく。鏡が割れなかったのが幸いだ。
ガラス片で裂傷を負うこともある。
それに、アトラクションを壊せば後でメフィストからきついお仕置きが待っているだろう。

「勝呂・・・なぁ、勝呂・・・?」

燐はきょろきょろとあたりを見回した。鏡に映っていた勝呂の背中もない。
あるのは、自分の姿だけ。声だけが静かにミラーハウスに響いた。
気配を辿るが、はやりここにはゴブリンなんていないように思う。
勝呂は、いったい何がしたかったのだろう。
燐がため息をつくと、勝呂の声が聞こえてきた。

「ここなら、二人っきりだ」

声は、勝呂だ。間違いない。しかし、燐は決定的な違和感の正体を悟った。

「・・・勝呂一つ聞きてぇんだけど、なんでお前いつもとしゃべり方違うんだよ」
「おっと、すまんなぁうっかりやわ」

慌てたように、相手が言葉を直した。燐は焦ったように声を上げる。


「お前誰だ!!勝呂になにしやがった!!」


燐の周りに青い焔が灯る。
それが鏡に反射して、ミラーハウスが青い光で覆われる。
きらきらと光るそれは、こんな状況でなければ見事としかいえない光景だった。

「身体を貸してもらっているだけだ・・・大人しくしておけ。
こいつにはまだなにもしていない。まだ、な」

憑依、という単語が燐の頭によぎった。
魔神が養父に憑りついたように勝呂もまた何者かに取り憑かれている。
雪男は悪魔の。ゴーストか、もしくはフェアリーではないかと言っていた。
燐は急いで携帯電話で雪男に連絡を取ろうとした。
しかし、それを何者かは遮った。

「携帯電話は床に捨てろ、外部との連絡は許さん。
例えば、俺がこいつの首を絞める動作をすれば・・・あとはわかるな?」

燐は体を強張らせた。自分の行動一つで勝呂の命が危険に晒される。
そんなことは許されない。勝呂に怪我を負わせるなど。
燐は携帯電話を言われた通り床に置いた。そして、置いた場所から距離を取る。
それに満足したのか、何者かは笑い声をあげる。

「その顔、そそるな」
「勝呂の声で気色悪いこと言うんじゃねーよ」

燐の悔しそうな顔を、相手は見ているようだ。
姿はどこだろう。視認できれば勝呂に取り憑く悪魔を焼き払うこともできるだろう。

「お前には、これから俺の言葉にはすべて従ってもらう。
逆らえばこいつの命はない。わかったな」
「わかった。だからお前も姿を出せ」
「焦るなよ。お前の、後ろさ」

燐が振り向く前に、びり、とした痛みが全身に響いた。
嫌な予感がして、振り返る。

「お前の弱点、ここ、だろ?」

なんということだ。しっぽを掴まれてしまった。
常日頃からメフィストにしっぽを隠すように言われていたのは
こういう場面を想定していたからだろう。
何者かは勝呂の顔で、性質の悪い笑顔を作る。
ぎゅう、としっぽを握られれば、燐に力は入らない。
青い焔も急速に収束していった。

「・・・う、ぐ・・・くそッ」
「いつも見ていた、お前のこと。いつも」

何者かは、しっぽを掴んだまま燐の前に立った。
燐と向い合せになるように立ち、燐の瞳をじっと見つめる。
燐はせめて視線だけでも抵抗しようと、キッと勝呂の両目を睨み付けた。
その瞳に宿る光に射抜かれて、憑りつかれた勝呂の意識が浮上した。

(アカン!奥村が捕まってもうた!!!くそ、なんで俺の体やのに動かんのやッ!!
奥村、こいつはッ・・・!!)

