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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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亡国のプリズム5


『いいですか、この先生き残りたければ人の顔と名前を覚えなさい』

それが雪男が教えられた最初の生きるための術だった。


男が勢いよく扉を開けて、王の間に入ってきた。
王の間は通常、衛兵が控えており王への謁見の許可がない者については
追い返すはずだ。衛兵は男の後ろをお止め下さい、と叫びながらも無理に止めることができず
戸惑っているようだった。
雪男は男の顔を確認すると、ため息をついた。
衛兵が止めれないのも無理はない。男はこの国の財務を司る大臣だったからだ。
男は肥え太った身体から、怒りを露わに雪男を詰った。

「王よ!とうとう乱心なされたか!!」

王座の前で髪を振り乱して、唾を散らしている。
後で掃除をしてもらわないといけないな、と雪男はまたため息をつく。
つくづく、人に迷惑をかけるのが好きな奴だ、と冷静に男の行動を見ていた。
そんな取り乱す様子のない雪男に焦れたのか、大臣がなおも雪男に向かって声を荒げる。
雪男はおろおろと焦る衛兵を哀れに思い、そっと退出するように促した。
王の間は、大臣と雪男の二人だけになった。これで外に情報が漏れることはないだろう。

「我が領土と財産を没収など、納得ができぬ!一体私が何をした!
此れまで身を粉にして国に貢献してきた者に対する仕打ちがこれか!!」
「え、貴方って仕事していたんですか」
「何を戯けたことを!!」

雪男は心底驚いたという表情で、それでも言葉を選んで発したつもりだったが
大臣にはその気遣いは通じなかったらしい。
雪男は持っていた書類の束を大臣に向かって投げた。
目の前に落とされた書類には、数多の写真もつけられている。
大臣はその書類と写真を見て、一瞬で言葉を無くした。
そこには大臣が女性と戯れているものや、その他言葉に表現できないようなものまで様々なものが
映し出されている。
雪男は冷ややかな目で大臣を文字通り見下した。

「不自然な金の流れがあると思って調査をした結果がこれだ。
長年財務大臣をやっていた貴方は国庫から金を奪い取り、私腹を肥やしていたことが揺るぎなく証明された。
大臣が国の金を盗るなど、盗賊よりも悪質だ。
よって貴方に下される罪状は国から与えられた領土の返還と財産の没収。かつ、国外追放だ。
命まで取らないことをありがたいと思って欲しいくらいですよ。本来ならば即座に斬首だ。そうだろう?」

貴方たちは昔から、そうやってきたでしょう。
雪男の冷酷な瞳を見て、男は身を竦ませるしかなかった。
確かに、本来ならば斬首を免れないほどの罪だ。
けれど男はなおも罪を免れようと雪男に向かって言った。

「だ、誰がお前を見つけてやったと思っているんだ!
王の座に座れるようになったのは私の、いや我々のおかげだということを忘れたのか!!」

あの滅びた村から救ってやったのは誰だ。
大臣はそう叫んだ。当時王家の血筋の者を一人残らず無くした国は荒れており、権力争いが絶えなかった。
次代の政権を握ろうと考える者たちは正当な王の血筋に連なるものが残ってはいないかと血眼になって探した。
王家には、血生臭い争いが絶えず、権力争いの火種を潰すために
王座に着いた者以外の血族が根絶やしになることは日常茶飯事であった。
そんなほの暗い争いを王の周囲の者たちは知っていた。
その中で一番の年長者が、口に出してはならないと言われる名を思い出したのだ。

王家を追放されたユリ=エギンという娘がいる。

表向きは斬首による処刑で死亡扱いだったが、
子を身ごもっていた為使用人たちが協力して彼女を逃がしたと聞いている。
その子が、悪魔と通じて出来た子だということも。
敵である悪魔の血を引く子だとしても、追いつめられた彼らにとっては天使のように思えた。
悪魔と言ってもまだ子供、使える者は使え。

