青祓のネタ庫
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≪ 青い炎で焼かれて死のう | | HOME | | 亡国のプリズム3 ≫ |
男はずかずかと家の中に入ってくると、ベッドの脇にいた燐を突き飛ばした。
大人の容赦のない力を受けて、燐は壁まで吹っ飛んだ。息ができない。
咳をして、なんとか空気を肺に取り込んだ。
苦しい。雪男の前に立った男は雪男の状態を見ていた。
燐は雪男に暴力を振るわれてはいけないと必死に男の足にすがりついた。
男はまるでゴミでも払うかのように足で燐を払いのける。
「問おう、お前は人間か悪魔か。どちらだ」
男は燐のことを値踏みするかのような目で見ている。
燐は考えた。村の人は自分のことを悪魔だと言った。
自分が他の人からどう見られているのかはイヤと言うほどわかっている。
けれど、心までは悪魔になんかならない。
病気の母を遠ざけて、自分たちにこんな仕打ちをする。
村の大人の方がよほど悪魔のようだ。
燐は立ち上がって言った。
「俺は、俺だ」
悪魔のようだと言われても、悪魔にはならない。
燐の目を見て、騎士団の男はあざ笑うかのように言った。
「ではこの弟の方が悪魔か?」
「雪男は人間だ!」
「だろうな、疫病にかかるのは人間だけだ。
魔女裁判のようにはなるが悪魔は人の病気にはならない」
つまり、お前自身の答えに関わらずお前は悪魔ということだ。
「村人から、お前が青い炎を使うと聞いている。本当か」
尋問されている。答えを間違えればどうなるのかわかっているな。
そんな言葉が聞こえてくるようだった。
俺はこの力を人のために使いたかった。
人を害するためじゃない。
家族を幸せにできるような。
優しいことのために使いたかった。
母さんが言っていたのはこういうことだったんだな。
燐は死んだ母の言葉の意味を噛みしめる。
ここで男の言葉を否定しても、無意味だろう。
「・・・そうだ」
「弟もそうか」
「雪男は関係ない、俺だけだ」
「炎をみせろ、言うことを聞かないとどうなるか・・・わかるな」
「やめろっ!雪男に手を出すな!!」
燐は雪男に向けられた剣を青い炎で燃やした。
青い光がぼろぼろになった家の中を照らし、周囲の騎士団の者達も恐れおののく。
燐は雪男の前に立って、必死に背後に隠す。
燐にとっては唯一残された家族。なんとしても守りたかった。
けれど、人は燐をただの悪魔としてしか見ない。
やはり悪魔だ。悪魔の子だ。口々に騎士団のものはそう叫んだ。
「青い炎は魔神の証。ユリ・エギンの子であることを証明する唯一のものだ。
この兄弟は間違いなく、王族の血筋に連なるものだ」
けれど双子の王など災いを招くだけ。男は部下に命じて紫色の布に包まれたものを持ってきた。
中から青く美しい刀が取り出される。王家に伝わる魔剣、倶利伽羅だ。
その切っ先を男は燐へ向ける。
「選べ、お前が死ねば弟は生かしてやる。
逆にお前が生きたいと望めば弟は殺す。さぁどうする」
燐には意味が分からなかった。母の子であることがなぜ王家に連なることになるのだろう。
自分たちの知らないところで、何かが動いていると感じた。
今、燐と雪男は生きるか死ぬかの瀬戸際に立っている。
男たちは笑っていた。この男たちの望みはわかっている。
それは雪男を生かすという自分の望みと重なるものだった。
けれど、自分がいなくなった後、雪男はどうなるのだろう。
母も亡く、自分もいなくなった後雪男は。
「ひとつ聞きたい、雪男をどうするつもりだ」
「・・・王の血筋である者だ。病を治し都へお連れする」
「約束しろ、雪男の害になるようなことはしないって」
約束してやる、と別の男が笑いながら答えると男の手が青い炎で燃えた。
燐はすぐさま取り押さえられるが、抑えられた者達もまた青い炎にのまれる。