身動きの取れない勝呂は、なんとか声だけでも出そうとするがそれもできない。
何者かは勝呂の行動も、燐のこともすべてわかっているようだ。
そして、そのささやかな抵抗を笑って見ている。それがどうしようもなく悔しかった。
何者かは、燐の肩に手を置いた。そして、言った。


「俺を、殴ってくれ!!!」


「・・・は?」

燐はなにを言われたのかわからず、ぽかんとした。
勝呂のほほが若干赤く染まっている。
いや、中身は違うわけだから正確には勝呂に取り憑いたなにかがそうさせているわけか。
でも、どうして自分が勝呂の体を殴らなければならないのか。悪魔なら喜んでやるが。
すると、勝呂の口が一瞬止まり、すぐに言葉を発した。

「おく・・・むら。アカンねん。こいつ、は・・・ッ」
「勝呂!?勝呂なのか!!お前、どうして!!!」
「ええから、聞け!!今、俺にどうしようもない『変態』が憑りついとるんや!!!」
「え?」
「しかも、アカン。口では説明できへんくらいの変態や!!
とにかく俺を勝呂竜士だと思うな!!全力で抵抗せぇ!!頼むから!!」

勝呂は奪い返した主導権で、どうにか燐に説明した。
悪魔が憑りついていることで、悪魔は勝呂のことがわかるし。
その逆もあるということだ。
沈んでいた意識の中垣間見た、悪魔の本性を燐に伝えなければならない。

この悪魔は、生前人間だった。
未練や執着が強すぎるせいで死んだ後悪魔になる魂がある。
強い執着とは、負の感情だ。その感情が、悪魔堕ちにも等しい魂の堕落を齎した。

悪魔には、恋人がいた。その恋人とは年が違ったせいで会う機会も少なかったが、
悪魔は恋人を愛していた。しかし、すれ違いが続いたせいで別れ話が出ていたのもまた事実。
そして、その恋人に話があると言われ、呼び出されたのがこのメッフィーランドだった。

「でも、こいつは恋人の話を最後まで聞かれへんかった。
口論になった時、躓いてそのまま頭を打って死んでもうたんや」
「それと俺に、なんの関係が・・・」
「こいつは、恋人に似てるお前、と・・・最後をやり直そうとしとる・・・んや・・・
しかも、俺が見た限り、恋人というより・・・」

勝呂の言葉が続かなくなってきた。
おそらくまた主導権を奪われそうになっているのだろう。
勝呂ではない誰かが、また表面に現れてきている。
燐は勝呂に呼びかけた。

「勝呂ッ!!!!」
「諦めろ、こいつを助けたければ俺の言うことを聞くことだ」

願いもむなしく。勝呂の手ではないそれが、燐の体をなぞった。
ぞくりとした鳥肌が立ってしまう。そして、燐は気づいた。
勝呂は、この悪魔が恋人との最後をやり直そうとしていることを伝えてくれた。
悪魔は、言葉や勝呂に取り憑いたことから性別は男だろう。
しかし、燐の性別も男である。
今も正十字学園の男子制服を着ているし、間違っても女子生徒には見えない。
これは、何の間違いだ。

「・・・ちょっと聞かせろ。俺は男だぞ」
「知っているさ、だから君にしたんだ」
「んん?でも生前の恋人に・・・似ているって・・・」
「彼も、正十字学園に通っていたからな。しかし私は社会人だった。
なかなか会う機会もなく、彼が通った道や使ったトイレを使用するくらいしかできなかった。
そういう具合にすれ違っていたところで、あの不幸な事故が起きた」
「んんん?待てよ、それって付き合ってるっていうより・・・」
「いいや付き合っていたさ。少なくとも私はそう思っている」
「え、お前の解釈の問題なの?ってか・・・お前、年齢いくつだ」
「生前は確か四十・・・」
「ぎゃあああああああああああああああああ!!!!」

勝呂の言葉の意味がわかってしまった。
この悪魔は。正十字学園に通っていた男子生徒をストーキングして死亡した中年の男なのだ。
そして、死ぬ前にやりたかったことを今度は燐をターゲットにして成し遂げようとしているらしい。
勝呂も逃げろというはずだ。
燐は逃げようとしたが、しっぽがまた絶妙なタイミングで握られる。
身体に力が入らない。
燐は震える足でも、なんとか立ち続けた。
勝呂を助けなければならない。ここで挫けてはいけない。

「・・・うっ・・・うう」

燐の顔色が悪いのに、相手は興奮しているのか顔が赤くなっている。
しかも、外見は勝呂だ。なんの冗談だ。
悪魔は、勝呂の外見でさらりと言った。

「さぁやり直そう、前はできなかったことを。今度こそ」

悪魔の手が、燐の上着をはぎ取った。
燐は、抵抗できなかった。


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