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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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夜とホテル3

夜は人型悪魔の姿へと変貌し、燐は青い炎を纏う。
夜の断ちと燐の炎で、ヘドロの腕はたちまち姿を消した。

「邪悪なるものの進入を禁ずる!!」

夜が叫ぶと、薄透明な膜が部屋を覆った。
本体は、扉の前で固まっている。
夜が張った結界が邪魔をして入れないのだろう。
結界は狭い場所に張るほど有利だ。
広い場所、例えば道路の真ん中で結界を張っても、
ヘドロに周囲を囲まれれば逃げ道はなくなってしまう。
その点、障害物が多くこのホテルの部屋のように仕切られた部屋ごと結界に閉じこめれば、易々と手は出せない。
燐は改めて、この場に逃げ込んだ夜の用意の良さに気づく。
悪魔は、結界に向けてなおも腕を伸ばした。
しかし、やはり腕は弾かれ、夜と燐に届きはしない。
悪魔は、しばらく考えるかのように動きを止めると、腕を一直線に伸ばしてきた。

「おわ!!」

心臓をひとつきにせんと伸ばされたそれを避け、燐はベッドに転がった。
腕が針のように伸びて、結界を鋭く貫いたのだ。
腕が戻ると、結界は空いた穴を塞ぐように修正される。一転突出型の攻撃。

「ッチ、やっぱ俺の結界じゃ強度が低い!!」

夜が刀を振るって、真空の刃をヘドロに飛ばす。
ばしゅ、という鈍い音を響かせて、ヘドロの腕が切れるが、またすぐに再生した。
その腕が、また二人に延びる。応戦して、何本かは切り落としたが、やはり全ては無理だった。
夜は剣の腹で軌道を逸らして攻撃をかわした。
その逸れたヘドロの腕が、ベッドサイドに当たる。
がしゃんという大きな音を立てて、小物を入れる引き出しが壊れてしまった。
黒い腕はなおも、燐と夜に向かってのびる。
腕には、壊れた引き出しの破片や、中身がぶら下がっていた。
特に鋭い木の破片はやっかいだ。
燐が注意深く腕の動きを見ていると、視界の端に変なものが見えた。

「ん?」

ピンク色の長細いものや、鞭、だろうか。
変な仮面に、足下に落ちてきたヌルヌルする液体。
腕は、それらをまとわりつかせて、夜と燐に攻撃を繰り広げている。
夜はそんな様子にめんどくさそうな顔を隠さない。
しかし、その変なものについては特に突っ込んでこなかった。
燐だけが、この状況のおかしさに気づいている。
一番近くに来た腕を、炎で燃やす。
すると、腕についていたいろいろなものが、床に落ちてきた。
燐はそれを見たことがある。養父藤本獅朗が隠し持っていた秘蔵の雑誌に。
これと似たようなものがあったのだ。
雑誌の裏の方や、広告で乗っていたので覚えていた。

「あ、ちょ、これ・・・えええええ!???」

目の前に転がるのは。いわゆる、大人のおもちゃである。

燐も目にするのは初めてだ。
知識としては、エロの探求者である男子高校生だから知っている。
しかし、知っているものが目の前にあったからといって。
どうすればいいかわかるかどうかは別問題だ。
なんで、こんなものがこの部屋に入ってるんだ?田舎のホテルには備え付け?
いや、ありえない。雑誌でもあった。
そうだ、備え付けでこんなものがあるホテルというのはいわゆるラブがつくホテル。
ホテルラブ。違う、ラブホテル。俺、今ラブホテルにいるのか。

頭の中に戦闘とはどうでもいいことがぐるぐると回って集中できない。
そんな油断を敵は見逃さなかった。

隙をついて、黒い腕が、燐の足に絡んだ。そのまま床に引き倒されてしまう。
かなり強い衝撃が全身を襲う。黒い腕に絡んでいた道具の一つが衝撃で割れた。
体に、ヌルヌルした液体がつく。気持ち悪い。
そのまま扉の外に引きずり出されそうになった。
扉の外には、大口を空けて燐を飲み込もうとする悪魔。
悪魔の体の先に広がるのは、巨大な虚空だ。
虚無界へと繋がる悪魔の穴。
それは春先に自分を飲み込もうとした、虚無界の門のようで。
恐怖で身がすくむ。