そして雪男は、この醜い場所へと連れてこられた。
母と兄を失って、この場所で生きるしかなかった。
雪男は一瞬で大臣の眉間へ銃口を向けた。
大臣には雪男がどう移動して自分の傍に来たのかも見えなかっただろう。
王として生きていく為に、全ての技術を見に着けてきた。
雪男は王としての知識と共に、騎士団長クラスの実力を兼ね備えている。
そうしなければ、生きてこれなかったからだ。

きっと次に目覚めたお前の世界は、ここよりもずっと綺麗な世界だ。

兄の最後の言葉を思い出す。
遠く、夢に落ちる寸前に聞いた兄の言葉は今でも雪男の心を締め付ける。
兄は全てをわかっていたのではないだろうか。
あの後起きた全てのことを。

「この王座という場所は、この世のどんな場所よりも汚いですよ。
そんな場所に座れたことを感謝しろと?よくそんなことが言えたものだ・・・」

かちりと雪男は銃の安全装置を外した。これでいつでも大臣を処理することができる。
温情をかけて命を取ることだけはやめてやろうと思ったのに、墓穴ばかりを掘る馬鹿な輩だ。
大臣は怯えて額からは脂汗をかいている。
死にたくない死にたくないと口からは呪詛の様に言葉を呟いていた。
口から出る言葉は本当だろうが、時間稼ぎの意味合いもあるだろう。

「貴方の子飼いの者たちは、皆秘密裏に処理しました。後は貴方だけだ。
助けを待っても無駄ですよ」

あの計画に係わっていた者たちは皆、この王宮の中にはいない。
そう呟けば、大臣は今度こそ、全てを諦めたようだった。
雪男は畳み掛ける。

「言え、あの時。僕たちの村が滅びた時。一体何があったんだ!」

雪男が起きた時、全ては終わっていた。
その全貌をこの男は知っているはずだった。
男はためらいながらも、当時知っている全てのことを雪男に話し始めた。

王の間には、一発の銃声が響いた。

***

王の間を開けると、そこには倒れ込む大臣と傍に佇む雪男がいた。
ああ、これはいけない。
メフィストはにやりと笑って扉を閉める。
王の間から銃声が響き、けれど決して開けるなと王に命令されていた衛兵は
メフィスト=フェレスに助けてくれと声をかけた。
彼はふりふりのメイド服姿で王宮内をうろついている妖しい人物なので、すぐに見つけることができた。
メフィストは雪男の後見人を務めている男だ。

十五歳の雪男は例え王であったとしても成人までは後見人をつけなければならない。
メフィスト=フェレスは変わり者の変人であったけれど、まるで悪魔のように人の心を読み、頭が切れた。
雪男に帝王学と生きていく為の知恵を教えたのもメフィストだ。
メフィストは見込みのある人間には助力を惜しまない。
雪男は自らの地位と立場を固める為に、使える者は胡散臭いことこの上ないメフィストさえも使った。
王の教師としての面と、後見人としての面を持つ彼は、
一階の衛兵が首を突っ込めないこの国の暗部を見ても問題のない数少ない人物だった。

メフィストは目の前の光景を見て、衛兵の機転に関心した。
自分から扉を開けるようなことをせず正解だ。
あの男には後で口封じの意味も込めて報奨金をあげてもいいかもしれない。
メフィストは笑いながら雪男に声をかけた。

「殺したんですか?」

雪男は答える。足で倒れている大臣を蹴り飛ばした。

「残念ながら気絶してるだけです。頬を掠ってすらないのによく撃たれたって思えますね」
「それだけ貴方の本気が伝わったってことじゃないですか」

王が大臣を殺すなどあってはならないことだ。
例え正当な理由があろうとも、王が乱心したと他人に捉えられてもおかしくはない。
自分の立場を危うくさせることをわかっていてやったのだろう。
そうまでして、得たい情報があった。

「・・・生き別れた兄さんを探すために、王の立場は都合がいい。
村も、家も、家族も。何もかも無くして絶望していた僕にそう呟いたのは誰だったか。
今はもう思い出せません」

