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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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二律背反の父親

この想いを偽りだとは言わせない。
例えば同じ祓魔師の奴らに糾弾されても俺は全然平気で笑って見せる。
例えば敵である悪魔に憎しみの瞳で見られても、
俺はそいつらに汚い言葉の数々を浴びせて八つ裂きにでもしてやろう。

お前達を守るためなら俺はなんだってしてみせる。


「ご機嫌よう嘘つきの神父」
「ご機嫌よう年増のピエロ」

お互いに失礼な言葉を浴びせるが、お互い全く怯まない。神父こと藤本は病院の
ベットの上から窓を見ていた。ピエロことメフィストはその窓に腰掛けて病室を
眺めていた。
「不法侵入者め、ナースコールを押すぞ」
「白衣の天使にどうこうされる私だとでも?」
「彼女達は凄いぞ。病院抜け出した俺を探し出して
ここに縛りつけてるんだからな」
「…子育て聖騎士のあなたよりよっぽど使える方達ですね。
スカウトを考えてみましょうか」
「…子育てを全面的に押し付けたのはどこのどいつだ」
「私ですねそうでした」
藤本が病院を抜け出したのは、その養い子達が心配で
様子を見に修道院へ戻っていたからだ。
藤本が怪我をしたのは他でもない、双子の兄、燐の手によるものだった。幼稚園
で暴れる燐を落ち着かせるために、藤本の肋骨は数本ほど犠牲になった。
「で、奥村燐くんはどうだったんですか?」
「…どうもこうもねぇよ。燐だって普通の子供とおんなじだ。
あれくらいのガキなら癇癪くらい起こすさ」
「…おや、昔に比べて丸くなったものですね。
悪魔だからと無差別虐殺を繰り返していた頃とは大違いだ。
…殺さないんですか?」
「俺は、あいつらの父親だ!」
「…義理の、でしょう」
「だからどうした!」
藤本はメフィストの物言いに苛立ちを隠せない。
確かに自分と子供達は血が繋がっていない。
血筋を考えれば目の前にいるメフィストの方が近しい存在だ。
だからこそ腹が立つ。
「お前が、あいつ等を害そうとするなら俺は黙ってないぞ」
メフィストの表情は動かない。
背後に青い月が浮かんでいる。
青い夜―――あの日子供達を育てると決めた。
青い焔を受け継いだ燐を魔神と戦う武器とするために。

「あなた、武器を作りたいって言ってましたよね」
「・・・」
「その想いは今も変わっていませんか?」
「・・・ああ」
「その言葉を聞いて安心しましたよ」

武器を作る、それは魔神の焔を継いだ燐を腕に抱いた時に感じた甘美な誘惑だった。
悪魔の甘言に乗ったともいえる。
最初の想いは悪魔への憎しみと復讐の心からきた。
だが、子供を育てていくうちに、俺の中のなにかが変わってきた。
父さんと呼ぶその声が。
握り返してくるその手のぬくもりが。
俺の冷たいなにかを壊し、温かいものに変えていく。
俺は、悪魔の――燐の父親でありたいと思いながら。
同時に燐を武器にしようとしている。

「ですが、奥村燐君がこの先悪魔として暴走した時、今の貴方では彼を殺せそうにないですね」
「そんなことにはならない」
「何故そう言いきれます」
「俺が、そうさせないからだ」

メフィストはため息をついて、口を開こうとした。

「父親ってのはそういうもんだ」

藤本がメフィストの言葉を遮る。
メフィストは言葉を飲み込み、にやりと口角を上げて藤本を見た。
そこには不安を抱えながらも決意を秘めた父親の顔があった。

「今夜はここらへんで失礼しますよ。身体、お大事に」

窓の縁を軽く蹴って、青い月夜の闇の中にメフィストは消えていった。
藤本はベットに寝転がり、木目が見える天井を見つめる。
耳元に、遮ったメフィストの言葉が聞こえる気がした。


貴方のその想いこそが子供達を害するのではありませんか?
それに気づいていながら子供を愛してやまない。
人間とはなんとも矛盾した存在だ。


ああそうさメフィスト。
俺は矛盾している。
でも、この想いを偽りだとは言わせない。
魔神の子を育てていたことが周囲にばれても。
例えば同じ祓魔師の奴らに糾弾されても俺は全然平気で笑って見せる。
例えば敵である悪魔に憎しみの瞳で見られても、俺はそいつらに汚い言葉の数々を浴びせて
八つ裂きにでもしてやろう。

あのこ達を守るためなら俺はなんだってしてみせる。

病院から抜け出して、修道院の窓から覗き見た。
燐と雪男の表情が忘れられない。
二人は泣きはらした顔をして手を握って眠っていた。
とうさん、と呟く声が聞こえた。
祈るように怪我をした自分の胸に手を置いた。
「・・・いてぇ」
傷ではない。心が痛んだ。

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