「くそッ!離せ!!!」

暴れる燐の前に、影が落ちる。他の黒い腕をかいくぐって
夜は燐の足を掴む腕に刃を向けた。一線が走る。

腕と共に、腕についていたなにかの形を象ったものも一刀両断されていた。

ぐお。と燐は自分のことではないのになぜか痛みを覚えた。
夜は燐を抱えると、部屋の全身鏡に向けて刃を繰り出す。
ばりんと鏡が割れて、壁ごと隣の部屋へと続く穴が空いた。
夜は知らなかっただろうが、これはマジックミラーだ。
元いた部屋からはただの鏡でしかないが、反対側から見れば部屋の様子がもろわかりという。
いわゆるのぞきアイテムである。
まさかこれが逃げ道になるとは作った当事者たちは露ほども思っていないだろう。

夜は燐を抱えてその穴をくぐると、ポケットから手榴弾を取り出し元いた部屋へと放り投げる。
直後に爆発。
悪魔の悲鳴と爆音が響く。夜は燐を部屋のベッドに放り投げると、壁に手をついた。
そこには、事前に描かれた魔法陣があった。
夜が手をおいた部分から順番に魔法陣が赤く光を帯びていく。
心なしか、夜の息が荒い。燐は夜に駆け寄った。
この陣はいったいなにをするためのものなのか。
知識のない燐にはわからないが、あまり夜にとっては好ましくないように思える。

「夜、これは」
「あいつを排除する為の特大のプレゼントだよ。
ただ、俺はどうあがいても下級悪魔でしかないからな。
自分の属性にないものを呼ぶのは骨が折れるんだ」

赤い炎がちりちりと魔法陣に灯る。
燐は炎の形を視認せずに感じた。隣の部屋の壁越しに、床に倒れた悪魔を囲むようにして現れた炎の檻。
檻を形作る炎は幾重にも重なって、悪魔の体を拘束していく。
悪魔は腕を出そうとするが、それを阻止するかのように炎は檻の形を変える。

燐はその光景を素直にすごいと思った。
夜は下級悪魔だ。自分の力の限界をいやというほど知っている。
だから、力技ではなく細かい技術を応用して敵を追いつめて絡めとる。
悪魔としての階級は燐が上だが、祓魔師としては夜の方が何倍も上であることを燐は実感した。
目の前には壁がある。
しかし、夜はその先を見ている。夜は燐につぶやいた。


「見えるだろ、燐。お前の出番だ!」


燐は夜の声に答えた。意識を集中させて、見えない敵を感じ、
感覚で視認することでターゲットに狙いを定める。
夜のおかげで動かない敵を捉えることはたやすかった。燐は一気に力を込める。

青い炎が、壁越しに悪魔の体を燃やし尽くしていく。
隣の部屋から、断末魔の声が聞こえてきた。
夜の檻と燐の炎で悪魔は燃やし尽くされる。
最後の欠片まで燃えたことを感じ取ると、炎の出力を弱めた。終わった。
燐が意識を戻すと、夜が壁を背に座り込んでいた。

「おい夜、大丈夫か!?」
「平気だ。疲れただけさ」
「なんでこんなまどろっこしいことやったんだ?
俺と夜が両方から悪魔を叩いた方が早かったんじゃ・・・」
「バカ。俺とお前は両方とも接近戦タイプだろう。
あの悪魔は近づいた奴を飲み込んで虚無界へ送るんだ。
俺はともかく、燐は絶対に接近戦は無理だ。
俺は手騎士じゃないし下級だから悪魔も呼べないけど、
あれくらいの中距離攻撃ならできるからな。もっと頭を使えよ、燐」

