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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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正十字学園の恋人2


「これが勝呂君のげた箱に?」
「はい、先生は何か心当たりありますか?」
「・・・いえ、朝テストがないことに気づいたので。なぜげた箱にあったのかは・・・」

授業が終わった後の休憩時間に、勝呂たちは雪男を呼び出した。
勝呂が手にしていたテストを見て、雪男は目を丸くしていた。
当然だ、自分がなくしたと思ったテストが、テストを受けるはずの塾生から渡されるのだ。
これは講師としてはかなりの失態の部類にあたる。
燐はテストをまじまじと見ながら質問をする。

「お前が寝ぼけて入れたとかねーの?」
「失礼な、さすがに僕でもそんなボケたことしないよ」
「昨日夕飯の時に一瞬意識飛んでたじゃん。
刺身の時はクロに盗られねーように気張ってる癖に。
赤身が一個なくなってることに気づいてなかったじゃねーか」
「あれはクロにあげたんだよ、白身は死守した」
「ってか疲れてんなら寝ろよ馬鹿!」
「馬鹿な兄さんに馬鹿って言われたくないね」
「なんだと!」

兄弟喧嘩をあきれた様子で見る勝呂たちに気づいたのか、
雪男は燐をあしらうと、もう一度テストの用紙を見た。
なくなった時そのままだ。昨日、雪男自身が疲れていたのは確かだが、
そもそもテスト用紙を塾の方に持ち出しはしても、学園の方に持ち出したことなどない。
誰かが、雪男の手からテスト問題を盗んだのだ。
これは、外部の人間の犯行としか思えなかった。
雪男は勝呂を見た、勝呂はぴくりと反応を返す。

「ああ、勝呂君を疑っているわけではありませんので安心してください」

雪男は勝呂を安心させるように言った。
そうではない、と勝呂が言葉を返す前に、授業のベルが鳴る。
まずい、10分休憩では時間が足りなかったようだ。
そのまま後は放課後の塾の方で話そうという結論になり、
勝呂達は慌てて教室に戻るために駆けだした。

「・・・なんかおるいうこと言えへんかったな」

勝呂が、テストのことを口にした途端に事件が起こった。
もしかしたら犯人は勝呂のすぐそばにいるのかもしれない。
それが人か、悪魔なのかはまだわからないが。
勝呂は教科書で口元を隠しながら、誰にもわからないようにそっとつぶやいた。

「犯人が、どう出るか、やな」

これは、一種の賭けだった。

***

放課後、祓魔塾の教室の前に行くと雪男が入り口の前に立っていた。
勝呂は急いで雪男のそばに駆け寄る。
あの後、すぐに誰かに見られている。視線を感じたのだ。
授業中にも関わらず続くその視線を勝呂は持ち前の根性でかわし続けたが、
やはりどう考えてもおかしい。
なぜ、自分が誰かに監視されているのだろう。
正体がわからない分、余計に気持ち悪かった。
思わず、雪男の隣に燐がいないか探してしまったほどだ。

なぜだか知らないが、燐の隣にいるときはその視線は感じられなかったから。

雪男はテスト用紙を取り出すと、勝呂に見せた。
顔が真っ青だった勝呂を安心させようとしたようだった。

「この用紙からは、第三者の指紋は検出されませんでした。
他にも可能性を考えたんですが怪しいところはなかったです。
・・・勝呂君、君なにかあったんですか?」
「先生、あの実は最近変なんです。誰かに見られてるというか・・・変な視線があって」

勝呂は日常で見つけたおかしな点を雪男に説明した。
テストに関するつぶやきをすれば、
まるで勝呂の話を聞いていたかのようにテスト問題が置かれていたこと。
そして、燐のそばにいるときだけはその視線を感じないこと。
そして、授業中に誰にも聞こえないようにあることをつぶやいたこと。

