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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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最悪の連絡


志摩は、かわいい女の子の手を握って、
救護テントの近くまで送ってあげた。
その子は、誰もいなくなった校舎の廊下の隅っこにうずくまっていたのだ。
どうも話を聞くと、教室から避難するときに周囲の戸惑いや怒声、
反狂乱になった様を見て驚いて腰を抜かしてしまったらしい。

しかし、そんな彼女にかまう人物などいるはずもなく、
一人立てないまま取り残されてしまったそうだ。
彼女は体調は悪そうだが、魔障にはかかってはいなかった。
座り込んでいた廊下側は風向きがよく、瘴気を吸い込まなかったからだ。
少し休めば、治るだろう。
志摩は何度もお礼を言う女の子に別れを告げ、先ほど脱出してきた校舎を見上げた。
まだ、他にもいるんじゃないだろうか。
志摩の勘はそう告げていた。

一番、なにかを見落としているような。
そんな不快感、記憶の隅が警鐘を鳴らすような。

だいたい、こういう事態で一番まずいのは
誰がどこでなにをしているのかが把握できないことだ。
生徒の多くは無事だろうが、全てのクラスメイトの無事を確認できたものはいくらもいないだろう。
人がばらばらになり、人の所在が掴めない。
そういうときに、彼女のように取り残されてしまう者が出てしまう。
犠牲になるのは、いつだってふいに取りこぼされてしまった者なのだから。

志摩は、ひとまず救護テントで貰った名簿を見た。

そして、先ほど助けた彼女の名前を見つけ、そこに赤ペンでバツ印をつける。
所在のわからない生徒が見つかった場合は、救護テントの本部にそれを告げる義務があった。
少し歩いて、志摩は本部の人に見つかった旨を伝える。
中にいた救急隊員がそれを受けて安堵の表情を浮かべた。
そして。

これ次に更新された名簿なんだ。
君、どこかでこの子達に会わなかったかい?

と今度は写真付きの名簿を渡される。
本来なら個人情報がどうのといって
顔写真つきの情報は外部の人間には見せないものだ。

しかし、事態は深刻だ。
学園が持っている最大限の情報を開示して生徒の安否確認を行っている。
たぶん、これは理事長が一枚噛んでいるんだろうなと思いつつ、志摩は確認した。
本来なら一般の生徒には見せない代物の書類だ。
だが、志摩は祓魔塾の生徒だ。
階級的には補佐役として扱われるため、こういった書類も手に取ることができた。

「あ、この子は無事です、30分くらい前にあっちのテントに収容されました」
「そうか」
「それと・・・あれ?」

志摩は、行方不明者の欄に奥村燐という名前があるのを見つけた。
まだ見つかっていないのか。
奥村先生は旧校舎にいくといっていたのに。
志摩は燐の携帯に電話をかけようとしたが、圏外だった。
ここは電波がまだ戻ってはいないらしい。
まぁ彼は悪魔だ。
ちょっとやそっとのことではどうにかならないことは知っている。
志摩は近くにいた救急隊員の男に話しかける。

「すみません、この子はたぶん大丈夫とは思います。
今、この子の弟が探しに行っているはずですから」
「え・・・いや、そんなはずはないぞ?」

男はきょとんとした顔をした。

「だってこの子は一番最初に私が持っていたストレッチャーに乗せた子だ。
随分顔色が悪かったし、今頃は病院に行っていると思うが」
「え、ちゃんと見てください!ほんまにその子、この顔してはったんですか!?」

志摩はずいっと書類を男に見せた。
男は間違いない、と答える。
トイレから救急隊員の男に抱えられて出てきたのだと言う。
話を聞いて、志摩は思い出した。

(ああ、あの時トイレに入っていっとったの奥村君やったんか・・・)

志摩は頭を抱えた。
でも、彼が怪我などするのだろうか。
志摩が納得できない様子を見て、男が安心させるように言った。

「友達だったのかい?なら、一度病院に連絡を取ってみるといい。
番号なら教えてあげるから。
そうだ、なんなら彼を助けた救急隊員に話を聞けばいいんじゃないのか。
確か、名前を藤堂といったから――――」

「え」

志摩の脳裏に、京都での一件が思い出される。
藤堂三郎太。
京都の、志摩の、勝呂の、子猫丸の。
大切なものを奪おうとした人物。
しかし、藤堂という名字はよくある名前だ。
同姓なだけだろう。そのはずだ。

そうして、思い出した。

あの、廊下ですれ違った時。
何かが気になった。
毛布で全身を覆って、ストレッチャーで運ばれていく誰か。それを運ぶ人物。
その背格好は、藤堂に似てはいなかったか?
どっと一気に冷や汗が吹き出した。

「うわあああああああああ・・・」

この勘が間違いだったらいいのに。

あのストレッチャーが通った廊下は、燐が入っていったトイレがある階だ。
なにより、燐と連絡がとれない。
救急隊員の人がこの場で嘘などいうはずもない。
なんてことだ。

「すみません、訂正します。この子、今一番ピンチや!
 このこと、祓魔師の先生に伝えたってください!」

志摩は、そう言い残して走り出した。
向かうのは、旧校舎だ。
雪男の携帯に電話をかけたが、話し中で通じなかった。
中庭を走り抜け、旧校舎が見える位置まできた。
旧校舎の、一階の渡り廊下に、誰かがいた。
ふらふらと覚束無い足取りで歩いている。