目覚めた時には全てが終わっていた。
子供だったこともあり、あのころは状況が上手く呑み込めてはいなかったのだろう。
兄を探し出して、この王宮で共に暮らすことを心の支えにしなければ過酷な状況の中生きてもいけなかった。
けれど、成長して知識を見に着けていくうちにあの頃の状況に不可解な点が多いことに気づいたのだ。

「僕達が魔神の落胤だったことを、この人たちは知っていた。知っていて利用しようとした。
あの時兄さんに選ばせたんだ。僕か自分か、どちらか一人だけ生き残らせてやると。
最初から、兄さんを生かす選択肢はなかったくせにッ」

あ、あいつは。あの悪魔の力は使えると思ったんだ。
だから、あいつの心臓を奪って、倶梨伽羅に封印した。
騎士団長が持っている倶梨伽羅が悪魔を祓う力を持っているのは、そのためだッ
村は、奪った炎の力を試すために燃やした。
どうせ疫病が流行っていた村だ、遅かれ早かれ滅びていた。
だから、周囲に病が広がらないように燃やしてやったのだ。
人も、家も、何もかもが消滅した。あの炎には魅せられた。
悪魔の侵攻もこれで止めることができると皆で喜んだ。
あれは、全てを薙ぎ払う武器としてこの国の礎になったのだ!

「心臓を奪った身体はね、悪魔の餌にでもなるだろうって荒野に捨てたそうです」

雪男の指は今にも大臣の心臓を撃ち抜きそうだった。
今日、この手で倶梨伽羅を騎士団長に手渡した。
あれには奪われた兄の心臓が収められていたのだ。
それを他人に渡して、あまつさえそれで国に侵攻する悪魔を祓うなど。
なんという茶番だ。
今すぐにでもこの国も、自分もめちゃくちゃに壊してやりたいくらいだった。
一刻も早く、倶梨伽羅をこの手に取り戻さなければ。
取り乱す雪男を、メフィストは諌めた。

「王よ、騎士団は既に前線へ向かっております。今から呼び戻しても手遅れかと。
それに、敵の侵攻も始まっておりますし」
「そんなことはわかっているッ!!」

その作戦を立てたのは雪男だ。
雪男の手からは血が滲み出ていた。
この期に及んで、倶梨伽羅を悪魔に奪われるようなことがあれば雪男は自分が許せない。

今日の儀式の時にいた騎士団長、彼はどんな名前だっただろうか。
そう考えて、思い出せない自分がいた。
いや、端から覚えようとはしていなかったのだ。

騎士団長は戦争に行くたびに名前が変わる。
十人を超えたあたりから、彼らの顔も名前も覚えることを止めてしまった。
見知った人を無くすより、名前を知らぬ人を無くした方が悲しみは少ない。
何度も何度も人に死ねと命じるしかなかった雪男が見つけた処世術だった。
彼は儀式なので顔を一度も上げることはしなかったけれど、自分と同じ黒髪だったことは覚えている。

「フェレス卿、現在の騎士団長は誰なんですか。名前を教えてください」

雪男は問いかけた。
メフィストは道化のようにおどけてみせる。

「教えれば、これ以上取り乱さないと誓いますか?」

問いかけに問いかけで返すメフィストにイライラとしながらも雪男は頷く。
王としてやってはならないことをしてしまった自覚はある。
一つ深呼吸をして、雪男は心を落ち着けた。
これ以上、取り乱すことはないとその時は思った。
メフィストは淡々と雪男の疑問に答えた。

「彼の名前は奥村燐。副長の話によれば、
青い瞳に、赤い虹彩が人目をひくそうです―――そう、王よ。
まるで貴方と同じ色合いですね」

雪男は自分の手から銃が零れ落ちる音を聞いた。

いいですか、この先生き残りたければ人の顔と名前を覚えなさい
それが雪男がメフィストから教えられた最初の生きるための術だった。
その声がどこか、遠くに響いている。


僕は守りたかった兄を、自らの手で戦争に送りこんでしまったのだ。


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