なにも近づいて倒すことだけが戦術ではない。
今のような接近戦ができない相手に対しても、称号に関係なく祓魔師は戦わなければならない。

いかに効率よく戦局を運べるかは、味方の負担を減らすことにもつながる。
手のひらには、炎の召還で使っただろう夜の血がべっとりとこびりついていた。
燐はまだ、夜が先ほど行ったような炎の使い方はできない。
もしも、炎をうまく使えば、もっとうまくやれたのではないだろうか。
燐は改めて、自分の戦い方について考えさせられた。

「・・・わかった、次はもうちょっと考えて戦ってみる」
「そうだ、いくら悪魔の回復力があるからって甘えるな。俺たちだって、死ぬ時は死ぬんだ」

悪魔は人間にとっては万能に見える存在かもしれないが、そんなことはない。
だから悪魔として生きていくなら覚えなくてはならないことがたくさんある。
燐は、それを今日夜から学んだ。

「なぁ夜」
「なんだ」
「お前は、死なないよな?」
「さぁどうだかな。でも、お前の前では死なないよ」
「そうか」
「そうだよ」
「死ぬなよ」
「努力するよ」
「俺も、努力する」
「そうしろ、燐」

立ち上がって時計を見れば、もう朝が近かった。
今からでも鍵を使えば学園に帰れるだろうが、燐の足下はおぼつかなかった。
緊張の糸が切れたせいで、眠いのだろう。
夜は燐から鍵を受け取って、燐の代わりに鍵穴に差そうとした。
が、できなかった。見れば、鍵の形がぐにゃりと変わっている。
夜は焦った。鍵が壊れている。

「おい燐、この鍵どうしたんだよ!」
「・・・え?って曲がってる!!・・・あ、そうかさっき悪魔に思い切り倒されたからだ、
床にぶつかって変な音してたし!!」
「・・・差せねぇぞ、これは迎えが来るまでここにいるしかないな」
「え、ここいんの?」
「言っておくが、ここから半径二十キロ以内に民家はおろか、店もないからな。
歩いても、駅まで一日でつけるかどうか・・・」
「バイクは?」
「バカ言え、今は朝が近いとはいえ夜中だぞ。事故ったらどうする。
ただでさえここらへんは悪魔が多いんだ。山道から飛び出してきたら一瞬でドカンだ」

夜と燐は、学園に帰ることを諦めて、数個離れた部屋に移った。
部屋としての外観は保たれているし、一晩くらいだったら泊まってもいいだろう。
夜は部屋に結界を張ると、コートを脱いだ。
燐は別の部屋に行こうとしたが、夜に止められる。

「おい、燐もここに泊まれ」
「なんで?部屋いっぱいあるじゃん」
「悪魔が多いってさっき言っただろ。目が覚めて、お前が浚われてたりなんかしたら、
俺の責任になるんだよ」

燐は、寝場所を確認した。ベッドがひとつだけ。ソファもない。
極めつけは、ベッドの近くの小物入れというか。
悪魔が壊したことで、中からありとあらゆる夜の七つ道具が出てきてしまった。
先ほどの部屋と、間取りが同じなのだ。きっと部屋の中にあるものも同じだろう。
あんなものの近くで寝ろというのか。
燐は花も恥じらうエロの探求者。男子高校生である。
興味があっても、知り合いの前で堂々とあの道具を観察する自信がない。
お目にかかりたいような、かかりたくないような。
そんな複雑な思春期男子心が働いている。
燐は夜に一言、問いかけた。

「夜、ここがどういう場所か知ってるか」
「ホテルだろ、それがどうした」
「・・・そうだな、うん。」

夜は純粋な悪魔だ。燐のように人間と混じった俗物的な思考はしていないようだ。
というか、ただ単純に知らないだけかもしれないが。
夜は、そわそわと落ち着きなく動く燐にさらりと告げた。