「雪男になにかしてみろ、絶対に許さない」
俺の炎を忘れるな。
幼いながらも悪魔としての殺気を放つことで、周囲の男たちは距離を取る。
「では、弟を生かし兄を殺す。異論はないな」
騎士団と燐の間で、取引は確かに成立した。
あとは、燐が死ねば全てが終わる。
男の一人は雪男の治療をすると言い、薬の用意を始める。
燐も雪男に対して変なことをされないように目を光らせていた。
村で流行っていた疫病は、都では治療薬が発見されており薬で治るものになっているらしい。
けれど感染力が強く、かかればひどい熱に苦しむことになり体力のない女性や子供が多く亡くなっている。
薬も一部の金持ちや貴族ならば購入できるが、まだ一般的なものではない。
この男も雪男が王族の子だからこそ治療をしたのだろう。
現に村で苦しんでいる人に対して何かをしようとは思ってはいないようだ。
同じ村で死ぬ者もいれば、生きる者もいる。
理不尽な世界の現実を燐はその目で見つめていた。
「これで弟は大丈夫だ。次はお前が約束を守る番だ」
熱で苦しんでいた雪男も薬のおかげで体調が安定したようだ。寝息が落ち着いてきている。
燐は一晩だけ時間をくれないかと騎士団の男に頼んだ。
「無理を言っているのはわかってる。
けど、これで最期だから。弟にちゃんと別れを言いたい」
必ず約束は守る、と燐は告げた。
男たちは兄弟が逃げないように家の出入り口を塞ぐことを条件に一晩だけ燐に時間を与えた。
逃げようとすれば、わかっているな。と含ませておくことも忘れなかった。
男達は外に出ていく。
次にこの家の扉を出るときは、燐が死ぬときだ。
燐は雪男の為に家にあるものを使ってスープを作った。
都では捨てる動物の骨から出汁を取り、草の葉と根が入っただけのスープだ。
燐は雪男をそっと揺り動かして起こした。
このまま寝かせてやりたいけれど、少しでも雪男の心に残るようなことがしたかった。
「雪男、スープ作ったんだ。一緒に飲もう」
雪男はまだ熱はあるようだったけれど、薬のおかげか苦しさはひいているようだ。
燐の言葉に誘われて自分でなんとか起きれるくらいにはなっているらしい。
雪男は燐からスープを受け取ると、少しだけ口に含んだ。
兄が作る料理はいつも優しい味がする。
「おいしい、ありがとう兄さん」
燐はだろ、と笑う。雪男にはいつもの兄の姿だった。
この晩、一つだけ違ったのは燐が一緒に寝ようと言ってきたことだった。
雪男は自分のことが心配でそうしているのだろうと思って、
申し訳ない気持ちになったけれど兄と一緒に寝ることは子供心にとてもうれしかった。
もう自分達にはお互いしか残っていない。
雪男は燐の側に寄り添った。
熱のある体は、いくら布をかけても寒気が起こる。
粗末な布団とも呼べない、布しかないこの家では隙間風も身にしみる。
燐は震える雪男の体を抱きしめて、自分の体温を分け与えた。
なぜだろう、雪男は母が死んだときのことを思い出している。
家族を亡くす恐怖を思い出して、雪男は燐に告げた。
「明日もまたスープ作ってね、兄さん」
雪男は燐の手を握って言った。
兄は約束を破ったりはしないから、きっと大丈夫だ。
燐は答える。
「ああ、うんと美味しい物食べさせてやるからな」
おやすみ雪男。
きっと次に目覚めたお前の世界は、ここよりもずっと綺麗な世界だ。
燐の心からの言葉は眠りに落ちた雪男の耳に届いただろうか。
次に雪男が目を覚ますと、空になったスープの器が残されていた。
どうしてだろう。
がらんとした家の中、イヤな胸騒ぎを感じていた。。
「兄さん・・・どこ?」
雪男はベッドから抜け出して、家の扉を開けた。
村は、跡形もなくなっていた。
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