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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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僕は嘘つき君が好き


後ろから志摩に羽交い絞めにされていても、俺は抵抗しなかった。
それは、背中越しに聞こえた志摩の鼓動がとても早かったからだと思う。
耳元で囁かれた言葉に、きっと雪男は気づかなかっただろうな。
本当に、零れるように出た言葉を聞いた。

奥村君、覚えとってな。

志摩の言葉も、目の前に立つ雪男の言葉も。
どっちも俺には大切だ。
なぁ、お前らなんでそんなことにも気づかねぇの?




屋上に立つ三人。
日はすっかり落ちて、灯りは天上の星と周囲の町の灯火だけだ。
旧男子寮は雪男と燐しか住んでいない為、灯りに乏しい。
僅かな灯りに照らされて、三人は対峙する。
雪男は銃口を向けたまま動かない。


雪男は三人の関係を二人と一人か一人と二人かと現した。
志摩はお互いに一人でしかないと言った。
結局この二人はどこまでいっても同じ答えにはたどり着けない。

「一応伝えとこうか。僕は兄さんの監視役だ。もし兄さんに不測の事態が
起こったときは、僕の権限と判断で行動してもいいことになっている。
例えば、今こういった事態の収拾も僕の管轄内なわけだ」
「駆け落ちの二人を追うのが管轄内とか先生も大変やな」
「主犯の君に言われたくないね志摩君」

物騒な気配を醸し出した二人に、燐が口を開こうとする。
だが、後ろから回された志摩の手に阻止された。

「俺もな、先生に聞きたいことあるねん」

錫杖がしゃらんと音色を発した。
「なぁ、先生は奥村君のことどうしたいん?」
「どう、とは?」
雪男の瞳が揺れる。志摩は畳み掛けるように言葉を放った。



「そのまんまの意味や。ずっと思っとった。
先生も奥村君もお互いのこと知っとるふりしてるだけや。
それがどうにも歪に見えてしゃあない。
兄弟なんやろ?思っとること口に出したらええ。
出さな伝わらん。そんなこともわからんの?」



志摩には兄弟がいる。兄達に囲まれて育ったせいか兄弟げんかは当たり前だった。
何回も何回も思ったことを口にして、ぶつけあって、殴り合って、仲直りだってしてきた。
この二人は兄弟以外に家族がいない。
普通の兄弟のようにできない理由は、
片方がいなくなれば本当にひとりぼっちになることを知っているから。
だからこそ本当に思っていることが言いにくいのかもしれない。

「なぁ、奥村君を俺に取られた時どう思った?」

その時に思ったことが雪男の本心だ。
ずっと一緒にいると思っていたのに、その隣にいる人が自分じゃなかった時。
寂しかったのか?取られたくなかったのか?
置いていかないで欲しかった?
それとも。

「答えや。奥村先生」

本心を言うことは、奥村君の為になる。
それは、言葉にはしなかったけど。




ぎりっと手に痛みが走って、志摩は思わず燐の口を覆っていた手を離した。
燐の口が開く。燐は思い出していた。目の前にいる雪男の表情。
昔、神父を探して迷った夜道で同じ顔をしていた。
『兄さん、お願い。手、離さないで』
それが、雪男の本心だ。
雪男はあの頃と変わってない。
燐より背が高くなっても、祓魔師の資格を取っても。
先生と生徒の関係になっても。
どんなに燐が雪男に追いつきたいと思っていても。
きっと夜道で雪男の手を引いて先を歩くのは、俺なんだろう。
あの時と同じ答えを雪男に言おう。

「どんなに離れたって、俺達は大丈夫だ雪男。
だって俺達兄弟だろ。お前が困ってたら俺が助けに行ってやる」

「・・・僕だって、兄さんが困ってたら助けに行くよ。だからここに来たんだ」

一人にだってしたくない。一人にだってなりたくない。
だって、それはとても寂しい。
志摩は燐を離した。
雪男は銃口を下げた。
燐は二人の間に立った。
駆け落ち劇も終劇だ。

「志摩、迷惑かけたな」
「ええよ、一緒に駆け落ちした仲やん」
「・・・心中できなかったな」
「ええよ、本気やなかったし。あれは嘘や。嘘」


燐は志摩を振り返り、ゆっくりと雪男の方に歩いていく。
志摩はそれを見て、少しため息をついた。
燐が先を歩いて、雪男が後に続く。
雪男は志摩を振り返る。
「志摩君」
「後の仲直りは先生の仕事やで」
「・・・ああ」
屋上へのドアが閉まった。


屋上に一人残った志摩は、錆び付いた金網を掴む。
近くに置いていたカバンを掴んで肩にかける。
中に、パンの袋が入っていた。
中身は二人で食べた、ゴミでしかない。
無性にそれを金網の外へ投げたくなった。
丁度良く、穴も空いている。少し押せば邪魔な金網も壊れるだろう。
でもできなかった。
二人で食べた空っぽのそれを、志摩はカバンではなくポケットにしまった。
「俺、地球に優しい男やからポイ捨てはあかんよな」
これは嘘、なぜだか今は捨てられない想いがあった。

「奥村君、駆け落ちの先は心中って言ったけど、嘘ついたわ。
駆け落ちにも心中にもならへんかった」

金網に背を預けて、屋上に座る。
星が綺麗だ。京都で、燐と見た星空のようだ。
耳元で囁いた言葉をもう一度呟く。

「奥村君・・・覚えとってな、俺嘘つきやねん」





志摩の携帯電話が鳴った。
この着信音はメールだ。
寮の門限はとっくに過ぎている。
もしかしたら、子猫丸が帰りの遅い志摩に小言のメールでも送ってきたのかもしれない。
携帯電話をカバンから取り出して、開く。
どくんと心臓がはねた。


題名 ありがとな

雪男と仲直りできたけど、まだお前に電話すると
不機嫌になりそうだからメールにする。
今日か、もし気になるんだったら明日でもいい。
一緒に。鍋、食おう。


「コレ、お誘いって考えてもいいんかな・・・」
こんなところでまた惹き付けられる。
メールには続きがあった。
それを見て、志摩は思わず電話をかけた。
奥村先生に怒られる?そんなこと知ったものか。




「奥村君、俺君のこと好きやで」




題名 ありがとな

雪男と仲直りできたけど、まだお前に電話すると
不機嫌になりそうだからメールにする。
今日か、もし気になるんだったら明日でもいい。
一緒に。鍋、食おう。

あと、俺お前のこと嘘つきだって思ったことないからな
志摩の言葉も、雪男の言葉も。
どっちも俺には大切だ。

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