「俺と寝ればいいだろ、燐」
「・・・・・・」

その言葉を言われて、燐は返答できなかった。

***

雪男が燐がいるホテルの前に駆けつけたのは、朝になってのことだった。
勝呂は着いて行きたがったが、将来有望な優等生をあんな場所に連れていくわけにもいかない。
これから先、訓練で勝呂と燐が一緒になることだってあるだろう。
祓魔師に必要なチームワークを、こんなことで乱すわけにもいかない。
なにより、なにか事があったときに、燐が塾に居にくい状況を作るのだけは
避けなければならなかった。
雪男は、シュラの運転する車でホテルの近くまで乗り付けた。
さすがに、十五歳が車を運転するわけにもいかないので、この点ではシュラに感謝すべきだろう。
シュラは、車から降りて、ホテルを見上げて言った。

「アイツ・・・いい勉強になっただろうな」

べんきょう部屋の文字を見て想像することは一つだろう。

しみじみとつぶやくな。雪男はシュラに怒鳴りそうになった。
まだ燐がどうこうなった訳ではない。
それよりも、ここら辺はまだ悪魔の出現が高いスポットだということが気になった。
悪魔と一戦やらかして怪我をしていたら大変だ。
雪男はホテルの中に入っていった。
上の方から、かすかに何かが燃えたにおいがする。
雪男とシュラは警戒しながら上に上がっていった。
無人のホテルだとカウンターで確かめたので、遠慮はいらない。
壊れた部屋を確認し、悪魔との戦闘の痕跡を発見。
二人は燐がどこかの部屋にいるとアタリをつけて、部屋を空けていった。

「いましたか?」
「いや、こっちはだめだ。本当に悪魔と一戦やってるとはね・・・さて、どうするか」

二人が話し合っていると、かすかだが、物音が聞こえてきた。
二人は、物音を頼りに一つの部屋にたどり着く。
先陣を切ったのは、雪男だった。ドアを蹴やぶって銃を室内に向ける。そこには。

「あれ・・・雪男?」

寝ぼけて起きあがる燐の姿があった。燐の無事を確認して、雪男は銃を降ろした。
その音で、燐の隣にあった布団の膨らみから、誰かが顔を出す。

「あー、おはようございま・・・す」

夜は、全裸だった。
裸の男と、隣の寝乱れた兄の姿を見て、雪男は硬直した。
昨日の夜、二人は一緒のベッドで寝ることになったのだが、男が二人でベッドに入ると。
かなりきつい。寝返りも打ちにくい。そこで夜は考えた。元の姿。
つまり猫型の悪魔の姿に戻って寝ればいいのだと。
二人は、猫と人間が寝るような体勢で一緒に寝ていた。
だが、ひとつ誤算があった。小型の悪魔の姿に戻るということは、服を着ていないということだ。
ご丁寧に、寝相の悪い燐のせいで、夜の服はベッドの下に散乱していた。
ベッドから起きあがる、全裸の男とその隣の男子。
極めつけは、燐の首にあるかすかな傷跡。血を飲むために夜が噛んだ痕だ。
うっすらとした赤い痕は、まるで何かの後のようないらない雰囲気を出してしまっている。
めざといシュラはそれを見逃しはしない。

「よーう、燐。勉強できたか?」

シュラは、一言つぶやくと携帯電話で写真を撮った。
ぴろりーんという間抜けな音が、やけに寒く部屋に響く。
燐は考えた。昨日の夜の戦い方は自分のことを見つめ直すいい機会になった。
夜には世話になったし、まだ帰ってから剣の稽古もつけてもらいたい。
約束をしたのだから、夜は守ってくれるだろう。
燐は寝ぼけながら答えた。

「昨日の夜はいいべんきょうになったぜ」

燐のこれからを考えると、まさに、いいべんきょう部屋となったのだ。
このホテルでの出来事は。しかし、雪男とシュラがそんなことを知るはずもない。

「何を勉強したんだ!ナニを!!!」

燐の言葉に雪男が激怒したのは言うまでもない。


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