「せんせ・・・じゃない?」

瘴気が濃くて視界が悪いが、あれは人だ。
そして、黒い制服から伸びるしっぽ。
あれは、探している人物だろうか。
志摩は近づこうとするが、コールタールの大群が道を阻む。
まるで集団が一つの意志を持っているかのように集い、志摩に牙を向いてくる。

下級も、集合体になればやっかいだ。

ここは、祓うしかない。
志摩はとっさに渡り廊下の壁を盾にして隠れた。
背後で壁にぶつかった有象無象のコールタールが散っていく。
また、空中で集う前にしとめなければ。
志摩は懐から錫杖を取り出し、手早く組み立てる。
しゃらんという音を鳴らし、錫杖をコールタールに向けた。
詠唱を始める。

「その行いによって、その悪行によって報い
その手の行為によって支払い・・・彼らに報復したまえ」

詠唱に反応したコールタールは志摩に襲いかかるが、
それを錫杖でいなしながら、詠唱を続ける。
本来なら前衛が欲しいところだが、そうも言っていられない。
京都にいた頃に見たことがある。
兄は騎士の資格も持っていたので、戦闘時には前衛と詠唱を同時に行なうこともあった。
自分はそこまで器用にはできそうもないが、見よう見真似で詠唱と攻撃を行なう。

「・・・主は、祝されよ!!」

最期の言葉を口にする。

「汝、途に滅びん!!!」

ぱんっと手を合わせた。
光に包まれて、コールタールが消えていく。
続けて周囲にいたコールタールも詠唱で霧散させ、彼に近づいた。
視界が、悪い。
瘴気に覆われていて前が見えにくい。
それでも志摩は、とっさに彼の手を掴んだ。


「奥村君!!」


彼からは血のにおいがした。





送信者 奥村 燐(兄さん)
題名 なんかおかしいぞ
教室にコールタールがいっぱいいる。
トイレから見たけど、
コールタールが発生してる場所がわかった。
誰かがひょういされてからじゃ遅いし、先に行ってる。
たぶん、旧校舎のほうだ。


兄の言葉を信じ、雪男は旧校舎に向かうため中庭を駆けていた。
腰の部分につけた二丁拳銃と、ポケットには聖水がいくつか。
装備はこれだけだ。
本当なら、旧男子寮まで戻って装備を整えたいところだが、今は時間がない。
兄を見つけて連れ戻す、そうしてすぐに寮に引き返そう。
雪男はそんな算段をたてていた。

「まったく、いつもいつも一人でつっぱしって!こっちの身にもなれよ!」

額に青筋を浮かべながら、拳銃の弾を装填し、
目の前のコールタールの集合体を打ち抜いた。
旧校舎に近づくに連れて、数が増えているし瘴気も濃くなってきている。
雪男は、自分の腕に瘴気の中和剤を打った。これで少しは、持つはずだ。

「兄さんは悪魔だから、瘴気には大丈夫なはずだけど・・・」

なぜだろう、なにか不安がよぎる。
なにか、見落としているかのような感覚。
雪男はポケットから聖水を取り出して、スイッチを押す。
聖水を周囲に霧状に散布して、周囲のコールタールを一瞬で消滅させる。
しかし、大元を絶った分けでもないし、
数が多いので効き目が切れるのも時間の問題だ。

それでもよかった。

雪男は携帯電話を取り出して、再度燐に連絡を取った。
今までも何度かかけたが、全部圏外で通じなかった。
今度は、電波がかろうじて1本立っている。
聖水によって清められたその場だけの連絡場。
通じろ、通じろ、と雪男は願った。
コール音が聞こえるだけ、まだ雪男は安心していた。
やはり、なにもつながらない状態のままでいるのとは不安の度合いが違う。
数コール鳴ってから、相手が出た。

「ちょっと兄さん一人で先走るなって言っただろ!
少しはこっちの身にもなってみろ!今どこにいるの!!」

続けようとして、携帯電話に雑音が混じった。
ザーザーという砂嵐のような音。
電話口の相手から反応がない。
少しの沈黙の後、聞こえてきた声。


『お兄さん元気ィ?』


男の声だ。耳に残る不快感。
人の神経を逆なでする、悪魔の声。
この声には聞き覚えがあった。
雪男の脳裏に京都での出来事が思い出される。
『奴』が兄の持っている携帯電話に出た。
それだけで、兄に『なにが』あったのか。理解できた。
こんな、無関係の人間を巻き込むような事態に、あの優しい兄が自分達の前に姿を一度も見せなかったこと。
それだけで、兄に何かがあったのだと気づくべきだった。

「藤堂三郎太・・・!!」

電波が悪いのか、時折砂嵐が混じりながらも聞こえてくる声。
電話口の相手の顔が想像できた。彼は今笑っている。
そう、騎士団を、雪男を、出し抜いてやったという悦楽で、彼は笑っている。

笑い声が、雪男の耳を占領する。


ははっはははははははっははっっはははは!


聖水の効力が消えるまで、あとわずか。
最悪の連絡がついてしまった。

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