雪男と勝呂は、緊張した面もちで塾の教室への扉を開けた。
中にはまだ誰も来ていない。扉を開けて、勝呂は自分のいつも座っている席を見た。

「・・・ビンゴや」

勝呂の机の上には、湿布が置いてあった。
それは昨日塾を出たときにはなかったものだ。
そして、この部屋は昨日の夜以降使われていなかった。

「君がつぶやいた言葉は、『朝のランニングで疲れたから足に貼る湿布が欲しい』でしたね?」
「はい、それともう一つが『授業で使うから聖水があればいい』とも」

塾の机に置かれていたのは、湿布だけだった。
犯人は聖水を持ってくることができなかった。
おそらく、触れることができなかったからだろう。
犯人は悪魔の一種だ。
燐のそばにいると視線を感じなかったのは、
魔神の落胤の威圧感に押されて近づけなかったからかもしれない。

「兄は、ハーフとはいえ上級悪魔の部類に入ります。
程度でいうなら勝呂君を狙っているのは下級から中級かもしれませんね。
ゴーストか。もしくはフェアリーか。可能性はいろいろですが」

どちらも共通するのは人に気づかれないように、人の言葉を聞ける点だろうか。

「ちーっす・・・ってお前等なに深刻な顔で湿布見てんだよ」
「兄さん、今日は勝呂君とペア組んで任務にあたって」
「は?」
「え、先生?」
「勝呂君は今日一日兄といてください。一人にはならない方がいいでしょうから、任務にも出てください。
ゴーストやフェアリーがいたずら程度で済ませてくれればいいですが、
過去取り憑かれた人間が階段から突き落とされて大けがを負った例だってありますから。
兄のことはおもり・・・と言うかお守りだと思って」
「え、俺そんな御利益あったっけ。ってかおもり?」
「下級なら追い払えるくらいにはあるんじゃない」

雪男はさりげなくお守りのことはスルーした。
燐をお守り代わりにすることになるとは。勝呂はなんともいえない気分になったが、
たぶんおもりという意味も間違ってはいないだろう。
燐はよく任務で暴走するからだ。

授業開始に合わせて、他の塾生達がぞくぞくと教室に入ってきた。
それに併せて、雪男も授業内容を説明する。
今日の任務は課外授業だ。
メッフィーランドに度々出現するゴブリンの駆除を、ペアで当たること。
不浄王を倒した後のことを考えると、個人でも当たれる危険度の低い任務だが。
勝呂のこともあるせいか、ペアを組んでの任務となった。

「では、各自解散。何かあれば僕に連絡をください。勝呂君も異変があればすぐに知らせてください」
「はい、ありがとうございます」

雪男の言葉で、各ペアが散り散りにメッフィーランドに入っていった。
勝呂は先を歩く燐に声をかける。

「すまんが、よろしゅうな奥村」
「おう!よろしくな!悪魔が近づいても俺がケチらしてやるぜ勝呂姫」
「姫はやめんかい!!ボケェ!」

燐の明るい顔を見て、勝呂はほっと息をついた。
正体不明の視線が気になって、やはり気を張っていたのだ。
燐のそばにいると、ようやく肩の力が抜けた感じがした。
すぐに悪魔もあぶり出せるだろう。と気を抜いてしまったのだ。

しかし、それがいけなかったのだ。
勝呂は、どすん。と何かが自分に降ってきた感覚を覚えた。
違和感を覚えて体を動かそうとするが、体が動かない。
それなのに、体は勝手に歩いている。

(・・・なッ!?どういうことや!)

声も出ない。しかし、頭の奥から別の声が囁いている。

「ようやく、乗り移れた。気を抜くからだよ」

それは、勝呂の口を使って出された言葉だ。
自分ではない自分がいる感覚に、勝呂は呆然とした。
監視のような行動を取ることで勝呂の精神を疲弊させ、
隙を見て取り憑くなんて想像もしていなかった。
勝呂は目の前を歩く燐に向かって叫んだ。
自分ではない自分の手が、どんどん燐に近づいていっている。

(奥村、アカン!逃げろ!!)

しかし、それは声にならなかった。
勝呂の形をした何者かは、突如燐の腕を取って走り出した。

「おい?勝呂どうしたんだよ!なんかあったのか?」

何者かは、勝呂の顔で笑っていた。

「ああ、こっちにいいものがあるんだ」


そのまま、人気のないところへと燐は連れて行かれてしまった。

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