青祓のネタ庫
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「奥村君らって兄弟喧嘩とかせぇへんの?」
「喧嘩?」
志摩が腰を抑えて、泣きそうな声で呟いた。
朝、食堂で兄に飛び蹴りされたところがまだ痛い。
たいてい、男兄弟はスキンシップが暴力に変わる。
志摩は男兄弟の末っ子のため、小さな頃から
日々兄達に弄られ、蹴り飛ばされ、殴られてきた。
そのぶん志摩も好き勝手に反撃したりもしたが、そんな騒がしい暴力が日常的だった。
雪男と燐は兄弟で双子だ。
そういう男兄弟にありがちなことで共通点はないのだろうか。
「うーん、口げんかは雪男にいっつも言いくるめられてたな」
「奥村先生そういうの得意そうやね」
「そうなんだよ!あいつすっげぇ陰湿なんだぜ!まったく思い出しても腹たつ!」
「殴る蹴るのほうは?」
「うんそれはあんまり。だって俺本気出したら人殺すし」
「あー、馬鹿力やしねー」
「うっせ」
つまり、ちゃんと弟に遠慮はしていたわけか。
兄としては弟を傷つけないように気をつけていたわけだ。
「本気で喧嘩したこと無いん?」
「・・・いや、春先に一回本気で喧嘩した」
神父の死。祓魔師を目指すために塾に来て、銃を向けられたあの時のこと。
あれも、喧嘩といえはそうだ。
「どうやった?」
「銃向けられた」
「こっわ!!!!奥村先生こわ!」
「まぁ俺は弟に剣は向けなかったけどな!兄として!」
誇らしげに燐は語る。
悪魔である燐に祓魔師である雪男が銃を向けた。
それだけで深刻なものだと悟れるものだが、燐はそれを笑って語る。
そのときの雪男の葛藤はどれほどのものだっただろう。
いや、それよりも。
「・・・・・・・なんや意外と大切にされてるんやな奥村先生」
呟いた途端、携帯電話の着信音が聞こえた。
志摩は若干の嫌な予感を感じる。
そんな志摩に気づくことなく燐が携帯を取り出し、電話に出た。
「雪男?どうした?」
(ほらなああああああ!あの先生どっかから見てるんちゃうんかああ)
燐の意識はそのまま携帯電話の向こうに取られてしまった。
先ほどまで、志摩に向けられていたものが横からかすめ取られる感覚。
「あ?ちゃんと大人しくしてるっての」
「いちいちお前に言われなくてもできてるよ!」
「うっせーな!そっちはどうなんだよ!」
はたから見れば、燐が雪男を頼っているように見える。
だが、この兄弟はそうではない。
お互いがお互いに依存しているのだ。
(・・・ぞっとする関係やな)
二人の間には溝がある。悪魔と人間という決定的な壁だ。
その溝を埋めるようにお互いの存在に依存して互いの存在を見つめている。
「ちょおごめんな奥村くーん!」
「どうわあああ!!」
飛び蹴りをした。朝の志摩と同じように燐が廊下をごろごろ転がっていく。
燐の手から零れ落ちた携帯電話を空中で掴み取る。
『ちょ、兄さん!?なにがあったの!?』
「こけただけやから心配せんでええよ奥村先生」
『え、なんで志摩くんが兄さんの携帯に出・・・』
ブチリと二人の繋がりを断つ。
この兄弟はもう少し世界を変えてみるべきだ。
そう言い訳をして志摩は気づかない。
そんな二人の関係性を不愉快に思う自分に。
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